よし、汗もかいたし温泉行くか。
「ふー、大量大量」
結局それから3時間程狩りをしてたが、見るからにレアそうなモンスターはあの金ピカ骸骨だけで、そいつ以外には出くわさなかった。
でも普通の骸骨も骸骨で結構持っていたから目標の金額には一応とどいた。
「もうすっかり夜だな、勇者」
「ん、そうだな」
今回潜った洞窟はそんな複雑な構造じゃない。だからか、迷うこと無く来た道を戻ることができた。
外は、澄み切った紺に所々光のかけらを落とし、雲一つ無い満天の夜空だった。
* * * *
さて、俺は魔王が好きなわけだが、自覚したのがあまりに唐突だ。
特に理由もないしこれと言ったきっかけも思いつかない。
しかしこの高揚感というか何というか、えもいわれぬこの気持ちを他になんと例えよう。
かといってこの気持ちを伝えたいかと聞かれれば否、魔王と話をすると緊張したり照れるかと聞かれればもっと否だ。
でもまあ、はっきりさせないで、このまま曖昧な気持ちのままで良いのかもしれない。
この気持ちを言葉にするときっと、変わってしまうから。
「とりあえず帰ったら飯だな、飯」
「そうだな。私もだいぶお腹がすいたぞ」
甘えモードも終わり、すっかり機嫌も直った魔王。
「その前に風呂も入っておきたいなー」
俺はずっと動きっぱなしだったから、多少は汗もかいたし洞窟内で埃も被った。
「でも家には風呂は無いだろう?」
そう問うてくるのはまだ家に来て二日目の魔王。
なんで家の情報をそんな知ってんだか。そういえばキッチンにて料理をしてるときも無駄に手際良かったし。普通「塩は・・・あ、ここか」とかってなるだろうに。
「家の帰り道にちょっと脱線はするけど温泉の流れる滝壺があってだな。そこに行こうぜ魔王よ」
「そんなところがあったのか。うん、是非行ってみたいな」
魔王も乗り気みたいだ。
これで俺も心置きなく魔王にあんなことやこんなこと・・・。
「ただ、入る場所は別々だぞ勇者」
「・・・やっぱ行くのやめようぜ」
「結局それが目的か!」
いつも通りのキレがある突っ込みが飛んできて、若干安心感。
* * * *
「魔王、見えてきたぞー」
町から右に逸れ、歩くこと数分。月明かりに照らされ、煌めきながら蒼空へ昇っていく湯気が目に映る。
「温泉特有の香りがするな」
何とは言い難い、温泉の香りとしか表現のできない、あの落ち着いた香りが漂ってきている。
「確かここを少し登った先に穴場があったはずなんだよなー」
記憶が不確かな俺は曖昧に蘇る過去の道順を辿っていく。
「帰り道と言われればそうだが、なんで勇者はここに温泉があることを知っていたんだ?」
町から出ている道から横にだいぶ外れている、いわば隠れスポット的な温泉。
今いる町の住民で知っている者はいないだろう。
「んー、何でだっけなー」
手を頭の後ろに回しはて?と考える俺。
「まー、ちっちゃい頃から俺強かったし、普通の奴らじゃ危なくてこれない場所も一人で行けたからな。だから、適当にふらついてた時に見つけたんだと思うなー」
秘境の地だったり、隠れた名店とかってのはふらっと立ち寄った場所が偶然、なんてことが多いからな。
「そうか。勇者らしいな」
魔王もこの数日で俺の人となりが理解できてきたのだろう。こんな適当な回答でも納得している。
そんなこんなで魔王と他愛のない会話をしていたら、目的地に到着していたらしい。
「へえ、いいところだなっ勇者」
手の一つも加えられていない、自然が作り出した造形美に魔王もご満悦といった表情を浮かべている。
「だろ?でも、まだ温泉に入る前なんだからあまりはしゃぐと温泉に入ったときの感動が薄れるぞ-」
「それもそうだな」
普段大人びている魔王が無邪気に笑う姿は、なんだかとても新鮮で心地よかった。
「んじゃ行くぞー」
「ああ」