↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/191

死闘

訓練場では、龍の軍神達が脇から、震えながら空を見上げていた。

義心が到着したのを見て、振り返った悟(さとる)という軍神が言った。

「義心殿!王が…王が他の王達に…!」

目の前では、凄まじい速さで立ち合いが続いていた。

維心は、あちこちに擦り傷を負いながらも、あの速さ、あの人数の神世最高の手練れに囲まれ、それでも太刀を奮って対応している。

「…我なら、もたなんだ。」義心は、それを見ながら言う。「たったお一人で…いくらなんでも、最上位の王達に総掛かりでは王とてもう…!」

しかし、焔の腕から刀が飛んで、その手からは血飛沫が上がる。

よく見ると、志心も炎嘉もあちこちにかなりの深手を負いながら、それでも維心を執拗に襲っていた。

「…なぜに、こんなことに。」義心は、言った。「こんなもの、鍛練ではない。誠の戦いぞ。」

焔が、一瞬にして刀を拾い上げ、また腕の傷をものともせずに維心に向かって行く。

とてもじゃないが、義心でもこんなものは止められなかった。

ふと、向こうのガラス戸の向こう側で、蒼が涙を流しながらそれを見上げているのが見える。

「…蒼様は何かを御存知ぞ!」義心は、急いでそちらへ回り込む通路を走った。「蒼様に!」

どうにかして止められるのも、蒼しかいない。

夕凪も皆も、義心を追って走った。


蒼の所へ到着すると、義心は言った。

「蒼様!いったい、いったいどうしてこんなことに?!お止めしなければ、我が王が…!」

蒼は、義心を涙に濡れた目で見て、首を振った。

「止められないんだよ。維心様は、島を救おうとなさってる。炎嘉様達は、そのために維心様を本気にさせなければならないって、だから総掛かりであんなことを。お互い殺すつもりでやるしかないって…だから、みんな血まみれになっても止めないんだ!」

島を救う…?

夕凪が、言った。

「どういう事なのですか。島を守るというのなら、最上位は一枚岩でなければならないと、我が王は常、申されておったものを。それを殺し合いなど…!」

目の前に、駿が落ちて来て、土の上で唸る。

「駿!」

蒼がガラスに貼り付いて叫ぶが、駿にはそれが聴こえていないようで、脇腹を押さえながら刀を手にまた、飛び上がって行った。

「王!」岳が、その悲惨な光景に思わず叫んだ。「こんな…!龍王様ですらお疲れが見えておるのに!相討ちになる!」

蒼は、言った。

「…碧黎様に勝たねばならないんだ。」え、と皆が蒼を見る。蒼はまた涙を流した。「オレのせいで。月の宮を月に移転させると言い出して、オレは止めたんだけど聞いてくれない。島の守りもなくなる。維心様は今はまだ早いと言って考え直させるために、碧黎様が提示した条件を飲むしかなかった。」

義心は、呆然と言った。

「その、条件とは?」

蒼は、答えた。

「最上位の王の誰か一人でも、碧黎様に勝つこと。」蒼は、床に突っ伏した。「そんなの無理だよ!止めても聞いてくれない!でも、維心様は勝つつもりでいる。だからわざと他の王達に、総掛かりをさせてるんだ!他の王達は、維心様にかけてその能力を上げるために、あんなことをしてるんだよ!」

この島を守るためか。

軍神達は、地と戦うなどという高いハードルを越えようと、血飛沫を撒き散らして必死に立ち合う、己の王達を見上げた。

あれが、王達の覚悟なのだ。

止められるはずなど、なかった。


維心が、目の前の炎嘉に対応している隙に、志心が脇から双剣を繰り出す。

それもいなして身を翻すが、脇から漸と箔炎が来て高彰が維心の腕を打った。

それすら逃れようと脇に刀を向けると、炎嘉が居てそれをガツンと上から叩き切った。

折れた切っ先が宙を舞い、それでも維心は体勢を立て直していたが、リーチが短い刀は宙を切り、志心の一撃で遂に刀がその手から離れた。

「王!」

義心が思わず叫ぶ。

フッと腰が軽くなったのを感じて義心がそこを見ると、刀が消えていた。

と同時に、炎嘉がドスンと地上に落ちて来た。

「く…!」

炎嘉の胸に、傷がある。

維心の手には、また刀があって、志心、焔、箔炎と次々に地上へと叩きつけられて来た。

「…まだぞ!」維心が、ゼエゼエと息を上げながら、言った。「まだぬるい!闘気すら出てこぬ!まだ我は戦える!」

我の刀をあちらへ呼び出したのか。

義心は、そんな最中でも、回りが見えていて義心がそこに居るのを分かっていた、維心に感服した。

つまりは、維心が言うように、まだそこまで戦いだけに集中できていなかったのだろう。

炎嘉が、自分で自分の傷を術で適当に直して、刀を支えに立ち上がった。

志心も箔炎も、同じく立ち上がろうと身を起こすのが見えた。

蒼が、堪らず訓練場へと駆け込んだ。

「もう、やめてください!こんなこと、なんでしなきゃならないんですか!」と、空に向かって言った。「十六夜!維月も泣いてる場合じゃないんだよ!碧黎様!オレが気に病むとか言うなら、こんなことはやめてください!オレのためだと言うのなら、オレが居なくなったら良いんだ!」

空から見ている、維月は泣いているのだろう。

炎嘉が、言った。

「蒼、やると決めたのだ。我らは命を懸けて戦う宿命の闘神ぞ。これぐらい、なんでもないわ。」

だが、蒼は涙を流したまま炎嘉を見た。

「オレが悪いんです。」と、維心を、そして他の王達を見回した。「ありがとうございました。オレなんかを、助けてくださって。オレの命と、島の未来を引き換えてもらいます。碧黎様は、聞いてるはずだ。」

《蒼!?》十六夜の声が言った。《何をするつもりだ?!》

蒼は、空を見上げて微笑んで、そして、全く何の前触れもなく、その場にばったりと倒れた。

「蒼!」

宙に浮いていた、維心ですら慌てて降りて来る。

炎嘉が、その体を受け止めて、言った。

「蒼!」炎嘉は、眉を寄せた。「なんとしたこと!気が抜け去っておる!」

《蒼!》碧黎の声がして、目の前にいきなり現れたかと、思うと、手を翳した。「…まさかこの臆病な蒼が…!ならぬ、間に合わぬ!長く使い過ぎておったから…!」

何のことだ。

皆が何が起こっているのか分からず狼狽えている間に、炎嘉に抱かれていた蒼の体は、その着物を残してサラサラと塵になって崩れて行く。

「蒼!」十六夜と維月が、降りて来て必死に叫んだ。「いや!十六夜、蒼が…!」

維月は、悲痛な叫びを上げて十六夜に抱きついた。

十六夜は、涙を浮かべて、言った。

「…蒼は死んだ。人の体は霧散した。もう戻れねぇ。戻る器がねぇからな!」と、碧黎を見た。「親父!どうするんだよ!気まぐれにこんなこと言い出しやがって!最初から、島を見捨てるつもりもないくせに!」

維月は、おいおい泣いている。

全員が呆然としている中、維心が言った。

「…どういう事なのか後で聞くとして、今は蒼ぞ!」と、血まみれの手を上げた。「黄泉の道へ行く!死なせはせぬ、あやつは死ぬ事などないのだ!」

維月は、涙を拭きもせずに維心を見上げた。

「ですが…帰る器がありませぬ!あれは人の器でありました。あの子の器はどうなさるのですか。」

維心は、答えた。

「そんなもの、碧黎が何とか考えよ。とにかくあやつを連れ帰る!このままにしておれぬわ!あれが最期など…こやつは何も悪くはないのに!この臆病な蒼が、どれ程の覚悟をもって我らを救おうとしたと思うのよ!」

炎嘉は、蒼の着物を抱いたまま涙を浮かべた。

「…こんな戦いを見るのは、慣れておらなんだから…耐えられなんだのだ。まして己のせいでと自分自身を責めておった。我らが血まみれで対峙しておるのを、見ておるがつらかったのだろう。本来不死であるはずが…己で黄泉へと向かったとは。」

維心は、気を放った。

すると、訓練場の真ん中に、黄泉への亀裂が開いた。

「参る。あやつに門をくぐらせてなるものか。こんなままで、逝かせてしもうたら我らの心地も収まらぬ!」

炎嘉は、頷いた。

「十六夜も連れて行け。」と、十六夜を見た。「主も行け。あれの親だろう。なんだかんだ蒼は、主を一番頼りにして生きて来たはず。主が引き止めれば、あやつは門をくぐらぬやもしれぬ。」

十六夜は、頷いた。

「分かった。」と、維月の肩を掴んで、顔を見た。「維月、蒼は連れて戻る。だから、お前は親父と戻って来た後どうしたらいいのか考えておいてくれ。魂魄だけじゃ、長くはここに留まれねぇ。依り代が要る。」

維月は、涙を拭いながら、頷いた。

「分かった。気を付けてね。」と、維心を見上げた。「維心様、よろしくお願い致します。」

維心は、頷いた。

「我に任せよ。行くぞ、十六夜。」

そうして、維心は亀裂に飛び込んで行き、十六夜はそれを追って行った。

碧黎は、まだじっと蒼の着物を見つめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。