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第1話

大好きなゲーム『神託のエルフェディア』に転生したゲームオタクの森下莉子。

推しの世界で推しに出会えて幸せに浸るも、何かがおかしい。

世界に姫はおらず代わりに人々は“まはひみ”に頼って生活をしているが、その名は自身のペンネームであった。


誤字脱字などのチェックでAI使用を行っています。

水、土に1話ずつ更新していこうかと思います。初めてなので至らぬ点あると思いますが、温かい目で見守っていただけると助かります。

pixiv、カクヨムでも連載を行なっております。

 私は森下莉子。推しと創作だけを支えに社畜人生を生きていたオタクだ。大きな声では言えないが、ペンネーム『まはひみ』で活動する二次創作作家でもある。

 

「マジで今日疲れた。早く帰ってゲームやりたい」

 

 何度同じため息を帰宅途中に漏らしただろうか。20日間連続出勤に加え、オンリーイベントの締切間近もあり疲労困憊の様相だった。

 私の願いは一刻も早く帰路につき、趣味に没入すること。それだけを胸に早足で歩いていると、黒い猫のマスコットキャラをつけたカバンの中から聞き慣れた通知音が響いた。

 それはファンタジーRPGゲーム『神託のエルフェディア』公式アプリからの通知だった。一瞬で疲れが吹き飛ぶのがわかる。10年間推し続け、愛してやまないこのゲーム。寝落ちしかけていてもこのアプリからの通知だけは必ず確認する私は、一体どんな新情報が公開されるんだろうとワクワクしながらスマホ画面をタップした。

 

「……おお?新作公開?!やばい、やばいよこれは」

 

 それはシリーズ最新作発表の通知であった。私は夢中で画面を凝視した。歩きスマホは危険なので真似しないでください。そんな警告は栄養を得たオタクにとって馬の耳に念仏だ。夢中でスクロールする。

 

「祭りだ!」

 

 急いでXを開く。普段から神エル関係のポストしかみない私のTLは新作の話でもちきりだった。私はすぐにその話題に乗った。


まはひみ@mhhm

 神エル新作キターーーーー!待望の第二弾…公式神!発売日から1週間は有給とるわw


 「公式情報はいち早くゲットしてますよ」という牽制だ。にやつきながら他の人のポストも見ていると、創作仲間からすぐに返信が来た。


月影スフレ@nrkga_mmm

 次回作神託が他国に狙われる設定なんですね……今回こそルシアレ供給来ますかねw


 そのポストを見て、私はうぐぐと唸り声をあげた。神エルは私の箱推しゲームだ。しかし私は箱推しだけでは飽き足らず、特定のカプを推して二次創作を書いていた。

 高慢な魔導師長ルシフェルと、無骨な近衛兵隊長アレンの2人。界隈では王道で覇権カプだが、原作では犬猿の仲だ。それでも推したい。それがオタクという生き物である。

 そりゃ、あって欲しい!と返信したくなる気持ちを抑えて、私は断腸の思いで文字を打った。

 

まはひみ@mhhm

 さすがにマラーナ救うの優先しますってw


 しかし送信しようとしたその時手に力が入ってしまい、握られたスマホがつるんと手の中から飛び出した。

 

「え?」

 

 そして、そのまま音もなく排水溝の隙間に消えていった。そこは昨日までの雨で増水しザブザブと水が流れていた。

 

「うわぁぁぁぁあああああ!!!スマホァァォオォォオア!!!!」

 

 奇声を上げながら私は地面に這いつくばって手を伸ばした。しかしいくらやっても私の野太い指はその隙間に入らない。なんなら奥でつっかえて押しても引いても取れなくなった。

 

「や、やばい!やばいってこれは!!」

 

 ここは車道の真ん中なのだ。推しの公式情報に夢中になりすぎて、こんなところまでフラフラと飛び出してしまっていた。しかも、スマホを落とした。あれには今まで書き溜めた推しカプの小説、公式絵、自分なりの攻略方法、AIと考えたさまざまな考察、二次創作……私の生きる意味が沢山詰まっているというのに。

 しかしそんな大事なスマホより、自分の命の危機が迫っていることに気づくのが遅れてしまった。

 トラックが、勢いよく突っ込んできた。私の周囲は昼のように眩しくライトで照らされていた。手を挟まれて逃げることもできない。運転手も気づいていない。

 これは人生の終わりだと感じた。確実に、死。ああ多分私はここまでだ。父さん母さんさようなら。神エル新作やりたかったな。そう思ってせめて恐怖から逃れようと目を閉じた。ブレーキ音のすぐ後に強い衝撃を受け、目の前が暗くなった。


 私の意識はぼんやりと回復してきた。何故か眠くて目が開かない。どうしたんだっけ。確かトラックに轢かれたんだ。助かったのだろうか。床は少し硬いな。ゴロンと寝返りを打った。身体に痛みはなかった。ギシ、と古い木の軋む音がした。あれ?いつの間にか布団がかけられている。もしかして病院?にしては、くんくん、いい匂いだ。パンの焼けるあの匂い。……誰が私の隣でパン焼いてるの?

 むにゃむにゃいいながら身体を起こして辺りを見渡した。そこは、明るく日が差し込むどこかの屋根裏だった。

 

「……はぁん?」

 

 眠気が強くてあまり頭が回っていないけど、ここが病院のベッドでないことは確かだった。揃えられたスリッパを履いて、小さな窓から外を見る。そこからの景色に私は驚愕した。

 それには、見覚えしかなかったのだ。大きく広がる城下町に、聳え立つ石造りの城。

  これは神託のエルフェディアだ。親の顔より画面を見たし、毎日寝る前に妄想したその世界。

 私は、推しの世界に転生してしまった。


——ひと足先に転生してた自分のスマホが推しの世界で暗躍していた件について


 あわをくったように、口を閉じたり開いたりした。震える手で窓枠に手をかけて観音開きの小窓を開いた。身を乗り出してその景色を隅から隅まで確認する。思った通り、間違いはなかった。

 私は屋根裏部屋から寝巻きのまま階段を駆け降りた。見覚えのある木の手すりや装飾だ。2階は客が宿泊する部屋、1階は宿屋の主人がいつもいる受付。そして奥はちょっとした料理を提供する飯屋も一緒になっている。ここは宿つき飯屋『宵ばな亭』、情報が集まる重要拠点だ。こんないい場所にスポーンできるなんてラッキー!玄関から外へ出ると、大通りから大きなお城がよく見えた。その姿に思わずため息が出た。

 堅牢な石造りで、派手さはないが守りが硬い。贅を嫌い質素を尊ぶ王家の家風をよく表している、その名もマラーナ城。マラーナ王国の国色である群青の錦と幟が何本も立っていた。

 その横には堂々と魔導師学校と近衛兵養成所。どちらも王を守る使命感を表すかのよう、城の麓に威容を誇っていた。丘の上には神殿だ。あそこには神が祀られている。

 

「はっ……ふはぁぁああああっ……!!!これが、この世界が夢にまで見た、神エルの!尊いマラーナ王国!ルシフェル!アレン!!いま会いに———」

「いつまで寝ぼけてるんださっさと仕事しろ!!!」

 

 道の真ん中で雄叫びを上げていた私のケツは硬い靴の底で蹴り上げられた。ギャッと悲鳴を上げながら盛大に顔から石畳にぶつかって、ひっくり返った頭の下に空が広がった。その声は、その声は!


「アレックス……」

 

 茶色いズボンにチュニックを合わせてベルトで巻いた下働きの装い。この宿屋で働くキャラクターのそいつが私を蹴り飛ばし、眉間に深い皺を寄せて口をひん曲げていた。

 

「ねぼすけ!もう仕事は始まってるんだから早く着替えてパンを届けてこいよ!」

 

 推しの世界でそこに住むキャラクターに足蹴にされる。こんな幸せがあっていいのだろうか。じんじんと痛む頬を撫でながら、これは夢でないと確信した。アレックスは、そんな私の顔を覗き込んでますます不快そうな顔をした。

 

「なんで蹴られてニヤついてんだよお前」

 

 ヒヒヒヒヒ……と引き攣り笑いをする私を、気味悪げに遠巻きにしていた。ふと、マラーナ城の方向の空が、不気味に暗い色をしていることに気が付く。

 嫌な予感を感じて、私はすぐに起き上がった。アレックスはそんな私の豹変ぶりに5歩くらい後ずさりして、様子を窺っていた。

 神エルでマラーナ城は最後の砦だ。他の世界が全て崩壊しても、この城だけは女神の加護を受けた姫の力で聖なる輝きを失う事はないはずだ。しかし今は城の輝きがなく、どこか暗い色をしている。これはおかしい。神エルオタクの私が言うんだから間違いない。

 

「あの、マラーナ城が不穏な感じですが、どうしたんでしょうか」

 

 アレックスはその問いに、首を傾げた。

 

「不穏?マラーナ城が?」

 

 不気味な城の気配を見ても彼は何とも思っていない様子だ。それどころか、穏やかに目を細めてマラーナ城を慈しんでいた。

 

「何言ってんだよ。まはひみ様がいるんだから、マラーナ王国は困ったことなんて起きないだろ?」

 

 まはひみ様……?私はその名前を聞いてスッと背中が冷えた。



 

 

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