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繋ぐ

二人の距離、完結編です。

山の上の公園の、イルミネーション初日。

朝からよく晴れて、冷え込んでいた。

夕方、彼との待ち合わせは、最寄り駅の公園側出口、改札横。

待っていると、次々と人が出て来る。

待ち人と会えた人、待ちわびる人…さまざまな人がいた。

待ちわびた彼を見つけて、ばあっと顔が上気する女の子。

私も、彼が来たらあんな顔をするのかな。

彼と二人で歩いたら、彼氏と彼女に見えるのかな。




待ち合わせの時間が迫ってしまって、急いで駅の階段を降りた。

彼女との待ち合わせは、駅の改札横。

駅の階段は、イルミネーションを見るために電車を降りた人で、混み合っていた。

急いで走りたくても、走れない。

改札を出てパッと右側を見ると、改札を見ていた彼女と目が合ったので、大きく手を振った。

近づくと、結んでいた口元がほころび、ばあっと笑顔になる。

今日の彼女は、いつもと同じ、髪は緩くまとめて1つにしている。

いつもと違うのは、首もとのスヌードと同じ、ワインカラーのバレッタで髪を留めていることだった。



「待たせちゃってごめん」

「…そんな、待ってないです。走って来たんですか?大丈夫ですか?」

「大丈夫。いや、とにかく人が多くて。じゃ、行こうか」

「はい」




彼が改札から出てきた時、すぐに分かった。

前に見かけて好きだった、濃いグリーンのコートを着てたから。

仕事の時と違うのは、中が赤いパーカーだったこと。

急いでくれたのか、息を切らし気味で彼が近づいた時、髪に目が行ったのが分かった。

このバレッタは、研修期間中にたまたま通ったお店のウインドウで、欲しいんです、と営業途中の彼に見せたもの。

あれから、自分で買った。

でも、そんなこととっくに忘れてるよね…





山の上の公園、と言うだけあって、公園は山の中腹にある。

山と言っても、広々とした丘陵のような場所だ。

駅から途中までは幹線道路で広い。

けれど、公園入口の曲がり角からは、そこまで広くはないため、人がごった返していた。

「すごい人だね。ぶつかってない?大丈夫?」

「あ、はい、大丈夫ですけど、さっきからぶつかってます」

横を歩いてるはずの彼女が、脇を通る人に押されがちで、すぐ遅れてしまう。

はぐれたらまずい。

半歩後ろになった彼女の手を掴み、引っ張ってから握った。

「こうしてれば、はぐれないから」

彼女が一瞬驚いた顔を見せたけれど、すぐぎゅっと握り返してついて来た。

ちらりと見えた、ワインカラーのバレッタ。

見覚えがある…

横に並んだ彼女に尋ねた。

「それ、買ったんだね。欲しいって言ってたのでしょ。今日の髪に合ってる」




公園入口で曲がってから、ものすごい人になった。

次々とぶつかられて、彼から遅れてしまう…

「ぶつかってない?大丈夫?」って聞かれたけど、これじゃ、人に流されそう。

流されかけて半歩下がったとき、彼の腕が伸びた。

私の腕を引っ張って、手を繋ぐ。

「こうしていれば、はぐれないから」

一瞬、何が起こったのか分からなかった。

彼と、手を繋いでる?

はっとしてから、ぎゅうっと握り返してついて行く。

はぐれないため-それは分かってる。

でも、今繋いでる手は、ずっとずっと繋がりたいと願ってた彼の手なんだ…

ドキドキと早い鼓動が、繋いだ手から伝わりそうだった。

「それ、買ったんだね」

「え?」

「欲しいって言ってたのでしょ。今日の髪に合ってる」

「今日の髪?」

「この、バレッタ。綺麗な色だね」

「あの、覚えててくれたんですか」

「うん、まあ…これ、俺の好きな色だから」

知ってる。

あなたが、赤やワインカラーが好きだってこと。

ずっと前から知ってる。

だから、あの時見せたの。

でも、覚えててくれたなんて。

目の奥がつん、としてきた。

いけない、涙が出そう。

こんなことで泣いてちゃダメ。

彼の前で泣いてばかりじゃない。

振り切るように顔を上げると、イルミネーションのある広場に着いた。

目の前に広がるきらきらした景色に、圧倒された。

「綺麗…」

思わず目を見開き、立ち止まって繋いでる手にぎゅっと力をこめた。

「あっちに、見渡せる場所があるよ」

彼の手に引かれ、展望スペースに向かった。



バレッタのことを尋ねたら、俺が覚えてたのに驚いたみたいだ。

ほんとは、以前見た時したら似合うだろうなあって思ってた。

今日見たら、やっぱり似合ってたな。

俺の好きな色…

だから?

俺の好きな色を、してきたのか。

似合うって言ったら、泣きそうに見えた。

口をきゅっと結んでる時は、泣くのを我慢する時の癖。

研修の時に気がついたけど、彼女には言わなかった。

広場に着くと、目の前に広がるのはきらきらとした花畑。

左右にも奥にも、広大な光の海。

案内板を見て彼女を、展望スペースに誘った。




人が多かったから、展望スペースに行くまでにだいぶ時間がかかった。

スペースと言う名前には似合わない、だだっ広いそこは、イルミネーション広場を見下ろせるくらい、高くなっていた。

広場の歩道には人が集まっていたけれど、ここはさらに遠いのに、思っていたより人がいた。

イルミネーションが一望出来るからか…カップルだらけだったけれど。

「こっち、空いてる」

彼に引っ張られ、手すりのある場所の端に立った。

右側に大きな木があるから、眺望はいま一つだけど、それでもイルミネーション広場がよく見える。

「綺麗だねえ」

彼がふう、とため息をついた。

彼の横に立って、イルミネーションを眺める。

嘘みたい。

ちょうど3年前の今頃、異動して行った彼にメールした。

彼からの返事がショックで、どんよりしたクリスマスだったのを、覚えてる。

それが、今横に立って彼の横顔を見てるなんて。

…気づいたら、私はイルミネーションじゃなくて彼の方ばかり見ていた。




イルミネーションをみる俺を、彼女がずっと見てる。

それをずっと感じていて、今が気持ちを伝える時だと分かっていた。

でも、きっかけがなかなか訪れない。

「あの…」

「あの…」

二人同時に声を出して、思わず彼女を見た。

「ごめん…」

「いえ、私こそごめんなさい。あの、お先にどうぞ」

いくら優柔不断な俺でもこれはちゃんと話さないと。

「3年前に、きみにあんなことを言ったくせに、向こうにいる間一番気になってたのは、きみのことだったんだ」

彼女が、じっと俺の目を見て聞いていた。

「でも、思い出して浮かぶ姿は、涙ぐんでるきみで…それで繰り返し思うんだ、なぜあの時涙を拭ってやれなかったのかって」

彼女の目元が少し、潤んでいるように見えたけれど、口元をきゅっと結んでる。

「こんなこと、今さらだけど」

彼が、繋いでる手にぎゅっと力を込めた。

「あの時から、いやもっと前からきみが気になって…好きになってた」

「なのに、メールであんな返事なんかして」

「その上、何もなかったみたいな顔して戻って来て…」

「嫌な思いをさせたんじゃないか、傷つけたんじゃないかって…ずっと気になってたんだ」




「嫌な思いなんて…」

彼の言ってくれた言葉を聞いて、我慢してたつもりだったのに、もう目尻に涙が溜まっていた。

ダメ。ちゃんと彼に気持ちを伝えるまでは、泣いたらダメ…

「メールの返事は悲しかったけど、大沢さんが戻って来てまた会えて、私は嬉しかったんです。でも…」

「近づいて、また振られたらって思うと、こわくて…」

我慢出来なくなって、目尻からポロッと雫が落ちた。

「…振ったりなんか、しないよ」

彼が指で、涙を拭ってくれた。

「…いいんですか、ほんとに?」

「なんで聞くの?」

「こんな、ずっと追いかけて、すぐ泣いて…面倒じゃないかなって」

もう、止められない。

彼の手を握りしめて、頬に涙が伝った。

「こんな、ずっと追いかけてくれて、泣き顔が綺麗で。いつもきみのことを考えてしまう。だから、好きだって言ったんだよ」

言葉が出て来なくて、彼の腕に顔を寄せて、涙を堪えた。

「ごめんなさい…悲しくないのに、嬉しいのに止まらないの」

「我慢しなくていいよ、そのままで」

「そのまま…」

「やっと、同じ景色を見て繋がれたんだ。そのまま、繕わないまま、一緒にいよう」

「一緒、に?」

「うん、ずっと」


頷いて、そっと彼の肩にもたれた。


























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