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第七十五話 リュッカの想い フリッカの願い

 前回のあらすじ


 ヤバーイ!! 激しくピーンチ!! 主にフリッカが。


「お姉ちゃん!?」


 小さく呟いたフリッカの声は、恐怖か動揺か、激しく震えている。


「ありがとう、フリッカ。さようなら」


 薄く笑みを浮かべたリュッカ。

 その髪の様に見える羽根の一部が、魔力によって硬質化していく。


 スヴァードが放っていた、硬質化した羽根だ。

 アウルベアにこそあまり効いてはいなかったけれど、岩壁にめり込む威力はあった。

 あんなもの、至近距離から撃たれたら!?


 そう思った瞬間、身体が動いていた。


 フリッカまでの距離は、ほんの2、3メートルくらい。

 2歩くらいで余裕で届く!


「フリッカ!!」


 叫びながら、わたしはフリッカに無我夢中で飛びついた。


 いくつかの金属音みたいな物が響き、わたしの右肩に鋭い痛みが走った。


 フリッカを抱えたまま、冷たい床を転がった。羽毛はフカフカだった。


 ハッとして顔を上げる。


「フリッカ、大丈夫!?」


「う、ウロ。あたい、お姉ちゃんを……」


 うん、どうやら無事みたい。


 そう思ったのも束の間、わたしとフリッカの身体は、強い力で持ち上げられた。


「へ、ヘンニーさん!?」


「良いタックルだがよ、嬢ちゃん。敵から離れるまでで1セットだぜ?」


 そう言いながら、ヘンニーはわたしとフリッカを抱えてみんなの方へと移動する。


「大丈夫ですか、ウロさん。……肩から血が!」


 駆け寄ってくれたジーナが、そう言って口を押さえた。


 見てみると、わたしの右肩辺りの鎧が裂けて血がにじんでいる。


「大丈夫、かすり傷みたい!」


 そう言いながら、わたしはリュッカの方を見た。


 リュッカは、頭を押さえてこちらを睨んでいた。

 すぐ近くには、艶消しの施された黒いナイフが1本転がっているけど、羽毛が硬質化していたせいか傷は負っていないみたいだった。

 また、フリッカのいた辺りの床には数本の羽根が突き刺さっている。


 あのナイフは、ダムドの物だと思う。きっと、わたしのフォローをしてくれたのだと思う。

 そしてリュッカは、フリッカを本当に殺す気だったんだ。


「邪魔するな、人間!!」


 共通語だ。

 リュッカが、共通語でそう叫んだ。


「悪いが邪魔するぜ?

 俺たちは、あんたを助け出す様あんたらの長に頼まれて来たんだが。

 その途中で、コイツを死なせる約束はしちゃいねえからな!?」


 手に持ったナイフで、フリッカの方を差しながらダムドが言う。


「それによ、それとは別に俺たちには嬢ちゃんたちを守る仕事があるんだ。

 お前こそ、俺たちの邪魔なんかせずに助け出されろ!」


 わたしたちの前に立ちながら、ヘンニーがリュッカを指差した。


 おおう。

 君たち、暗殺者にしとくのが勿体無いくらいにカッコイイじゃない!? などと。


「助ける? 私を?

 さっきから、何を言っているの? 私は、私の意思でここにいるのよ!?

 あなたたちこそ、私たちの邪魔をしないで!」


 そう叫ぶリュッカ。

 ……私たちって??


 その時、リュッカの後ろで何かが動いた。


 リュッカの後ろにあるベッドから、何か巨大な物がのそりと起き上がった。お布団だと思ってたのに、違っててビビった。


「あら、ごめんなさい。起こしちゃったかしら?」


 そう言いながら、リュッカは巨大な何かにもたれかかって行く。


「……なんだ、あれは??」


「これが、フリッカの言っていたアウルベアですよ!」


 アルバートに答えて、ニードルスが呟く。


 雪の様に白い体毛に、全身を覆われたアウルベア。

 少しだけ黄色いクチバシと、暗くて赤い瞳は何ら変わりは無い。


 ただし、その大きさは異常だった。


 優に3メートルはあるだろう巨躯は、ただそれだけで十分に威圧的に感じる。

 更に、それを強調していたのがフリッカの証言通りの鋭い爪のある4本の腕だった。


「化物め!」


 抜剣しつつ、エセルが吐き捨てる。


「化物?

 彼は、化物なんかじゃないわ。

 私の愛する、ヒト族の魔術師よ!」


 そう言ってリュッカは、4本腕のアウルベアの肩へと飛び乗った。


「バカを言うな!

 そんな、フクロウ顔のヒトがいるか!?

 その上、魔術師だと!? 冗談も休み休み言え!!」


 激昂したエセルが、ドカンッと剣で床を叩いた。


「そうね、この姿では仕方が無いわね。

 彼は今、あまり身体の調子が良くないのよ。それで……」


「ゴアアッ!」


 何かを話しかけたリュッカを制する様に、アウルベアが唸り声を上げる。


「ああ、ごめんなさい。

 つい、口が滑ってしまったわ。

 さあ、お話しはおしまい。

 おとなしく、フリッカを渡してちょうだい?」


 冷たいリュッカの声に、フリッカがブルブルと震えている。


「ちょ、ちょっと待ってよ!

 何でフリッカがいるの?

 しかも、殺そうとするなんて。何を考えているの!?」


 わたしの言葉を聞いた瞬間、リュッカの眉間に深いシワが刻まれる。


「お前たちヒトが、ちゃんと約束を守ってさえいればこんな事にはならなかったのに!!」


「どう言う事ですか?

 場合によっては、協力出来るかも知れませんよ?

 さあ、話してみてください!」


 やけに冷静なニードルスが、リュッカに促した。


 少しだけ躊躇したリュッカだったけれど、アウルベアが1つだけ小さく鳴くと、「貴方が良いなら……」と呟いてから、ゆっくりと話し始めた。


 リュッカの話しによると、アウルベアの中身はドミニクと言う名前の若い魔術師らしい。


 ドミニクは、とある病を患っており、その進行を食い止めるための指輪をしている。

 指輪は病を食い止めるけれど、大量の魔力を必要としているらしく、定期的に魔力の補給を行わなければならないのだとか。


「そ、それで、どうしてアウルベアの中に?」


「これが、彼の研究の成果だからよ!」


 ジーナの質問に、リュッカは誇らしげに答えた。


 ドミニクは、合成獣の研究を行う魔術師らしい。

 困難とされる、様々な合成獣の作成に成功。

 その中でも、今では再現不可能と言われたアウルベアの合成に成功した唯一の存在らしい。リュッカ視点でだけれど。


 ただ、彼にも彼の研究にも大量の魔力が必要であり、こればかりはどうする事も出来ないでいた。


 そんな時、1人の魔術師と出会ったのだと言う。


 その魔術師は、魔物の中にある魔石を巨大化させる術を持っていたのだけれど、それに耐えられる手頃な魔物がいない事に悩んでいた。

 ドミニクは、合成獣作成の過程で生物のミュータント化を成功させており、それによって、対象の耐久力は飛躍的に向上するのだとか。


 その結果、2人は協力する事になった。


 魔物のミュータント化をドミニクが行い、もう1人の魔術師が、強化された魔物に魔石化の術を施す。


 これによって、大量の魔力を蓄えた魔石を有する魔物を造り出す事が可能になったらしい。


「ミュータント化した魔物造り出す代わりに、定期的に魔石を受け取っていたのだけど。

 冬の終わり頃になって、魔石の数が急に減り始めたのよ!」


 爪を噛む様に、リュッカは翼を畳む。


 南の森からもたらされる魔石が、急に質も量も低下したのだとか。


 ……ええと、何か、少しだけ引っかかる物がある気がするのだけれど?


 そんな感じにニードルスを見ると、「あっ!?」と言う様な表情で固まっているし!


「それに、受け渡しはヒト族の盗賊が仲介していたのだけど。

 最近になって、急に連絡が途絶えたのよ!」


 この言葉に、今度はヘンニーとダムドが「あっ!?」って顔に一瞬だけなった気がしたけれど気のせいですか??


「話しは解った。

 だが、それでどうしてフリッカが必要になるのだ?

 魔石が必要なら、岩屋にいくらでもあるじゃないか!?」


 アルバートの声に、わたしたちはみんなうなずいた。


 確かにそうだよね。

 あの岩屋には、自然魔力が湧いてるのだから。

 魔石は大小、イロイロ手に入るんじゃね? などと。


「それでは駄目なの。

 あの魔石は、風の影響を大きく受けているわ。

 彼に必要なのは、〝純粋な魔力〟なのよ!」


「ならば何故、フリッカなのか?

 貴様の妹ではないのか!?」


 リュッカの言葉を受けて、エセルが語気を強める。


「私たちハーピィは、大人になると風の加護を受ける事になるの。

 この子はまだ、成長していない。純粋な魔力を持っているのよ! だから……」


 そう言って、ニコリと笑うリュッカ。

 その笑顔に、わたしは戦慄した。


「……良く解らないのですが、何故、アウルベアの中に入っているのですか?

 恐らく、ドミニク氏の〝意識〟をアウルベアに憑依させているのだと推測しますが、だとしたら、ドミニク氏の〝本体〟はどうしたのです?」


 冷や汗を流しながら、少しだけ震える声でニードルスが質問した。

 きっと、ニードルスもリュッカの狂気に気がついたのかも知れない。


「指輪の魔力が無くなってしまったのよ。

 彼の身体は、病の進行を阻止するために時を止める石棺の中に保存されているわ。……場所は言えないけど」


「だったら、慌てる必要は……」


 ニードルスの言葉を、リュッカが視線で制する。


「少しずつだけど、アウルベアの意識が強くなりつつあるの。

 このままだと、彼の意識がアウルベアに取り込まれてしまうわ。

 その前に1度、自分の身体に戻らなくちゃいけないのよ!」


 その時、わたしはフリッカがガタガタと震えているのに気がついた。


「どうしたの、フリッカ?

 どこか、怪我してる??」


 わたしの問いに、フリッカは首をブンブンと振って否定した。


「あ、あの日、あたいは初めて村へ行ったの。

 いつもは、行っちゃ駄目って言われてるから。

 だけど、あの日はお姉ちゃんに誘われたの。お姉ちゃんが、あたいの面倒見るからって。みんなに、言ってくれて……」


 涙声で、最後は言葉を詰まらせたフリッカ。


「リュッカ、あなたまさか!?」


「そうよ!

 全部、彼のためよ!!

 私は彼と、これからもずっと一緒に暮らすのよ!

 その為だったら、私、何だってするわ?

 私の魔力が使えないのなら、フリッカを使えばいいわ。

 だって、私の妹なんだから!!」


 わたしの言葉に、リュッカは満面の笑みを浮かべてそう叫んだ。


 その場にいる、全員が息を飲んだと思う。

 ドミニクに対するリュッカの愛は、もう狂気としか思えなかったのだから。


「ゴ、ゴッアアッ」


 突然、アウルベアが頭を押さえて苦しみ始める。


「いけない、発作の感覚が短くなっているわ。

 さあ、お喋りはおしまいよ! フリッカを渡してちょうだい!!

 そうすれば、あなたたちを殺しはしないわ!?」


 そう言って、フワリ浮き上がるリュッカ。

 全身の羽根が、魔力によって隆起している様に見える。


「……旦那方、腹は決まったかい?」


「俺たちは、いつでも行けるぜ?」


 不意に、ヘンニーが口を開いて、それにダムドが同調する。


「当たり前だ!

 こんな奴、放って置けるか。エセル!」


「はい、アルバート様。

 御学友の方々の身は私がお守り致します。

 アルバート様は、後ろを気にせず存分に剣を奮ってくださいませ!」


 そう言って、前に出るアルバートとエセル。


 ジーナとニードルスも、杖を取り出して備えている。


 わたしも、何かが沸き上がるのを感じていた。

 それは、とても気持ちの悪い負の感情に思えてならなかった。

 怒りにまかせ、今にも飛び出してしまいそうになる。


「……さん、ウロさん!」


 ふと、ジーナの声が耳に入った。


「ど、どしたのジーナ!?」


 慌てて、顔を取り繕ってから振り返る。

 そのままだったら、どれだけ鬼の形相だった事だろう?


「フリッカが、何か言ってるの!」


 ジーナの腕にしがみついて、何かを必死に訴えているフリッカ。


「どうしたの、フリッカ?」


 わたしが顔を覗き込むと、フリッカは1度、ゴクンと息を飲み込んだ。


「お、お願い。

 お姉ちゃんを、お姉ちゃんを殺さないで!!」


 言葉と同時に、大粒の涙を流すフリッカ。


 この瞬間、わたしは頭から冷たい水を被った様な気がした。

 昇っていた血が、スッと下がったみたいた?


「解った、フリッカ。

 リュッカは、必ず助けるよ!」


 そう言って、わたしは正面に向き直る。


「みんな、フリッカからの依頼です。

 リュッカを救出して、原因であるアウルベアをやっつけて!!」


「はあ? 何言ってんだ、ガキ!

 そんな器用な真似ができ……」


 わたしの言葉に、ダムドが1番に反応する。だけれど……。


「その粋や良し!

 皆、聞いたな? 敵はアウルベアだ。行くぞ!!」


 アルバートの声に、ダムドの文句はかき消されてしまう。


「ハーッハッハッハ!

 ダムドよ、これはいつかの緊急指令みたいじゃないか?」


「……〝人質以外、誰も殺すな〟か?

 まったく、貧乏クジにも程があるぜ!?」


 そう言いながら、武器を構えるヘンニーとダムド。

 何やら、物騒な事を言ってた様な気がするのは何でなんだぜ?


 わたしも、右手で剣を抜きながら左手に魔力を込める。


 新たにゴーレムちゃんを喚び出したわたしは、先を走るアルバートたちを追いながら、レプス、ゴーレムちゃんと並んで闘いの中へと飛び込んで行くのでありました。

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