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那須の殺生石編 ①

 某日、栃木県那須郡。

「おい、あれ……」

 目撃者はハイキング客。しめ縄のされた岩がバキバキと音を立て、二つに割れる。その石の名は「殺生石」九尾の狐、玉藻前が姿を変えたという伝説がある石だった。




 放課後、美玲が部室に行くと既に颯斗と真野が揃っていた。なかなか珍しい組み合わせである。真野は何やら手をかざしている。

「実はこの間の一件で、僕も強くならなきゃなと思ったんです。ですので、こうして颯斗さんに霊能力の使い方を教わってて」

「人間と天使とじゃ勝手が違うからな、教える側としてもなかなか難しい……同じ混血なら何か分かるのかも知れないが……」

 霊能力、そうは言っても種類は様々ということか。美玲は考えていた、自分にも霊能力が使える可能性を。ルルカの術を受けてから断片的に記憶が戻りつつあるが、実際に変化を感じたことは無い。純の話ならば何か変化が起きてもおかしくないという。

「ねぇ、私にもっ……」

 美玲が言いかけたその時、室内にも関わらずビュウっと一瞬の強い風が吹いた。途端、真野は本能的に恐怖を感じ、身体が震える。

「何だっ! この気配、まさか!」

 颯斗の声に美玲は振り返る。そこには見た事のない制服を着た黒縁メガネの少年が居た。颯斗は少年めがけてポケットから取り出した御札を投げつける。間髪入れず、少年は投げつけられた御札を片手に持った日本刀で切りつける。すると、御札の切れ目からモクモクと煙が吹き出した。

「ははっ、かかったな! その煙には退魔作用がある。人間には効かないがな」

「えっ? それってつまり混血の僕にも……」

「あっ……」

 言い終わる前に真野はバタリと倒れてしまった。少年は全く気にしていない様子だ。何事も無かったかのようにこちらを見つめ、一言。

「あ、座標間違えたか?」

 それから間もなくだった。純が部室に飛び込んで開口一番に叫んだ。

「おい! 何があった……ってお前、何で学校入って来ちゃったんだよ! 外で落ち合う約束だったろ!」

「東京から来たことない街に瞬間移動してきたんだぞ。座標が外れることだってある」

 純は少年と親しそうに話した。そして説明する。

「こいつ、東京の友達で沖田彗(おきたけい)。まぁ、登場で察してるだろうが人間じゃない。真野と同じ混血だ……って真野はどうしちゃったんだよ!」

「立派な犠牲だった。こいつの襲撃で俺たちは必死で抗い、その過程で真野は……」

「純、こいつ白々しいぞ。傍に居ちゃいけない人間だ」

 颯斗の嘘に少年こと彗は指を差して指摘した。純は「いや、俺の従兄弟」と説明する。彗は残念そうに颯斗を見つめた。そして真野の置かれた状況について、誰に責任があるのか追求する。真野が倒れた直接の原因は颯斗による煙。しかし、突然現れた彗に対処するためだったとして正当防衛を主張する。

「俺は昨日突然、純から京都で会わせたい人物がいるから来いと言われ、慣れない土地での瞬間移動を余儀なくされた」

「疑わしきは罰せよ。か、俺たち三人とも悪い」

 責任を追求したところで真野は起き上がらないまま。このまま保健室まで運ぼうかと思っていると、彗が真野に触れる。触れたところから緑色の淡い光がすぅーと身体を覆った。

「あ、あれ? 僕……」

「真野くん! 良かった、私はもう一生目を覚まさないかと」

 真野は置かれている状況を理解出来ないでいた。見ず知らずの少年、先程まで居なかった純。それについて純が説明する。

「お前が混血だって明かしたとき、一回会わせてやろうと思って。彗はお前と同じ混血なんだ。魔界の『アカメの鬼族』と呼ばれる鬼人と人間の」

 その通り名のように、メガネから見える瞳は血を混ぜたように赤い。魔界に住まう鬼の混血と天界で神の使いの天使の混血、全く住む世界の違う二人は出会った。そして生き方も全く違った。

「回復の力や瞬間移動が使えるって、混血でも僕と違って能力が使えるんですね」

「いや、そうでもない。鬼として見ると能力なんて純血の鬼の半分も無い。さっきのは混血としての能力とはまた違うものなんだ」


ーー神付きの力なんだーー


 『神付き』その名の通り、神を味方に付けた人間だ。霊能業界では神付きになれることを最高の誉れとしている。神付きは神の能力を一部引き出して使うことが出来るため、並の霊能力者より大きな力を出せる。その人に付いている神のことを付き神と呼ぶ。

「俺の付き神は森の神様だから緑の癒しの力を使った」

「僕初めて自分と同じ混血、しかも神付きさんに会いました」

 不思議そうに彗が首を傾げる。

「神付きは純も同じだろ?」

「純さんって神付きだったんですか?!」

 真野は驚いて聞いた。今までそのように感じたことは無かったからだ。神付きは神の力を纏っている為、気配からして他とは違う。しかし、純からは全くそのような気配がない。

「神付き……といわれても自分でも分からん。他の神付きとは状況が違うんだ」

 純は言葉を濁して伝え、彗は心配そうに純を見つめていた。するとそこに残りのメンバー、部長と京子が部室に入る。

「聞いたか、諸君! 茄子で作る絶品料理……じゃなくて、那須の殺生石が割れたらしい! って誰だお前」

 事のあらましを二人に説明し、軽く挨拶を交わすと部長は真野と彗を呼び寄せ「俺たちメガネ同盟」と言った。彗は「コンタクトあるし」と、サッとメガネを外した。残念そうにする部長だが冷静に言った。

「ともかく他校の学生が学校にいることバレたらまずいから、公園に移動しようぜ」

 公園に行く最中、一本の電話が彗にかかってきた。その電話で状況は一変する。

「那須で鬼門が開いた。割れた事と関係があるかは分からんが魔界から魔物が溢れ出すかも知れん」




 一方、青崎家。当主光一のもとに親族が集まっていた。

「那須の殺生石が割れたらしい。一度様子を見に行くべきかも知れん」

「しかし、栃木県となると関東周辺を治めている佐々木家の領分。ここはそちらに任せるのが良いかと」

「だが相手は妖狐、本家が出るべきだ。それに近頃になって妖怪の気性が荒くなっている。行ってみる価値はあるだろうな」

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