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応援団

瑞花は、あの頃共に居た妃達が皆、次々に出産して行く報を受けて、落ち着かなかった。

瑞花の方はと言えば、全くそんな兆候はない。

生まれる前には腹が張ったりするものだが、そんなことも全くなく、とにかく静かだ。

時に生きているのかと案じるが、気はシッカリとそこにあり、間違いなく生きてそこに居るのは分かる。

だが、何やら心もとない感じだった。

そこへ、天媛が入って来た。

「瑞。犬神の宮から、皇子の世話をする侍女と乳母二人が到着しましたよ。兄君に当たる柊殿も来られておるようです。」

柊様も?

瑞花は、驚いた。

柊は、漸の皇子で歳は二百になるかどうかという頃、あの宮には婚姻制度がないので、こちらとは違い瑞花は柊から見て義理の母でもなんでもなく、臣下の一人だ。

なので、柊様と呼んでいた。

「…何故に柊様が。あのかたは軍務で忙しくなさっておいでのはずですのに。」

天媛は、言った。

「それは、柊殿にお会いしてから聞けば良いのではありませぬか。あなたのお子は皇子であるのですから、大層な事になってもおかしくはないのです。さあ、準備を。今、蒼が出迎えてこちらへ案内しようとしております。」

瑞花は、困惑しながらも、柊に会わない選択肢はないので、急いで着替えて準備を始めたのだった。


蒼は、出産のためにと大勢の神が犬神の宮からやって来たのを出迎えていた。

降り立った柊は、初対面だったが漸に良く似た顔立ちの、鋭い瞳の美しい皇子だった。

まだ成人前だと聞いてはいたが、もうとっくに成人しているような感じを受ける。

あの宮の常で、自立しようという気持ちがそうさせるのだろうと思われた。

蒼は、言った。

「柊か。漸からあまり話を聞いていないが、こんなにしっかりした皇子だったのだの。」

柊は、会釈した。

「蒼殿。初めてお目にかかる。本日は父上より、出産後弟を連れ帰る任を受けてこちらへ参りました。お世話になりまする。」

蒼は、頷いた。

「そうか、連れ帰るために。」と、後ろで頭を下げる大層な面々を見た。「それは?」

柊は、言った。

「は。乳母二人、そして侍女達、出産担当の治癒の者達。皇子に仕えるもの達であります。軍神達は生まれた皇子付きと定められておるもの達で、これより成人まで教育その他、自立を助ける任を命じられております。」

多い。

というか、犬神の宮では軍神が皇子を育てるのか。

蒼は、新たな情報に、急いで心の中にメモった。

そして、頷いた。

「そうか。こちらでは、皇子付きの軍神一人で後は全てが必要に応じて守る形を取るので、そこが違うの。では、瑞花の居る対に案内しよう。高瑞に許しておるのは北の対なのだ。参ろう。」

柊は、頷いた。

「よろしくお願いいたします。」

そうして、柊は後ろの臣下達に頷き掛けて、皆はぞろぞろと蒼と柊の後ろについて、北の対へと移動を始めたのだった。


道すがら、蒼は柊をチラリと見た。

柊は、父親の漸にそっくりだが、見た感じ漸よりずっと落ち着いた雰囲気だ。

漸から受けるのは、龍より鳥や鷲に近いのだが、柊からは志心のような、落ち着いた中に強さを感じる様であり、王というならこちらかも、と思わせる様子だった。

漸と柊だと、恐らく柊の方が父親だと言われた方がしっくり来る。

姿が若いのでそこまでは思わなかったが、気の様子がどう見てもそうだった。

柊が、歩きながら蒼の視線を感じて、問うように眉を上げた。

「…何か?」

蒼は、答えた。

「…いや…何と言うか、受ける印象がの。主は漸と比べても落ち着いておるし、見た目は考えぬでいたら、主の方が父親のようだなと。」

柊は驚いた顔をしたが、ため息をついた。

「…父上には誠に困ったところがおありなので。とても優秀なかたではあるが、性質がの。面倒を大変に嫌われるので、結局臣下が振り回される。此度の事も…ま、我からはあまり。」

柊は、思うところがあるのだろう。

だが、教育の間も柊は蒼と接する事がなかったし、よく考えたら柊は今回初めて月の宮に来たのだと気が付いた。

こちらで学んで帰った、臣下に学んだのだろうと思われた。

「…主は、宮から出てこなんだよな。もしかしたら、此度が初めてか?」

柊は、ため息をついた。

「…宮を放って置けぬので。今、王族は我と父上のみ。父上が出て行かれたら、我が残らねばあの宮では力のある者が上に立とうという様子であるし、力関係が変わる可能性があるのですよ。王とは、皆に敬われてこそであるので。王族の誰かが、宮を守る必要がありまする。父上はあのように気軽に宮を出てしまわれるので、我は出るわけにはいかぬで。今回は、外を見て参れと仰るので、出て来られた次第です。」

こっちの方がしっかりしている。

蒼は、それを聞いて思った。

柊は、結局父親の治世を守るために裏で奔走しているのだ。

漸は、この皇子に支えられて王座に就いているのだろう。

まだ若いのに。

蒼は、いったい何歳の時からこうなんだろうと、何やら柊に同情したくなったのだった。


北の対では、高瑞が一人、居間で待っていた。

多くの神達が来たのを見て驚いた顔をしたが、言った。

「柊殿か。初めて会うの。我は、瑞花の養父の高瑞ぞ。元はここより北の高彰の宮の王であった。」

柊は、会釈した。

「漸の第一皇子、柊でありまする。瑞花殿の様子はどうでありましょうか。」

高瑞は、首を振った。

「まだ、出産の兆しもなくての。今着替えておるゆえ、しばし待て。」と、後ろで膝をついて深く頭を下げている、犬神達を見た。「また大層な。全て子の?」

柊は、頷いた。

「は。これより世話をするもの達でありまする。」

多いな。

高瑞は思った。

それを気取って柊がまた説明かと口を開こうとすると、天媛の声がした。

「高瑞様。瑞を連れて参りました。」

柊は、口をつぐむ。

高瑞は言った。

「入るが良い。」

そこへ、大きな腹を抱えた瑞花を連れた、天媛が入って来た。

瑞花は、柊の顔を見て、急いで頭を下げた。

「柊様。ご挨拶もなく長らく申し訳ありませぬ。」

柊は、特に何の憤りもなく答えた。

「良い。何をしようと主の選択であるしな。ただ、弟のことは連れ帰らねばならぬ。」と、後ろの者達を振り返った。「弟の乳母、侍女、それに教育の軍神達ぞ。これより成人して自立できるよう手助けをする。主には分かろうが、その際主が共に育てるか、それとも完全に預けるかは主が決めよ。どちらにしろ、王の子は育つようになっておる。ただ、母親が手を出せるのは、百年まで。それ以上は、王の子は王に必ず返すと決まっておる。王座のことがあるゆえな。臣下の子とは、そこが違う。臣下の子ならばどちらの後を継ぐのか決める事ができるが、王の子は必ず王に。ゆえ、それを頭に入れて決めるが良いぞ。」

瑞花は、固い表情で頷いた。

「はい。理解致しております。」

高瑞は、軍神が子の教育をするのかとそれを聞いて納得していた。

だからあんなに多くの軍神達が、皇子に付くのだ。

だが、それも成人するまで。

そこからは、能力次第で自立して、立ち位置を見つけて行かねばならない。

そう思っていると、瑞花が、う、と腹を押さえた。

何か一撃を食らわされたような格好だ。

「何ぞ?」高瑞は、驚いて言った。「腹を蹴ったのか?」

瑞花は、困惑した顔をした。

「…この子は、おとなし過ぎて居るのか分からぬほどでしたのに。急に…暴れるように。」と、苦痛の顔をした。「う…!」

そこへ、十六夜の声が割り込んだ。

《おい!いきなりやる気になってるぞ!しかも、急がなきゃって物凄い焦りを感じるんだけど!》

「ええ?!」

蒼は、仰天した。

犬神達と対面して、何か刺激があったのだろうか。

「…陣痛が来ますわ。」天媛が言った。「産所へ!」

犬神の出産担当の者達が、すわ一大事とわらわらと瑞花に寄って行く。

一気にそこは、大騒ぎになったのだった。

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