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第一章 「巴図魯殿は端午節の来賓」

挿絵の画像を作成する際には、「AIイラストくん」と「Ainova AI」と「Gemini AI」を使用させて頂きました。

 私が神戸南京町の端午節に関わるようになった経緯については、概ねこんな感じかな。

 その後も神戸華僑の方々と協議や事前の打ち合わせを重ね、無事に当日を迎える運びと相成ったんだ。


 兵庫県神戸市は港町という特色故に、昔から異国情緒の溢れる国際都市として広く知られているよね。

 何しろ山の手である中央区の北野に行けば明治から大正初期に建てられた洋風建築物が今も沢山残っていて「異人館通り」と呼ばれているし、フラワーロードと鯉川筋と花時計線に囲まれた三宮から南の海側の区域は「旧居留地」と呼ばれていてチャータードビルや旧神戸居留地十五番館といった重厚な石造りのレトロ建築が今でも残っているのだから。

 だけど神戸の異国情緒を物語るならば、中央区の元町通と栄町通に跨る南京町の中華街を避けて通る事は出来ないよ。

 秋の中秋節に新春の春節祭といった太陰暦に基づく節句の行事では国内外の観光客で大いに賑わい、一年を通しては中華饅頭や胡麻団子を始めとする点心の食べ歩きを存分に楽しめる。

 そんな楽しさと高揚感を心ゆくまで満喫出来る、オリエンタルな異国情緒に満ちた日本三大中華街の一つ。

 他府県在住の一般の市民達の認識としては、まあ大体こんな感じだろうね。

 そして人類防衛機構極東支部近畿ブロック堺県第二支局に少佐階級の特命遊撃士として所属する私こと吹田千里もまた、今年度の初頭辺りまでは概ねこんな感じの認識だったかな。

 だけど今は違う。

 今の私にとって中華圏の文化風俗は新たに出来た第二の祖国を想起させる象徴であり、その親近感と敬愛の念もまた以前までの私とは段違いなんだよ。

 何しろ今の私は日本国籍を持つ高校二年生にして人類防衛機構所属の特命遊撃士であると同時に、ユーラシア大陸の立憲君主制国家である中華王朝の貴人でもあるのだからね。

 年度切り替えの時期の私は、まさか自分がここまで特殊な立場の人間になるとは思いも寄らなかったよ。

 もっとも、その独特な地位を誇らしく感じているのもまた事実なんだけどね。

挿絵(By みてみん)

「巴図魯殿、間もなく華僑婦人会有志による胡弓演奏が終了致します。御準備の程を御願い致します。」

「承知致しました、御連絡有り難う御座います。」

 恭しく一礼する運営スタッフに拱手の礼で応じながら、私は控室の机に端午節のイベントプログラムの冊子を置いて立ち上がったの。

「如何でしょうか、咲洲舞中尉。着付け等に何か乱れは御座いませんか?」

「些かの瑕疵も御座いません、吹田千里少佐。御髪も満州服も開会の挨拶の時と変わらず、一分の隙もなく整うて御座います。」

 臨時秘書としてつけて貰った特命教導隊の尉官に頷きながら、私は今一度とばかりに身だしなみを鏡で再確認したんだ。

 普段の軍務で着ている遊撃服と同じ強化繊維で出来ていて有事に備えた動きやすい機能的なデザインにはなっているものの、礼服を主目的に誂えられた緑色の満州服は金色の精緻な刺繍が入った豪華で威厳に満ちた物だった。

 普段と同じツインテールに結った黒髪にも、丁寧な細工の施された髪飾りがつけられている。

 もしも一年前の私が見たら、「馬子にも衣装」と笑ったのかも知れないね。

 だけど今この控室にいる人間に笑い飛ばすような不心得者は皆無だったし、鏡の中の私が浮かべる微笑も至って真面目な物だったんだ。

 孫呉の武将として活躍した呂蒙曰く、「士別れて三日、即ち刮目して相待つべし」。

 僅かな期間で、人間というのは大いに変わる物だよ。

「よく御似合いで御座いますよ、千里さん。それでこそ、中華王朝の勇者と誉れ高い巴図魯殿で御座います。」

「有り難う、英里奈ちゃん。生駒伯爵家の跡取りである英里奈ちゃんに言われたなら、より一層の自信になるって物だよ。」

 白い遊撃服に身を包んだ同期の少女士官に応じている時の私は、きっと普段と同じ「吹田千里少佐」としての微笑を浮かべているんだろうな。

 遡る事僅か数ヶ月、昇級試験をパスする前の私は准佐として英里奈ちゃん達の指揮下に入っていたの。

 だけど中華王朝から功績を認められて巴図魯の官位を頂いた今は、こうして英里奈ちゃんは護衛として私に随伴してくれている。

 運命というのは何とも不思議な物だよね。

「いえいえ、千里さん。我が生駒家の爵位は御先祖様より血筋で継承致した物で御座いますからね。それに(わたくし)はあくまでも次期継承者に過ぎません。」

 高貴な血筋の出身でありながら、決して驕り高ぶらない謙虚な姿勢。

 そんな英里奈ちゃんの品格は、私も大いに見習いたい所だよ。

「しかしながら千里さんが巴図魯という今日の高貴な地位を得られましたのは、あの壮絶たるEMプロジェクトで類稀なる武勇と忠節を示されたため。謂わば御自身の功績で勝ち取られた栄誉で御座いますよ。」

「そう言って貰えると本当に嬉しいよ、英里奈ちゃん。武勇と忠節。それは人類防衛機構に特命遊撃士として配属されて以来、私が常に実践しようと心掛けて来た事だからね。それを高く評価して下さった中華王朝王室と愛新覚羅麗蘭第一王女殿下の御為にも、巴図魯として日中友好に貢献しなくちゃね。」

 そうして臨時秘書の咲洲舞中尉と護衛役の英里奈ちゃんの二人をお供に従え、私は控室を後にしたんだ。

 巴図魯として招待された今回の南京町の端午節、是が非でも成功に導きたい所存だよ。

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― 新着の感想 ―
神戸……キングジョーやUキラーザウルスが沈められた場所でもありますねぇ(しみじみ それはそうと。 アクションだけじゃない活躍の場の広がりは喜ばしいものですねぇ。 政治方面メインなストーリー展開ばか…
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