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第二十一話 しっぽを巻いて

 前回のあらすじ。


 パーティメンバーがポンコツだけれど、わたしもポンコツなのでうんざりするほど文句が言えません!

 ウロです。灯りくらいつけておくれよ。


「だ、誰か灯りを!」


 ビンセント班長の声が、少しだけ震えている。


「……」


 誰も、松明の1本も持ってないらしいです。


 わたしは、鞄からランタンを取り出して灯りを点けた。


 暗い坑道が、オレンジ色の光に照らし出された。


 大人2人が並べる位の道幅に、高さは2メートルほどの通路。


 誰も前を歩きたがらないのですが、どうしたのかしら?


 しかたがないので、わたしが先頭になって進みます。


 打ち捨てられたつるはしや、ショベルなどの作業道具がある他に、何かの動物の物らしき骨がいくつも見て取れた。


 道は、前方と右への2方向に別れていたけれど、前方は、数メートル先で土砂に埋まっていた。


 となると、右かな。

 などと灯りを向けた瞬間。


「ブキッ」


 暗闇の中から、人ならぬ者の、まるで鳴き声の様な悲鳴が響いた。


「うわー!!」


「あうう」


 レスタとエルマーが、恐怖にうめき声を上げる。


 暗がりから姿を現したのは、豚の様な顔をさらに醜く歪ませた人型のモンスターだった。


「で、出たなゴブリン!」


 気圧されながらも、剣を抜いて構えるビンセント班長。


 おしい!

 これ、ゴブリンじゃなくってオーク!!


 成人男性くらいの身長だけれど、ひどく猫背で歪んだ頭身。


 その上に、あの顔が張り付いているのだから嫌悪感は否めない。


 そして、ゴブリンより強いんだなこれが。


「外へ! ここでは不利です!」


 わたしが叫ぶと、レスタとエルマーが走り出す。


「ビンセント班長も早く!」


「き、騎士が敵にせ、背を向けられるか!」


 戦略的撤退だっつーの!!


 ここは、狭いし暗いのー!!


「ここでは、わたしたちが不利です!」


「に、逃げたければ、さささっさと行け!」


 ……ホントに逃げるよ? いやもう、マジで。


 動こうとしないビンセントだったけれど、奥からさらに1体のオークが現れた時には、中々の速さで外へ飛び出して行った。動けるじゃん?


 廃坑前の開けた場所に、わたしたちは散開する。


 のそりと現れたオークたちは、陽の光に少したけ怯んだ様子を見せた。


 今だ!


 わたしは、目の前の1体に斬りかかる。


 眩しさに目の見えないオークは、わたしの剣に反応する事無く、喉を貫かれて絶命した。


 これならイケる!


 そう確信したのも束の間、あちこちで悲鳴が上がった。


 !?


 それは、あんまりな光景だった。


 レスタの剣は、ガタガタと震えてオークに当たらない!


 エルマーは、呪文を噛んでしまって唱えられなくなってる!


 なんとか呪文が完成しても、目を閉じてるからせっかくの〝魔法の矢〟がとんでもないトコに飛んでいくし。


 ビンセント班長は、ほとんど動けずに防戦一方だ。


 ……まずい。


 わたしは、援護に回ろうと振り返る。


 その瞬間、背後に強烈な敵意を感じて、思わず飛び退いた。


 わたしがいた場所に、こん棒が振り下ろされた。


 ドガッ


 鈍い音と震動が伝わる。



 転がりながら、こん棒の持ち主を見た。


 今いるオークよりも、1回り大きくて、赤黒い肌のモンスター。


 何かの腕を、クチャクチャと噛みちぎりながら、クルクルとこん棒をもてあそんでいる。


「オークチーフ!!」


 わたしは、思わず叫んだ。


 オークチーフは、オークのボスに当たるモンスターだ。


 当然、オークなんかよりずっと強いし、駆け出しの冒険者が意気がっていい相手じゃない!


「に、逃げて! わたしたちでは、とても勝てない!!」


 叫んでしまった。


 さっきから、叫ぶつもりはなかったのだけれど、それくらい戸惑っていたんだと思う。


 その声に、レスタとエルマーの逃げ出す姿が見えた。


 !?

 ビンセントは?


 ビンセントが、尻餅をついて後ずさっているのが見えた。


「う、うわあああ!!」


 あ、本当のピンチだ!


 やけに冷静に、そう思った。


 わたしは、右手の指輪に魔力を送り込みつつ、ビンセントに迫るオークに斬りつけた。


 魔法によって強化された剣は、オークの胴を薙ぎ払った。



「う、ウロ?」


「いいから、早く!」


 正気を取り戻したビンセント。


 でも、その足取りは重い。


 ああ、そう言えば疲労状態だったっけ。


「ブギャー!!」


 オークチーフが、仲間をやられて激昂している。


「は、班長早く!」


「お、重たい!!」


 おお、レスタとエルマーがビンセントを抱えて連れ出してくれてる。


 わたしは、オークチーフに向かって剣を構えた。


 ……たぶんなんだけれど、前世のクセが抜けてないんだと思う。


 メインキャラは、聖騎士だったわたし。


 敵の攻撃を引き付ける「タンク」と呼ばれる役回りだった。


 後ろで、みんな何か叫んでたけれど、気にしてる場合じゃないし。


 殿もまた、タンクの仕事だからね。


 オークチーフのこん棒が、唸りを上げて振り下ろされる。


 スピードは無いけれど、もらったらかなりヤバイ。


 スライドする様にかわして、脚に向かって斬りつける。


 オークチーフの悲鳴が、森に轟く。


 わたしは、オークチーフの横を、潜る様に移動してレプスを呼び出した。


 レプスは、自分の置かれた状況に、少しだけ戸惑っていたけれど、すぐに理解したのか、トントンとステップを踏みながらオークチーフの後ろへと回り込んで行く。


 レプスに、一瞬だけれど気を取られたオークチーフに、わたしの2撃目。


 が、オークチーフは、一転してわたしを狙ってきた。


 低めの薙ぎ払い。


 かわせない!


 わたしは、剣でそれを受け止めた。


 ……しまった。


 思いの外に強力な1撃は、わたしを近くの若木に叩きつけた。


 木の葉を散らして揺れる若木に、わたしは身体をあずけてずり落ちて行く。


 一瞬、呼吸が止まる。


 同時に、わたしの時間も一瞬、止まる。


 その隙を、オークチーフは見逃さなかった。


 大上段にこん棒を振り上げ、何かを叫びながら突っ込んでくる。


 まずい!

 まずいまずいまずい!!


 以前にも感じた「死」の恐怖が、ありありと蘇った。


 死ぬ? 死んじゃう!?


 イヤだ、死にたくない!!


 オークチーフのこん棒が、わたしの頭に振り下ろされ……ない!?


 ハッとして見上げると、オークチーフのこん棒は、わたしの背後に立つ若木の枝に引っかかって止まっていた。


 わたしは、剣を構えて突進する。


「ブギェエエ!!」


 オークチーフの腹に、わたしの剣が突き刺さった。


 でも、力が足りない!


「レプス!!」


 わたし叫んだ直後、オークチーフの身体が、わたしの方へと強く押された。


「ブギャアアー!!」


 剣が、オークチーフに深々と刺さった。


 レプスの体当たりが、オークチーフを押し込んだのだ。


 身をよじって、その場を脱出する。


 オークチーフは、少しだけ唸り声を上げていたけれど、やがて静かになって事切れた。


「か、勝った!!」


 レプスくんが、わたしの頭に飛び乗ってきた。


 まだ、震えが止まらない。


 わたしは、オークチーフのもたれかかった若木を見た。


 その枝には、こん棒が。


 引っかかっているのではなく、明らかに、枝に取り込まれている。


「……木が、助けてくれたんだ」


 何も聞こえなかった。


 けれど、若木は、いつかのサラマンダーの様に助けてくれたんだ。たぶんね。


「ありがとう」


 わたしは、若木に手を添えてお礼を言った。


「モウ、ゲンカイ!」


 ……今、なんて?


 ドサッ


「うおう!!」


 わたしのすぐ横に、オークチーフのこん棒が降ってきたよ!


 あっぶな!!

 これで死ぬし!!


 た、助けてもらったし、ま、まあ、怒んないけれどね。


 埃を払ったわたしは、レプスくんと共に廃坑の中を少しだけ見てみる事にした。


「ゴブリン、ここにいたんだ」


 オークのいた右側の通路には、ゴブリンと思われる残骸が数多く残されていた。


 昨晩のゴブリンは、ここから逃げ出して来た所だったのかも知れない。


 でも、いくらオークチーフがいたとは言え、たった3体のオークにやられてしまうとも考えにくいけれどね。


 ふと、足元に光る何かを見つけて立ち止まる。


「魔石だ!」


 恐らくはゴブリンの物であろう魔石が転がっている。


 淡い、魔法特有の光を放つ魔石だったが、これは、破片の様に見えた。


 ……むう。

 破片じゃダメかな?


 見ると、魔石の破片らしき物は結構、たくさん落ちている。


 わたしは、一応、魔石の破片をあるだけかき集めた。


 本当なら、奥までちゃんと調査したいのだけれど、わたしの体力もかなり削られている。


 もし、もっとたくさんのオークや、別の何かがいた場合、今度こそ、わたしの命は無いだろうし。


 とにかく、長居は無用ですよ!


 わたしは、3人の後を追って走り出した。


 わたしたちが街に戻ったのは、それから3時間以上も後の事だった。


 ビンセント班長は、ゴブリン捜索の続行を主張したけれど、完全に戦意を失ったレスタとエルマーに反対され、戻らざるを得なかった。


 …てゆーか、当たり前じゃ!!


 知識も、前準備もまったく足りない今作戦。


 なんで決行されたんだろう?


 騎士団からの説明は無く、ゴブリンを倒してないのに金貨10枚が報酬として出されたけれど。口止め料気味??


 ちなみに、第1班も空振りだったみたい。


 本当に、何なの?? みたいな。


「……と、言うアリサマです」


 わたしは今、とある研究所みたいな所で付与魔術師のエルフを前にしております。


 わたしの話を、眉間にシワを寄せてこめかみを押さえながら聞いていた付与魔術師の……ニードルスは、大きなため息をついて立ち上がった。


「……どうして、あなたはそう、トラブルばかりに首を突っ込むのですか?」


 ……う~む。

 それは、わたしも知りたいですがなあ。


「で? ゴブリンの魔石は手に入ったんですか?」


「えと、これ……」


 わたしが、オズオズと手渡した麻袋。


 その小ささに、一瞬だけニードルスが眉毛をヒクつかせたけれど、その中身を見た瞬間、目を見開いた。


「ずいぶんありますね。破片はすべて、ゴブリンの魔石ですか?」


「……たぶん、だけれど」


 フンフンと、機嫌が良いのか悪いのか判断しにくいよ。ニードルス!


「まあ、これだけあれば結合しても余るくらいです。

 今回は、まあ、良い仕事だったとしましょうか」


 ……ぬう、なんと言う上から目線!


 まあ、ゴーレムが完成するまでの我慢よウロ!! などと。


 それこそ、身も心もヘロヘロ状態で宿にたどり着いたのは、だいぶ深い時間になってたりですが腹ペコです!


 リノちゃんの癒しボイス希望! と、扉を開けたわたしを迎えてくれたのは、口髭凛々しいゲイリー隊長のガラガラ声だったりしました。だいぶションボリです。


「わははは、ウロ! やけに元気が無いな?」


「……ゲイリー隊長はお元気ですね。いつも」


 ゲイリー隊長は、わたしの答えに笑ってエールを飲み干した。


「ゲイリー隊長、今日は、門でお見かけしなかったですね?」


「ああ、今日は、騎士団本部に用があって城に行ってたんだよ」


 なるほど、それで街門で見かけなかったのね。あと、髭が泡!


「そう言うお前はどこ行ってたんだ? また、薬草集めか!?」


 むう、ゲイリー隊長ならいいかな?

 同じ騎士団だしね。


「……聞いてください、ゲイリー隊長」


 わたしは、昨日から今日にかけての、だいぶアレな事柄をゲイリー隊長に話して聞かせた。


 はじめは笑って聞いていたゲイリー隊長だったが、やがて、その顔から笑みが消えて険しい表情へと変わっていく。


「……て事はお前、マーティンかビンセントについて行ったのか!?」


「は、はい。わたしは第2班なのでビンセントさんに……」


 そう言うと、ゲイリー隊長は頭を抱えてしまった。


 あれ?

 何か、言ってはダメな何かを言っちゃった感じ?


「……いいか、良く聞けよウロ」


 ゲイリー隊長は、今回の事の顛末をゆっくり話してくれた。


 マーティン・クラークのクラーク家とビンセント・ベルガーのベルガー家は、どちらも古くからこの国にある貴族の家柄。


 しかし、今ではどちらも没落し、辛うじて男爵の位を頂いている。


 そして、この両家は、何かにつけてはいがみ合って来たのだとか。


 そんな折り、クラークとビンセントは、ある女性に恋をした。


 カウフマン家の令嬢、ミア・カウフマンだ。


 しかも、自分達ね所属する騎士団団長イプセン・カウフマンの娘である。


 爵位は、カウフマン家が子爵と高い。


 これを期に、両家は、なんとしてもカウフマン家とつながりたいと躍起になったのである。


 こんな話し、ミアお嬢様がどちらも断わってしまえば終了……といかないのが貴族な世界らしい。むう。


 また、両名ともにプライドばかり高くて、まったく努力しないダメ男なのだとか。


 そこで、今回の討伐隊が組まれたらしい。


 家の者は連れず、お供は、一般募集の冒険者のみ。


 しかも、裏指令で初心者のみを集めたのだそうな。


 ここまで聞いて、疑問が浮かんだわたし。


「まるで、事故が起って欲しいみたいじゃないですか?」


 ゲイリー隊長は、新しいエールをグッと飲んでから、


「……みたい。じゃなくて、欲しかった。んだよ!」

 と言った。


 う、うわぁ~!!


 事故に見せかけて、殺る気だったんだ~!!


「まさか、お前が参加してるとはな」


「……知ってたら、参加しませんでしたよ」


 怖ぇ!

 貴族、怖ぇ!!


 でも、娘をダメ男に取られるくらいなら、手段を選ばぬ親心なのかな?


「ま、これを考えたのがミアお嬢様だって言うんだから、女は怖いねぇ!」


 うばー!!


 なんか、イロイロお腹イッパイですよ。


 その夜、だいぶダメダメになってしまったわたしは、食事もそこそこに眠りにつきました。


 そして、不思議な夢を見た。


 白い世界。


 空も、地面も白い。


 だけれど、真っ白ではなくって、少しだけ灰色みたいな。


 ああ、思い出したよ。


 あんにゃろ~の世界だコレ!!


 ああ、なんかイロイロ思い出したし!!


 次は、声が聞こえて来るんでしょ?


「……さい」


 ほら、何か聞こえて来たよ?


「……ください」


 ……?

 なんか、様子が違う??


「ウロ、助けてくださいー!!」


 次の瞬間、わたしは、高速で飛んできたヴァルキリーの体当たりをまともにくらう事になったのでした。


 夢なのに。

 夢も希望も無いよ!!

名前 ウロ


種族 人間 女

職業 召喚士 Lv3 → 4



器用 11 → 13

敏捷 15 → 17

知力 36 → 38

筋力 14 → 15

HP 14/23 → 14/25

MP 25/34 → 25/38


スキル


ヴァルキリーの祝福


知識の探求

召喚士の瞳 Lv2

共通語


錬金術 Lv30

博学 Lv1 → 2

採取(解体) Lv1


魔法


召喚魔法


《ビーストテイマー》


コール ワイルドバニー



生活魔法


灯り

種火

清水



活動報告にて、関連した小話を掲載しております。


そちらも併せて、お楽しみ頂けたら幸いです。

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