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十六話 期待と覚悟と中村さん

遅くなって大変申し訳ありません!

お姫様のほうも何とか上げるようにしますので、お願い! 見捨てないで!



 シラサゴ中央病院。

都市内唯一の病院で最大収容人数は二百人。大規模災害にも対応した、田舎都市には不釣り合いな規模の病院だ。

これも隆盛の『市民の安全と安心を守る』という大義名分の上で建てられたもので、設備も全て最新鋭。健康診断も都市からの補助金で実質無料で受けられることもあり、昼間は多くの人で賑わっている。

そんな病院も夜になれば、驚くほど静かになる。それは普段から騒ぐ連中も例外ではない。

鷹人がいる部屋も、例にもれず静かだった。そこには鷹人、黒、七華、紅の四人がいる。男女混合というのは本人たちの意思だ。普段から狭い艦内で過ごしている彼らにとって、病院の四人部屋は少々大きすぎるくらいだったからだ。

彼らは各自ベットに横たわっている。しかし、全員が目を開いており、表情は険しい。


「盛孝のおっさんの話。憶えてるな?」


 鷹人の静かな声に、皆、視線を彼に向けることなく頷く。全員安静にしている素振りで、だ。


「……仕組みとかよく解らねえが、真冬が政治結婚するんだってな。それも誰も喜ばない結果で」


 鷹人の声は続く。


「俺がこの街から離れて三年。ホントに色々変わっちまった。それも最悪の方向に。だけど俺にはこれから何をすればいいのか、それが解らねえ」


 彼にしては珍しい、弱音であった。


「お前ら。どう思う?」


 急な振りに、しかしすぐに返答する声があった。紅だ。彼女は気怠そうな口調で、


「そりゃ、アンタがやりたいようにやりなよ。真冬を助けたいのか、それともこのままシラサゴを出るのか。――どちらにしろ、アタシらはアンタを支持するさ」


 そうですね。と七華が言葉を重ねた。


「貴方の行く道を私たちは作ります。(おさ)の我儘を受け入れられないほど、私たちは弱くも小さくもありませんから」

「そういうことだね」


 鷹人は押し殺した笑いで肩を揺らした。そして天井を仰ぎ、右腕を掲げた。


「――真冬が俺に術式を掛けていった。感情リンク術。一定の距離までは、互いの感情が共有できる術式だ」


          ●


 鷹人は己の心を整理するように、ゆっくりと言葉を紡いだ。


「この術式から、アイツの感情が少しだけだが流れ込んでくる。後悔、使命感、達成感。だがそのどこにも、喜びや幸福はない」


 シラサゴを守るために政治結婚する。それは未だ幼い少女の心を確実に蝕むものだ。ある種のストレス。諦め、そういったものが感情リンクされている鷹人には解る。そして、なぜこれを残したのかも。


「たぶんだが、アイツは助けに来て欲しいんだと思う。だけどアイツ素直じゃねえから、言葉では伝えられねえんだ。だから、こうして遠回しに伝える術を俺に残した」


 諦めきれなかったのだろう。こうするしかないと、こうあるべきだと、自分でも解っている。でもどこか、心のどこかで、諦めきれない部分があった。だが、それを言葉にすることは出来ない。

だから

……助けてほしいと、俺にコレを残した。

不器用な彼女の、素直ではない彼女の、精一杯のSOS。それが今、己の手元にある。だが、

……アイツには、シラサゴを守りたいという思いがある。

それを踏みにじっていいものだろうか。それを一瞬考え、しかしやめた。

……仲間が何とかしてくれるんだよな。

それを思い、そして自分の想いを重ねる。


「なあ、お前ら。俺さ真冬奪いに行ってくる」


 唐突なことに、しかし、皆は驚いた様子も見せず、


「それでいいのかい? あの子の覚悟を踏みにじることになるよ? アンタに掛けられた術も、彼女の我儘かもしれない。本能が望み、しかし理性が望まない。そんなのかもしれないよ?」

「だから奪うんだよ。アイツの覚悟も我儘も後悔も、全て俺が、俺たちが奪ってやる。それが真冬を解放できる唯一の手段だ」


 ベットの中で息を吐いた紅は、体を起こし、続けて言った。


「アルべガリアとシラサゴの契約は? シラサゴを誰が守るんだい?」

「そこらへんは、七華が考えてくれるさ」

「思いっきり人任せですね」


 でも、と笑みを作り、ベットから起き上がって言った。


「それが私の役目だというのなら、――この卯月の名に懸けてやり遂げましょう」


 鷹人も立ち上がり、そして黒も身を起こした。

全員が顔を合わせ、覚悟を決めた顔で頷きあう。


団長(バカ)の決めたことには、僕達は従うよ。グランとアイナにも伝えないとね」

「おい。今なんかおかしくなかったか? バカって言わなかったか?」

「気のせい気のせい」


 黒が軽く流すと、どたどたと足音が聞こえてきた。腹のそこに響くような、重い足音だ。


「や、やっべぇ!?」


その音に皆は会話を中断し、素早くベットに潜りこむ。

同時に、ドアが勢いよくあけられた。


「ごらぁああああッ!! こんな夜更けに騒いどんのはどこの餓鬼じゃ、ええ!? ちったあ周りの迷惑も考えんかいッ!!」


 迷惑なのはアンタだよ、と鷹人は口が裂けても言えない気がした。

乱入してきたのは、長身でドスの聞いた声のナース。というよりおばさん。身長約二メートル、全身は余すところなく筋肉で覆われおり、顔もナース服を着ていなければ男と見間違える険しさだ。


「ああ? 鷹人ぉ。お前、久々に帰ってきたと思ったら、さっそく迷惑掛けんのか? ああ?」


 女らしさも、しおらしさも一切感じない迫力ある声に、鷹人は寝たふりで返した。しかし、


「シカとすんじゃねえッ!!」


 通じなかった。鷹人は苦笑いしながら身を起こし、


「い、いやあ、中村さん。あのですね? これは傭兵団同士の会議といいますか、そのえっとですね……?」 


 思わず敬語になってしまうのは仕方がない。贄神に対してもため口の鷹人がシラサゴな内で唯一敬語を使う相手だ。それだけの恐怖を鷹人に植え付けた人物なのだから。


「ごちゃごちゃ言葉並べてんじゃねえよッ!! いいか? 私は贄神様からお前らを安静にかつ安全に治療しろと仰せつかっているんだ。勝手なマネはさせねえかんなッ!! 解ったか!?」

「は、はい!!」

「ならとっとと寝ろッ!!」


 そういって、中村は勢いよくドアを閉めた。

急に訪れた静けさに一瞬震えを覚えた鷹人だったが、すぐさま布団をかぶり、そして空中画面を開いて、同室の三人にメッセージを送った。

『とりあえず、中村さん何とかしね?』

 同意。という旨の返答を各自から受け取った鷹人は、音をたてないように空中画面に文字を打ち込んだ。


          ●

 

 星が彩る夜空を、真冬は見上げていた。

アルべアリア所有の一艦。ヨシュアの船の一室からだ。

豪華な内装に天幕付きのベット。家具もすべてが高級品で、中に入っている衣類も上物だ。

だが、不思議なのはサイズが全て自分に合っているということ。

……一体どうやって調べたのかしらね?

それをヨシュアに聞けば笑顔で『もちろん嫁の事だからね! 健康診断の結果をハッキングして手に入れたのさ!』などと言うだろう。きっとそうだ。

若干呆れを感じた真冬は、思考を振り払うように、視線を星空に向ける。窓から見える星空はさっきとなんら変わりなかった。

シラサゴの反対側に位置するこの部屋からは街が見えない。代わりに無機質ともいえる星空が見えるだけだ。

空は怖いもの。幼いころから教わってきた。

都市の外、浄化圏内の外は業魔であふれており常に危険があると。だから、今の時代の人間は例外なく空を嫌う。

空は危険。故に視界が制限される星空も危険。

しかし、真冬は空を嫌いになることができなかった。幼いころからずっと、隣で空を見上げていた少年がいたからだ。

……鷹人、空を見て笑っていたっけ。

 懐かしい記憶だ。幼いころの鷹人は空を見上げ、笑っていた。

俺はあの空を冒険するんだ。と自信と確信に満ち溢れた声でそう言っていた。無垢でいて純粋な、輝きにあふれた彼の目を未だに覚えている。


「懐かしいなあ……」


 思わず漏れた声に、真冬は苦笑いした。

もうあの日には戻れない。これから自分はヨシュアと政治結婚するのだ。自由も制限され、シラサゴにだって帰れるか解らない。

しかし、諦めきれない自分がいる。だから、鷹人に感情リンク術式を施した。

真冬はそっと右腕を撫で、思考する。

これの結果を持って諦めようと。

 もしも、鷹人がシラサゴと自分を救う最善手を提示できなかったら、諦める。

それが、自分の最後の我儘であり、あがきだ。

……どうしてるのかしらね。鷹人は

流れてくる鷹人の感情に感覚を集中させると、迷いの感情が流れ込んできた。

そして喜びに変わり、希望に変化し、覚悟に昇華した。しかし、それらが一遍して恐怖に変わる。


「ふふ、中村さんかしら?」


 鷹人がシラサゴ内で唯一頭が上がらない人物、中村さん。

あの怪我だ。おそらく病院にいるのだろう。

 ……中村さんがあそこでナースしてたし、鷹人が怒られたのかしら?

その絵図らを想像して、思わず笑みが零れた。


「鷹人なら、来てくれるかな……」


 未だに、どの選択が正しいか解らない。だが、鷹人が答えを持ってきてくれる。真冬はそう信じることにした。

 しかし、例え彼がこのままここを去っても彼を責めることはしない。それは彼自身の選択であって、自分とは無関係の場所にあるのだから。

 だから、その時はキッパリあきらめよう。青春の淡い一ページとして。


「――全ては明日、ね」


 明日。真冬とヨシュアの結婚式が行われる。サプライズとして行うため街の人々には知らせていないらしい。朝には発表するだろうが、街に少なからず混乱をもたらすだろう。


「どうなる、かな?」


 不安と期待を胸に秘め、真冬は眠りについた。

 明日、答えが揃う。



          ●


 翌日の朝。

結婚式の報告は、木製の掲示板で街の各所に張り出された。

あまりに急な出来事なため、各所から反対の声が上がったが、本人も了承済みの一言でかき消された。

挙式と入籍は同時に行われる、結婚式が終われば真冬はアルべガリアの人間となる。正式に入籍すれば離婚はまずありえない。王室の人間に不誠実なことがあってはならないのだ。


式は午後五時。夕暮れとともに行われる。


はい、というわけで如何でしたでしょうか。

ずいぶんと更新間隔あいてしまいまして、お気に入りとか減ってないかなあ、とびくびくしておりましたところ、なんと減少ゼロ! 定期アクセスしてくれている方もいらっしゃったので「これはやらねば!」ということで全力で更新しました。

決してテスト勉強から逃げたわけではありません。ええ、ほんとですとも。


ともあれ、感想やアドバイス、誤字脱字あればメッセージのほどよろしくお願いします!

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