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いつか来世で約束を 01  作者: 朱本来未
絶命因果編
18/63

第017話 精神侵食04

「あとは任せたわよ」


 それだけ言い残して倉庫を後にしようと魔導車を降りる。これ以上転生者と直接関わり合いになる気などさらさらない。異能を行使したことさえ知れれば、あとは駆除するだけなのだから所在地さえ把握していればいい。


「おいおい、これから一緒に暮らすんだぞ。ちょっとはショータと打ち解けようぜ。子ども相手に大人気ないぞ」

「言ったでしょ。あんたの気まぐれには関わらないって。それが条件だったはずだけど」

「条件なんて出してないだろ」

「似たようなもんでしょ。私は絶対に関わる気はないからね」

「頑なだな」

「そうね。とにかく、それを私の部屋には近付けないでよ」


 強めに言い捨て勢いよくドアを閉める。激しい音を立てて閉められたドアに男の子は身をすくませていた。言葉はわからなくとも私の態度で怒りは伝わったようだった。


 それから数日経ったがロジィは彼を学園へ通わせることはなかった。彼女云く「言葉がわからないんじゃ、学びよーもないだろ」とのことだった。当然といえば当然のことだ。かと言って四六時中家にいられても迷惑この上ない。


「学園に通わせるって言うから妥協したのに、どういうつもり?」

「仕方ないだろ。あたし以外ショータの言葉わかんないんだからよ」

「あんたがここの言葉教えればいいでしょ」

「それもそーか」

「やるんなら図書館行ってよね。邪魔なのよ」

「ひでーやつだな」

「私は始めから反対だったのよ。それをうちで引き取るなんて」

「ハイハイ、わかりましたよっと」


 触らぬ神に祟りなしとでも言いたげにロジィは私の言葉に従って大人しくショータを連れて図書館へと繰り出して行った。

 ショータの前では毎度のようにロジィに対して一方的に刺々しい言葉使いしていた甲斐もあって彼は私の顔色をやたらと気にするようになっていた。ロジィが私の言葉に早々に従ったのもショータが自分の所為で私たちが不仲になっていると感じているからだった。

 彼は私がロジィに対して突っかかると『ロジィ姉ちゃん。ぼく、やっぱり』と自分から出て行くべきかもしれないと判断しているようだったが、頼れる人間がロジィしかいない現状ではどうにも出来ず困り果てていた。


 我ながら子ども相手に最低だとは思うが、いずれ処理する対象である。今回に関しては、この方針を崩す気はなかった。

 ショータをベタベタに甘やかして私に心酔させた方が任務を達成するのは楽だろう。しかし、最近の私の精神面の不安定さを考慮するとそれは悪手でしかない。最悪、前任者の同様に仕損じる可能性すらあった。


「ただいま帰ったよい」


 ふざけたロジィの声に続き、舌足らずな声が耳朶を打つ。


「たらいま」


 こめかみを押さえ、無視を決め込む。ロジィはそれを許す気はないらしく、再度ショータに声を上げさせた。


「ただいま」


 今度はさっきよりも正確に大きく発音し、私からの返答がないと居心地が悪そうに隣にいるロジィを見上げていた。


「おかしーな。このうちは留守なのか?」

「白々しいわね。はいはい、ご在宅ですとも」

「「ただいま」」

「別に私の許可なんていらないんだから勝手に上がりなさいよ」

「たーだーいーまー」

「しつっこいわね。はいはい、わかりました。おかえりおかえり。これでいいんでしょ」

「よく出来ました」

「何様よ」

「あたしはあたし、ロジィさま」

「さよですか」


 ロジィのペースに乗せられて思わず普段通りの対応をしてしまう。それがどうやらショータには言葉がわからないなりに伝わったらしく、声を殺してわらっていた。

 私が刺々しい視線を向けると彼は両手で口元を押さえてロジィの背後に隠れてしまった。


「おいおい、そんな怖い顔すんなよ」

「元からこういう顔よ、悪かったわね」

「もしかしてあれか、あたしがショータに取られたから拗ねてんのか?」

「は?」

『ショータ、あーゆーつまんない大人にはなるなよ』

「なに?」

『なんだ、気になるのか?』


 私がわからないと思って好き勝手言ってくれる。このままロジィの相手をしていたら方針もなにもかも無駄になりかねないとリビングから出て自室へ戻ろうと腰を上げた。


「エルお姉ちゃん、ごめんなさい」


 ショータはリビングから出て行こうとする私を引き止めるように言った。十中八九ロジィの差し金だろう。彼女はなんのつもりでこんなことをさせているのかと声をかけてきたショータを無視してロジィを睨み付けた。


「おいおい、腹話術じゃねーぞ。話してる相手の顔をよく見ろ」

「あんたが言わせてんでしょ」

「ちげーよ。言葉を教えたのはあたしだが、なにを言いたいのか考えたのかはショータだぞ」

「搦め手で私を懐柔しようとでもしてるんじゃないの」

「聞くだけ、聞いてみろよって」


 軽い口調だったがロジィの目は鋭く、有無を言わせる気はなさそうだった。これを避けるのは分が悪そうだと仕方なく耳を傾けることにしてショータに対して無言のままどうぞと右手くるりと返して話すよう促した。


「少しだけここにいさせてください」


 彼の言葉それだけだった。まだ先があるのだろうかとちらりとロジィを見たが、彼女はこれで全部だと言うように身振りで示した。

 私はしばし黙り込んで手櫛でくしゃりと髪を乱す。ロジィはどうしても私とショータにコミュニケーションをとらせたいらしい。


『私に迷惑をかけないのなら好きにしていいわ』


 私は観念したとばかりに肩を落としてかつて使っていた言語で答えた。


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