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第七十六話 守るための闘い

 前回のあらすじ。


 戦闘だー!

 武器か!? 魔法か!? ウラー!!


 まだ、ゲームだった頃のイマージュ・オンラインの世界には、様々な場所に『忘れられた闘技場』と言うイベントエリアが存在した。


 魔法円の様に複雑な紋様の描かれたサークルで、雑魚モンスターを倒すと手に入る『闘技者の証』なるアイテムを使う事で開き、中に入る事が出来る。


 中は、闘技場を模した特別なエリアになっていて、色んなボスモンスターと闘う事が出来た。


 ただ戦闘をする為の場所ではなくって、ボスモンスターを倒せれば、財宝や貴重な合成素材、極レアな各種装備が手に入る。……必ずじゃあないけれど。


 入口のある場所や、必要になる闘技者の証の数によっても違うのだけれど、出現するボスモンスターの種類や強さが違ってくる仕様だった。


 通称『闘技場クエスト』と呼ばれたそれは、ここ、ダングルド山にも存在してた。


 ダングルド山の闘技場クエストは、「せっかちな姫君」と言うタイトルで、闘う相手は通常のハーピィ4体と、他とは色の違ったハーピィ・プリンセス1体。


 強さは、ダングルド山のレアモンスターであるハーピィ・クイーンと同等で、落とすアイテムも『妖鳥姫の羽根飾り』と言う敏捷値にプラス30する『妖鳥妃の羽根飾り』と全く同じ物だったり。


 これは、出現が稀で競争率が高いクイーンに、挑む所か会えすらしないプレイヤーのための救済処置なのだと、チームの先輩方は語っていた。


 わたしも、チームメイトのお手伝いでこのクエストに参加した事があったけれど。

 とにかく、プリンセスが素早かった印象ですよ。


 こちらが1回動く間に、向こうは3回くらい動いてる感じ。

 同時なら、必ず先制されるみたいな。


 もっとも、30レベル以上推奨クエストに、最高レベルで挑んでるから負けはしないのだけれど。


 ……で。

 何で今、こんな話をしているかと言いますと。


 今まさに、わたしたちの前で眼力たっぷりに睨んでいるリュッカが、ハーピィ・プリンセスだったりするのですがなあ!!


 リュッカのステータスはこんな感じ。



 名前 リュッカ


 種族 ハーピィ

 職業 ハーピィ・プリンセス Lv20


 HP 168/170

 MP 105/114



 ちなみに、ドミニク入りのミュータント・アウルベアはこんな感じ。



 名前 ドミニク


 種族 ???

 職業 ???


 HP 21/300

 MP 11/58



 ……何だか〝?〟多くね??


 詳しい数値が解らないからアレだけれど、闘いが始まってすぐ、わたしたちは、リュッカの驚異的な素早さに愕然とした。


 ダムドの投げナイフを余裕でかわし、ダムドの影から死角を狙ったヘンニーの剣撃も虚しく空を斬った。


 ……えと、ダムド曰く、「無傷なんてバカは言うなよ? 殺さないが精一杯の譲歩だせ!?」だそうで。

 まあ、仕方無いと思います。


 2人の間を縫って、アルバートが攻撃を行うけれどあっさりとかわされてしまうし、鈍重なゴーレムちゃんでは追いつく事すら出来ていない。

 レプスの渾身最速の体当りは、かわすのではなく身体ごと避けて、更に後ろへと回り込んで見せたのである。


 ゾッとしたのは、脚の踏ん張りの効かない空中で、羽根1つ動かさずにズレる様に移動した事。


 わたしはサポートに回っていたから、みんなの動きを広く見る事が出来た。


 それでも、速くてなかなか見えなかったりするのだけれど、どうやら、リュッカの羽根の周りには無数のシルフが付いていて、彼女たちがナイフや剣の軌道をずらしたり、高速移動や空中での不可解な移動を可能にしているみたいだった。


 こ、これが『風の加護』ってヤツですか!? 激しくズルい!!


 もちろん、リュッカを直接狙いに行ったのではなく、後ろで頭を抱えているドミニクを狙った物なのだけれど。

 どの軌道からでも介入して来るのだから、始末が悪い!


「くそっ。これだけ魔法使いがいやがるのに、誰も援護出来ねえってのかよ!?」


 ダムドの、吐き捨てる様な叫びが響く。


「はあ、ダムドよ。無い物はしょうがねえ。ある物で何とかするさ?」


 叫びに応える様に、ヘンニーが深呼吸と一緒に吐き出した。


 ……はい、ごめんなさい。

 わたしたちってば、揃いも揃って見習い駆け出し1年生魔術師です。ピチピチです。


 何せまだ、入学から2ヶ月経ってないからね!

 習った魔法と言えば、生活魔法くらいな物だもん。


 後は、入学時に持ってた魔法くらいかな?

 まあ、あのスピードで動き回る相手と近接してる仲間がいるのに『魔法の矢』なんて撃ち込めやしませんけれどね。


 なんて、開き直ってる場合じゃありません。


 ゲームだった頃なら、通常戦闘でも『弱体魔法』と呼ばれる様々なステータス異常を引き起こす魔法を敵に入れていたし、ボス戦ともなれば尚更だった。


 有名な所では……。


 素早さを下げ、回避を減らす『減速』。


 視界を一時的に奪って、攻撃の命中率を下げる『暗闇』。


 敵を絡め取り、ほんの少しだけ行動不能にする『蜘蛛の糸』。


 もっといっぱいあるのだけれど、良く使ったのはこんな感じかな?


 これらに加えて、仲間には『加速』とか『偉大な盾』なんかが入るのが理想だけれど。


 今のわたしたちにあるのは、ニードルスがなけなしの魔力を振り絞ってかけてくれた『小さな盾』だけだったりですよ。


 魔法を使ったニードルス本人は、部屋の隅っこで膝を抱えて虚ろな表情を浮かべているアリサマですがなあ。


「大丈夫、ニードルスくん!?」


 わたしが声をかけると、疲れきった顔を無理矢理笑顔にしつつ右手の親指を立てて見せた。耳はしおれたまんまだったけれど。


 こんな、硬直状態がどの位続いたのだろう?


 ドミニクへと近づけないままに、わたしたちは徐々に削られて行く。

 それは、リュッカも同じなのだけれど。


 時おり、肩で息をする様になってるし。


 また、ドミニクの頭痛の間隔も短くなっているみたいだった。

 その反応に、リュッカは焦りを隠せなくなっている様に見える。


「……くっ!」


 リュッカの羽根が、今までに無いくらいに沸き上がった。渾身の魔力を込めたみたいに。


 もしかして、最期の一撃とか考えてる!?


 魔力に気づいたアルバートが、リュッカから大きく距離を取った。

 なのに、ヘンニーとダムドは動いていなかった。


「危ない!

 ヘンニーさん、ダムドさん、早く下がって!!」


 わたしがそう叫ぶ中、当の2人はその場を離れようとしない。


「何してるの、2人とも!?

 早くにげ……」


 わたしの声を、手をかざしてヘンニーが制した。


「慌てるな、嬢ちゃん!」


 ??


 状況が解らないわたしに、ヘンニーが顎をしゃくる。その先は、当然だけれどリュッカだ。


「……あれ!?」


 再びリュッカを見た時、わたしは思わず声が出てしまった。


 さっきまで、魔力であんなに逆立っていた羽根は徐々に元に戻りつつあるし、リュッカ自体も、苦しそうに顔を歪めながら膝をついている。


「まあ、そう言うこった!」


「手間、かけさせやがって。くそったれ!」


 ヘンニーがおどけて、ダムドが悪態をつく。


 わたしは、慌ててリュッカのステータスを確認する。



 名前 リュッカ(状態異常:麻痺)


 種族 ハーピィ

 職業 ハーピィ・プリンセス Lv20


 HP 61/170

 MP 39/114



 状態異常!?

 しかも、麻痺!?


「……麻痺って、もしかして!?」


「良く解ったな、嬢ちゃん。ああ、毒だぜ。死にはしないけどな?」


「殺すなってご命令だったからな。

 バカみてえな速さと鱗みてえに堅い羽根のせいで、こんなに時間も量もがかかっちまった。高い毒だってのによ!?」


 わたしに答えて、ヘンニーとダムドが大きくため息を吐いた。


 どうやら、2人とも武器に毒を塗って攻撃してたみたいだよ。アサシン、恐るべし!


「お姉ちゃん!?」


 今にも飛び出しそうなフリッカを、ジーナが必死に押さえている。


「大丈夫よ、フリッカ。動きを封じただけで、死にはしないよ!」


「ほ、ホントに!?」


 心配そうに、またいつ泣き出してもおかしくない様な表情でフリッカが呟いた。


「さて、ボチボチ仕事にかかるかな」


 首をコキコキと回しながら、ヘンニーが剣を軽く振った。


「……や、めて、ドミ……ニクを、殺さ……ない……で!」


 苦悶の表情を浮かべながら、動かない口を必死に開いてリュッカがうめいた。


「止めねえよ!

 守られてるだけじゃあなく、てめえの女が動けねえのに助けにも来ねえ野郎なんざ捨てちまえ!!」


 リュッカをにらみながら、ダムドが吐き捨てる。


 辛辣なご意見、さすがはダムド。

 でも、わたしもピンチの時は助けてくれる人が良いかな? などと。


 泣き崩れるリュッカを後目に、2人はドミニクに歩み寄った。


 ドミニクは、4本の腕で頭を抱えてうずくまったまま、小刻みに震えていた。

 時おり、声にならない呻き声を上げている。


「聞こえたか、色男?

 さっさとこの化け物の動きを止めて、元の身体に戻りな!」


「そうすりゃ、半殺しで許してやるぜ?」


 そんなドミニクを見下ろしながら、2人は武器を構えて凄んだ。


「……ドミニク、逃げて!」


 小さいけれど、絞り出した様なリュッカの声が辺りに響いた。


 それに反応したのか、ドミニクがのそりと顔を出した。


「……ググッ。……ル……ッガ……」


 ゴロゴロとした不快な声のドミニクは、その聞き取りづらい声で何事か呟くと、そのまま目をスッと閉じてしまった。


「……そう、それで良いのよ。ドミニク」


 満足そうな表情で、リュッカが呟いた。


 それを聞いたヘンニーとダムドが、一瞬、顔を見合わせる。

 2人はそのまま、最上段まで武器をかかげると、そのままドミニクの頭めがけて打ち降ろした。


 ガキンッ


 静かだった部屋に、巨大な金属音が鳴り響く。


「くっそ!!」


 同時に、ヘンニーとダムドがドミニクから大きく飛び退いた。


 そこにいたのは、さっきまで頭痛に苦しんでいたドミニクの姿ではなかった。


 羽毛を逆立て、クチバシの端からダラダラと涎を垂らしている。

 大きく開かれた目には知性が感じられず、狂暴な野生を燃やした様な赤に染まっていた。


「ど、ドミニク!?」


 困惑に囚われた様に、リュッカが小さく呟いた。


 わたしは、背中に冷たい汗が流れるのを感じていた。

 何て言うんだろう。

 たぶん、怖いんだと思う。

 小さい頃に、見知らぬ犬に追いかけられた時みたいな?


 きっと、山で熊とかに出会ったらこんな感じなんじゃないだろうか? 想像だけれど。


 わたしは、震える気持ちを押さえながらステータスを確認する。



 名前 ミュータント・アウルベア Lv30


 種族 キメラ

 職業 ???


 HP 288/300

 MP 47/58



 名前がドミニクじゃなくなってる!?


 しかも、種族が“キメラ”になってるし、超回復してるんですけれど!?


「気をつけて!

 こいつもう、完全にミュータント・アウルベアになってる!!」


「……やっぱりか」


「通りで。

 反応がまるで野獣だぜ!」


 そう言ったヘンニーとダムドの胸には、それぞれ3本の深い傷が走っている。

 ダメージにはなってないみたいだったけれど、ニードルスのかけた魔法効果を剥ぎ取る威力はあるらしかった。


「レプスくん、ゴーレムちゃん、こっちへ!」


 わたしは、レプスとストーン・ゴーレムを近くまで呼び戻した。


 2体ともサポートに回っていたのだけれど、無傷と言う訳にはいかなかった。

 レプスはあちこち擦り傷だらけで、HPは半分くらいになっている。

 ストーン・ゴーレムの方は、HPの数値はあまり減ってはいなかったのだけれど、ガードに回ってリュッカの羽根を受け止めていた分、前面が羽根だらけになっている。

 まるで、焼いた甘鯛の鱗みたいになっててキモ可哀想だよ。


「嬢ちゃん、俺たちがあいつの気を引いてる間に鳥娘の姉ちゃん連れて逃げろ!」


「エセルの旦那、あんた、ガキ共連れて先に出てくれ。

 こいつは、少しばかり相手が悪いぜ!」


 ヘンニーとダムドが、武器を構え直しつつわたしたちの前へと歩み出た。


「そんな、ヘンニ……」


「解った。

 アルバート様、ジーナ様とフリッカをお願いします。私は、ウロ様を手伝います!」


「良し!

 エセル、後を頼むぞ!」


 わたしの言葉を遮って、エセルとアルバートが2人に応えた。

 これは、考えてる余裕が無い!


「レプスくん、ゴーレムちゃん、行くよ!」


 わたしの声を合図に、みんなが動き出した。


 ミュータント・アウルベアは、ゆっくり立ち上がりながら4本の腕をブラブラと揺らしている。


「行くぞ!」


「おお!!」


 ヘンニーとダムドが、ステップを踏む様に間合いを詰めて行く。


 それを横目に、わたしもリュッカに向かって走……。


 ドンッ


 低い打撃音と振動が、いきなり耳に走った。

 同時に、部屋の端まで飛ばされるヘンニーとダムドの姿が目に入った。


「ええっ!?」


 出鼻を挫かれて、わたしはその場に棒立ちになる。


「ぐはっ!」


「……うぐぐ」


 転がりながら悶絶するヘンニーとダムド。

 その口からは、真っ赤な鮮血が滴っている。


「ゴアアアアッ」


 部屋が揺れる様なミュータント・アウルベアの咆哮に、一瞬だけ身がすくんだ。


 ミュータント・アウルベアは、咆哮を上げた直後にその巨躯を低く屈めると、弾かれた様に地面を蹴った。


 速い!


 今までのアウルベアとは、全く比べ物にならないダッシュで、わたしの方へと向かって来る。


 わたしの前には、ゴーレムとエセルが。

 わたしも、レプスと並んで剣を構える。


 次の瞬間、恐ろしい事が起こった。


 わたしたちが足を止めた途端、ミュータント・アウルベアは、その目標をわたしたちからリュッカへと変更したのである。


 足を止めてしまったわたしたちに、追いつけるハズが無い。

 いくらレプスでも、怪我を負っている今ではとても間に合わないと思われた。


 だけれど、これで終わりじゃあなかった。


「駄目っ、フリッカ!!」


 わたしの思考が追いつく前に、わたしたちの背後で悲鳴が上がった。

 同時に、わたしたちの頭上を高速で何かが通過して行く。


 フリッカだった。

 ヘンニーとダムドの介抱の為、少しだけジーナが目を離した隙の出来事だっただろう。

 子供でもハーピィ、機動力を誤ったかも知れない。


「お姉ちゃん!」


「フリッ……!?」


 フリッカの声に顔を上げたリュッカの目が、みるみる恐怖に包まれて行くのが解った。


 焦りとか恐怖とか。

 何だか良く解らない物のせいで、やけに時間がゆっくりに思えた。

 なのに、わたしの身体もその中から抜け出せない。


 リュッカの視線に気がついたフリッカが、本当にキョトンとした表情のまま振り返った。


 そこには、ミュータント・アウルベアが。


 ガシュッ


 そんな音が、わたしの耳に鳴り響いた。

 例えるなら、中身の無くなったパックジュースを握り潰したみたいな。


 もちろん、その音はパックジュースなんかじゃないのだけれど。


 音と同時に、わたしの目には恐ろしい映像が映っていた。


 下から振り上げたアウルベアの腕が、フリッカを宙へと打ち上げている。


 喉から顎にかけて、その鋭い爪が引き裂いて、おびただしい鮮血が飛び散っていた。


「……リッカ。フリッカ!!」


 わたしは、剣を握る手に力を込めながら走った。

 後ろで誰かに呼ばれたみたいだったけれど、今はそれどころではなかった。


 血溜まりに転がるフリッカに、クチバシを広げたミュータント・アウルベアが迫る。


「うおおおっ」


 雄叫びを上げながら、わたしはミュータント・アウルベアに突進する。

 それに気づいたミュータント・アウルベアが、わたしに向かって左腕の爪を打ち降ろして来た。


 勢いそのままに、わたしはミュータント・アウルベアの股下へと滑り込む。

 そして、通り抜け様に右足を斬りつけた。


「グギャアアアアッ!」


 悲鳴を上げるミュータント・アウルベアの下から転がり出たわたしは、体勢を立て直して背中に向かって飛び上がった。


 が、そこには既に振り返ったミュータント・アウルベアの姿があった。


 ……あ。

 やっちゃった。


 瞬間的に、そんな事を考えた。


 わたしの左には、アウルベアの2本の右腕が迫っている。


 防御が間に合うかな?

 てゆーか、耐えられるかな?


 思ったより冷静に、そんな事を思ってみたり。


 その刹那、ミュータント・アウルベアの身体が大きく前にズレる。


「うぷっ!?」


 腕でも爪でもなく、アウルベアの胸にわたしは突進してしまった。


「ゴギャアアアアッ!!」


 絶叫しながら、倒れたわたしの上をミュータント・アウルベアが通り過ぎて行く。

 その背中には、3箇所の刺し傷と思われる物が出来ていた。


「ウロ様!!」


 いきなり、強い力で抱き起こされる。


「え、エセルさん!?」


 エセルだった。

 剣を片手に、エセルがわたしを起こしてくれていた。


「ウロ様、フリッカを早く。彼女、まだ息があります!」


 !?


 わたしは、慌ててフリッカのステータスを確認した。


 名前 フリッカ Lv1


 種族 ハーピィ 女

 職業 ???


 HP 0/26 (瀕死:残り時間5分)

 MP 4/8


 生きてる!!

 回復させれば助かる!!


「エセルさん、5分以内なら助けられます!」


「解りました。

 ですが、回復は外でお願いします。ここは、私が引き受けます!」


 エセルは、わたしを自分の後ろに隠す様に前に出る。


 い、いや。無理でしょ!?

 少しだけ冷静になったからだけれど、さっきのわたし、だいぶ無謀だったし。


 いくらエセルが強くても、ヘンニーやダムドとあまり差が無くては勝ち目が……。


「大丈夫です。

 私なら、十分に勝てますから。

 ウロ様はフリッカを、アルバート様はリュッカをお願いします!」


「エセル、介抱は私がしてやる。

 存分に闘え! ただし、絶対に死ぬな!!」


「ハッ!」


 いつの間にか、わたしの後ろにアルバートが来ていてビビった。


「急げ、ウロくん。エセルの邪魔になる!」


「は、はい!」


 アルバートがリュッカを、わたしがフリッカを背負って走り出す。

 その後ろを、レプスとゴーレムとかついて来る。


「先に行け!

 後ろは俺が持つ!」


 螺旋階段前には、息を弾ませたヘンニーの姿があった。


「大丈夫ですか、ヘンニーさん!?」


「ああ、俺は大丈夫。

 だが、ダムドの奴は胸を痛めて動けねえ。悪いが、嬢ちゃんのゴーレムに乗せてやってくれ!」


「はい。ゴーレムちゃん、ダムドさんを運んで!」


 わたしの令で、ゴーレムがダムドを抱える。

 どうやらダムドは、さっきの攻撃で胸を強打したみたいだった。

 荒い呼吸を繰り返しながらきつく目をつむり、額に玉の様な汗をにじませている。


 ドガンッ


 次の瞬間、背後で爆発音の様な物が轟いた。


 目に入ったのは、魔力を全身にまとったエセルと、腕を1本落とされたミュータント・アウルベアの姿だった。


 果たして、こんなに階段を駆け登ったのはいつ以来だっただろうか?

 部活の階段ダッシュだって、こんな距離は無かったと思う。


 だけれど、疲れている場合じゃない!


 建物の外では、ニードルスとジーナが既に待機していた。


「ウロさん、早くこのポーションを!」


 そう言って渡されたのは、回復のポーション。

 出発前に、ニードルスが用意していた物だと思う。


 わたしは、フリッカを降ろしてポーションを……。


 改めてフリッカを見て、わたしは絶句した。


 顎が、無くなっている。


 それだけじゃあない。

 顎から喉にかけてが、深くえぐられているのだ。


 これじゃあ、ポーションを飲ませる事が出来ない!


 残り時間は、あと2分。


「ニードルスくん、ポーションは飲まなきゃダメ??」


「……はい。

 今あるポーションは、全て飲み薬です。傷に直接振りかける物は、安くは手に入りません」


 そう言って、ニードルスは首を振る。


 回復魔法は、岩屋での事を考えるに傷を塞ぐまでには相当の時間がかかるし、そんな時間は無い。と言うよりもう、MPが残っていない。


 つまり、何も出来ない!?


「フリッカ、フリッカ!!」


 わたしは、フリッカの手を取った。

 かすかだけれど、まだ脈がある。


 フリッカ、ごめんね。

 守れなかったね。


 いつの間にか、わたしの頬を涙が伝っている。


 涙で歪んだ視界に、フリッカの姿が白く揺らいでいる。


 ……いや、これ違う!


 わたしの目の前には、横たわるフリッカと白い煙りの様なフリッカの2人がいる。


 これって、どこかで。


 その時、わたしの背中を誰かかトンッと叩いた。


 ハッとして、わたしは振り返った。

 そこにはレプスが。

 レプスが、わたしに向かってうなずいている。


 もしかしたら、助かるかも知れない!?


「フリッカ、フリッカ聞こえる?」


「……ウロさん、フリッカはもう……」


「黙って、ニードルス!」


「……!?」


 うるさいニードルスを、一喝して黙らせる。


「フリッカ、貴女このままだと死んじゃうの。

 でも、わたしの僕になるなら助かるの。どうする?」


 何やら、周りがザワザワし始めてるけれど、かまってられません。


「フリッカ、どうする?

 生きたい??」


 “生きたい。でも、シモベって何するの?”


「わたしと、一緒に旅をするの。

 レプスくんやゴーレムちゃんみたいにね!」


 “……解った。行く!”


 白い、煙りの様なフリッカが、フワリと羽根を広げる。

 わたしは、それを両手で抱き締めた。


 わたしの中に、レプスの時と同じ様な感覚が入って来るのか解った。

 それは、煙りの様なフリッカが、わたしの中に吸い込まれるみたいだった。


 もちろん、これらの事はわたし以外の誰にも見えていないし聞こえていない。だけれど……。


「ふ、フリッカちゃんが!?」


 ジーナが、驚愕の声を上げる。

 それに呼応する様に、その場の全員が息を飲むのが解った。


 フリッカの身体が、キラキラとした光に包まれている。

 輝きの間から、少しずつ身体が再生されて行くのが見えたと、後でニードルスから聞かされた。


 と言うのは、当のわたしは、強烈な痛みに耐えているからだったり。


 顎から喉にかけての激痛に、声も出せずに硬直しているわたし。


 やがて、痛みを遮断するための暗闇がわたしを包み始め、わたしは、数ヵ月ぶりに気を失う事になったのでした。

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