兄と可能性
危うくすぐに≪音楽≫を取ろうとするとこだったが、兄貴が止めてくれて助かった。
そのまま兄貴はちゃんと理由を説明してくれている。
「当たり前だがプレイヤーレベルもスキルレベルも、上がるにつれてだんだん上がりにくくなる。無策に欲しいスキルやステを伸ばしたところで、後々辛くなるのはタクトだ」
「うっ……」
「まずはプレイヤーレベル10を目途にした育成計画を建てろ。10になる頃には初期の三つのスキルレベルも10前後になるはずだ。それも踏まえればプレイヤーレベル10までで新しく四つのスキルが取れる。今のうちにそのスキルをある程度決めて、その中でもレベルを上げやすいスキルを優先に取っていくのが効率がいいんだ。分かるか?」
確かにその通りだ。そしてその優先されるスキルに≪音楽≫は入らないんだろう。それは俺でも分かる。
「まあ最初の話に戻るが、ステータスはCHMとMPだけ上げてもきつい。タクトに固定で組むパーティーがあるなら別だが、そうじゃないだろ?」
「うん……歌使いは序盤は辛いみたいだから、ソロが多くなると思うかな」
悲しいかな、それが現実だ。それに俺自身伸び伸びやりたいし、固定のパーティーなんかは結構煩わしくなるだろう。
ソロでまったりやるのも好きだしな。
だったら何で歌使いを選ぶんだとかは言わないでくれよ!
それとこれとは別だ!
「それなら尚更、攻撃系のスキルが必要になるな」
「やっぱそうなるか……。となるとやっぱ武器スキルとそれに対応する技能か魔法スキルがいるってことだよなぁ」
「普通はな。けど武器スキルだけあれば、技は使えないけど通常攻撃だけでダメージを重ねることは出来る。反対に武器スキルがなくても威力は低くなるが技能スキルがあれば技は出せる。ま、後はタクトの思い描くスタイルしだいだな」
「というと……?」
歌使いだけじゃダメってことか。
「≪歌≫がメインなのは別にいい。だが、他にもう一つ何かがあるとソロでもやりやすいし、パーティーでも活躍できるだろう」
「剣とか魔法とかってことだよな」
「あぁ。ただ、ステータスをCHMやMPメインで上げてくなら、必然的に後一つのステを上げてくのがいいな。だいたい三つのステを上げるプレイヤーが多い。少量で四つ目を上げる場合もあるから何ともいえないが……ただそれ以上はさすがに器用貧乏になる」
「やっぱINTかSTRがいいかな?」
火力に繋がるのはその二つくらいだ。いや、弓なんかはDEXだったっけか?
「そうだなぁ。ただ前衛として戦うのはAGIもある程度必要になる。だからお勧めはINTを上げて魔法スキルを何か取ることだな。もしくはDEXを上げて遠くから弓なんかの遠距離で撃つか」
やっぱそうなるか……。
「STRだけ上げて殴ってたらいいってわけにはいかないよな……」
「殴る?タクト、お前モンスターを殴るのに抵抗ないのか?」
え?何か兄貴から予想外な質問が返ってきた。
「抵抗はそりゃあるよ。ラビットなんてまんま兎じゃん?殴ってたらなんか動物虐待してる気分だし。その分ストレイドッグはちょっと汚いイメージがあるからあんまり感じないかな」
「……なら虫のモンスターやゴブリンみたいな亜人種は?」
お。やっぱりゴブリンとかいるのか。ゲームの定番だよな。
人型で敵意があるなら全然余裕だな。虫はまぁ、よっぽど気持ち悪くなければ平気か。Gも割と平気だし。
それを伝えたら兄貴はちょっと意外な顔をした。
「そうか……」
「それがどうかした?」
「あぁ、いや。≪体術≫っていうスキルがあるんだけどな。結構人気のないスキルの一つなんだが」
≪体術≫。文字通りだよな?
むしろ結構人気ありそうな気がするけど。
「その理由の一つが、このゲームでモンスターを直接殴るのが嫌だっていうプレイヤーが多いからだ。VRだけにモンスターもリアルな作りだからな。虫とかゴブリンとか、アンデッド系なんかは特に多い」
「あぁ、なるほど。確かにやけにリアルだもんな。俺もラビットを殴るのには抵抗あったし。今はもう慣れたけど」
「そういうタクトは結構少数派だぞ?せっかく武器があるのに、わざわざ拳で戦う人は少ないってことだ」
「……まあ、少数派は今さらだよ。で、その≪体術≫が何かあるの?」
聞きたいのはそこだ。兄貴が何の意味もなく、いきなり≪体術≫の話を出すわけがない。
「通常は技能スキルに対応した武器スキルが必要だが、≪体術≫は別で武器スキルを必要としないんだよ。その代わりに両手に何も装備しないという枷もある。これが不人気のもう一つの理由だな」
「まじで!?」
嘘だろ!武器スキル必要ないのか?しかも装備もいらないって、それ武器買う必要もなくなるってことだよな?
スキル枠も浮くし、ダブルでお得じゃんかよ!
「タクトの今考えてることが凄い分かるな……」
「えー。でも普通そう思わない?」
「武器がないってことは、レベルがいくら上がろうが武器の性能を得られないってことでもあるからな。序盤はいいかもしれないが、中盤以降はきついかもしれない」
何だよ、それ。
それこそ俺に合ってるじゃないか。
「それくらいになったら≪歌≫もマシに使えてくるようになるよな、うん」
「……ま、お前がそれでいいならいいが」
何でちょっと呆れてんのさ、兄貴。
だけど今度は止めないってことは、兄貴も別に反対ってわけではないんだろう。
「じゃぁ≪体術≫は決定だな。そうすると武器スキルは必要ないし、≪音楽≫を入れてもあと二つか」
「そうなると、パッシブスキルとアビリティスキルがいいだろうな。ステータススキルでも問題ないが」
「ステータススキルはともかく、パッシブスキルとアビリティスキルって数多すぎない?この中から選ぶの結構大変なんだけど」
パッシブスキルはスキルをセットしているだけで効果が出るもので、アビリティスキルとは即時使用のスキルだ。効果はそれぞれで、どれもCTというものが発生する。効果が大きければ大きいほどCTの時間も長いのだ。
そしてその数はよく分からないのもいれたら、どちらも含め百近くはある。
一つ一つ効果を見て選ぶ真似は俺には無理だ。
「あくまで歌使いというならそれに見合ったものがいいだろうが、パッシブスキルなんかは戦闘状況をよくするものが多いからな」
「例えば?」
「≪見識≫はモンスターのステータスや属性が分かるし、≪索敵≫は遠くのモンスターの位置が分かったりする。≪気配察知≫なんかは不意打ちに便利だな。この辺りはパーティー全体で一つは欲しいところだ」
「いろいろありすぎる!けど俺的には回復系のスキルがいいな。ポーション高いし、MPポーションなんてもっと高いんだろ」
せっかく≪体術≫で武器を節約できるなら、どうにか他のスキルで回復アイテムも節約したいとこだ。回復手段があるとないとでは違うからな。
「回復か。それならポーション替わりに≪回復魔法≫を取ってるプレイヤーは多いな。≪杖≫や装備がないと効果は下がるが、節約にはなるが……MPを喰うからタクトには不向きか。後はMP回復で≪瞑想≫があるな。……うん、これならタクトに合うだろう」
言っちゃなんだが、MP回復のスキルがあるなら最初に知りたかったぜ。言わなかったのが悪いけど。
しかも調べてみたら結構いい感じだし。
これも候補にいれとこう。
「ありがとう、兄貴!これでだいたい方向が決まったな」
≪音楽≫と≪体術≫と≪瞑想≫。もう一つはもう少し考えてみるか。
この中だとまず取るのは体術だな。これでラビットたちへのダメージも増えるだろうし。
「それくらいいいさ。可愛い弟のためならいくらでも相談に乗るし、何かあったらすぐに連絡しろ」
「そうだな、うん。ほどほどに頼らせてもらうよ」
さすがに頼りっぱなしも悪いしな。もうしばらくは自分でいろいろ見つけてみよう。
「そうか……。ところでタクトはギルドは考えているのか?」
ギルドはプレイヤー同士で築くコミュニティだ。7人から作ることが出来て、最大30人まで所属できる。ギルドホームなんてものもあり、その恩恵はいろいろあるので、ギルドに入ることで損することはない。
いつかは、という興味はあるけどそんなのまだ先だ。
「何も考えてないよ。まだ初日だし」
「そりゃそうだよな。一応言っておくが俺たちのギルドはタクトをいつでも歓迎してるからな。修二のやつも今度タクトを誘いに行くって息巻いてたくらいだ」
「えー、何だよそれ」
どんだけ俺を甘やかすんだ、この人は。
しかも修二さんとギルドを組んでるみたいだし。あの人も大概俺に甘い。
「言っておくが本気だからな?勇也たちに先を越される前に勧誘しとかないと。あいつらに取られたらそれこそたまらん」
「勇也に?ないない。あいつのことだから廃人たちの集まるギルドだろ。俺なんか誘わないよ」
「そうだといいが……」
何をそんなに考え込む必要があるのか。
というかどこに誘われても、今はまだギルドなんて余裕はない。
まずはこのゲームに慣れていかなきゃいけないし。
一日だけしかやってないけど、もう十分にフリスタにハマりつつあるんだ。
すでに明日の冒険が楽しみだった。
それからは、兄貴と久々な話をしばらくの間続ける。
また今度は狩りに行こうと約束してくれて、その日はそのままログアウトして終わった。
キャラクター紹介 サク
性別:男
身長:177cm
スタイル:双剣使い
レベル:30
スキル:≪剣術・片手≫≪片手剣≫≪力増加≫≪二刀流≫≪剣術・双剣≫≪?≫≪?≫≪?≫≪?≫≪?≫
タクトの実兄にして、βプレイヤーの一人。自他共に認めるブラコン兄弟の長男であり、フリスタに参戦したタクトを見守る。
リアフレの修二と共にギルドを営んでいる。




