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師走の会合

そうして、漸は旗清の宮への訪問を終えて、宮へと戻った。

宮の中は整然としていて、碧黎が自分の体を使ってやっていたのだろう、政務がどこまで優秀であったのか、それで分かる。

面白くなかったが、そのお蔭でどうやったら効率的なのか、形が出来ていたので漸は文句は言わないことにした。

もう、すっかり自分が何をしたのか分かっていた漸だったが、瑞花に会おうとは思っていなかった。

また拗れるのは良くないと思ったし、何より瑞花から、会いたければ言って来るだろうと思ったのだ。

その間に、他に男が出来たりするなら、それはそれで仕方がない。

自分も悪かったし、皇子か皇女か分からないが、子だけ引き取ってこちらで育てるようにしよう、と漸は思っていた。

すっかり落ち着いた様になった漸は、師走の会合へと、龍の宮へ向かった。


龍の宮へと降り立つと、珍しく炎嘉が先に着いていて、漸に急いで寄って来た。

何事かと思っていると、炎嘉はじーっと漸を見つめて、言った。

「…主、人形か?」

漸は、眉を寄せた。

「人形とは何ぞ?」

炎嘉は、ホッと肩の力を抜いた。

「そうか、戻ったか。ここのところ、ずっと人形が来ておったゆえ。人形には、人形かと訊いたら、そうだと答えるのよ。」

漸は、呆気にとられた。

人形が、代わりに?

「どういう事よ。人形?碧黎が、我の体を乗っ取っておったのではないのか。」

炎嘉は、ため息をついて首を振った。

「いいや。あれが髪から作った人形を、適当に漸らしゅう動かしておくとか言うておった。本体はどこぞに保管しておるのだとか。つまりは、主の今の体がその、保管されておった本体であろうな。」

これを使っておったと思うておったのに。

漸は、思ってもいなかった事に驚いた。

「え、ではその人形はどこへ行ったのよ。」

炎嘉は、顔をしかめた。

「知らぬわ。碧黎に聞いてみよ。恐らくあれの髪へと戻ったのだと思うぞ。それより、どうであった?主、真実侍女になっておったのか。」

漸は、ため息をついて歩き出した。

「いいや。我は侍女ではなく、侍従の一人になっておったわ。まだ幼い妹が居った。詳しい事は、後に面倒があってはならぬから我からは敢えて言わぬ。だが、己を侍従だと思うて生きた二月の間、我は主らが言うておった事を理解できたと思う。今も、そやつの記憶が己の中にあるゆえな。」

炎嘉は、怪訝な顔をした。

「ほう?ま、良いがの。誠に分かったのなら、瑞花と和解できそうか。」

漸は、歩きながら首を傾げた。

「それは、あちら次第ぞ。我は、己がやらかした事は、今は真実、分かっておるし、戻ってすぐに文で謝罪はした。だが、後はあちらがそれをどう取るかなのだ。戻って来ぬつもりなら、それも致し方ないと思うておる。あれがもう戻りとうないと申すなら、子だけ引き取ってこちらで面倒を見て、それで良いかと考えておる。これ以上、お互いに苦しむのは良うないからの。」

炎嘉は、え、と漸を見た。

「それは…主、もう瑞花を想うことが無いという事か?」

漸は、息をついた。

「そういう事ではないわ。無理強いするつもりはないという事ぞ。我も、此度の事で何やら冷静になっての。お互いに分かり合えぬ場合、これまではあっさりと離れて別の相手を探しておった。だが、主らの習慣に従って、婚姻という形を取ったゆえ、瑞花がああして月の宮へと戻っても、追い掛けて話し合おうと励んだものぞ。だが、本来どちらかにとって無理な関係なら、続けぬ方がお互いのためなのよ。分からぬか?心底思うて沿っておる妃と、仕方なく生活のために沿っておる妃であったら、前者の方が王にとり良いに決まっておろう?何事も、心が伴わぬとの。気遣うこともできぬで、結局どちらかが耐えられずにあんなことになってしまうのだ。我は、なのでもう己からあれを追う事はない。好きにすれば良いと思うておるよ。」

漸が、物わかりが良くなっている。

というか、何やら悟ったような、別の方向に薄情になったような気もしないでもない。

炎嘉は、漸を見つめて言った。

「…別に我らはそれでも良いが…主、誠にそれで良いのか?何もせぬなら、あれは戻って来ぬのでは?」

漸は、またため息をついた。

「だから、それは瑞花の選択。我は、謝罪はしたのだ。会いとうないようなので、文でな。その折、我が宮へ戻って来るのであっても、月の宮へ残るという事であっても、結論は子が誕生して半年までに決めよと申し入れた。長引いたら、お互いに次の相手を見つける事もできぬで引きずることになるしな。それは良うないと考えておる。とにかく、我からは行動を起こしたゆえ、これ以上は何もせぬ。何かあるなら、次は向こうからぞ。我は別に、どちらでも良いと思う。」

やはり、月見の時の必死な漸が居なくなっている。

炎嘉は、怪訝な顔で漸を見つめた。

「主…誠に漸か?人形ではなく?」

漸は、鬱陶しそうに顔をしかめて言った。

「違うわ!なぜに人形よ。とにかく、我だって臣下がどんな過酷な状況で生きておるのか、此度の事で分かったのよ。今は、宮で臣下達の細かい状況を把握しておかねばとそちらに忙しい。好きで宮を出た瑞花の事まで構っておられぬ。里に居るのだから、危ない事もないわ。早う結論を出して欲しいと思うだけぞ。」

これは、もしや愛情が薄まってしもうたのでは。

炎嘉は、思った。

だが、そこでそれ以上漸に言っても改善するとは思えないし、そもそも夫婦間の事にこれ以上口出しするのも憚られた。

なので、炎嘉は黙って漸と一緒に、控えの間へと歩いたのだった。


その日の会合は、久しぶりに全員が揃った状態で行われた。

やはり、年の瀬という事もあって、年内最後に問題を残して年を越したくないと皆、考えて出席したのだろう。

それに、漸も碧黎から許されたのか、戻って来た。

もちろん、人形の漸がずっと会合に参加しては居たが、それでも機嫌良く座っているだけで、中身がないのは最上位の王達には分かっていた。

その中身は、遠くに居る碧黎なのだ。

しかも、片手間に動かしているとの事だと聞いていた。

なので、いつも何やら気になって仕方がなかったのだ。

それが、今回はしっかりとした実体を持っている質感の、漸がやって来て座っていた。

旗清と少し、会合が始まる前に話していたが、何やら彫刻がどうのと話していたので、技術的な事で協力し合うと決めたらしい。

漸が、戻って来て最上位以外の王にも興味を示して、仲良くするのは良い事だと皆、思っていた。

だが、旗清の婚姻の祝いに龍の宮から贈られた、万華を譲ったと聞いた時には、また大層な物をと皆が驚いていた。

だが、漸は旗清という王をどうやら気に入ったようだった。


そんなこんなで宴の席へと移ると、維心が言った。

「久しいの、漸。どうであった、修行は。」

漸は、答えた。

「主らには心配を掛けたが、碧黎はやはり、よう考えておったのだと思うたわ。どこの宮とは我からは言えぬが、そこの侍従の中に入っておった。その侍従も、窮地に陥っておったようだったし、お互いに益のある事であったよ。」

箔炎が、目を丸くした。

「侍従?侍女ではなかったのか。それで、女の気持ちは分かったか?」

漸は、ため息をついた。

「分かった。その侍従の妹が居ってな。我は、その侍従だと思い込んでそこで二月生きたのよ。いろいろと分かることは多かった…ゆえ、まあ戻ってみて、いろいろどうしようかと決断できたのだがの。」

焔が、言った。

「炎嘉から聞いておるが、瑞花の好きにさせると?文ばかりで、大丈夫なのか。主、瑞花をもう取り返したいという心地でもないようだの。」

漸は、苦笑した。

「だから、合わぬのにお互いに不幸になるからぞ。あれが、もう否ならそれで良い。子だけは哀れであるから我の子として育てるが、瑞花は自由にして良いと思うておる。ただ、長引く事はこちらも困る。なので、子が生まれて半年までと期限を切った。そこまで何もなければ、あれにはまだ伝えておらぬがもう終わりだと決め、子の返還だけ求めようと思うておるよ。」

つまりは、半年経ってもなしのつぶてであったら、一方的に離縁するということか。

皆はそう思ったが、確かに謝罪はしているのだから、それを無視し続けるのならそう判断してもおかしくはない。

だが、月見の前の瑞花を必死に求める様とは、全く違ってしまっていたのには、皆が驚いていた。

それでも、維心だけは言った。

「…主の言う通りぞ。」皆が、維心を見る。維心は続けた。「いろいろ知って、宮の事を改善しようと思うておるのなら、そちらが先であろう。妃のことは二の次になる。とはいえ、我の場合なら維月はいつも最優先の位置にあるが、漸の様子ではそう、愛情も残っておらぬように見える。ならば、とにかく今は宮の事に邁進しておるのが、一番良いわ。筋は通しておる。今のところ、漸が申しておることに何の間違いもない。我からは、これ以上言う事はない。」

言われて、皆はその通りなだけに、頷いた。

だが、以前の漸とは明らかに違った様子なのに、また一波乱あるのではないかと、案じて仕方がなかったのだった。

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