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手遅れ

一方、維心達最上位の九人は、軍神達の戦いの後を片付けていた龍の軍神達が驚くのを面倒そうに追い払って、甲冑を着てフィールドに立った。

維心がわざわざ甲冑を身に付けて訓練場へと来るのは珍しい。

気が向いた時にフラッと来る程度の王なので、いつも部屋着だったのだ。

それを、適当ではなくさながら戦に出る時のように、かっちりと甲冑をつけているのだから、本気で王が立ち合うのかと、色めき立ってこっそりと脇から覗いているのは見えていた。

そんなことを気にする様子もなく、維心は言った。

「さあ、時が惜しい。さっさと掛かって参れ。この際全員一緒でも良い。我に少しでも圧力を掛けよ。過酷であれば過酷である方が良い。もちろん、気は使わぬゆえ。」

炎嘉が、言った。

「いくらなんでも我ら全員で主に掛かったら、命は取られぬでも傷ぐらいはつくぞ。そこまで落ちぶれてはおらぬ。」

維心は、言った。

「それぐらいせねば、我の腕が上がらぬのだ!それでなくとも、最近真剣に立ち合ってはおらぬ。せいぜい遊ぶ程度で、本気になったことが無いのだ。このままではまずい。碧黎相手に、錆びついたままで勝てると思うか。」

維心は、勝つつもりでいる。

それは負けるわけには行かないのは確かだが、自分も含めて全てが養われているこの地相手に、最初から負けるという考えを持つのではなく、まず勝つことを考えている維心に、皆が感心した。

できるところまでやる、のではなく、できるようにやる、というのが今の維心の気持ちなのだ。

志心は、双剣を装備して、言った。

「…ならば、我らにできるのは一つ。皆で維心に掛かって行って、こやつの体に本物の危機感を思い出させねばならぬ。本気で討ち取るつもりでやるのだ。そうでなければ、維心は簡単に我らを下す。それでは役に立たぬ。こやつを追い詰めて、己の力を思い出させねば。それしか、我らに今、出来る事はない。」

炎嘉、箔炎、焔、漸、駿、高彰の6人が、志心に向かって頷く。

維心は、刀を構えた。

「来い。殺すつもりでやれ。そうでなければ、我は本気になれぬ。その代わり、我の太刀も容赦はないぞ。しっかり避けよ。」

お互いに、命懸けになる。

そう思ったが、ここで維心を何とかして成長させねば、結局は皆が皆、ゆっくりと外からの力で滅ぶ未来が来る。

全員が一気に険しい顔になって浮き上がったその時、パッと蒼が出て来て、フィールド上に落ちた。

炎嘉が、それに気付いて下を見た。

「蒼!」炎嘉は、急いで蒼の所へと降りて行った。「主、何をやっておるのよ!巻き込まれるぞ?!我らが本気でやり合おうと言う時に!」

蒼は、急いで出て来たので間違えて落ちて、腰の辺りをしこたま打ち付けたのだが、そんな事は構わず地に這いつくばって頭を下げた。

「申し訳ありません!オレが…オレが臣下を傷つけられたとか言って勝手に腹を立てただけなのに!碧黎様に、やめてくださいと言ったのに、決まったことだと聞いてくれなくて…!オレ…オレ、もう分かったのに!嘉韻が、闘神は強い相手と戦うのが楽しみであって、それに伴う傷など何とも思わないって…おんなじ闘神の維心様が、怪我ぐらい何とも思わないのは当然なのに!」

炎嘉が、蒼の肩を掴んで顔を上げさせた。

「良い、主のせいではない。碧黎があんなことを言い出したのも、結局は前から考えておった事を、試してみようという軽い心地なのだろうて。主の件は、そのきっかけになったに過ぎぬ。あやつは恐らく、前々から我ら地上の命を全て、平等に扱いたいと思うておったのではないのか。少し早いが、とっととこの機会に我らから手を放そうとしておるのではないかと我は思う。だが、まだ早過ぎたのよ。」

蒼は、涙を流しながら言った。

「オレの…オレのせいで。碧黎様は、負けるなんて思ってもないんです。ただ、手順を踏むだけのつもりだって言って。オレが何度言っても、全く聞いてくれなくて…。もう、もう月への移転が決定事項みたいに言って。」

志心が、下りて来て言った。

「主が気に病むことではない。分かっておるのだ…碧黎には勝てぬ。だが、やらねばならぬ。いつかはあやつの手を離れるとしても、今はまだ早過ぎる。碧黎に依存していると言われても仕方がないが、しかしあやつがああ言うたのなら、それに従うより今はないのだ。神世の太平に貢献しておる我らが言うて無理なのに、主が言うてあれが耳を貸すと思うか。」

蒼は、言った。

「オレも、諦めずに何回も碧黎様に呼び掛けます。月なんかに行きたくないし、神世を一緒に守っていくって気持ちだって、怒った時でもぶれる事なんかありませんでした。それなのに、どうしていきなり地上を見捨てて行けるって言うんですか。オレ…十六夜と維月と一緒に、いくら宮をあっちに送られてもここに残ります。だって、オレのこの体は、まだ人の頃の物を使ってるんですから。地上に居る権利があるはずなんですから!宮が無くて王って肩書が無くてもかまいません。オレ達だけでも、最悪何か緊急時の力になれるはずなんです!」

炎嘉は、何度も頷いて蒼の頭を撫でた。

「主の心地は分かった。ゆえ、己を責めるでない。我らは、我らでやるゆえな。維心はやるつもりよ。こやつの肩には、島の億を越える神の命が懸かっておるから。」

蒼は、こちらをじっと見下ろしている、維心を見上げた。

維心は、険しい顔を崩さずに、言った。

「…我はやる。案じるでない、蒼。主らを月にやってなるものか。まだ、この島を諦めるわけには行かぬ。」

蒼は、あの碧黎相手に、と、維心の覚悟にまた、涙を流した。

ここを守り抜くために、大地を相手に戦おうと言うのだ。

炎嘉は蒼を訓練場の外へと出し、ガラス戸を閉じた。

そして、最上位の王達は宙へと浮き上がり、維心たった一人に向かって、全員が刀を抜いてかかって行くのを、蒼はそこから固唾を飲んで見守ったのだった。


軍神達は、立ち合いが終わった祝いにと宮から支給された酒を開けて、宿舎の大広間に集っていた。

そこへ、帝羽が血相変えて駆け込んで来た。

「義心!」最上位の軍神達は、振り返る。帝羽は続けた。「王が!訓練場の片付け担当の龍が報告に参って!王お一人に、最上位の他の王達が総掛かりで立ち合っておるのだ!」

「ええ?!」

全員が、杯を落とした。

夕凪が、言った。

「まさか、何か諍いでも?!」

帝羽は、首を振った。

「あやつらが言うには、碧黎様がどうのと話しておられたかと思うと、一斉に浮き上がって始まったと。諍いがある様子ではなかったと。」

…どういうことだ。

どちらにしろ、ただ事ではない。

義心は、立ち上がった。

「参る。いくら我が王でも、最上位の王の方々を相手に束になられては何があるか分からぬ。まさかとは思うが…王の御身に何かあってはならぬ。」

夕凪も、立ち上がった。

「我も行く。」

弦も、頷いた。

「我も。まさか、一人では敵わぬから皆でということなのか。そんなはずは…我が王は、あんな風だが卑怯ではない。」

他の軍神達も立ち上がった。

何が起こったのかわからないが、しかし訓練場の方からただならぬ殺気が流れて来るのを、気取っているのだ。

訓練場からの事なので、誰かが立ち合っているのだろうと皆、意に介さぬ様子だが、しかしこれが王達だと言うならかなりまずい。

何しろ、殺気を伴うほど激しく戦っているということだからだ。

軍神達は、急いで他の軍神達に気取られぬように、そこを出て訓練場へと向かったのだった。

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