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筆頭軍神の立ち合い

そんなこんなで、正月は瞬く間に過ぎて行った。

各宮は王がシフトに口を出し始めて、筆頭達もその他上位の軍神達も、軒並み休める予定が立ったようで、穏やかになったように見える。

そんな中で、筆頭軍神達の立ち合いの会の日がやって来た。

ここ龍の宮では、それに備えて準備を進めていたので、当日は会に参加する義心無しでも帝羽が中心になって、滞りなく回っていた。

全員が緊張した顔をしていたが、ここまで訓練に訓練を重ねて来たので、もうここまで来たらやるしかない。

王の立ち合いとは違って、軍神達は下位から総当たりで、早朝から戦いを始めていた。

「…だらだら続く試合はないようだの。良い傾向ぞ。」

義心が言うのに、帝羽が答えた。

「確かに、皆真剣勝負な上、何戦もやるのを知っておるので、さっさと終わらせようと最初から全力よ。王とは違って訓練場を6分割して戦わせておるので、進むのが速い。時間通りに終わらせられそうよな。」

義心は、頷く。

観覧席には、あちこちの王達が来て見守っているが、入場できるのは王族だけと決まっているので、多くても王と皇子が観覧に来ている程度で、そこまで騒がしくはなかった。

しかも、上位の王達は、己の軍神が戦う時まで来ない。

なので、大した混乱もなかった。

義心は、この日のためにと王から下賜された新しい甲冑を身に付けていたが、これがかなり軽い。

下着は維月がわざわざ縫い直してくれた新しい物だ。

月の気を纏っているので、体がいつもより格段に軽かった。

そこに、維心と維月の期待を背負っているような気がして、無様な戦いは見せられないなと、油断せずにおこうと義心は気持ちを新たにしていた。

もちろん、技術だけでは誰にも負ける気がしない。

だが、こればかりは何が起こるかわからないのだ。

下位の宮の軍神達が一生懸命立ち合っているのを、義心は親のような心地で眺めていたのだった。


そうやって昼を過ぎ、二番目三番目の立ち合いがかなり進み出した頃、夕凪がやって来て、言った。

「義心。」義心は、振り返った。夕凪は続けた。「フィールドを4分割にしておるのか?狭くないか。」

義心は、答えた。

「下位の時は6分割であった。案じずとも、我らの時は我らだけぞ。数が少ないからの。最上位は九人しかおらぬ。」

夕凪は、ため息をついた。

「そうか。段々に覚悟が決まって参ったが、どうにも落ち着かぬ。まだ戦の方が良かったわ。王がご覧になっておるのに、手元が狂ったらと案じられての。あれから、御自らご指南頂いたり、あれこれ優遇していただいたゆえ。」

義心は、苦笑した。

「我とて同じよ。王から特別に新しい甲冑を賜ったし、維月様からはお手ずから仕立ててくださった袴などを戴いて。お気持ちの重さを感じるものよ。」

夕凪は、頷いた。

「主もか。己だけではないと分かっただけでも少しは楽よ。」と、やって来る軍神達を見た。「お。皆来たな。」

弦が、あの時とは比べ物にならないほど元気に手を振って歩いて来た。

「もうここに居ったか!王は始まったら参るわと仰って、まだ応接間で他の王達と話しておられるようよ。肩慣らしでもと思うておったが、この様子では無理そうだの。」

義心は、頷いた。

「訓練場はいっぱいいっぱい使っておるからの。朝からこれよ。主らは朝、宮の訓練場でできたのではないのか?その分、我より恵まれておる。」

それには、嘉張がため息をついた。

「朝から王にこてんぱんにされて来たわ。余計に気が重くなった。」

夕凪が、声を立てて笑った。

「王がお相手してくださったのに。良かったではないか。」

嘉韻が、相変わらず穏やかに立ってそれを聞いている。

弦が、言った。

「また主は相変わらず穏やかだの。立ち合いは気負いはないか。」

嘉韻は、首を振った。

「我は特に。蒼様は怪我だけするなと治癒の神まで連れて来ておった。ここには龍の治癒の神が居るゆえ、大丈夫ですと申し上げたのだがの。」

相変わらず蒼はそんな感じなのだ。

嘉韻は、別に勝っても負けても関係ないのだろう。

「羨ましい限りよ。月の宮の軍神達が、有事にどれだけ優秀なのか見て知っておるし、蒼様自体が戦わずとも、お仕えしようと思わせるご性質よな。」

嘉韻は、頷く。

「蒼様は臣下のことを1番に考えてくださるので、我らは何としても命を懸けてお守りせねばと思うのよ。そもそも、戦う必要のない月の力をお持ちだしな。我らは主らとはまた違った形で王を敬っておるのだ。」

確かに、月の宮の結束は固い。

神世では考えられないほど恵まれた場所なので、そこを守ろうと皆が一丸となって戦うので強いのだろう。

蒼の性質は、神世の他の王達まで、庇ってやりたい、助けてやりたいと思わせるものなので、そこが蒼の強みなのだろうと思われた。

つくづく、月の宮は特殊なのだ。

そこで、少し話し声が聴こえる程度だった観覧席から、おおっとどよめきが聴こえた。

どうやら、三番目の塔矢の軍神が、二番目の宮の軍神を下したらしかった。

「…二番目三番目は見応えがありそうよ。」夕凪が言う。「しばし楽しませてもらおう。」

そうして、軍神達はフィールド上へと視線を向けたのだった。


最上位の王達は、次々に入って来る速報を聞きながら、円を描いて座っていた。

翠明も公明も樹伊も、己の軍神が今戦っているので観覧席に行って居ない。

もちろんのこと、覚、英、加栄もそうだった。

炎嘉が、言った。

「覚には到着口で会ったが、あやつの方が落ち着きがなかったわ。己がどこまでできるのか分からぬし、せめて軍神に高い位置に居て欲しいのだろうの。」

志心は、言った。

「落ち着かぬにしては、主と同時に到着とは遅いの。午前中から二番目の立ち合いは始まっておっただろうが。」

炎嘉は、頷いた。

「昨夜遅くまで鍛練に付き合って、寝過ごしたらしいわ。気が付いたら先に軍神達は出ておって、急いで出て来たようだった。あやつも必死だの。」

焔が、手元の紙を見た。

「…だが、やはり苦戦しておるな。先ほどから速報が来る度に見ておるが、やはり塔矢の宮の速見(はやみ)は、抜きん出ておる。渡の宮の清も負けてはおらぬが、これらのぶつかり合いはおもしろそうよ。二番目の威信にかけて、清も必死だろうて。」

炎嘉が、ハッハと笑った。

「塔矢が必死に育てた男よ。そうそう簡単には一本取らせてくれぬだろう。炎月が何度か恵麻を訪ねて塔矢の宮に偵察に行った時も、塔矢が付ききりで速見を育てておったらしい。そこまでしてもらったのだから、速見も負けられぬのだ。」

皆が皆意地があるのだ。

そう考えると、最上位はもっと熾烈な戦いになりそうだった。

「…オレはそこまで勝ちにこだわらないので。嘉かに怪我をされた方が、うちにとってはマイナスなんで。そこそこにしておけと言ってあります。」

蒼がおっとり茶を飲みながら言うのに、志心は苦笑した。

「だろうの。主は龍の治癒の神が居るのに、己の治癒の者を連れて来たのだろう。驚いたわ。」

蒼は、頷いた。

「それは、あちこち怪我をして龍の治癒の神が嘉韻の治療に手が回らなかったら困るからです。嘉韻の試合中は張り付いて、怪我をしたらすぐに治療せよと命じてあります。」

徹底している。

それぐらい、蒼にとって嘉韻は大切なのだろう。

嘉韻もそれが伝わるので、他の軍神達がピリピリしているのにも関わらず、一人おっとりした空気だった。

箔炎が、言った。

「…これはもしかするともしかするぞ。こういう時は過度な緊張感はかえって手を控えさせるだろう。嘉韻はそんな縛りがないからの。ただ蒼のために戦うのみぞ。何しろ勝っても負けても立場は変わらぬし、責められる事もない。それでなくともあやつは手練れなのに。」

炎嘉は、頷く。

「それはそうよ。今朝出て来る前に嘉張としあったが、あやつはガチガチであったわ。同じ嘉楠の息子とはいえ…嘉韻は場数を踏んでおるからのう。案じられる。」

蒼は、苦笑した。

「別にオレは、今も言ったように勝ちにこだわらないので。手を控えるように言った方が良いですか?」

それには、箔炎も炎嘉も、他の王達もブンブンと首を振った。

「ならぬ!それこそ誇りが傷付けられるわ。蒼、主はそんな風だから分からぬだろうが、わざと負けてもらっても有り難いことなどない。二度とそんなことは言うでないぞ。」

箔炎に言われて、蒼はしょんぼりした。

「…すみません。」

炎嘉が、困ったように割り込んだ。

「まあ良い、主はそうなのだからの。だから良いのよ、月に張り合う気持ちなど持たれたら、誰が勝てると申すのだ。落ち込むでないぞ。」

蒼は頷いたが、まだ落ち込んでいる。

志心が、苦笑した。

「何やら罪のない子を叱った心地よ。箔炎も、気持ちは分かるが言葉が強いぞ。」

箔炎は、バツが悪そうな顔をした。

「すまぬ。つい強く言うてしもうたわ。」

蒼は、首を振った。

「オレが悪いんです。何も分かっていないから。」

何やら一層箔炎は罪悪感を持ってしまう。

維心が、割り込んだ。

「落ち着け。蒼も、もう良いから。いつまでも引きずるでないぞ。」と、立ち上がった。「そろそろ参るか。もうすぐ二番目三番目の総当たりが終わる。軍神は一気にできるゆえ早くて良いな。」

皆が、それに合わせて立ち上がった。

「フィールドを分割しておるのだな。王の時はそれはせぬのか?」

維心は、歩き出しながら頷いた。

「試しにやってみて、できそうなら王の時もやるかと義心と話し合ったのだ。この様子なら下位なら行けそうよな。二番目三番目は、さすがに王ともなると無理やも知れぬがの。」

焔が、言った。

「ここは訓練場ですら広いからの。最上位が分割されないのなら、我はどっちでも良いわ。」

炎嘉が、笑った。

「最上位を分割?無理ぞ。軍神でもやらぬのに。」

そうして、維心達は訓練場の観覧席へと移動して行った。

王達は笑っていたが、軍神達はそれどころではなかった。

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