第14話 わからせてやるか……
「……」
大会の1日前、金曜日。俺のメッセージアプリの通知がバグったかのように鳴り続けていた。
彼女らと繋がっていることが外部にバレるのはまずいので、彩音を通じて3人とアドレス交換をしていたのだが――
その中の一人、緋奈から数百件のメッセージが届いていた。
メッセージを開くと、そこには『タイマンで勝負しよう!!』とだけ、ひたすら連投されていた。
(中学校は3時に終わるけど、こっちは家に着くの4時なんだから…… 返信できるわけないだろ)
「はぁ…… まあ、子供だし仕方ないか……」
俺は緋奈に『今暇だからいいよ』と返信した。
すると、即座に既読がついた。
「いや、既読早っ……」
驚いていると、今度は通話がかかってきた。
俺はPCで通話アプリを開き、ヘッドホンマイクを装着する。
「にーちゃん、おかえり〜 ご飯にする? お風呂にする? それとも……」
「興味ないんで、そういうの」
「ちぇ〜」
俺が話を途中で遮ると、緋奈ちゃんは残念そうに言った。
「んじゃあさ〜、私の勇姿を全世界に配信してもいい??」
「それは一番ダメ!!」
俺は即座に止めた。
「いや〜、じょーだんだよ〜」
「……」
「なんか、にーちゃんっていじられキャラだったりする??」
「ちげぇわ!! いいからかかってこい!!」
俺はプライベートマッチの招待を送った。
ルールはシンプルな撃ち合いモードの一本勝負。
「ボコボコにしてやるよ〜、にいちゃん!!」
「命知らずが…… “最強”を見せてやるよ……」
緋奈が招待を承認し、試合が始まった。
⸻
(さて、今回のマップはニュータウンか…… やっぱ撃ち合いモードならここが一番面白い)
ニュータウン――
東京のような街並みに、廃ビルや駅が点在する人気マップ。
一部の建物に入ることができ、戦略性が高い。
俺は最も高いビルの屋上に登り、アサルトライフルを構えて周辺を確認していた。
「駅の回復アイテムの場所は回収されてない…… あそこ、速攻で来ると思ってたけど…… 行かないのか?」
このゲームの撃ち合いモードでは、回復手段が少ない。
初期装備の少量の薬はすぐ尽きるし、マップ上にランダムで出現する高回復アイテムは勝敗を左右する。
周囲を警戒していた俺は、ふと違和感に気づく。
下を見ると、小さな物体が落ちていた。
(なんだ……あれは)
スコープを覗くと、それは弾丸から腕を守るための初期装備。
その瞬間、俺は背後の非常口の方へと武器を構えた。
(緋奈ちゃんのキャラは現実と同じ軽量タイプ…… 装備を外せば、この外壁を登ることが可能)
このゲームではチート対策として顔認証システムが導入されており、現実の顔に近いアバターになる(多少の変更は可)。
予想通り、非常口の陰から緋奈ちゃんが姿を現した。
「やっほ〜、にーちゃん。んじゃ倒すね〜。って、あれ? 気づかれた〜?」
俺は彼女の頭が出た瞬間、アサルトライフルを連射。
緋奈はジャンプして回避し、腰から2丁のハンドガンを抜いた。
「さっすが上位プレイヤー。置きエイムしてても全弾避けてくるか……」
「ま〜ね!! いっくよ!!」
俺は急いで貯水タンクの裏に隠れ、弾丸を避けた。
「ありゃ、避けられた。逃げんな、にーちゃん!!」
「逃げてねーわ! 2丁拳銃相手にこの距離じゃ不利すぎだろ!」
俺は物陰からスコープを覗く。
だが足音が聞こえない。
確認すると、先程の位置からグレネードが5個も飛んできた。
「ちっ……」
俺は舌打ちして、屋上から飛び降りた。
次の瞬間、貯水タンクの前が爆発し、衝撃でビル全体が揺れる。
俺は4階下のベランダにしがみついた。
「あっぶね…… 死ぬかと思った……」
(“爆弾魔”って言われてるだけあるな…… グレネード5個フル投げとか正気かよ)
俺は装備の耐久を確認。
防弾チョッキの耐久は残り2%。
つまり、2発でも食らえば即アウト。
(……さて、本気出しますか〜)
アサルトライフルをリロードし、回復アイテムを使用。
そして階段を使って再び屋上へ向かう。
屋上のドアを開けた瞬間、弾丸が飛んできた。
「あれ〜? にーちゃん、また出てこない〜」
俺はドアを蹴り開けて飛び出すと見せかけて、階段の陰へと飛び込んで回避。
その間にスモークグレネードを投げた。
「けほっ…… う〜、何も見えないよぉ……」
緋奈はスモークグレネードを蹴って、ビルの外へ放り投げた。
俺はその隙を突いて走り込む。
緋奈が体勢を立て直し、再び2丁拳銃で応戦。
俺は壁を蹴って走りながら弾をかわし、アサルトライフルを地面に向かって3発撃ち込んだ。
「どこ撃ってんの? にーちゃんの負けだよ〜!」
余裕のリロード。
俺の武器は威力は高いが、再装填に時間がかかる。
彼女の余裕は、その事実に裏打ちされている。
「いや……最初から、君に銃弾を当てるのは難しいってわかってた。だから、この戦い方が正解だ」
そう言って、俺は地面を拳で叩きつけた。
――ゴゴゴッ
屋上の床に亀裂が走る。
「え!? きゃあああああああああ!!」
俺と緋奈は、崩れ落ちた床とともに、下の階へと落下した――。
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