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十七話 花嫁とバカと宣戦布告

 


シラサゴ内では、混乱が続いていた。


「おいおい、聞いたか?」

「ああ、姫ちゃん、今日結婚式なんだろ?」

「どうする? 見に行くか?」

「お、おれは見に行かねえぞ! あんなよくわからん男に姫ちゃんが嫁ぐなんて認めるわけにはいかねえ!!」

「姫ちゃんはなあ、俺たちのために嫁いだんだ。それを見送らずいにどうする?」

「でも、でもよお……。俺たちにとって娘みたいなもんだ。それを見送るのは耐えられる気がしねえ……」


 街ではどこも似たような会話であふれていた。もちろん、真冬の結婚式の話だ。


「こっちの抗議も受け入れられないまま昼になっちまった。諦めるしかねえよ。黙って姫ちゃんの花嫁姿見届けようぜ」

「だ、だけどよぉ……」


 いつもは活気溢れる街も今日ばかりは淀んだ雰囲気だ。仕方がないことではある。

 贄神も、「各自の受け取り方にまかせる」と都市の専用ページに書いたっきり、民衆には何も関与してこない。完全に任せるということなのだろう。


「何だい何だい? 馬鹿どもがシケタ面して」


 現れたのは女店主だ。彼女は肩に大きな布袋を抱えている。


「こういう時に騒いでこそのアンタらだろうに。情けない」

「ひどい言いぐさだな……。大事な娘が不本意ながらに嫁ぐんだ。そりゃあ落ち込みもするだろう?」

「どうだかね。ただ諦めきれない馬鹿にしか見えないよ」


 ひっでえ、と僅かながらに笑いが漏れる。少し空気が和んだようだ。これも女店主の狙いだろうか。


「それで、その担いでるのは何だ? 米?」

「ああ、これかい?」

 

女店主はその場に布袋を下ろすと、ドサリ、と重量感のある音が聞こえた。

口の紐を解くと、中にあったのは、


「……肉?」


 ぎっしりと詰まった肉だ。形からして鶏肉だろう。遺伝子改造された巨大鶏は管理がなかなかに大変で、牛なんかよりは安いが、それでも一羽まるまるとなるとよほど金に余裕のある人間しか頼まない。宴会でもあれば別だが。


「頼まれてねえ。運送費も出すからこっちまで持ってきてくれってさ」

「頼まれた? 誰に?」


 少なくともこの街には一羽買いするようなヤツはいない。居酒屋や料理店でも、必要な分だけ部分買いするのが基本である。保存術式も安くはないからだ。


「鷹人だよ」

「ああ……」


 皆の疑問が一瞬で納得に変わった。


「あれは昔からよく食うからなあ……」

「そして遠慮がねえからな。――宴会の席に混じってきて、メインディッシュ全部持ってきやがったし」

「あれはビビった。テーブルに並べられた瞬間に鷹人が全部持ってって、五分足らずで食うんだもんな」


 そうそう、と懐かしみながら、おっさん共はうなずいた。

だが疑問はまだある。


「アイツ、一人宴会でもやるつもりか?」


 寂しすぎるだろ、と皆がつっこむ。女店主は布袋を抱え直し、口端に笑みを持って、


「まあ来てみな」


 歩ききだした女店主。男達は一瞬目を合わせ、頷いてから彼女についていく。つられて話を聞いていた数人が彼らの後ろを追った。それが連なり連なり過ぎて、結局は大群を率いる結果になったのは言うまでもない。


           ●


大き目のテーブルを囲むのは六人の影。

フェンリル傭兵団の面々だ。彼らは会話など一切せず、もくもくと目の前の料理を平らげていく。かれこれ三十分近くこの光景が続いているが、彼らのペースは一向に落ちる気配がない。


「おいおい、金払ってるからいいけどよ、あんま食べ過ぎるなよ?」


 料理屋の男が呆れた口調で注意を促すが、彼らは何の反応もしない。

駄目だこりゃ、と諦めの声を作った後、店の外から大勢の足音と声が聞こえた。


「おーい、これお届けものだよー」


 木製の扉を開けて入ってきたのは女店主だ。後ろには大量のギャラリーがいる。


「おお、ありがたい。コイツラ注文のとき以外はずうっと食いっぱなしでよ。そろそろ在庫が危なかったんだ」

「そりゃあ大変だったねえ。――んで、皆そろってヤケ食いかい?」

「いや、なんでも病院食じゃたりないとか儀式だとか言ってたが」

「儀式? つかアイツら、病院は?」

「さてね。強引に退院してきたんじゃね?」 


かぶりを振った男は厨房の奥へと消えていった。全員が疑問で首を傾げる。だが、答えを教えてくれる人間はどこにもいなかった。

 それから十数分。彼らは注文以外は黙って食べ続けた。


           ●


「ふー、食った食った」


 テーブルの料理を平らげ、鷹人は満足げに言った。

他の面々も同じく手を止め、各々食後の休みに入っている。


「流石にこの歳じゃキツイなあ。昔は結構イケたんだが……」

「歳やな、おっさん。――とわいえ、ウチも結構キツイんやけど」

「そりゃあ、子供にはキツイでしょう。ええ、子供には」

「こ、言葉に毒がある……!?」

「しかしまあ、この儀式止めにしないかい? 太るとかそういう問題じゃなくて、金銭的にマズイ」

「賛成。コレ最後にしようよ」

「ばーか。コレやるから気合い入るんだろうよ。――あ、おっちゃん。御馳走さん。ラストオーダーの御代も電子でいいよな?」

「ああ、構わねえが……」


 この店は前払い式だ。注文ごとに一回、会計を済ませなければならない。

 うし、と呟き勘定を済ませた鷹人は視線を仲間たちに向ける。

そして笑みを作り、


「行くぜ」


 言葉と同時、全員がうなずき立ち上がった。そして店の端においてあった多数の大きいケースをそれぞれ取る。形は細長いものから正方形のものと、統一性はない。ケースにいれられた獣の刺繍以外は。

そのうちの一つを、黒が鷹人に投げ渡す。


「なんだ、それ?」

「ああ、〝得物〟だよ」


 皆が首を傾げるが、彼らは気にした素振りを見せない。

 それだけいうと一団は外に出た。ギャラリーが彼らに道をあける。

 鷹人は周りを気にもせず、空中画面を呼び出した。画面に映るのは現在の時刻だ。


「一時、か」


 結婚式が始まるのが午後五時のため、後四時間ある。

そのことを確認すると、鷹人は振り返り、


「ウォーミングアップにはちょいと長すぎるが……、まあいいだろ」

「ですね。対策も終わってますし、休憩時間にすればいいでしょう」

「ふつふつと恨みつらみを思い出す時間にしてもいいかもね」

「黒はネチッこいから女にモテへんねんで?」

「ぐっ……」


 こらえた笑いが周囲からもれる。だが、会話を聞いて疑問に思うものがいた。


「アンタら何やらかすつもりだい?」


 声に、鷹人が応えた。彼は口端に笑みを持った状態で、


「決まってんだろ? ―――〝戦争〟だ」


 放った一言が、染み込むように広がった。


           ●


 無駄に装飾された一室で、真冬はおとなしく座っていた。

目の前の大きな鏡に映るのは、純白のウェディングドレスを着込んだ自分だ。胸元は豪快に開けられおり、上半身の露出が多い。ロングスカートであるため、上半身で飾る。とのことらしい。現に犬耳も花飾りで装飾されている。

だが真冬にとってはどうでもよかった。確かに憧れはあったが、こんな状況で叶えられてもうれしくない。


「御似合いですよ?」


 着付け担当の年配の女性が、こちらの髪を整えながらそう言ってくる。

真冬は一応礼の言葉を返すが、言葉に感情はない、

 そのことを気にしたのか、女性は話題を変えようと必死に言葉を紡ぐ。


「ヨシュア様がご幼少の頃からお世話させて戴いているんですがね。もうホントいい子でして、帝国学も御兄弟に負けないくらい優秀。作法や礼儀なんて贄神様にも褒められる始末で……」


 延々とヨシュアの自慢話を始める女性に、真冬は少しうんざりする。

悪い人ではないのだが、ヨシュアの話は駄目だ。


「街が業魔に襲われたときも、前線で部隊を指揮なされて、見事死傷者ゼロで撃退に成功したほどの腕前でして……」


 このまま放っておいたら日が暮れるまで話続けるだろう。

……そのせいで着付けが遅れて、結婚式が延期にならないかなあ……

ぼんやりとそんなことを思っていると、腕にかけた術式から流れ込む鷹人の感情が一際強くなった。

この術式は挙式に邪魔にならないよう、不可視術式を掛けてあるため、周りの人間から見えることはない。だが、おそらく術式に精通するものなら見抜けるだろう。ヨシュアはコレを外せとは言ってこない。今のところは、だが。

真冬が流れてくる感情を読み取ると、

……わくわく?

そんな子供染みた感情が流れてくる。何に対してこんな感情を得ているのかはわからないが、まあ幼馴染が元気にやってるのはいい事だと思う。だが、

……いくらなんでも空気読まなさすぎじゃない?

こちらはどうなるか、正直ドキドキしているのだ。なのにこのわくわく感。

 流石に怒りが沸いてくる。


「ヨシュア様ったら、その時に『大丈夫。何とかなるって』おっしゃられまして。ええ、私もさすがにビックリしておりましたら、本当に何とかなってしまって……」


 真冬は内心溜め息をついた。

 ……着付けの人はこの調子だし、幼馴染はわくわくしてるし……

 自分の周りには、どうして空気を読まない人が多いのだろう。類は友を呼ぶという諺があるが、そういうことだろうか。

……え、じゃあ、私も空気読まないのかな?

気をつけなきゃなあ、と漠然と思っていると、ノックの音が響いた。


「やあ、真冬、準備はできたかな?」


 ヨシュアの声だ。


「ああ、ヨシュア様! もう少しお待ちください。――それと、式まではお披露目厳禁ですからね?」

「わかってるよ。式のお楽しみというやつだね。じゃあ、真冬。待っているからね」


 そういい残し、ヨシュアの足跡が遠ざかった。すると、着付けの女性の手際が良くなった。

どうやら、作業モードに入ってしまったらしい。

これで延期の可能性が完全に潰えたなあ。と真冬は少しがっかりする。 

……まさかヨシュア。これを狙って……?

もし本当にそうだとしたら、なかなかのキレ者だ。あなどれない。今更ながらにそう思ってしまった。

 

結婚式は、もうすぐ開始する。


               ●  


 午後五時前。

 夕暮れ時が近づくこの時間。シラサゴの住民ほぼ全てが、港に集まっていた。

皆の目的はただ一つ。結婚式を見るためである。

 挙式はアルべガリア所有の船の甲板で行われる予定だ。もちろん結婚式用にカスタマイズされてある。

純白の絨毯が敷き詰められ、一筋だけ赤い別の絨毯が敷かれていた。周囲は親族や護衛用の席で囲まれている。

既に席は埋まり、親族一同が揃っていた。しかし唯一、千秋の席だけは空席だった。

船の周りは一般観衆向けに解放されており、都市内生放送も行っていた。 

 しかし、放送は意味がない。現在船の周りにはシラサゴ内全住民が揃っているからだ。


「もうすぐだな……」

「ああ。――だァッ! 緊張してきた!」

「お前が緊張してどうするよ」

「だってよ、アイツが小っちゃい頃から見てきたんだ、もう俺らの娘と同じだろ? 娘の結婚式に緊張しない親がいるか?」

「お前、姫ちゃんに『ヅラ先生?』って疑問形で言われて泣いてたじゃねえか」

「それとこれとは別だ! あと、アレは鷹人が悪い」

 

よくわからん、と誰かが呟いた時、鐘の音が響いた。挙式の合図だ。

 

「お時間になりました。これより、ヨシュア・エン・アルべガリア様と白砂・真冬様の挙式を行います」


司祭の声に皆が固唾を飲んだ。 

 そして同時に、新郎であるヨシュアが甲板に出てきた。

真っ白なタキシードに身を包み、醸し出される雰囲気はまさに王族。彼が出てきただけで場の空気が輝きを放つ。


「すげー。アレが贄神になれる人間だってよ」

「うちの贄神様が体育会系最前線系とするなら、あっちは文系王子様系だな」

「例えがわかりにくいっての」

「アンタら、黙って見れないのか?」


 すると、突如鐘の音。

本日二度目となる鐘の音は、しかし重々しいモノではなく、祝福を告げるような音色だった。

新婦の入場である。


「おお……!」


 すると、歓声が上がる。

出てきたのは新婦――真冬だ。

純白のウエディングドレスは彼女の白い肌と合わさり、夕日を受けて神々しく輝いている。

胸元は豪快に開けられワンポイントとして薄青色のネックレスが添えられていた。

犬耳には花飾りが施されており、触れてはいけない幼さを感じさせる。しかし彼女の纏う聖女のような雰囲気が混ざり合い、大人と子供の中間に位置する年頃の娘とよくマッチしていた。

 ヨシュアも傭兵団のメンバーも、おお、と感嘆の声を漏らしていた。


「すっげぇ……」


 観客は歓声から一転。絶句した。

何時も安物の服を着て、明るく笑顔を振りまいていた少女はそこいない。いるのは純白の花嫁だった。


「マジで姫ちゃんか?」

「こりゃあ、ホント。母親にそっくりじゃないか?」


 ああ、と観客は同意した。死んだ彼女の母親にそっくりなのだ。

 この街に古くから住むモノは懐かしそうに呟く。


「あのお方は綺麗だったからなあ。何度あの笑顔に救われたか……」

「姫ちゃんも、やっぱりあの人の娘だね」

 

中には涙ぐむ者もおり、早くも式は佳境を迎えたような錯覚を覚える。

真冬はヨシュアの前、祭壇の前に歩いていく。


「やあ、真冬。やっぱり綺麗だね。お父様にも自慢ができるよ」

「挙式中ですヨシュア様。お静かに」

「くくく、照れるのもいいね」


 涙ぐんでいる連中をよそに、いつも通りか分からない会話を繰り広げる二人。

すると、司祭が呆れた顔で「よろしいですか?」と確認を取る。二人はゆっくりと頷いた。


「……では、この式を正式婚約として扱い、婚約届けにサインし式が終了後、お二人は正式な夫婦となります。よろしいですか?」

「はい」

「―――はい」

 

僅かに目を伏せ、真冬は呟いた。

司祭は分厚い書を取り出し、ゆっくりと音読し始めた。婚約の誓いが長々と書かれているのだ。

真冬は複雑な心境だった。

鷹人は来てくれるのか、と

 しかしたとえ来てくれたとして、彼はどうするのだろう。シラサゴと真冬の婚約の問題は複雑だ。それを解決できるだけの力が彼にはあるのだろうか。

真冬は一欠片の希望と目の前を支配する絶望の狭間にいた。今すぐにでも絶望に染まってしまいそうな心を、僅かな希望が繋ぎ止めているのだ。


「緊張しているのかい? 真冬」

「ええ、少し」


 適当に返した真冬をみて、ヨシュアは笑みを浮かべた。


「鷹人、だったかな? ――彼を待っているのかい?」

「……」

「沈黙は肯定と受け取るよ」

 

真冬はこの男に隠し事をしても無駄だと思った。彼は人の心を読み巧みに操作することができる。優れた王の器だ。そこは真冬も認めている。

だが、彼自身を己の夫と真冬は認めたわけではない。例えこのままヨシュアの嫁になっとしても心だけは彼のモノにならないと誓っている。


「来たとして、彼は一体。どんな答えを用意してくれるかな?」


知りません。と答えようとしたとき、真冬の中に突如強い感情が流れ込んできた。それは覚悟ともとれるもので真冬への合図のようなものだった。


そして、突如、街の旧式の放送機がキーンと音を立てる。

聞こえてきたのは男の声。


『あー、あー、マイクテスト、マイクテスト。真冬、聞こえてっかー?』


 鷹人の声だった。


          ●


真冬は、驚きとも嬉しさとも感じられる、複雑な感情に包まれた。

放送機から聞こえてくるのは懐かしく、聞きなれた声。


『あれ、これ、ほんとにマイク入ってっか?』

『馬鹿。もう入ってるっての! とっとと喋んな!』

『ちょ、紅姉さん声大きい! こっちスピーカー真横だから煩いんだけど!』

『スピーカー音量下げては如何でしょう?』


 場に合わない、気の抜ける会話だ。

司祭も音読をやめ、傭兵達は身構える。


『あー、っと。なんかそっち、通信妨害かかってたからこうやって旧式放送で簡便な』

「いいから本題を言ったらどうなんだ?」


 団長ドミニクが痺れを切らした様子で言った。


『はいはい。そう怒るなってー』


 式場の音声は拾えているようで、鷹人が返事をした。そして息を吸う音がして一拍、


『面倒だから簡潔に言わせてもらうぜ? ――式中止。真冬返せ』

「ずいぶんと頭の悪い要求だな」

『褒め言葉だぜ、それ』

「……どうやら救いようのない馬鹿らしい」

『それも褒め言葉だ』

 

くくく、とスピーカーから鷹人の笑い声が聞こえる。それだけで何故か真冬は安心できた。


「では、頭の悪いお前に説明してやろう。――これはキチンとした契約であり、関係者から許可を得たものだ。キャンセルすると言うのなら、それなりの対価をシラサゴに支払ってもらうことになる。そんな金がここにはあるか?」

 

ない。それはシラサゴ住民ならだれでも分かっていることだ。

例え用意出来たとしても、今度は航空系業魔からこの街を守る手段がない。

シラサゴに残された道は、真冬の結婚しないのだ。

だが、鷹人は笑いながら言った。


『バーカ。あるから言ってんだろうが。良いか? よく聞け? ……えっと何だっけ? よ、傭兵何とか?』

『傭兵規約です』

『そう、それだ! 傭兵規約!』

「……それがどうかしたか?」


 この場にいる全員が、彼らの言葉を理解できないでいた。

傭兵規約。所謂傭兵間での取決めごとだ。無用な問題を起こさないための法である。

だが、それがなんだと言うのだろうか。


『傭兵、傭兵……規約! よし言えた! 傭兵規約がだなッ!!』

『先輩。遅いので代わります』

『え? あ、ちょ――』


 マイクが取られる音がして、代わりに静かな少女の声が聞こえた。


『傭兵規約第五条。傭兵間の問題は全て互いの武力による解決で決着とする。――これは知っておられますね?』

「ああ。だが問題は発生していないはずだ。貴様らはただいちゃもんをつけて相対するというのか?」

『いいえ。きちんとした理由があります。――ダブルターゲットです』


 ダブルターゲット。二重目標と呼ばれる。

 AがCに、Bを殺せと依頼し、BがCに自分を守れ。と依頼され、それを二つ同時にC引き受けた場合に発生するややこしいものだ。


『我々は一つの依頼を受けました』

 

その場にいた全員が息を飲んだ。


『白砂・真冬の奪還、保護です』

   

               ●


 旧式のスピーカーから聞こえた宣言に、ヨシュアは笑みを堪えた。

……なるほど、そういうことか。

彼らは真冬を奪還するために行動するという。それは正式に依頼を受けたのもであり、こちらとの衝突は回避出来ないということだ。


「こちらと戦う、と?」 

 

 ヨシュアの余裕の笑みは崩れない。彼には無類の強さを誇る私兵兼傭兵のアルべガリア傭兵団がいる。更にこちらの戦力は百人を超え、相手は六人しかいない。大戦の英雄もいるが、彼とて老体だ。こちらが束になれば勝てる。

スピーカーから、しかし動じた様子のない声が響く。


『ええ、そうです。武力による決着、相対です』

「しかし疑問だね。ホントに依頼を受けたのかな?」

『受けてるんだな、これが! ほれほれ、出てこいよ!』


 鷹人が言うと、ヨシュアも聞いたことのある声が聞こえた。


『私が依頼主です』

 

それはヨシュアにとっては意外で、かつ興味をそそる事実だった。


「現贄神継承者第一位。白砂・千秋か」


 笑いをこらえきれないと言った様子で、ヨシュアは言う。


「真冬との結婚を認めた者が、今度は認めさせないために行動する、か。ずいぶんと滑稽な話じゃないか」

『ええそうです。滑稽です。しかし依頼としては通るはず。何故なら貴方達に依頼をしたのは父である盛孝ですから』

「一応はね。でもそんな屁理屈が通ると思っているのかい? 世の中舐めすぎじゃない? それに航空系業魔はどうする?」

『それについても案はあります』

 

するとマイクを奪い取る音がして、フェンリル傭兵団長の声が響く。


『ぐだぐだ言ってねえで答えろよ。ダブル何とかは成立したんだろ? なら俺らと戦うのかそれとも逃げるのか、さあどっちだ!』

「ドミニク」

「承知しました」


 ドミニクが厳粛とした態度で前に出る。そして、


「ならばその戦い、受けてやろうッ! 我らヨシュア様の剣であり盾である。貴様ら程度、踏み潰してくれる!」

 

叫んだ声は遠く、シラサゴ全体に響き渡る。それは人々を恐怖させるには十分過ぎる気迫だった。

 対して、スピーカーの向こうでは、声を潜めた鷹人が笑う。


『いいねえ。俺達みたいな餓鬼が意見通すにはコレが一番だからな。受けてくれて感謝するぜおっさん』

 

そして一息。


『じゃあ、戦闘開始だ』


 その言葉と同時、シラサゴの放送室から、砲撃が放たれた。軌道は一直線。


式典が行われている艦だ。






お久しぶりでございます。

今年も終わりということで、とにかく投稿を。

誤字脱字、感想等ありましたらメッセージお願いします!

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