第二十話 ゴブリン殲滅隊
不安でヤバイ。或いは、不安がヤバイ。ウロです。
1人でゴブリン退治は危険なので、騎士団主催の討伐クエストに参加したらわたしも含めて全滅しそうなメンバーだったのですが、どうでしょう?
わたしの参加してるパーティは、
第2班
名前 ビンセント・ベルガー(班長)
種族 人間 男
職業 騎士 Lv1
器用 7
敏捷 12
知力 15
筋力 10
HP 16
MP 15
スキル
共通語
礼儀
剣の扱い Lv1
槍の扱い Lv1
名前 レスタ
種族 人間 男
職業 戦士 Lv1
器用 9
敏捷 15
知力 8
筋力 18
HP 25
MP 7
スキル
共通語
格闘 Lv1
剣の扱い Lv1
剣技 Lv1
突き
名前 エルマー
種族 人間 男
職業 妖術師 Lv1
器用 9
敏捷 14
知力 16
筋力 13
HP 15
MP 20
スキル
共通語
古代語
魔界魔法 Lv1
そして、わたし。自称、剣士ウロです。
まさに、駆け出しパーティですよ。
レベルが1なら、スキルが絶望的なのはしかたのない話し。
だけれど、だけれどさあ。
班長のビンセントさんに、まったく剣技が無いのは何でなんだぜ??
第1班も、ジョブやレベル的にはあまり変わらない。むむむ。
……なんか、イロイロ考えちゃいますがなあ。
ゲームだった頃に、何度も経験したパーティ戦。
レベル上げなら、大体同じくらいのレベル帯でパーティメンバーが構成される。
レベル差がありすぎると、レベルの低い者に経験値が入らないからだけれど。
でも、アイテム目的や殲滅戦などの場合は、手練れメンバーによるパワープレイが一般的だった。
わたしも、チームの先輩方に何度か連れていってもらったっけな。アイテム美味しいです!
また、レベルの低いチームメンバーのために高レベルのメンバーが引率して、狩りやイベント戦闘の練習なんかもやったっけ。
そんな、ゲームの知識が先行するわたしには、現在のパーティには違和感があったりします。
だって、死んだらどうするの!? みたいな。
「……い、おいお前!」
突然、頭の上で声が響き、わたしは一瞬、宙に浮いた。
ネガティブシンクに頭をぐらぐらさせていたから、急に声をかけられてかなりビビッた!
「オレはレスタ、こっちは相棒のエルマーだ。お前はなんてぇんだ?」
声をかけてきたのは、戦士のレスタだった。
かなり大柄の、アメフトサークルにいそうな感じ?
その割りには、顔立ちは何となく幼さが見えたりしている。若いのかな?
その隣にいるのは、妖術師のエルマー。
ニードルスほどではないけれど、線の細い男性だ。
わたしより、頭1つ分くらい背が高いみたい。
2人とも、身につけている鎧やローブがまだ新しい。
でも、浅黒く日焼けした肌が不釣り合いな気がするけれど。
「わたし、ウロって言います。よろしくお願いします!」
少し遅れて、わたしも挨拶を返した。
どうやら2人は、冒険者を志して故郷の村を出てきたばかりの様だった。
なるほど、日焼けは農作業による物ですな。
イムの村のみなさんも、そう言えば日焼けしてたしね。
幼馴染みらしい2人。
冒険について熱く語るレスタを、時折冷めた様子でたしなめるエルマーの姿に年季が感じられて面白い。
……なんか、ちょっぴり羨ましいんですけれど。
「まあ、オレの剣にかかればゴブリンなんて屁でもねーや!」
「ボクの魔法だって、忘れてもらっちゃ困るな!」
それぞれに、剣と杖を掲げる2人。
なんか、いいね。いいのだけれど。
レスタの剣は、戦士系ジョブを選ぶと最初に貰える両手剣だし、エルマーの杖は、魔術師系ジョブを選ぶと最初に貰えるショートワンドだ。わたしも持ってるし。
ああ、また一気に不安になってきちゃったよ。
なんて事を考えてますと、
「おいおい、そんな顔すんなよ。危なくなったら、オレが助けてやるからよ?」
そう言って、レスタがわたしの背中をバシバシ叩いてきた。地味に痛いよ!?
「キミタチ、私語は慎みたまえ! これは遊びではないのだぞ?」
あう、班長に怒られちゃったよ。
でも、まだ街中なんだし。別にいいじゃん? などと。
「固い事言うなよ、班長さん!」
そう言っておどけるレスタだったが、班長のビンセントさんは、冷たい視線で一別しただけだった。
レスタたちには聞こえなかったみたいだけれど、班長さんが「……平民が」と呟いたのが聞こえちゃったよ。
やっぱり、この世界にも身分制度みたいのがあるのかな? 少し怖いのだけれど。むう。
街門を出て間もなく、わたしたちは森の前までやって来た。
第1班は、南西を。
第2班は、南東を調査するみたい。
南東って、先日わたしが入っ辺りかな?
「せいぜい、ゴブリンにやられない様にな? ビンセント!」
「それはこちらのセリフだ、マーティン。お前などに負けるか!」
……むう。
今のは、騎士団風の激励ですか?
勝ち負けなんてあるの?
とか思ったけれど。ぬぅう。
南西の森に入って行く第1班を睨む様に見送ったビンセント班長は、その表情のまま、こちらを向き直す。
「これより、我々は森に入りゴブリン供を殲滅する。足手まといは置いて行く! 遅れるな!!」
ビンセント班長が、剣を抜いて天高く掲げた。
「おおー!!」
分かりやすく、レスタが呼応した。
そんな感じに、不安たっぷりの探索が始まった。
……歩き始めて1時間。
「何だよ、ゴブリンなんてどこにもいねーじゃねえかよ!」
レスタが、つまらなそうに呟いた。
「そうだな、これじゃあ張り合いがないな」
それに呼応する様にエルマーが続く。
むう、もう歩くのに飽きちゃったのかな?
でも、ゴールが分からずに歩くのって、確かに疲れちゃうかもだし。
わたしは、ビンセント班長にゴブリンの居場所を聞いておく事にする。
そうすれば、2人も少しはやる気が戻るだろうし。たぶんだけれど。
「ビンセント班長、ゴブリンの居場所ってどの辺りなんですか?」
「さあな、この森の中にいるのは確かだ。気を緩めるな!」
……え?
「……判らないのですか?」
「私が知る訳ないだろう?」
うおう!!
わたしと同じ、ザックリ作戦だった!!
これじゃあ、陽が暮れるまでエンカウントしないよ!?
なもんで、間違いは早めに修正が吉ですよ。
「ビンセント班長、ゴブリンは夜行性なので、昼間はどこかに潜伏してると思われます!」
「!?」
「!?」
「!?」
……あれ?
わたし以外の動きが止まった?
「ウロ! 貴様、何故それを最初に言わんのだ!?」
「そうだぜ、ウロ。早く言えよ!」
「そう言う事は、事前に知らせておくべきだな!」
ふぉおお!!
3人に怒られたよ!?
「まったく……」と、ブツブツ文句を言いながら、ビンセント班長は地図を取り出した。……なんかひでぇ。
全員で、地図を覗き込む。
わたしの地図と、ほとんど同じだ。
まあ、わたしにはマップ機能があるから現在位置とか方角も解るけれどね。うひひ。
レスタとエルマーは、地図自体を見たのが初めてだったらしく最初ははしゃいでいたけれど、見方が解らないのか顔を見合わせて小首を傾げていた。
「……なるほど、このまま南下すれば、古い岩塩採掘場に出るな!」
ビンセント班長が、地図をたたみながら言う。
旧岩塩採掘場は、もう何年も前に閉鎖になった所らしい。
採掘量が落ち込み、さらに落盤があっての事みたいだけれど。
そこに、ゴブリンが住み着いたのかな?
まあね、いなくても行くって決めたのはビンセント班長だからね!? などと。
目的地も決まって、再び歩き出したわたしたちだったのだけれど。
異変は、それからすぐに現れた。
歩き出してしばらく、ビンセント班長が急に遅れだした。
玉の様な汗をかいて、肩で息をしている。
もしかして、毒か何かにやられてる!? と、ステータスを確認してみますと、
状態 → 疲労
疲労!?
まだ、歩き始めて1時間ちょっとなのに?
なんて思ったのだけれど。
その理由に気がついたのは、もう少し経ってからの事だったテイタラクです。
ビンセント班長は、スーツアーマーを装備なさってました!
森の探索なのに!
長時間、歩くのに!!
重装備である、金属製の全身鎧を着込んでくるアレな人がいますか!? ……目の前にいるけれど!
……わたしも、重すぎる鎧で1回は動けなくなってるから、あんまし人の事言えないけれど。
みるみる弱っていくビンセント班長。
もう、街に戻るには距離があるし。
わたしが、休憩を提案しよう! なんて考えていた時、
「おい、これ見ろよ!」
少し前を歩いていた、レスタが声を上げた。
慌てて駆け寄るビンセント班長とわたし。
レスタとエルマーが覗き込む先には、2体のゴブリンの死体があった。
……正確には、わたしが倒したゴブリンの首無し死体が2体あった。だけれど。
自己申告しとこうかな?
なんて考えてましたが、
「こりゃ、なんだ?」
「判らん。が、何かのモンスターだな!」
「罠かもしれん。このモンスターの死体目当てにゴブリンが来るかも知れないから、注意を怠るな!」
えええぇぇ!?
ヤバイ、3人ともゴブリンを見た事がないっポイ!?
村から出て来たばかりのレスタやエルマーは、まだ知らなくてもしかたないかも知れないけれど。
騎士である、ビンセント班長が知らないのはどうなの!?
大丈夫か騎士団?
これでいいのか、騎士団??
……あ~アレか。
座学しかしてないとか、そんな感じ?
いよいよ逃げ出したい気持ちMAXなんですけれど、みんなの指揮は上がってる不具合です。
……ん?
良く見てみると、昨晩は暗くて気づかなかったけれど、ゴブリンたちの身体には、かなりの傷がついている。
獲物だと思ったウサギも、良く見れば毛皮だけだったし。
もしかして、瀕死だったのかな?
だから、あんなにアッサリ?
でも、何と争ったのかな??
イロイロ気になるけれど、それでも進軍は続きます。
ビンセント班長の動きがだいぶ怪しくなってきた頃、道の木々が減り、ゴツゴツとした岩肌が見え始めた。
「あれだな!」
エルマーの声に、皆が前方を注視する。
岩壁に、木枠を取り付けた様な作りの入口は、特に見張りが立っている訳でもなく、パッと見には、ただの寂れた廃坑にしか見えない。
中の広さも敵の数も、現段階では判らない。
さて、どうしましょう?
なんて考える間も無く、
「よし、行くぞ。正義は我等にあり!」
「うおー!!」
そんな感じに走り出す3人。
まあ、ビンセント班長は途中でスピードダウンしたけれど。
……もう、好きにして。
そんな感じに、ヨレヨレと後に続きます帰りたいフテ寝したい。
とか思ったら、入口すぐ前に3人が止まってました。
なに?
何かいた!?
「……暗くて見えん!」
当たり前じゃん、バカー!
もう、言ってもいいよね? バカー!!
まるで、不安を絵に描いた様なアリサマのわたしたち。
生き残れるのかな? かなりマジメに思ったりしました。




