那須の殺生石編 ②
那須の地は思いのほか酷い有様だった。初めは動物の死骸から始まり、徐々に漏れ出た瘴気の範囲が広まる。周辺に住む妖怪たちは避難を余儀なくされたが、運悪く遅れた妖怪はたちまち暴走。本来よりも格段に能力が上がっていた。
「もうすぐ街中に瘴気が……」
人間にどのような被害が起こるか分からない。瘴気が人里に流れ出れば大災害になる。いち早く那須の地に着いたのは関東周辺に住む霊能力者たちだった。しかし、実力が見合わなかった。
「もう無理だ。俺たちだけじゃ持ち切れない」
「退け、後はやる」
さっと現れたその人は数珠を手にし、山を見渡す。直後バチバチと手元から電気のような光が現れたかと思えば、ピシッと山を前後左右を囲うように強力な結界が張られた。
(凄い……一つの山をまるまる囲う結界を張るなんて、こんなにも広い範囲に出来るものではない)
ーー流石、名門『佐々木家の天才』と呼ばれるに値する人だーー
(佐々木の次期当主もこの人で決定なんだろう)
結界によりこれ以上瘴気が流出することは無くなったが、根本はまだ解決していなかった。その人は携帯を取り出してとある人物に電話をかけた。
「あー、光一オレオレ……って詐欺じゃねぇよ。瀬央だよ、佐々木瀬央。那須にはいつ来れるんだ? え、まだ京都なのダル。まぁこっちはまだ持つよ」
あと数時間はこのままか。と、その時だった。空間の裂け目から先程まで誰も居なかった場所に人が現れた。その人物たちこそ……
「せ、瀬央! 受け止めろォォ!!」
遡ること十七時。
「鬼門が開いたかもしれん」
一同が公園に移動している最中のことだった。この事態に公園行きを取りやめ、一先ず青崎家へ向かうことにした。
「お前たちは家帰ってろ」
部長が真野、京子、美玲に言った。彗はバツが悪そうに留まる。
「俺はお前たちの家(青崎家)には行かない方がいいな」
ハッと気づいた真野が「魔除けの結界は僕は大丈夫でしたので、混血でも問題ないかと」とフォローを入れるが、言葉の意味を理解していた者たちは違った。一瞬の沈黙があったが、部長がそれを破った。
「正直お前のことは嫌いだが、純がお前を友達というなら『あの時』のことを今掘り返す必要はない。何より今の俺たちにはお前の力が必要だ」
覚悟を決めたように彗が頷いた。それを見て部長が颯斗に三人を送るよう言い、青崎家へと向かった。
「颯斗、家のことは任せたからな!」
別れたあと、颯斗が口を開いた。
「美玲、お前気になってたよな。昔の純と今の純の髪色が違うこと」
京子と真野が「そうなんですか?」と問う。幼なじみとして育った四人、ある時純は何も言わずにひっそりと転校生してしまった。そして中学二年生で交換留学生として再会をする。その時感じた違和感。
「うん……だって昔の純は藍色の髪をしていたよね、瀬央お兄さんと同じ」
青崎家は表向き、温泉旅館として経営している。
「ようこそお越し……あら、いつも裏口から入ってって言ってるわよね。ここはお客様の入り口なの」
「ごめん早苗さん! 光一出してくんない?」
部長がそう言うとチラリと彗を見た女将、早苗は部屋へ案内した。案内された部屋に向かう最中、大人たちがぞろぞろと歩いてくる。こちらを見てお辞儀を返す様子を見ると、青崎家内でも殺生石のことは話が通っていると分かる。
(客なら俺たちに挨拶しない。霊能力者たちか)
部屋へ到着すると早苗は一礼して戻っていった。そっと襖を開ける。
「光一、俺だけど……」
「うわぁん、もうヤダァー! 仕事したくなーーい!!」
畳の上で大の字に寝転がり、駄々をこねる大人。部長はそっと襖を戻した。三人は目で語り合う。十秒ほど沈黙が続いたのち、再度襖を開ける。
「オラァ!! 光一、甘ったれてんじゃねーぞ! 今すぐ那須に向かう用意しやがれ!」
ビクっと起き上がり、こちらを見る光一。彗を見て不思議そうに首を傾げるが、すぐに要件を話す。
「鬼の混血だけど純くんのお友達で、瞬間移動出来るから今すぐ那須に向かおうってことね。本当に信頼できるんだね? あと僕行かなきゃ駄目?」
「光一……情けない。そんなんで当主が務まるのか? お前が行かなきゃならない理由は主に二つ。『青崎家当主として筋を通すこと』鬼門が開いた可能性がある為、お前の『神卸が必要になるかも知れないこと』そうならないのが一番なんだが」
そうして四人の那須行きが決まった。
「目的地は那須、間合に入ってお互い手を繋ぎ合ってくれ。絶対に離したら駄目だ。最悪バラける」
すうっと浮き上がった感覚がしたのも束の間、瞬きする間に那須に着いていた。一メートルほど上空から。たった一メートルでも構えてなければバランスが崩れる。すると近くに見知った人物がいた。純が叫ぶ。
「せ、瀬央! 受け止めろォォ!!」




