第3話『路傍の石』
真理子の家を突き止めたのは3日後だった。知り合いを辿ってようやくわかったのだった。
その3日間で琴音の傷は劇的に治癒していた。
遠目で見るぶんにはほぼ目立たないくらいになっていた。
逆の意味でクラスメートには驚かれるようになった。
その度にいい薬が見つかったからと答える事にしていた。翔太の母の事は秘密にしておきたいし話しても誰も信じないだろう。
琴音は、今日も翔太と屋上で昼ごはんを食べていた。話題は真理子の事だった。
「へえーっ、あいつ引きこもってるんだ。寂しく無いのかな」
「最近は、ネットがあるから平気なんだと思うよ」
「ま、とにかく会って話をしてみるか、悪いけど案内頼むよ」
嫌だとは言えず放課後、私は翔太を真理子の家に連れていった。
「ここがマリちゃんの家だよ」
「へえーっ、デカイな家!サンキューな琴音」
真理子の家は、洋館風の大きな家で立派な門構えをしていた。
門の中を覗くとおじいさんが庭の手入れをしていた。
「すいません。真理子さんの友達なんですが話があって来ました」
おじいさんは、私達を見るとすんなり中に入れてくれた。
同じ歳の頃合いで女の子がいたというせいもあるのだろう。
おじいさんは、真理子の祖父だった。
翔太は、おじいさんに少し話を聞いて見る事にしたようだ。
「真理子さんは、なんで引きこもっているんですか?」
翔太はストレートに聞いた。
おじいさんは少しギョッとした顔をしたが真理子が学校に通わなくなった理由を話してくれた。
おじいさんの話によると難関進学校に入学した真理子は、最初のうちは、なんとか頑張って授業についていっていたのだが、インフルエンザで学校を休んだ事をキッカケに成績が落ち込み、学校も休みがちになり今のような状態になったようなのだ。
学校の友人が何度か訪ねては来たのだが課題のプリントを置いてすぐ帰ってしまったそうだ。
よくありがちな話だが実際の知人の話としてはそれ程多くは無いのかもしれない。
真理子の両親は、海外に長期出張に出ており家政婦さんが来る時以外はおじいさんとふたり暮らしだった。
私も母がいなかったら同じ道を辿っていたかも知れない。
そう考えると何だか他人事に思えなくなって来た。
「部屋に入れますか?」
翔太が言った。
あたしは、もうずっと家にいる。
引きこもりという事になるらしい。とは言っても家の中は自由にうろつくし風呂だってちゃんと入っている。
ただ家の外に出ないだけだ、学校に行かないだけだ、それだけのことなんだ。
頑張って進学校に入って、頑張って勉強して疲れたから休んでいるそれだけのことなんだ。
でもあたしが引きこもっても誰も困らないし関心もあまり無いんだと思う。親の体裁は、あるのかもしれないけれど。
ネトゲでは何人か友達らしきものがいた。時には説教じみたことを言われたこともあったがそんな時は、ログアウトしてしまえばいいだけだ。楽な関係だと思う。だけど薄っぺらな関係だ。笑える、今のあたしにはお似合いの関係だよ。薄っぺらな勇者がね。
何だか今日は、下が騒がしい誰かが来ているようだった。おじいちゃんの知り合いかな。
学校の知り合いならすぐ帰るはずそんなに暇じゃ無いんだろうから
しばらくすると階段を上がって来る音がした。まさかここに来るつもりじゃ、音は近づいて来て止まった。ドアの鍵は、閉めて…。
さっき下の様子をうかがう為に開いたままになっていた。
まずい、あたしパジャマのままだ。
「おいっ、真理子!入るぞ」
ん⁉︎ 誰!
あたしが、戸惑って何も返事ができないでいるとドアがガチャっと開いた。
「真理子姫!ゲームやらしてくれ!」
その男の子が言ったのだ。
1時間後、私達はゲームをやっていた。
「マリちゃん何か、ごめん」
琴音は、あたしに謝って来た。
「琴音のせいじゃ無いよ。あの精神年齢の低い男が原因だから」
あたしは怒りながらも不思議と嫌ではなかった。
「真理子姫っ、これどうやって倒すんだ」
"真理子姫"はやめろ!はずかしいから
「翔太は、相変わらずゲームがへたっぴですねー、魔法の使い方が全然ダメだよ」
「お前本当の魔法使いに対してそれは失礼だろ、何なら本当の魔法見せてやろうか」
吹き出すあたしが琴音を見ると彼女は真面目な顔であたしに頷いた。
嘘だ…よね。
あたしが着替えて出掛けるというとおじいさんがひどく驚いた顔をしていた。そして翔太と琴音を不思議そうな顔で見たのだった。
翔太に連れられて近くの河原に来ていた。昔よく遊んだところだ。
「よく見とけ!今からこの石に魔法をかける」翔太は河原の平らな小石を拾うと何やら呪文を唱えた。
そして川に向かってその小石を投げた。石は川の表面を10回跳ねてから沈んでいった。
「どうだ!」
何がどうなのよ、あたしは完全に騙されたらしい。
あたしも小石を掴むと全力で川に投げた。11回跳ねた。
「お、俺の魔法が…」翔太はガックリ膝をついていた。
あれっ、気がつくとあたしの指から血が流れていた。さっき石を掴んだ時なんかで切ったらしい。
翔太は、あたしの手を掴んで痛いの痛いの飛んでいけみたいな事を言っていた。
魔法はもういいから…
今日は、久しぶりに人と話した、久しぶりに遊んだ、久しぶりに外に出た、そして久しぶりに涙がとまらなかった…
あたしは、ただ寂しかったんだ
涙がとまらず困っていると翔太がもっと困った事を言った。
「真理子、転校してこいよ。」
傷ついたはずの指は、不思議な事に治っていた。琴音を見ると微笑んで頷いていた……
今日から忙しくなりそうだ、あのバカを見張っていないといけないからだ。
巻き込まれるあの子も守らないと…
あたしは新しい学校に向けて歩き出したのだった。
天気は晴れ、今日は暑くなりそうだ。




