第12話 しょーぶしよ!! お兄ちゃん!!
目覚ましの音で目が覚めた。
時計を確認すると、針は昼の12時を指している。今日は土曜日。昨日はランキング開幕日で、遅くまで試合を回していたせいで完全に寝不足だ。
(とりあえず最高ランクまでは行けたからよかったけど…… 眠すぎる……)
布団の中でゴロゴロしていたが、これ以上寝ても生活リズムが崩れるだけだと諦めて、ようやく身体を起こした。寝癖のついた髪を手でざっと整え、ふらつきながらも部屋を出る。
「ふぁぁぁ…… なんとか起きた…… 腹減ったし、昼ごはんでも食べるか……」
寝巻きのまま茶の間に向かうと、そこには先客がいた。
「あ、お兄ちゃん。おはよ〜」
テーブルには彩音が腰かけていて、フォークでミートソースのパスタをくるくると巻きながら食べていた。白いブラウスに薄いベージュのスカートという私服姿。普段の部屋着姿とは違って、なんだか少し大人っぽく見える。
(似合ってるな…… 普段は子供っぽい一面もあるけど、こうして見るとやっぱり成長してるんだな)
ぼんやり見とれていたら、寝起きで空腹だったせいか、不意にお腹が「ぐぅ」と鳴った。思わず顔が熱くなる。恥ずかしくなってそっと後ずさると、彩音が俺の袖を掴んで引き止めた。
「生理現象だし仕方ないよ。お兄ちゃんの分、冷蔵庫にあるから、電子レンジで温めてね〜!」
「あ、ありがと……」
言われるままに冷蔵庫を開けると、ラップで包まれたパスタの皿が置いてある。俺はそれを取り出して電子レンジに入れ、1分30秒にセット。レンジの回る音を聞きながら、彩音の向かい側に腰を下ろした。
スマホをいじってSNSを眺めていると、向かいの彩音が口を開いた。
「そういえば今日、お母さんが友達と出かけるみたいで、夜ごはんは自由なんだって。何か食べたいものある?」
「いや、特には……」
曖昧に答えると、彩音はにやりと笑いながらスマホ画面を俺に向けてきた。そこには電子クーポンの画面が表示されている。
「じゃあさ、近所に最近できたファミレス行こうよ〜。お食事券もらったんだ!」
「……まあ、ファミレスなら好きなもの食べられるしな。いいよ」
「やった〜!」
その瞬間、タイミングを計ったかのように「チン」という音が鳴った。俺はレンジからパスタを取り出し、テーブルに置くとフォークを手に取った。
一口食べてみると、意外なほどに味が良い。
「おいしい…… これ、彩音が作ったの?」
尋ねると、彼女はえへへと照れ笑いを浮かべた。
「ソースは手作りだけど、麺は茹でただけだよ〜」
「いや、それでもすごいだろ。俺なんてカップラーメンすらまともに作れないし」
正直、感動すら覚える。
(ゲームでも最強で、しかも家庭的とか…… 無敵かよ……)
改めて、彩音が“完璧”に見えた。整った容姿、明るい性格、料理の腕前。俺とは正反対の存在に思えて、自然とため息が漏れてしまう。
「どうしたの? お兄ちゃん、なんか浮かない顔してる」
「いや…… なんでもない。それより、今回のランキング戦ってやるの?」
話題を変えようとすると、彩音はフォークをくるくる回しながら考える仕草をした。
「ん〜、どうしようかな〜。一応みんなで最高ランクには行ったけど、今シーズンはランキング走るかは悩み中。今のマップ、あんまり好きじゃないんだよね」
「確かに。レーザータウンはゴミマップだよな」
レーザータウン。それは俺たちがやっているFPSの中でも最悪と評判のマップだ。遮蔽物が少ないのに入り組んでいて移動は困難。SNSでも“ゴミ”、“消せ”、“やめてくれ”と散々な評価を受けている。
(彩音も嫌いだったのか…… 本当に運営はなんでこれを採用したんだよ……)
「でもさ、今回からランキング戦が“撃ち合いモード”に変わったのは嬉しいかも〜」
「それはマジでナイス。運営、たまにはやるじゃん」
今回から試験的に、陣取りモードから撃ち合いモードへ切り替わったらしい。世界大会の形式に合わせた変更らしいが、個人的には撃ち合いモードの方が圧倒的に楽しい。
「そういえばお兄ちゃん、再来週の大会出るの?」
「うん。彩音も運営から招待されてたよな?」
「うん! だから最近はみんなで練習してる〜!」
「マジか。なら今回は個人戦だし、俺も絶対に勝つ」
自然と声に力がこもる。
「私も頑張るよ! 応援してくれてる人のためにも……それに、お兄ちゃんにも勝ちたいから!」
「おう、絶対負けねぇ!!」
拳を握りしめて言い返すと、彩音は小さく笑ってから提案してきた。
「ねえねえ、じゃあ今回の大会で総合順位が低かった方、罰ゲームってことでどう?」
「いいよ。で、罰ゲームの内容は?」
「う〜ん、結果が出てからのお楽しみで!」
「……まあ、それならそれで」
俺は拳を差し出し、彩音も嬉しそうに拳を合わせてきた。
「えへへ〜」
「どうしたんだよ?」
「いや…… お兄ちゃんとこうしてゲームの話するの、昔みたいで嬉しくて」
「……そうか」
その言葉に胸が少し熱くなる。思えば俺と彩音がこうして真剣にゲームの話をするのは久しぶりだった。昔は当たり前のようにしていたのに、いつの間にか少なくなっていたのかもしれない。
パスタを食べ終えると、俺たちはそれぞれの部屋に戻り、夕方まで再来週の大会に備えて練習に打ち込んだ。
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