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その後

その後、宴の席では正月の話になり、漸の話は終えた。

何を聞いても不在の間のことは、我の口からはと漸は言わなかったからだ。

なので、そこに蒼は居なかったが、正月は蒼の状態から月の宮と決まっていたので、そこへ何を持っていく、など話をして過ごした。


会合が終わってすぐに渡の宮から葛が旗清の宮へと輿入れし、旗清の宮は明るい雰囲気なのだそうだ。

その折、葛は仕立てられた万華の着物を着て、旗清も万華の着物で出迎えて、それは大層な様であったらしい。

お蔭で内々だったが良い式になった、と、漸には礼の書状が来ていた。

漸も、旗清とはよく文をやり取りして、彫刻の職人なども行き来し、お互いの宮が活性化していた。

旗清は二番目最下位だったが、それでも今、一番華やいでいるのは旗清の宮だと皆に羨まれているとのことだった。

そんな流れもあって、漸は渡とも良く話すようになった。

渡が、あの辺りの王達と仲が良いからだ。

どことなく渡とは、気質が似ている気がして、漸も話しやすかった。

お互いにあまり序列など気にしないので、話してみたら楽で馬が合うと感じていた。

そうこうしているうちに、年末が近付いて来て、龍の宮でも休みが近いので、臣下達も浮き足立って来ているのを、維心は感じていた。

前までなら、正月の準備だと皆、忙しいのだが、維月も今はやることもなく居間に居る。

維心は、言った。

「…晦日ともなると皆、やることも落ち着いて雰囲気がおっとりしておるな。正月に休むようになって、皆それに慣れて来たようよ。」

維心が言うと、維月は頷いた。

「はい。私もそのように。何をしておけば良いのかもう、分かっておるので早くから済ませておりますし、ここまで来たらもう、そうやることも残っておりませぬ。臣下も休みに入るもの達が出て来て、おっとりしておりますわね。」

維心は、頷いた。

「そうだの。時に漸も、戻ってからようものが分かった物言いをするようになって、我らもやりやすいわ。碧黎は、いったいどこにあれを送っておったのかと皆申すが…我は、もしかしたら旗清の宮ではないかと思うておるのだがの。」

維月は、え、と維心を見た。

「…それは、仲良くされておるからですか?」

維心は、また頷いた。

「そう。いきなりに旗清など、何故にと思うではないか。これまで交流もなかったし、そもそも漸は他の宮の王に興味もなかった。我ら最上位と付き合うのに精一杯であったからな。あれは、旗清を知って、あやつを気に入ったからあの宮と交流しておるのではと思う。何しろ、万華を譲ったであろう?いくら漸でも、あれの貴重さは知っておるからな。」

維月は、確かにその通りだ、と維心に頷き返した。

「確かに。仰る通りでありますわ。では、旗清様はご存知なのでしょうか。」

「あれは知らぬ。」声が割り込んで、え、と振り返ると、碧黎がそこに浮いていた。「何も。入っておった侍従は幾らか知っておるが、言わぬと漸と約しておる。ゆえ、誰にも漏れてはおらぬな。」

いきなり来るのはいつもの事なので、維心はもうそれには言及せずに言った。

「ならば、やはり旗清の宮であったか。主は、侍女ではなく侍従にあれを入れたのだの。」

碧黎は、頷いた。

「その通りよ。入った侍従は良い神だったが、気が弱かった。そして、窮地に陥っておった。漸が入って強くなり、宮の不正も暴いた。なので、今はあちらも穏やかになっておる。その侍従の中には、必要なだけ漸の記憶を残してある。ゆえ、これからも上手くやるだろう。漸には、その侍従の記憶がある。ゆえ、これからあの時のような面倒は、もう起こすまい。」

Win-Winの関係なのね。

維月は、それを聞いて思った。

どちらにもメリットがあるようにと、そこへ漸を飛ばしたのだろう。

そう考えると、いつも碧黎には無駄がないのだと感心した。

維心は、ため息をついた。

「ならば良い。だが、漸が何やら瑞花に対して薄情になったようなのはどうしたことぞ。あれは何かあったからなのか?」

碧黎は、それには首を振った。

「それは、我の感知するところではない。漸が、経験を通して何か感じ、見方が変わったのやもしれぬ。そもそもの、瑞花もそろそろ話した方が良いのだ。いつまでも、己の夫に会いたくないでは、前に進むまい。逃げても解決はせぬのだ。現に、漸は真実理解して、瑞花に謝ろうとした。だが、瑞花は会わぬと突き放した。なので、漸は文を送った。それにも、あれは返事を書いておらぬ。これが主らであったらどうよ?」

維心と維月は、顔を見合わせた。

自分達は、かなり激しく言い合いにならないと別居しない。

別居しても、どちらかが話したいと言えば、会って話すし文が来たら返す。

何しろ、何とか分かり合って側に居たいと願うからだ。

心底離れたいなどと、思ったことはこれまで一度もなかった。

「…我らは、何としても話し合おうとするだろう。どちらかが折れて謝り、会いたいと言えば会う。文が来れば返す。誠は側に居たいからぞ。」

碧黎は、頷いた。

「その通りよ。ゆえ、漸は無理だと判断した。取りつく島もないからぞ。あれは王だし、宮の事も侍従の記憶がある今、しっかり見て直そうとしておる。忙しいので、そんな妃に構っておる時が惜しいのだ。漸は悪かった。それは確かぞ。だが、ここまで拒絶されるほどの事をしたかと言われたら、そうではない。我から見たら、親でも殺されたのかと思うほど、瑞花は意固地になっておるように思う。あれからもうすぐ三月、文の一つぐらい返しても良いのだとは思うのだが、どうかの。」

確かにそう。

維月は、思って聞いていた。

王から何度も折れているのに、会うことはおろか文すら返さぬのは、さすがにやり過ぎだ。

いったい、瑞花はどうしてしまったのだろう。

「…確かに…瑞花様にはあまりにも長い間、全く御文も返さぬのはと思いますが…妃の立場を弁えていらっしゃるはずなのに、どうしたことでしょう。」

碧黎は、フッと笑みを浮かべた。

「…ならば、ヒントをやろう。維月、瑞花は犬神の宮へ嫁いで、あの宮で価値観の違いを教えておったの。それを教えるには、どうする?」

維月は、うーんと悩んだ。

「そうですわね…話を聞いて、あちらの価値観を聞き、違うところを探して話しますわ。もちろん、宮の中でまで強制は致しませぬけど。」

碧黎は、頷いた。

「その通りよ。教えるには、あちらの価値観を学ばねばならなんだ。そして、それを受け入れて相手に認めさせねばならなんだ。」

維月は、頷いた。

「はい。だからこそ、立ち合いなどもされておりましたものね。」と、ハッとした。「…もしや、瑞花様はあちらの宮の中で、あちらの価値観に知らぬ間に染まられておるのでは?」

維心も、それに気付いたように言った。

「そうか、だからなのだ。瑞花は、あちらの価値観の中で普段は生活し、それに合わせて生きておったゆえ、良くも悪くもあちらの考えが身に付いてしまっておるのか。ということは、漸が言うように、合わねば離れるのが当然ということに…?」

漸が、こちらに合わせて合わなくても和解せねばと努力する一方、瑞花は合わねば離れるという価値観が沁みていて、努力しなくなっているのか。

維心と維月は、顔を見合わせた。

つまりは、完全に入れ替わってしまっているのだ。

もしかしたら、漸はそれを気取って、これ以上追い縋る必要はないと思っているのかもしれない。

それでも、瑞花が好きにしたら良いというのは、漸の良心なのだろう。

「…困りましたわ。」維月は、言った。「お子も生まれるのに。それに、高瑞様が養子になさったのは嫁ぐためであって、真に子にするということではありませぬ。月の宮で…また侍女にはなれましょうが、これまでと同じとはなりませぬ。そこのところは分かっておられるのでしょうか。」

困ったことになった。

犬神の宮の価値観の、どの辺りが瑞花に影響を与えているのか、維心と維月には全く分からない。

維心は、碧黎を見た。

「碧黎よ、主が言うということは、問題があるということよな?瑞花は、考え方が変わっておって、もしやもはや犬神の宮でなければ、まずい事になるのではないか?漸のように。」

碧黎は、苦笑した。

「…我に言えるのはここまでぞ。人も神も、環境が変われば心根も変わる。より良く生きるために必要なことだからぞ。全ては、これからの二人の心掛け次第よ。此度の事は、見守ることしかできぬであろうの。」と、背筋を伸ばした。「漸がどこへ送られておったのかは、皆に申すでないぞ。知らぬで通せ。気取ってもの。では、我はこれで。」

「待て、」

維心は言ったが、碧黎は消えた。

維心と維月は顔を見合わせて、知らなければ良かったかもしれないとため息をついていたのだった。

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