Ⅹ.She doesn't know
更新が遅い分、文量を少し増やしてみました。
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side:Hermina
「ダンタリオン・エルピス公爵令嬢」。
アルファルド王国の王太子「エルヴィス・ガルト・アルファルド」様の婚約者である「ソレイユ・エルピス公爵令嬢」様の姉であり、私の愛する「アルヴィス様」の婚約者筆頭候補である令嬢だ。
身体が弱く、学院に通えない為に生家であるエルピス公爵の屋敷で静かに過ごしているという珍しい貴族令嬢は、唯身分という理由だけでアルヴィス様の婚約者筆頭候補。
……どうして、どうして。アルヴィス様が愛しているのは私なのに。
男爵家では王子という身分に釣り合わない事は知っているけれど、一度も会った事が無い癖に、簡単に私の一番欲しいものをさらっていくあの女。
――許せない。
どうすれば、あの女は消えてくれるの……?
どうすれば、私はアルヴィス様と結ばれるの……?
■
――オリヴィア・カラ・アルファルド第一王女殿下。
その類まれな頭脳と穏やかで優しい性格、魔道の研究等で様々な人に尊敬され敬愛されている、完全無欠の第一王女様である。
そんな素晴らしい方と、私――ヘルミーナ・フォッサルデはお茶会をしている最中であった。
場所は恐れ多いが王宮の庭。天気が良いという事で、外での優雅なお茶会である。
普通なら、男爵令嬢という身分の私と王女様のお茶会なんてあり得ない。王女様と私がお茶会を出来ているのは、王女様が私の魔術の才能に目を掛けて下さっているから。唯、それだけであった。
この、誰にでも優しい王女様は、私のような身分の者でも優しくしてくださる、非常にできた方なのである。
いくら魔術が重要な国であっても、身分という絶対的なものに縛られている中でこのような方は珍しい。
――思考を巡らせていたら、王女様――オリヴィア様がティーカップを片手に美しく笑っていた。
黄金に輝く長くて美しい髪をそよ風に揺らせながら、優しい笑みを浮かべて此方を見るオリヴィア様は、まるで一枚の絵画のようである。
……これは同性でも見惚れてしまいそう。
「最近はどうなの?」
「そうですね、……風魔術の研鑽と、学業で中々忙しいのですけれど、……平穏ですわ。王太子様とソレイユ様はとても仲良くしていらっしゃいますし……昔に戻ったかのようですわ」
「ふふ、それは結構。学生の本業は学業よ。頑張りなさい、ヘルミーナ様。私は貴方に期待しているのよ」
「有難うございます、オリヴィア様。オリヴィア様の期待に添えるよう、頑張りますわ」
私の話を聞いて嬉しそうに微笑むオリヴィア様を見て、あぁ、とふと思い出した。
――オリヴィア様は、確かアルヴィス様の婚約者候補であるダンタリオン・エルピスと仲が良いと。
何処で聞いたかは覚えていないが、丁度良いからここで聞いてみようかしら。
男爵令嬢でしかない私の情報網では、ダンタリオン・エルピスに関する情報なんてこうでもしないと手に入らないのだ。
「……それで、あの、私、オリヴィア様に一つお聞きしたい事があるのですけれど」
「何かしら?」
「オリヴィア様は、ダンタリオン・エルピス様をご存じでいらっしゃいますか?」
案の定、オリヴィア様が不思議そうな顔をする。
……オリヴィア様から見たら私とダンタリオン・エルピスの関係、繋がりなんて分からないのだから、不思議に思われるのも当たり前。
私は馬鹿じゃない。ダンタリオン・エルピスが、ソレイユ・エルピスの姉である事はもう知っているのだ。
そこから聞けば、オリヴィア様は私がダンタリオン・エルピスの情報を知りたい理由を納得してくださる筈よ。
「……ええ、知っているけれど……どうして急に、そんなことを?」
「……その、先日王太子様の婚約者となられたソレイユ様のお姉さまという事を周囲から聞いたのですけれど……ソレイユ様にお姉さまがいたなんて話、私初めて知りましたもので。どんな方なのか知りたいのですわ」
「ソレイユ様からは聞いていないの?」
「……私身分が低いもので。ソレイユ様にご挨拶した事も無いのです。なので……」
「私に聞こうと思ったって事かしら」
「ええ。オリヴィア様はダンタリオン・エルピス様とご友人であると聞きましたので。……それで、オリヴィア様から見てダンタリオン・エルピス様とはどのような方なのでしょう?」
一瞬、オリヴィア様が無表情になった気がしたが、その表情はすぐさま考え込むようなものへと変わる。
「……妹であるソレイユ様とは、余り似ていないかしら。……そんな事より。最近恋人とはどうなの?」
「!恋人って、そんな……。私にはまだそのような関係の殿方は……」
オリヴィア様の急な言葉に、動揺を何とか隠しつつ対応する。
――アルヴィス様との事は、バレてはいない筈。
人のいる所でアルヴィス様と触れ合った事は無い。話した事もないから、オリヴィア様は知らない筈。
オリヴィア様は飛び級で学院を卒業された優秀な方だから、既に学院にはいない。学院の中の事は、何も知らないし分からない筈だ。
「あら、ブランシェスカ侯爵子息と仲が良いって、私聞いたのだけれど?」
「……彼は唯の友人ですわ。私の風魔術を高く買って下さっているのです、素晴らしい方ですけれど、それ以上でもそれ以下でもありませんわ」
オリヴィア様の出した男の名前に、胸中でほっと息をつきつつ困った風に話す。
確かにイケメンだし悪くは無いけれど、アルヴィス様に比べたら劣る。
……万が一の為に、優しく対応しているから問題は無い筈よ。あの男は分かりやすく私の胸ばかり見てくるからちょっと気持ち悪いけれど、まぁイケメンだし次期侯爵だから仲良くしておいて損は無い。
「身分に囚われずに貴方の魔術の才能を見てくれる殿方なんて、珍しいと思うのだけどねぇ」
「オリヴィア様!」
「ふふ。年頃の女の子の恋のお話には、私も興味があるのよ」
どこか楽しそうなオリヴィア様の言葉に毒気が抜かれる。
言ってやろうと思った言葉を飲み込んで、笑みが漏れる……オリヴィア様のおっしゃった事も、一理あるからね。確かに、男爵令嬢の私を見てくれる次期侯爵様なんて、珍しいにも程があるわ。
「……オリヴィア様も、そのようなお話がお好きですのね」
「私の兄、王太子の婚約破棄騒動については知っているでしょう?兄があんな大恋愛をしたものだから、私も興味が湧いたのよ」
苦笑してそうおっしゃるオリヴィア様は、何処か疲れているように見えた。
――王太子の婚約破棄騒動。
アステール魔導学院に通う学生なら、知らない者はいないであろう事件。現王太子様であるエルヴィス様とその婚約者であるソレイユ・エルピス公爵令嬢、私と同じで魔導の才能をオリヴィア様に見込まれて入学した、フェリシア・カルケード子爵令嬢の三角関係が起こした、学院最大の大事件。
オリヴィア様はカルケード子爵令嬢を学院に推薦し、後見さえ務めていらしたのだから――この事件を詳しく知っていらっしゃる事は想像に難くない。
「……申し訳ございません、オリヴィア様」
「どうして謝るのかしら。ヘルミーナ様は気にしなくてよいのに。……私の見る目が甘かっただけですわ」
「――いいえ、オリヴィア様。フェリシア様の魔術の才能は本物でしたわ。オリヴィア様が気に病むことではございません」
……ええ、確かに「元」カルケード子爵令嬢の魔術の才能は本物だった。
この世界の元になっているであろう乙女ゲームのヒロインである証、希少な光属性の魔術は確かに強力なものであった事は私も認めよう。
――唯、彼女は……私と同じ「転生者」であったからこそ、失敗したのだ。
まるで悪役令嬢が主人公の小説に出てくるような、お馬鹿なヒロインに彼女は、フェリシアはなってしまった。
前世の知識なんてなければ。元のゲームと同じ、無知で純粋な子爵令嬢のままでいたら彼女は……。
「……有難う、ヘルミーナ様。何だか、気が楽になった気がしますわ」
……どちらにしろ、今考える事では無いでしょう。
微笑むオリヴィア様を見て、静かな平穏を享受できる事をゆっくりとお菓子と一緒に噛み締めた。
ダンタリオン・エルピスの情報は、少しだけど得る事が出来たのだから。後は私が考える事。
――今はこのお茶会を楽しみましょう。
アルヴィス様と公認の仲になれたら、オリヴィア様が義姉となる。それはとても良い事だと、私は思うのだから。
■
(……なんて愚かな子。無駄に頭が良い事が、かえって致命的になるって、どうして気付かないのかしら)
目の前で嬉しそうに微笑む男爵令嬢を見て、第一王女は心の中で呟いた。
どうしてこうも、彼女が目を付けた令嬢はそろいもそろって「こんなの」ばかりなのだろう。
それとも、「こう」だから魔術の才能が高いのか。
(あぁ、ダンタリオンと話したいわ)
彼女の大親友の傍は、とても居心地が良い。最大の理解者である、彼女の契約者。
「転生者」のような妙な人間では無く、けれども唯の令嬢では無い大親友。
目の前の男爵令嬢が尊敬する第一王女としての仮面をかぶりつつ、彼女は頭を回らせる。
――すべては、大切な「大親友」の為に。
その為ならば、目の前の男爵令嬢だって利用して見せようではないか。
(……可哀想に。でも私は謝らない)
笑みを浮かべて優しく対応しながら、冷酷に口元を歪めた。




