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正月に

例年通り、龍の宮の臣下達に見送らて、維心と維月は最小限の軍神だけを連れ、月の宮へと向かった。

月の宮では、杏奈は里帰りで留守にしているものの、最上位の全ての神とその妃、そして樹伊までの二番目の宮の王と妃を迎えていた。

維心、炎嘉、志心、漸、箔炎、焔、駿、高彰、渡の9人と、その妃の維月、椿、美穂の三人、そして、三番目の翠明、塔矢、仁弥、公明、樹伊の五人とその妃の綾、恵麻、明日香、桜、楢の五人という錚々たる面子だ。

しかも、その中の6人は妊婦なのだ。

蒼は、もしもの時のために多めに治癒の神達を宮に待機させて、備えていた。

いつもの居間へと集まった一同だったが、今回は最初から妃達も隣りの部屋で別に集まっていて、お互いに気兼ねない様子だ。

楽など、共にしようという時にだけ、同席しようという事になったのだ。

王達は王達で、せっかく集まっているのだから、妃の事を考えずに話すことができるので、その方が良かった。

何しろ、隣りに居るのだから、顔を見たければ呼べば良いのだ。

炎嘉が、ふーッとだらけた様子で座って、言った。

「最初からこうしておれば良かったのよ。いくら顔見知りだとはいえ、女が居ったら気を遣う。男同士で飲んでおるようなわけには行かぬからの。楽であるわ。」

焔も、何度も頷いた。

「妃が居る奴らに気を遣って言わなんだが、我は最初からこの方が楽だと思うておったわ。誰も文句を言わぬし、嫌なものを見る目で見ないであろう?」

志心が、言った。

「だから、そんな目で見られるような様で居るのが悪いのだろうが。しようがない奴だのう、全く。」

とはいえ、志心も楽そうな顔をしていた。

維心は、息をついた。

「気を遣うとて、主らは維月には何の気も遣わぬ癖に。ま、良い。維月もこの方が妃達と好きに過ごせるゆえ良いと申すし、用があったら呼べというておった。隣りに居るし、我も無理にとは言わぬ。」

渡が、言った。

「…まあ、長らく妃らしい妃が居らなんだから、我も最近は少し疲れてしもうての。しょっちゅう気を遣うゆえ、良い息抜きになるわ。皆は若い妃で良いとか申すが、我から見たら娘のようなものであるしな。早う歳を取って欲しいと逆に思うほどよ。」

翠明が、言った。

「こら。我らの縁者を迎えておきながら、文句を言うでないぞ。確かに、今若い娘が傍に居ったら相手をするのは疲れるなとは思うがの。」

志心も、頷く。

「見た目はこれでも下手に歳を取っておるから、若い娘はどうしてもそういう対象には見れぬでなあ。臣下は誰か娶って皇子をと煩いが、ゆえ、我はそんな気になれぬ。」

駿が、何度も頷いた。

「分かるぞ。我もそのように。騮も騅も居るし、我はもう良いかと思うておる。中身が年寄りの若い娘など居らぬだろう?」

確かにそれは、前世でも覚えていないと無理かもしれない。

維心は、息をついた。

「確かに我とて、いきなり若い娘と言われたら無理やもしれぬな。維月と前世今生と共に来たゆえ、中身は同じ。そんな苦労はしたことはないからの。まあ、維月は前世、元は人であったから、神世を教えるのは大変だったが、人としては子も産んで成熟しておったしなあ。子供を世話する心地ではなかったわ。」

渡は、ため息をついた。

「まあ、引き受けたからにはしっかり面倒は見る。ただ、今少し落ち着いて欲しいだけぞ。美穂は確かに愛らしい女神であるし、悪気もないのは分かっておるからの。だが、我は若い神ではないから。時々置いて行かれている心地になるだけなのだ。」

確かに、若い娘がキャッキャと纏わりついて来るのも、若い時なら嬉しいかもしれないが、度重なると渡の歳になれば少々面倒になるのかもしれない。

何しろ、自分達もそう感じるだろうからだ。

焔が、言った。

「だが…漸よ。」漸が、眉を上げる。焔は続けた。「それで、主はどうするのだ。瑞花と同じ宮に居るが?」

漸は、特に表情も変えずに答えた。

「別に何も。我は、もうあちらにゲタを預けておるから。子が生まれて半年までは待つと決めておる。そう約した。あちらからは、その事にも返事はなかったがの。」

箔炎が、え、と驚いた顔をした。

「主が謝っておるのに、何の返事もか?生まれて半年とは、最後通牒のようなものだが、それにもか?」

漸は、頷いた。

「何も。別にもう、どっちでも良いのだ。こちらの考えでは、終生面倒を見るということだと聞いておるから我も努力はした。なので、これで離縁となっても文句は言うでないぞ。我だけが悪いのではない。本来、うちの感覚では、共に暮らす場を出るということは、別れるという意思とみなされてそれで終わりであった。我は配慮しておると思うておる。」

これはまずい。

そこに居る、皆がそう思った。

仮に、瑞花が戻ろうと思ったとしても、漸がここまで冷めていて、これまで通りになるとは思えない。

少し前の正月に、大騒ぎしていたのは何だったかと、気持ちの移ろいに、皆が己の事でもないのに、寂しい心地になったのだった。


維月は、妃達とリラックスして座っていた。

皆、大きなお腹を抱えていたが、明日香と維月だけは身軽で、他の妃達を気遣っていた。

だが、まだ6カ月なのでそこまで大きくもなっていないし、悪阻も治まったしで、皆とても元気だ。

アルコールはもちろんないが、果実の汁などを冷やした物などを楽しみながら、皆で楽しく歓談していた。

綾が、言った。

「維月様、誠に助かりましたの。あれから、本当に全く吐き気がなくて。そのままここまで参りました。でも、王が仰るには、もう十六夜様の力は感じないと。」

維月は、微笑んで頷いた。

「十六夜の玉は、あの大きさなら結界を出たらひと月持てば良い方ですの。あの時十六夜も言うておりましたかと思いますが、それからまた具合が悪かったら、追加の玉をお渡しするつもりでありましたわ。」

綾は、頷いた。

「ならば、ちょうど悪阻が治まる時期に効力が切れたのでしょうね。幸運でしたわ。」

美穂は、言った。

「我も、あれから具合が悪くなる時もありませぬで。これまで平和に参りました。王に、落ち着けと毎日言われるほど元気でありますの。」

楢が、驚いたように美穂を見た。

「まあ、美穂様は落ち着いておられるのに。どこかお気に召さぬでしょうか。」

美穂は、困ったような顔をした。

維月が、言った。

「あの、まだお若いですし、公の場では気を張っておりましても、王とお二人きりであったら気も抜けようかと。まだ300にもおなりにならぬのですから、渡様には700近くであられますし…お孫様でもおかしくはないお歳でありますしね。この辺りをお考えになって、接して行かれた方がよろしいかもしれませぬわ。」

明日香が、ああ、と分かったように頷いた。

「そうでありましょうね。我が王も、最近ではあまり出歩いたり下々の者と遊んだりなど、全くせぬようになられました。若い侍女をそのような目で見る事もありませぬ。すっかり落ち着かれたのだなあと、思うて見ておりますの。」

綾が、頷く。

「我も…歳の割には、少し落ち着いておった方ですので、我が王も娶ってくださったのだと思います。お若い見た目であられますが、王も良いお歳でありますので。落ち着いてお話する相手が欲しいものなのではないでしょうか。もちろん、褥のことも時には求められますが、そればかりではありませぬ。最近は、対等に話し合える存在が有難い、とよく仰います。」

綾は、前世の記憶があるからだけどね。

維月は思ったが、それを知っているのはここには維月だけしか居ないので、何も言わなかった。

美穂は、少しショックを受けた顔をした。

「まあ…。我は…甘えてばかりで。そんな事は、考えた事もありませんでした。」

明日香は、言った。

「王もお疲れでありますから。臨機応変になさるのが一番でありますわ。甘えるのも時には良いのですが、常であったら皆に甘えられておる王なのですから、お疲れになります。やはり、最後には維月様や綾様のように、対等に話ができるような、知識を持った落ち着いた妃を大切になさるのではないでしょうか。我が王も…お若い頃には我の後に若い妃が複数居られましたけれど、今では我だけで。世話が疲れると、里へ返しておしまいになりました。誠に勝手なことでございますが、それが王でありますものね。」

みんないろいろあるんだ。

維月は、それを聞いて思った。

維心は全くそっち関係は何もないので、維月はそんな苦労だけはしたことはなかった。

そう思うと、少し維心が恋しくなって、テーブルの端でスラスラと文を書き付けて、侍女の千秋に維心の所へ持って行かせた。

すると、入れ替わりに阿木が顔を覗かせて、言った。

「維月様。瑞花様が、こちらへお越しになられたいと侍女を寄越していらっしゃいますが…。」

え、瑞花?

維月は、驚いて口を押えた。

確かに、月見は一緒に楽しんだが、あの時とは状況が違う。

漸が碧黎から強制的に学ばされ、瑞花に謝罪したのに何の返事もしていないのだ。

そして、真隣りではその漸が他の王達と共に歓談しているはず。

維月は、どうしたらいいのだろうと困惑した顔をした。

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