1 出会いは訛っていた
新連載始めます
まだ書いている途中ですが見切り発車! 20話は超えるかな
四話連続投稿します
溺愛されるお話、ではなく溺愛される女の子を応援する、女の子のお話
(……これは、推せる!)
私は目の前で佇む美男美女を眺めながら、ふるふると拳を震わせた。
聖なる乙女のキヨラ様と、キヨラ様の専属護衛騎士ウォルター様。清楚なキヨラ様と清潔感のあるウォルター様。そんな二人が見つめあっている。
なんてこった、理想的なカップルじゃないの。目の保養だわ、疲れ目に効く成分入ってる特効薬だわ。青春の一ページを切り取った爽やかポスターみたい。お似合い過ぎるっ。
キヨラ様は緩やかなウェーブを描くミルクティー色の長い髪に、琥珀色の輝くような瞳を持つ美少女だ。愛らしい小さなピンク色の唇は緊張のせいかきゅっと結ばれている。
キヨラ様の目の前にいるのは、キヨラ様の専属護衛を拝命した若い騎士、ウォルター様。鋼色の髪と瞳を持つ精悍な青年である。こちらはビジュアルでもって聖なる乙女の護衛に選ばれたんじゃないのか、ってくらい見栄えが良い若者だ。
そんな二人がもの言いたげな風情でお互いを見つめ合っている。色とりどりの花びらとかきらきらした何かが周囲で散っている。瞳には星のキラメキのような光が輝かしく瞬いている。
……ように、私には見える。恋愛小説で盛りあがるようなシチュエーションよね。あらゆる表現を駆使しながら言葉を尽くして描写されているところよ。
つまり、これは。聖なる乙女と護衛騎士が、初顔合わせの瞬間に、真っ逆さまに恋に落ちてしまったのだ。……と、私は思う。
そんなドラマティックなことって、起きるのね。起こったわね。
いやもうこれってマジ胸熱展開じゃないのさあどうするここからいきなり愛の告白するのかコノヤロウ一目惚れってホントにあるのね目の前で恋に落ちる瞬間を見ちゃったじゃないのさあどっちから告るのやっぱり護衛騎士様よね男見せなさいよどうやって口説くの早いところ甘い言葉囁きなさいよさあさあさあ。
という、やかましい戯言は胸のうちに秘めておく。興奮してます、私。
キヨラ様の侍女でしかない私(キキ、十六歳。趣味は音楽鑑賞と恋愛小説乱れ読み。彼氏いない歴年齢と同じ)は、しっかりとモブとしてキヨラ様の背後で控えていないと。目を見開いて眼球乾くほどガン見はしてるけど。
キヨラ様は意を決したように胸の前で両手を結んだ。ウルウルした琥珀色の両目がじっとウォルター様を見上げている。この様子を見せつけられたら、キヨラ様に気のない男だってメロメロっとしてしまうだろう。迷っている恋心はストンと恋のドツボにハマり込むに違いない。キヨラ様が可愛すぎて、うっかり女の私でも恋の迷宮に迷い込みそうだ。
さあ、キヨラ様。ウォルター様は残念ながら緊張して固まっちゃっているみたいなので、あなた様から思い切って心の声を吐露しましょう。あなたの清らかな見かけで切なげに声をかければどんな男も堕とせるはず。熱くなった胸の内を、締め付けられるような心の動きを。恋に落ちたオノレの情熱をそのまま、護衛騎士様にぶつけるのです。
キキはキヨラ様の味方です。心から応援してます。私にリアル恋愛ショーを見せてください。生で見てみたかったんです。こんな機会滅多にないんだから。
さあ今です、キヨラ様……
「……あ、あの、護衛騎士様」
「なんでしょう、聖なる乙女」
「……を」
「はい?」
「……おらを、故郷の村に帰してくれろっ……!」
「なっ……」
「頼んます。おらあ、ぐにに帰りてえ!」
………………………………キヨラ様っ。
私はキヨラ様の背後のモブ位置で、がっくりと肩を落とした。期待してただけにテンションの落差が激しい。リアル恋愛ショーの始まりだと思ったのに。
キヨラ様の、一番の問題が露呈してしまった。
聖なる乙女、キヨラ様。
見た目はこんなに愛らしいのに。
超がつく美少女なのに。
見てくれだけだったら、恋愛小説のぶっちぎりモテヒロインそのまんまの、すっごい可愛い子なのにっ。
キヨラ様は地元の方言がなかなか取れない、垢抜けないお人だった。
さらに魔法の先生となった老師たちの中に同郷の人がいたらしく、現在までネイティブな地方訛りのまま過ごしてきてしまった。
もちろん標準語指導も行いましたよ。王族の方と接触する機会もある聖なる乙女ですからね。落ち着いていればキヨラ様だって綺麗な標準語も話せるようにはなっていたのだが。
心に余裕がない時には訛りがだだ洩れてしまう。
そして訛りのある言葉を発することで、故郷の懐かしい影を追うことになってしまったみたいで。
まさかこのタイミングで望郷の思いが爆発するとは。
キヨラ様は滑らかな白い頬に幾筋も涙を流しながら切々と訴えた。
「おらぁ、聖なる乙女だゆわれたんだども、そんげなこた分がんなぐでよお。お国のためだて連れてこられたんども、こりゃあ誘拐だべ」
「……聖なる、乙女?」
「そんでも、魔法のじっさのゆんこたやっだば。なあんだ、できてっかわがんねろ。おらぁ畑でクワ握っでだほがええがねえ。魔法だばなーんもわがんねでば」
「………………はあ」
「騎士様の、おめさの毛の色があ、おらんとこの馬にそっぐりだでえ、村んことなまら思い出したべさ。
なあに働きモンの馬だでばめんごぐてなあ」
「……」
「おら、めんごい馬に会いでえ。ととさとかかさにも会いでえ。たまんくて帰りたなったげな。
聖なる乙女ばおらでねぐてええじゃろい。
護衛騎士様、おらんこと村に帰してくれろ!」
頼んますじゃあ、とはらはらと切なげに泣き崩れる聖なる乙女。
儚げな美少女が涙を流す様子は見る者の心を抉る。見かけだけなら胸が痛くなるような光景である。
ただ、耳に残るのはキヨラ様の激しい地方訛り。
ウォルター様は困惑したように乙女をしばらく見つめ続けていた。が、しばらくしてから、そっと私を手招きした。
騎士様という職業の人は、多分感情を表に出さないように指導されているのだろう。さらに言えば、もともとウォルター様は氷の無表情・無感動男という評判がたっている人だ。表情に乏しい上にカケラも愛想がない。顔はいいのにもったいない人よねえ、と侍女たちの噂に上っているようなお人である。
ウォルター様は生真面目な顔はそのまま、ただし少しだけ眉をひそめていた。キヨラ様の専属護衛騎士様は、聖なる乙女に聞かれないよう、私に近づいてこそっと耳打ちしてきた。
「……おい、今の通訳できるか?」
方言が好きだー!!
その土地の方言聞くとキュンキュンします。根付いてる感じがとても好き
キヨラ様の言葉は、私の地元中心に東寄りの味付けです。どの地方、という明確な括りはないので大目に見てください




