第十三章〜女
お時間がかかっております。少しずつ書いていきます。よろしくお願い申し上げます。
赤子は泣き止まなかった。周囲が静寂に包まれている中、赤子の声と母親の啜り泣くような声だけが響いていた。
「お金ならあります。もし、ご入用でしたらさしあげますのでどうぞ」
母親が財布らしき布袋を掲げて見せた。
──巫山戯るな!舐めるな!俺はモンスターなのだぞ!モンスターが金なんてものの為に動くとでもおもっているのか!?俺は欲しいものがあったら実力でうばいとるのだぞ!
俺は叫びそうになった。が代わりに財布を無視して返答もしなかった。
「お気に召さないようで御座いますわね。ならば」
言いながら彼女は、ワンピースの肩紐を両の肩側に寄せ、それを脱ぎ去るような動きをした。
む!
俺は少し多い 驚いた。こいつ!俺はゾンビ なのだぞ!本気で怖くもないと言うのか?そんなことをしてただでは済まないとは思わないのか?
しかし、やがて母親の肩の白い素肌がむき出しになり、たわわに実るふたつの乳房までもが曝け出されるのだった。
俺はゾンビだ。動揺は隠さなければならなかった。惑わされてはならない。無視しなければならない。食べなければ俺は死ぬかもしれない。他に食べ物がなければ。色気よりも 食い気だ。食べることの方が先決だ。しかし──。
俺はこの母子を食べることができるのだろうか?食べられない?なぜ?大好きな人間の肉だ。 食べればいいじゃないか。なぜ食べてはいけないなと思うのだ。今までだって非情にやってきたじゃないか。
何よりもまず。俺は人間共に復讐をするために こうしていきながらやってきたのではなかったか?人間ドック 情けをかける言われなどないぞ。
自問自答していた。ゾンビ らしからぬ 気候 だと自分でも思う。
「お好きなようにしてください。構いませんので」
母親が言った。彼女の眼は、母親の目から女の目へと変わっていた。
俺は1本 母子に近づいた。どうしようという考えがあったわけではない。
と、その時だ。
「今だ」「やれえ!やっちまえ」「見つけたぞ」「生け捕りでなくてもいい。とにかく油断するな」
男たちの声がコンクリートの壁に響いた。多くの足音が近寄ってくるのがわかった。暗闇の中でその人数までは数えられなかった。
──罠か?罠だったか?はめられたか?この母子もクマルなのか?
咄嗟に思った。
幸いの体は動いた。一瞬で 男たちから遠ざかる方向にジャンプした。母子の背後に回った。母親は、赤子を包み込むように抱き抱えて守ろうとしているようだった。
「ちっ」
舌打ちしたのは俺だった。男たちが迫ってきたようだ。どうやら 飛び道具は持っていない。持っていたら 、もうとっくに 俺はやられている筈。
[くそっ]
母親の剥き出しの背中に向けて悪態をついた。
お読みになっていただきまして誠にありがとうございました。




