⑩"その時"
俺は長寿の人間が住まういう霊場に行くことを決める。天黎との出会いは、ひとりじゃ気付けなかった新たな道を示してしてくれた。
季節がひとめぐりして、両親が帰ってこなくなって一年が経った。そろそろちゃんと向き合わなくてはいけないと思った……。
物心ついたときから、折に触れ、両親は俺に言い聞かせてきた。
『いつか……その時がきたら、私達は帰らなければいけない』
どこに? と聞いても誤魔化すように笑って何も教えてくれなかった。
親類関係に会ったことのなかった俺は「帰る場所」っていうのは「両親の故郷」なんだと、なんとなく想像していて、定年後に二人で仲良く隠居生活でもする予定なのかと思っていた。
一年前。
大学の入学式が終わると同時に二人は家に帰ってこなくなった。携帯も繋がらない。
俺は新生活に必死で、父さんと母さんのことは気にしつつも、そのうち帰ってくるだろうと軽い気持ちでいた。だって一言もなく、突然いなくなるなんてありえないだろ……。
一ヶ月が経った。
俺は急に思い立って、それまで一度も踏み込んだことのない両親の部屋の扉を開けた。
綺麗に整頓されたベッドルーム。
まるで清掃が終わったあとのホテルの一室みたいだった。
そして小さなサイドテーブルの上に見つけてしまう。
俺名義の通帳と一緒に「大学の費用に使いなさい」というメモ。
――とうとう"その時"がきたのだ。
「帰らなければいけない」と言っていたその時が、ついにやってきたのだと悟った。
行き先の手掛かりになるようなものがないか探してみたけれど、それらしいものは見つからなかった。
俺は呆然と立ち尽くす。
幼い頃から何度も言われていたのに、心の準備ができていなかった自分にショックを受けていた。
(一言くらい、声を掛けてから行けよな……)
まさか、もう二度と会えないってことはないよな?
不安が押し寄せる。
異様なほど綺麗に整頓された部屋。それに通帳には、大学の費用どころか、当面の生活も賄えるくらいのお金が準備されていた。
(まさかな……。たまには帰ってくるよな?)
このまま未成年の子供を放っておくわけないもんな。
そう宥めるように俺は自分に言い聞かせた。
けれど……俺が二十歳の誕生日を迎えた日にもなんの音沙汰もなく、二人が帰ってくることはなかった。
通帳のお金はそのまま。
大人になった俺は、なんの踏ん切りもつかないまま、ひとりでも強く生きていかなければと決意だけはした。
そして天黎と出会ったんだ。
長年の謎が解けたとき思ったのは、やっぱりもう一度、父さんと母さんに会いたいということ。
二人の邪魔をするつもりもないし、迷惑をかけたいわけじゃないけど、親孝行らしいことを一度もしたことなかったから、なにかしてあげたいと思った。
「ムギト君のご両親を探すの、僕も手伝うよ」
「おう。ありがとう――」
天黎は恋人の振りをしてもらうかわり、両親の行方を探ってみることと、大学の授業料を払うと言ってくれた。有難い申し出だと思った。
だけど俺の目的は変わってしまった。
「天黎、お金はやっぱ要らない。バイト探してたのは本当だけど、じつはお金だって無いわけじゃないんだ」
「大丈夫なの?」
「それに俺……、休学するって決めたし」
「!! ムギト君それはっ」
「いいんだ。もう決めたんだ……」
天黎が何度か休学は考え直すべきだと言ったが、俺は首を縦に振らなかった。
本当に俺も長寿だというなら、遠回りするくらいの時間はあると思うから。
読んで頂き有難うございます!




