表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
9/32

ペルソナ②

 翌日の月曜日には、少し寝不足になっていた。


 アイとの会話が楽しくて、ついつい時間を忘れて日曜日という時間を存分に使ってしまった結果だった。


 流石にスマホを二台持ち歩くのもどうかと思い、アイがインストールされている検証用のスマートフォンは家に置いてきた。


 そもそも検証用のスマートフォンにはSIMカードが入っていないので、モバイル回線を利用する事が出来ず、Wi-Fiのない外出先ではアイと会話する事は出来ない。


 SIMカードとは、スマートフォンを通信会社の回線へ接続する為の小型カードだ。

 これが入っていない端末は、基本的にWi-Fi環境でしかインターネットへ接続できない。


 学園内にもWi-Fiがあるにはあるが、あまりこういった場所に個人で保有しているスマートフォンを接続する事は、セキュリティ上の理由からもしたくはなかった。


 Wi-Fiとは、無線でインターネットへ接続する為の通信規格の事なのだが、便利な反面、設定が甘いネットワークでは通信内容を盗み見される危険性もある。


 学園内に存在する不特定多数が利用するWi-Fiの通信が暗号化されているかどうかも分からないし、教師陣の中には、その通信内容を傍受できる存在だっていると考えるのが当然だ。


 休み時間に学園内のWi-Fiへ接続して、SNSや動画を見たり、ゲームに興じている同級生の姿をよく見かけるが、その度にもう少しセキュリティに対する意識を持った方が良いのではと考えてしまう。


 まあ、そんな事を言った所で、ぼっちである僕の言う事を聞く人がいるとは思えないので、口に出した事は無いのだけれど。


 白石さんに送ってもらったアプリについては、まだ他に試してみたい事もあった。


 なので、一刻も早く授業を終えて家に帰りたかったのだが、こういう時に限って面倒ごとはやってくる。


「黒川、ちょっと良いか」


 放課後、家に帰ろうと廊下を歩いていた僕を呼び止めたのは、新城健しんじょうたける先生だった。


 彼は赤城さんが在籍する一年三組の担任であり、僕が幽霊部員として籍を置いている情報処理部の顧問でもある人物だ。


 年齢は三十代前半。スラっとしたスタイルで容姿も良い事から、女子生徒からは人気のある先生だった。


 僕は嫌な予感がしつつも、そのまま逃げる訳にもいかず彼に応答する。


「はい、なんでしょうか?」

「お前、入部したその日から全く情報処理部に顔を出していないだろう?」

「はあ、そうですね。一度も顔を出していないです」

「毎日顔を出せとまでは言わないが、せめて週に一度くらいは顔を出せ」

「でも先生、部に顔を出しても特にやる事はありません!」

「……なら、何でお前は情報処理部に入ったんだ」


 やれやれと、呆れたように先生は首を左右に振った。


 なんでと言われたら、部活への入部を強制している校則に従ったからというのが答えなのだが、そこを正直に伝える事はためらわれた。


「幽霊部員を放置していると、校長に嫌味を言われる俺の立場も考えてくれよ。別に何していたって構わないんだから。とりあえず、今日のところは顔を出せ」


 そこまで言われては、断る事も難しかった。


 正直かなり気乗りしなかったのだが、僕は「ほら行くぞ」と言う先生に付いていく他なかった。


「あ、おい菊島!」


 情報処理部へと向かう途中、新城先生が一人の男子生徒に声を掛けた。


 呼ばれた男子生徒は校庭へ出ようと急いでいたようなのだが、先生に呼ばれた事で足を止め、こちらを向いた。


 菊島と呼ばれた生徒は、坊主頭の見るからに体育会系な男子だった。


 目つきが鋭く、端正な顔立ち。肩幅が広く、身長も高いからか、やけに存在感がある。


 手には野球用のグローブを持っていたので、彼が野球部の部員である事がすぐに分かった。


「さっきHRで言い忘れたが、お前課題の提出遅れてるだろ。部活に精を出すのは良いが、課題もちゃんとやれ」

「チッ」


 舌打ちが、ハッキリと聞こえてしまった。


 随分と態度の悪い生徒だと思った。


 見れば、新城先生の顔は少し引きつっているように見えた。


「お前な……」

「ああ、はい。すみませんでした。急いでいるんで、もう行きます」

「あ、おい!」


 新城先生からの制止の声を聞かず、菊島と呼ばれた生徒は校庭の方へと走り去ってしまった。


「全く……推薦入学だかなんだか知らないが、野球の事しか頭にないのか、あいつは」


 独り言ちる新城先生を見て、僕は教師という職業も大変なんだなーと、他人事のように考えていた。


 その時、新城先生がポケットから取り出したスマートフォンを何気なく操作している姿が、一瞬だけ妙に気になった。


 ほんの数秒の事だった。


 だが、教師用端末とは別に、個人用と思われるスマートフォンを常に持ち歩いている事に、なぜか違和感が引っ掛かった。


 もっとも、その時の僕は深く考えなかった。


 教師がスマートフォンを持っているなんて、今時当たり前の光景だったからだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ