第6話 『心の音』
「翔太君の心臓は、かなり弱っていますね」
医師の診断を受けたのは、翔太が10歳の頃だった。元々強くなかった心臓が、年齢とともに悪化した結果だった。
あまり激しい運動は、止められていたのだが翔太がそんな事を聞くはずもなく仲の良い子供達と毎日遊び回っていた。
それから1年もたたないうちに苦しそうな顔を見せる事が多くなり家で倒れる事もあった。
それが、原因か両親は、些細な事で揉めるようになり、離婚することになった。
翔太は、母親が引き取ることになりそれとともに母親の実家に身を寄せることになったのだ。
引っ越しを急いでいたこともあり、翔太は、大事な仲間たちにろくに挨拶も出来ず、姿を消してしまったのだった。
母親は、魔法では先天性疾患は、直せないのだと肩を落として言った。
数年間、翔太は友達と運動することもできず寂しい思いをすることになった。
そして昔、遊んだ仲間たちの事をいつも思い返して来たのだった。
翔太が、中学の時に転機が訪れた、カテーテル手術なら症状が改善されるかも知れないと医者から案内を受けたのだ。
結果、手術は成功し翔太は、ようやく重い鎖から解放されたのだ。15cmの心臓は、本来の役目を果たす為に翔太の中で躍動を始めたのだ。
昔の友人の引き合いでこの街での母の仕事が決まった時、翔太は決めていた、もう一度仲間たちと会うことを…
俺は、琴音の事が昔から好きだった。
今まで誰にも言った事はないし本人も知らないだろう。あいつは、俺の後をいつもにこにこ付いて来てくれた。英治と真理子は、文句を言う事もあったが、琴音だけは、いつも俺の味方だった。他の2人の事も大好きではあるがそれはやっぱり仲間としてだ。
真理子には、冗談やバカみたいな会話は出来るが、琴音にはどうも弱い、というか無理だ。
転校先で琴音を見た時、俺はすごく驚いた。
こんな偶然あるのかと思った。
琴音は、マスクをしていたが、すぐにわかった。
マスクの事は、触れないようにとクラスのお節介が事情を説明しに来たが、俺は、関係無いって思った。俺の方が、琴音の事をよくわかっている自信はあったから…
でも、何となくわかった、琴音が困ってるんだってことが。
ばかだなあ、あいつは、また人に気を使い過ぎてる。
屋上にいる琴音は、すごく寂しそうに見えた。今の俺が、あいつの役に立てるだろうかなんて事も考えてしまった。
だけど俺は、踏み込むことしか出来ないから仕方がない。
だって、放って置けないだろ好きなんだから…
私達が、再会して1カ月が過ぎた。今日は、日曜日、みんなでファミレスに来ていた。
「英ちゃん、元気出してよ、明日から頑張るは基本だよ。」
「琴音は、優しいなあ、でもそれはニートの基本だよなっ」
翔太と真理子は、嬉しそうに笑っている。
バイト先のレストランでやらかしてへこんでいる英ちゃんをみんなで、なぐさめているのだ。
ふたりは、本当に励ます気あるのかな。
私は、翔太と真理子を見た。やっぱり真理子は美人だ。
私の顔の傷は、すっかり治ったのだけれど、それでもひけめを感じてしまう。
今が、楽しいからそれでいいのかも知れない。そう思う自分が、いるのだ…
みんなで、ランチを食べた後、少し元気付いた英ちゃんと何かの新作を買う予定の真理子は、早めに帰って行った。
2人で、歩いているとなんだか、さっきのことを思い出して少し心臓が高鳴るのを感じた。
「琴音、やばいぞ雨が降って来た」
ぱらぱらと降り出した雨は、次第に強くなりやがて土砂降りになった。
「こりゃ、ひどいね翔太」
「カサ持っててもアウトだな」
私達は、急いで橋の下に避難したのだった。
「そういえは、昔、こんな事あったなあ。確か真理子のカサが飛ばされて…」
翔太は、いくつか昔の話をした。
「翔太は、よくそんな事まで覚えてるよね」
「呆れてるけど、お前も、覚えてるんだろ」
「う、うん」
「ほらな」
「なあ、琴音。お前自分が、思ってるよりモテるんだぞ、いま結構男子の噂になってる」
突然翔太が言い出した。
「そ、そんなわけあるか、傷が治っただけで」
私は、しどろもどろだ。
「なあ、本当は俺、お前の傷治したくなかったんだ…ごめん」
「えっ、どういう意味かわからない」
翔太は、何を言っているんだろう…
「そしたら、ずっと俺の側にいてくれると思ったんだ、すごくずるいよな。でも傷付いてたのは、琴音の心だってわかったから、それじゃ、ダメだと思って…」
私の心臓は、バクバクと鼓動している。
もう、いいよね、先のことなんか…
「翔太は、いつも私と一緒にいてくれた人、私に優しくしてくれた人、私のことをわかってくれた人、そして私のいちばん大切な…」
抱きついた私に翔太の心臓の高鳴りが伝わって来た。まるで15cmの心臓がお互いの思いを確認するように…
さっきまでのにわか雨は、嘘のようにすっかり止んで青空の見えた空には、綺麗な虹がかかっていたのだった。




