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第100話 事態の収束、祭りの気配、エーリカ

「それで、森の方は大丈夫なのか?」


 冒険者ギルドが全面に動き出したということは、グラシエラスのダンジョン計画は本格稼働、ということになるのだろうが、問題なのはダンジョンよりもカーネリアの森だ。

 グワース山へ向かうにはカーネリアの森を抜けるしか道はないのだが、現在は立ち入り禁止になっているはず。

 マリーの出したお茶で一息ついたミルティアがフフンと鼻を鳴らす。


「この間の調査で……ほら、クロンちゃんも行ったやつ」

「あれっすね!」


 どこから聞いていたのか、いつの間にかクロンが会話に混ざってきた。

 店の方は大丈夫なのかと、チラリと見やれば、気づけば店にいた冒険者連中の大半はもうすでに店にいなかった。

 まだ残っているのは料理が届いていないパーティーと、後は比較的落ち着いたところか。

 この辺、パーティーごとの色みたいな物が見えて面白いな。


「あの調査の結果、概ね元の状態に戻りつつ有るって結論が出たんですよ」

「あぁ、その辺はアリアも言っていたな」

「無駄に冒険者ギルドに通ってたわけじゃないからねー!」


 あの地獄耳はカウンターから一番離れた場所で料理の注文を取っていたはずなのだが、遠くから大声で会話に参加してきた。

 ほら、注文取ってる客が困惑した表情してるじゃないか。

 シッシッと、ジェスチャーで追いやってミルティアへと向き直れば、ミルティアも困惑した顔を浮かべていた。


「あの馬鹿、冒険者ギルドに入り浸ってたけど邪魔じゃなかったか?」

「いやいやとんでもない。冒険者はやめたって事で直接依頼を受けてはくれなかったけど、アリアさんのアドバイスはすごい参考になるって評判でしたよ」

「アリアさん目当てにカーネリアに来たって人もいたっすよ」


 ほう、それほどなのか。

 まぁ銀翼の隼の中でもリカルドと並んで見た目が整っているのがアリアだし、実際各地での人気もリカルドと並んで高かったなぁ。

 ……まぁ、一緒に依頼を受けたりすると、イメージと実際の乖離に困惑するんだけどな。


「まぁそれはともかく、近いうちにカーネリアの森の立ち入り禁止令も解除されると思いますよ。でないと、薬草の採取はもとより、来年の薪の心配もしなくちゃなりませんから」


 そう、そこも結構問題になっているところだったりする。

 冬場の寒い時期の暖房には薪を使うのが一般的なんだが、森に入れなくなった事で薪の生産も停止している状況。

 元々夏場はそれほど木を切らないらしいので大きな影響はないのだろうが、冬場に入っても薪の生産が無い状況なのはいただけない。

 まぁ、生木は薪にするには適していないので今年切り出した薪は乾燥させて来年使う用になるんだろうから、それ故の来年の薪の心配、ということなんだろう。


「まぁ何にせよ、一段落、といったところか?」

「そうですね。いやほんと、最初にドラゴンが出たと報告された時にはどうなることかと思ったんですけど……なんとかなるもんですねぇ」


 本当にそう思う。

 本来、ドラゴンはまさに天災。

 大きな被害は覚悟しなければならないものなのだが……無傷どころか街の発展に一役買いそうなのだから、世の中どうなるかわからないものだなぁ。


「この調子なら、今年の収穫祭も開催できそうかなぁ」

「ん?収穫祭?」

「あっそうか、クラウスさんは去年の収穫祭の時にはいませんでしたもんね」


 ポツリと呟くようにミルティアが口にした収穫祭という言葉に反応すると、彼女はぽんと手を叩いた。


「いつもは麦の収穫が終わった後にやるんですけどね。今年は少し遅くなるかもしれませんけど、やる方向は変わらないんじゃないかなぁって」


 そういうミルティアの顔は少し浮かれているように見えた。

 そりゃそうだよな。

 俺も祭りは好きだ。

 というか、祭りの嫌いな人などほぼいないんじゃないかな、多分。


「そっか、もうそんな時期でしたね」


 と、出来上がった料理を持ってきたマリーがクロンに料理を渡しながら呟く。


「結構大きな祭りなんすか?」

「そうだね。雪解けの祭り……とはちょっと毛色が違うけど、賑やかさはそれ以上かな」

「おぉ、すごいっす!」


 それを聞いたクロンが尻尾をブンブンを振り回しながらテーブルへと向かっていく。

 あー、あれは暫く祭りが楽しみで勝手に気分が盛り上がる奴だなぁ。

 雪解けの祭りの時もクロンの盛り上がり様はすごいもんだった。


 雪解けの祭りも良かったよなぁ……。

 あの楽しそうに踊るクロンとカズハちゃんの姿は今でも鮮明に思い出す事ができる。


 雪解けの祭りはどちらかと言えば春の訪れを祝う、儀式的な意味の強い祭りだった様に思うが、収穫祭というくらいなのだ、きっと秋の収穫物に関しての諸々があるのだろう。

 毛色が違う、という事は多分そういう事なんだろうなと思うが、どちらにせよ祭りならば楽しみには違いない。

 そして祭りとならばもうひとつ考えなければならない事があるな。


「ところで、だ、ミルティア。祭りとなればやはり、屋台、か?」

「ふふふ、その通りです!」


 と、急にテンションの高くなるミルティア。

 なるほど、ミルティアはそっち方面でテンションが上がるタイプなんだな。


「雪解けの祭りの時に出る屋台も勿論いいのですが、収穫祭は秋の味覚が満載ですからね!あぁ、今からでも楽しみ過ぎてお腹が鳴ってしまう!」


 それは流石に大げさすぎるだろう、と思う程に大げさな身振りでどれだけ楽しみなのかを表現するミルティア。

 ……さっき披露した茶番、実は結構ノリノリだったんじゃないか?


「それに、ですよ!雪解けの祭りの時は食べそこねたんです、薄皮包み!出しますよね!?薄皮包みの屋台、出しますよね!?」

「お、おう……」


 ズイッとカウンターを乗り越えんばかりの勢いで顔を近づけられれば、のけぞって逃げるしかあるまい。

 というか、そんなに人気なのか、薄皮包み。

 祭りの時だけに限定、ということにしているので、食べたことがある人の噂が尾ひれをつけてどんどん巨大化しているのかもしれないなぁ。

 これだけ人気なら祭りの時だけに限らずに出してみてもいいかもしれない。

 というか、収穫祭の屋台、まだ薄皮包みにするとは決めていないんだがなぁ……。


「薄皮包みには期待することにして、クラウスさんも参加しますよね、お祭り」

「ん?何にするかはわからないが、屋台を出すのは確定だと覆うぞ。どうせマッケンリー……商業ギルドの方からも要請が来るだろうしな」


 祭りなんていう絶好の機会に店を出さないところはどうかしている。

 雪解けの祭りでもそれなりに儲けさせて貰ったし、今回も冬場に向けて資金を蓄えて置きたいところだ。

 と、その答えでは不足だったらしいミルティアがフフンと鼻を鳴らした。


「収穫祭は雪解けの祭りとはまた違った催しがあるんですよ!」

「へぇ」


 雪解けの祭りの時は14歳のお披露目も兼ねた祈り子達の練り歩きだった。

 あれはあれで実に良いものだったが、あれとはまた志向が違う催しのようだな。

 そう言われては興味を持たない方が難しいだろう。

 続きをよこせ、とばかりに古くなったナッツの類いを出してやると、少し残念そうにしながらもパクリと一口放り込んで、ガリゴリと音を立てる口が開く。


「催しは3つ。1つは大煮炊き。各家庭ごとに食材を持ち寄って皆で料理して食べるの。朝から料理して、昼にみんなで食べるって感じですね」


 おぉ、まさに収穫祭って感じだな。


「もう1つは芋掘り大会。芋の収穫はいつも麦の後なんだけど、元々はこの芋を掘り終わった後にやってたお祭りだったみたいなんですよね、収穫祭って」

「なるほど、芋掘りが主体だったのが祭りが主体になって、芋掘りは余興になったのか。で、最後は?」

「最後は早生葡萄の葡萄踏み。音楽に合わせて葡萄を踏むんですよ」

「こっちは葡萄酒作りって事か」

「一応こっちも理由があってね、お酒の神様は女好きだから、未婚の女性に踏ませて作った葡萄酒を捧げる……らしいです。ほんとかどうかはわからないですけど」


 大煮炊きと芋掘りは収穫を楽しむ催しで、葡萄踏みは雪解けの祭りの祈り子の様な儀式的なものっぽいな。

 そして、こういう祭事というのはその土地の文化との繋がりが非常に強い。

 もし慣れない街で祭りをやっていたら必ず参加しろ、地元民との繋がりを得るまたとない機会だ。

 とは、行商をやっていた親父の言、だったはず。


 ゲオルグ兄さんにあってなければ思い出して無かった言葉だったかもしれないな。


 とにかく、折角の機会なのだ、参加しないという選択肢はないな。


 聞く限りの話だと恐らく芋掘りの方は男性主体の催しのようだな。

 別段女性が芋を掘ってはならない訳では無いだろうが、大会というからには順位がつけられるだろうから、女性は流石に不利か。

 で、その代わりと言ってはなんだが、葡萄踏みは女性のみ、といったところかな。


「昔から伝わってるものは案外正確な情報だったりするんだけどな。まぁ俺が参加するなら芋掘りで、他の面々は葡萄踏みになるか」


 話を鑑みるにこうなるのが当たり前な感じがするのだが、ミルティアは顔の前で指を振る。

 ……なんかイラッとするなその動き。


「いえいえ〜、葡萄踏みは特定の男性も参加できますよー」

「……ん?酒の神様は女好きなんだろう?そこに男が混ざったら駄目じゃないか?」

「それもちゃんと理由があるんですよー。参加する男性は未婚の女性とペアで無いと駄目なんですが、その理由というのがですね――」


 と、ニヤニヤした笑みを浮かべたミルティアにイラッとした瞬間、バン!と扉を開けて一人の女性が入ってきた。

 あれは確か……


「見つけましたよミルティア!」

「ひぃぃ!?ギルマス!?」


 そう確か、ドラゴン対策会議の時にエーリカと呼ばれていた冒険者ギルドマスターだ。


「今日は忙しくなるのが目に見えているのだから、やることやったら速く帰って来なさいと何度も言いましたよね?覚えていませんか?私が面倒な事嫌いなの知ってますよね?これは私に対する嫌がらせですか?」

「ひぃぃ!すみませんすみません!!!」


 ……あれ、こんなんだったっけ?


「あぁ、マスター、あの時以来ですね。ウチのスタッフがご迷惑をおかけいたしました」

「お、おぉ。なんか、キャラ違くないか?」

「あの時は少し、緊張もしておりましたから。けれど普段からあんな感じですよね?ねぇ、ミルティア?」

「は、はいぃぃぃ」

「そ、そうか」


 いやー、あの時はこう、なんだろう、すごいキリッとして落ち着きのある仕事のできる人って感じだったんだが……なんだろう、ギルとは違った方向の威圧感のある人だな。

 ともかく、初対面と印象全然違うなぁ……。

 そういや、最初に冒険者ギルドに行った時にも、ギルドマスターは細かいことは嫌いだ、とかそんな事言ってだっけか。

 ……うん、まあ、深くは追求しないことにしよう。


「それではお邪魔いたしました。こちらは迷惑料だと思っていただいて」


 バーン、と小銀貨1枚をカウンターに叩きつけると、ミルティアの襟首を掴みズルズルと引きずっていくエーリカ。

 小銀貨1枚は多すぎるようにも思うのだが、ミルティアのあの茶番の舞台にさせられた迷惑料だと思えばいいか。

 というか、あの茶番命令したのエーリカだろうに。

 ミルティア……頑張って生きろ……。


 あ、そういや葡萄踏みの話、ちゃんと聞いて無かったなぁ。

 まぁ男でも参加できるという話だし、折角ならマリーでも誘って二人で参加してみるか。

 手にした小銀貨をピンと手で弾いて、そんな事を考えていた。



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