第101話 作戦会議、催し、致命的ミス
「ということで、収穫祭に向けての作戦会議だ!」
本日早朝。
朝食を取った最後の冒険者パーティーが出ていったのを確認し、昼営業用の仕込み前に急いでの作戦会議。
メンバーはいつもの走る子馬亭のメンバー。
俺、マリー、クロン、アリア。
午後はクロンの稽古相手と、アリアはいつも通り冒険者ギルドに出向する関係であまり時間が獲れないため、この時間に。
「おぉ!お祭りっすね!」
真っ先に反応したのはやはりクロン。
雪解けの祭りの時もそうだったのだが、このハーフ獣人は非常にお祭り事が好きだ。
まぁ世の中祭事の嫌いな人などそうは居ないだろうと思うのだが、とりわけ祭りというイベントに飛びつくのが早い気がする。
「収穫祭かぁ。どんな事するの?」
「まずは領主が音頭を取っての大煮炊きだな。各家庭から食材を持ち寄って一緒に料理するんだってさ。商業ギルド持ちで豚の丸焼きとかも出すそうだぞ」
「おぉ……豪勢っす……」
カウンター席に座り足をぶらぶらさせているクロンがゴキュンと盛大に喉を鳴らす音が聞こえた。
こいつ、想像上の丸焼きだけでパンが食えそうだな……。
「あぁーそんじゃ屋台は出さないんだ?なんか春の祭りの時はすごい盛況だったらしいじゃん」
「あぁそうか、雪解けの祭りの時にはアリアは居なかったか。いや、屋台は出すぞ。大煮炊きとはいえ全員の腹をふくらませる程じゃないみたいだしな」
「儀式的な意味が強いですから。皆さん一口ずつとかです」
皆で収穫した作物を皆で最初に食べ、来年もまたこうして皆で収穫できるように。
祭りの屋台のことで相談しに行ったマッケンリーはそうした願いも込められていると言っていたが、たまたま相席した農夫の取りまとめをしているアルフレッド翁が
『採れたてが一番うんまいからに決まっておろう。抜け駆けされるのが嫌じゃから皆で食う事にしたんじゃ』
と夢のない現実的な話でマッケンリーのそれを無惨にも打ち砕いてしまったのには苦笑するしか無かった。
カーネリアは出来てから約50年と若い街。
アルフレッド翁程の歳ならば街が出来た当初からいたのかもしれないと思うと、歴史を見た気がした。
「食事に関してはそんなもんなんだが、後は芋掘り大会と葡萄踏みがあるんだってさ」
「芋掘り大会はなんとなく予想が付くけど、葡萄踏みってのは、葡萄を踏む?」
「そのまんまだな……」
単純に葡萄踏みと聞けばそうなるか。
俺も葡萄踏みと聞いただけだと酒を作るだけって事だと思ったもんな。
「早生の葡萄を音楽に合わせて踏んでそれを葡萄酒にするんだってさ。こっちも儀式的な意味が強いみたいだ」
「今年仕込む葡萄酒が美味しくなりますようにって、通常の葡萄よりも少し早く採れる葡萄でお酒の神様に捧げる葡萄酒を作るんですよ。お酒の神様は女好きですから、未婚の女性が踏んだ葡萄で作った葡萄酒で機嫌を取るんです」
マリーが詳しい説明で補足してくれるのだが、やはり改めて聞いてもこの酒の神様ってのはあんまりいいイメージが無いなぁ。
聞いた話を総合すると、飲んだくれの癖に権力だけはあって女を侍らせている趣味の悪い貴族様……みたいな。
「なんか、酒ばっか飲んでる癖に権力だけはある女好きでどうしようもない貴族みたいだねぇ」
「あ、あはは……」
うむ、その通りだアリア。
同じ感想を持っている人がいて安心したぞ。
「とまぁ、芋掘りは男性有利ではあるが女性の参加も可能。葡萄踏みは基本女性で男性も条件付きで参加できる催しらしいんだが、マリー達はどうする?」
と3人へと視線を向けてみれば、思ったよりも反応がよろしくない。
いつもなら飛びついてきそうなクロンもうーん、と唸っている。
「あー、アタシはパス。葡萄踏むだけじゃあんまり面白そうじゃないし、芋掘りは面倒くさい」
「ボクも今回はやめておくっす。雪解けの祭りの時はししょーとマリーさんにはずっとお店についてて貰ってたっすし、今回はボクがお店についてるっすよ」
クロン……お前は本当にいい子だなぁ。
それに引き換えアリア……お前ってやつは……もう200年以上生きてるらしいから変わりようも無いだろうけど、相変わらずで逆に安心するぞ。
本当に興味なさげなアリアの返答にマリーも少し困惑気味か。
「マリーはどうするんだ?」
「あ、では私は葡萄踏みに参加しようと思います。去年は参加出来ませんでしたけど、それまでは毎年参加してましたので。その間のお店はクロンに任せるね」
「任されたっす!」
この感じ、もしかしたらクロンが言い出さなければ参加しないつもりだったのか?
本当はお祭りが大好きで仕方無いクロンの、雪解けの祭りのときに受けた恩を同じ祭りで返そうという計らいを慮ったようにも思える。
ミルティアの話では参加に年齢の制限は無かったようだが、正直なところ、マリーくらいの年齢であれば既婚の女性も多い。
そろそろ参加を控えようと思っていた年齢かもしれないし、案外今年が最後になるかもしれないな。
となれば、そうだな。
「俺も葡萄踏みに参加しようと思う」
折角可愛い弟子が気を利かせてくれたんだ。
その機会は利用させてもらうことにしよう。
色々と忙しくてマリーと二人でゆっくりすることも少なかったし、いい機会だ。
そう皆に告げると、何故かマリーが呆けた表情で俺の方を見て固まっていた。
「……え?」
「いや、男女のペアなら参加できるはずだよな?マリーにペアになってもらおうかと思ったんだが、駄目だったか?」
「ふぇっ!?」
と、今度はシュポンとでも音がなりそうな勢いで、一瞬で顔が真っ赤になるマリー。
……あれ?
なんか、間違ったのか、俺。
この反応は……俺が物凄い恥ずかしい事をした可能性が……5割。
4割は俺がとんでもない勘違いをしている可能性。
残りはマリーの逆鱗に触れてしまうような事をしてしまったか、だ。
「その、俺は何か勘違いをしているのか?」
未だに耳まで真っ赤にしたマリーがぼーっとした顔でこちらを見ているのだが、なんか焦点が合ってない気がする。
フリフリと眼の前で手を振りながらそんな事をマリーへと問いかけると、漸く焦点が合ってビクリと体を震わせた。
「ハッ、あ、すっすみません。ちょっとその、突然の事だったので、びっくりしちゃって」
「えーっと……その、葡萄踏みに男が参加するのは……一般的じゃないのか?」
あー、これはどうやら俺がとんでもない勘違いをしているパターンのようだ。
一番ダメージが少ないやつっぽいのが不幸中の幸いか。
「えと、クラウスさんは途中までしか説明を受けてなかったんですね。葡萄踏みに男性が参加する時っていうのはですね、その……葡萄踏みに一緒に参加する女性を……お、俺の女だから手をだすな、と、お酒の神様に宣言をする時、なんです」
「な……」
なん、だと?
つまりそれは、事実上のプロポーズ、ということ、か。
ま、まずいぞ。
何がダメージが少ないだ。
勘違いに加えて恥ずかしい事を言ったの2連撃じゃないか。
こんなのほぼ致命傷だぞ!
ほら見ろ、アリアもクロンも変な空気に……あれ、俺の思っているような変な空気と違う変な空気なんだが?
「あ、あはは。も、もう、クラウスさんの早とちりは相変わらずですね。そういう事ですからクラウスさんは芋掘りの方に参加してください芋掘りと葡萄踏みはちょっと時間が被ってますけど私の事は気にせずに参加してきて下さいね」
「お、おう、そうだな。いや、その、すまなかったな」
まくしたてるように続けるマリーに思わずそう答えてしまう。
「あ……はい、いえ、大丈夫です」
一瞬だけ寂しそうに瞳の色を濁らせたマリーがいつものように笑うと、クロンとアリアから何故か溜息が飛んできた。
その後の会議はなんとも言えない空気のまま、俺が芋掘りに、マリーが葡萄踏みに参加するということだけしか決まらず、ふわっと解散した。




