兄と相談
主にラビットとの戦闘のおかげで時間は結構いい感じに経っていた。レベルも切りがよく上がり、あの後は一旦ログアウトして夕飯を作ってその他いろいろとこなして時を過ごす。
そして兄貴との約束を前に再びログインして俺は始まりの街の噴水広場で待っていた。
始まりの街はまだ少し明るい。フリスタの時間は現実の時間とリンクしているが、世の中俺のような学生だけじゃない。夜しかプレイできない社会人のためにも、ゲーム内の夜は遅かった。
具体的に言うと現実の0時を境にゲームの中は夜を迎える。そして朝の6時を境にゲームの中もまた朝を迎えるのだ。要はゲームの中の夜は六時間しか訪れない。
夜になると、街は街灯が明かりを照らすので何の不便もないが、フィールドはそうはいかない。フィールドも夜になり、視界が少し狭まるのだ。モンスターが強くなるというのはないが、視界が狭まるせいで先制攻撃をされやすかったりするデメリットは当然発生する。しかし一部のフィールドには夜しか出現しないモンスターもいるらしい。
噴水広場は未だ始めたばかりのプレイヤーでいっぱいだった。むしろ社会人組はようやくスタートとなるのだろう。それでも昼間よりは幾らか少なかった。
「兄貴はまだ来てないな」
まだ十分前だ。兄貴なら来てもおかしくはなかったが、どうやらまだみたいだな。
よし、今のうちにスキルの確認でもしておくか。
プレイヤーレベルが4になってBPがまた10増えた。そしてSPも3になってスキル枠が一つ増えたことにより、一つだけ新しいスキルが覚えらるんだよな。
だけど何にするかはかなり迷うとこだ。プレイヤーレベルとスキルレベルの上がり方にはそんなに差がない以上、次に枠が増えるのはプレイヤーレベル7の時のはず。
それまでまた同じようにラビットやストレイドッグを殴り続けるのはさすがにゴメンだ。
メニューを開いて取得出来るスキル一覧を見るも、その数は膨大でいちいち一つずつ見ていられない。
やっぱり今必要なのは攻撃手段だよなぁ。となると武器系スキルか。けどなぁ……。
俺のスタイルは歌使いだし、それに関するスキルを取りたいという欲求があるんだよな。別に歌使いが前線で武器を振るうのがダメってわけじゃないし、それでもいいとは思うんだけども。
悶々と悩んでも答えが出ない。
まぁそんな時の答えは一つしかない。兄貴に相談することだろう。
多分イサナギたちに聞くよりも、的確なアドバイスをくれると信じている。なんせ、俺の兄貴だからな!
「タクト、待たせたな」
「うぉっ!?」
考えに没頭してたら横からちょうど声を掛けられて本気でビックリした。何せ当の本人なわけだし。
「兄貴……だよな……?」
目の前に立つイケメンを見ながら、俺は疑問符を感じた。
こんなにイケメンだったか?
顔は間違いなく同じだ。髪も瞳も黒だし多分俺と同じで何もアバターをいじっていないんだろう。それだけで兄貴なのは間違いないんだけど、問題は兄貴の服というか装備にあった。
黒のロングコートを着て、中には同じように黒を基調とした軽鎧を装備している。それがまあ何とも似合っているのだ。それだけならまだしも、シルバーのアクセサリーが更に際立たせ、何よりも腰に差さる双剣に目が離せない。
ファッション≠装備の図が俺の中で瓦解した瞬間だった。
「もちろん。タクトもやっぱりアバターはそのまんまなんだな。これも家系だな」
「う、うん……」
兄貴は微笑みながら話かけるが、俺はそれどころじゃなかった。
初心者の俺でも分かる。この装備は絶対高い。というかレア物だ。それに対して俺の装備は未だ初期装備のままだ。なんか居た堪れない。
だって周りを見てみろ。みんな兄貴のこと見てるじゃないか。
「とりあえず、フレンド登録からだな。それから今日何してたのか教えてくれよ」
「そう、だな。けどその前に移動していい?ここに居続ける勇気は俺にははない!」
「……?あぁ。タクトがそう言うならいいが」
はぁ。相変わらず他人の視線や興味には無頓着だな。
まあそれが兄貴らしいんだけども。
それから兄貴は俺を連れてはじまりの街にある食事処へと連れてきてもらった。
こんなところがあったのか。
こじんまりとしたその店はもちろんNPCが経営する店なんだが、はじまりの街では食事処は人気がないのか人は少なかった。
この肉美味しいんだけどな。後で知ったがそれはストレイドッグの肉だったらしいが。
「で、ここなら大丈夫か?」
「あぁ、うん。ごめん兄貴。わざわざ移動して」
「気にするな。で、タクトの初めてのフリスタはどうだったんだ?」
兄貴は優しく聞いてくれたので、俺は今日の出来事全て話した。
イサナギたちと話したこと、ローラさんと出会ったこと、ラビットとストレイドッグと戦ったこと、プレイヤーレベルが4になって何のスキルを取るか迷ったこと。本当に全部だ。
全部話し終えたあとの兄貴は、まず真っ先に笑っていた。
「まったく……本当にどこまでいってもタクトはタクトだな」
「はぁ?」
頭をポンポンと叩かれながら兄貴は愉快そうに笑っていた。
意味が分からない。
「変わってくれるなよ、ってことさ」
「何だそれ」
本気で何が言いたいか分かんなかったが、まあいいだろう。こんなやりとりたまにあるわけだから気にするだけ無駄だ。
「俺が一番気になるのはそのNPCのクエストなんだが……とりあえずスキルの話からするか」
NPCからのクエストはそう珍しいわけでもないと思うんだが、ローラさんのクエストは別らしい。何でも≪歌≫という限定のスキルが関わっているからだというが。
イサナギなら絶対しつこく聞いてくるだろうに、さすが兄貴だ。俺の直面の悩みを心配してくれた。
「とりあえず、先に聞くがステータスは何を振ってるんだ?」
「MPに20ポイント全部振って、さっき上がったばっかの10ポイントはまだ保留にしてる」
「あー、なるほど。MPな、うん。それもタクトらしいか」
ちょっと苦笑してるとこを見ると、どうやらあんまりよくなかったみたいだ。
俺もさすがに全振りはどうかと思ったけど、まあ過ぎたことは仕方ない。
「だが確か歌の消費MPは高いんだったな?それなら序盤のうちに上げとくのはいいが、あまり上げすぎるなよ。レベル1で10上がるのも地味だがでかいからな」
「うん、それは大丈夫。ここで一旦止めるつもりだから。後は一応≪魅力増加≫が初期スキルにあるからそれを上げようと思うんだけど、ソロを考えたらSTRやAGIも必要か迷ってるかな」
「あぁ。CHMは正解だな。音楽系のスキルはCHMが関係してるって聞いたから間違いない」
意外にも兄貴から断定の後押しがあったのは予想外だった。音楽系のスキルってマイナーらしいし、曖昧な噂が飛び交っているのものだと思っていたから。
「兄貴の知り合いに音楽系のスキルを取ってる人っているの?」
「一人いる。最近は連絡を取ってないから分からないが、低レベルの頃はよく一緒に狩りもしていたからな」
「まじで!?うわー!まさか身近にもそんな人いるなんて!ねぇ兄貴、その人紹介してくれない!?」
俺のテンションは一気に上がった。
ベータプレイヤーで≪歌≫を取ってる人がいないと聞いてたから、まさか音楽系スキルを取ってるプレイヤーがいるなんて期待してなかった。
「喜んでいるとこに水を差すのも悪いが、そいつは極度の人嫌いというか……一匹狼なやつなんだ。多分紹介は難しいな」
「えぇ……」
「連絡も取ってないと言っただろ?悪いな、タクト」
「いやいや、兄貴のせいじゃないでしょ」
まあ俺の早とちりも悪い。正直凄く残念だが、仕方ないか。
「同じ音楽系のスタイル同士、いずれどこかで会うかもな。タクトなら、もしかしたらあいつも気が向くかもしれないし」
何かを思い出すように笑う兄貴が俺は不思議だった。
それはまるで親しい友人を思い出すような笑いだったからだ。俺の知る兄貴の親友と呼べる人は修二さんだけなんだけどな。こう見えて兄貴は狭く深い交友関係なのに。
「だがまあ、そいつからある程度聞いたこともある。その一つが音楽系のスキルはCHMの影響を受けること、後は≪音楽≫っていうスキルがあるからそれを取るのもいいって聞いたな」
「≪音楽≫……」
なんだ、それ。
そんないいスキルがあったのかよ!
ちょっと探してみるか。
メニューを開いてスキル欄を見ると、そこにはまた膨大な数が並んでいた。
カテゴリ別でいうと、多分パッシブ系か?
それらしきところで一つずつ、≪音楽≫スキルを探していく。
あった!
――≪音楽≫ パッシブスキル
音楽に関わる系統のスキルの効果を上昇させる。
お!これはいいかもな。
効果のほどは分からないが、これで≪歌≫の効果が更に上がるなら取る価値は大いにある。
「あったか?」
「うん。俺もいいと思うこれ」
「そうだな。あいつも言っていたから期待は出来ると思う。だがまだ取るなよ?」
え!?
あっぶな!もう取得する寸前だったし。
俺の行動が最初から分かってたように兄貴は笑っていた。
「……その心は?」
「自分で言ってただろう?ソロで狩りする火力がないって」
確かに。それは決して忘れていたわけじゃない。
……本当だよ?
キャラクター紹介 チャン&チャム
性別:男&女
年齢:6
身長:104cm
始まりの街でタクトが最初に出会った双子の子供のNPC。無邪気でやんちゃな一面があり、母親であるローラの手を焼かせている。
産まれた時から歌を聞かされて育ったために、音楽に関しては敏感に感じ取る部分がある。




