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商人の夢 ~クラウス&ユナ視点・中編~

「炎色反応です。」

その一言が、クラウスの世界を変えた。

だからこそ、彼はこれまでの人生で一番と言っていいほど必死になってユナを口説いた。


ユナ商会との業務提携の契約書を宝物のように握りしめ、休む間もなく机へと向かっていた時


「クラウスさん!」

勢いよく執務室の扉が開いた。


そこに立っていたのは、

誰がどう見ても、成金スタイルのユナだった。


「どうですか!」

ユナは誇らしげに胸を張ると、その場でくるりと一回転する。


「……。」

「......?なにか変ですか?」


「いいえ。似合っていますよ。」

「本当ですか!」


「はい。」


ジャラジャラと音を鳴らしながら喜ぶユナを見て、クラウスは思わず目を細めた。


「好きなものを買えるのは、頑張った証ですから。」


「……ありがとうございます。」


そして、ユナは少し照れくさそうに小さな箱を差し出す。

「これ。クラウスさんへのプレゼントです!」

「私に?」

「はい!」


クラウスが箱を開くと、中には金色の懐中時計が入っていた。

しかも、控えめとは言い難いほど宝石が埋め込まれている。


「共同経営記念です!お揃いなんですよ!」

そう言ってユナは、自分の腕時計を嬉しそうに見せた。


クラウスは思わず笑みをこぼす。

「正式には業務提携ですよ。」

「細かいです。」


「でも、ありがとうございます。大切に使わせていただきます。」

「よかった!」


無邪気に喜ぶユナを見ながら、クラウスは改めて思った。

この人となら、きっとまだ誰も見たことのない景色まで辿り着ける。


そんな確信が、胸の奥で静かに、しかし確実に大きくなっていった。


その後の商会は、驚くほどの勢いで成長していった。

それから二人は、王国と隣国を飛び回る毎日になった。


完成した花火を届け、照明の設置に立ち会い、新商品の説明を終える頃には、次の依頼が舞い込んでいる。


気づけば机より馬車に乗っている時間の方が長くなっていた。


「眠いです……。」

「私もです。」


それでも顔を見合わせると、二人とも笑ってしまう。


「でも、楽しいですね。」

「ええ。」


その一言だけで、また次の仕事へ向かう元気が湧いてきた。

それは不思議とこの世界にきて一番楽しい時間だった。


そんなある日、物流の視察へ向かう馬車が港の手前で止まった。


前方には荷車が何十台も連なり、長い列を作っている。


「またですね。」

「また?」


「この港は、管理が少し不安定なんです。」

「不安定?」


「ええ。年に一度ほどではありますが、こういうことがあるんです。」

その時、前方から一人の商会員が慌てて駆け寄ってきた。


「クラウス様!」

「王都劇場への照明機材ですが、このままでは開演日に間に合いません!」


クラウスは小さく目を閉じた。

「……やはり、そうですか。」


商会員は申し訳なさそうに頭を下げる。


「別の街道も調べましたが、荷車では通れませんでした。」

「分かりました。劇場にはこちらから事情を説明しておきます。」


商会員が去ると、ユナは止まった荷車の列をじっと見つめた。


「これ……私たちだけじゃないんですね。」

「ええ。」


「港が止まれば、この国の商売も止まります。」

「そんな、これってどの位待たされるんですか?」


「3日で通行できることもあれば......。」

「1か月ほど待たされることもあります。」


「1か月!?」

「ええ。でも、ここを通るしかないんです」


「今回は劇場の件があります。」

「数日で通れることを祈りましょう。」

クラウスは苦笑する。


「数日って......。そんな管理、おかしくないですか!?」

「理由は?」

「誰にも分かりません。」


「それ、みんな怒らないんですか……?」


クラウスは肩をすくめる。

「もちろん、文句を言う商人もいますよ。」

「でも、その翌月はもっと待たされることになります。」


「いつの間にか皆、諦めてしまいました......。」


馬車の窓から港を見つめる。


止まった荷車。

動かない商品。

動かないお金。


その光景を見ながら、ユナは小さく呟いた。


「……。」

「買えませんかね。」


「ふふっ。港ですか?」


「はい。」

「買えませんよ。」


「国の施設ですから。」

「そっかぁ……残念。」


それでもユナの視線は、最後まで港から離れなかった。


「でも。」

クラウスは港を眺めながら静かに笑った。


「だから商人は皆、もっと大きくなりたいと願うんです。」

「いつか、ここを自由に使えるくらい大きな商会になれたら。」

「商人として、それ以上の夢はありませんね。」


帰り道になっても、ユナは止まった荷車の列が頭から離れなかった。


「クラウスさん。」

「私、ユナ商会の店舗を増やそうと思います。」


クラウスは、少し目を丸くした。

「急ですね。」

「何か、考えがあるんですか?」


「港で止められるなら、その前にもっと商品を作っておけばいいんです!」

「そうすれば、たくさん作って一気に運べるじゃないですか!」


「確かに、考え方は間違っていません。」

「ですが、私は反対です。」


「どうしてですか!」

「今は商品を作る人が足りません。店舗だけ増えても、中で働く職人が育っていない。」


「急いで広げれば品質が落ちます。」

「港で待たされても、お客様は待ってくださるかもしれません。」

「ですが、一度品質を落とせばお客様は二度と戻ってきません。」


「私は、それが一番怖いんです。」

こちらを睨むように頬を膨らませるユナを見て、クラウスはふっと息を吐き、


優しく続けた。


「ですが、ユナさんが行けると思うなら、反対はしません。」

ユナが目を丸くしていると、クラウスは穏やかに微笑んだ。


「失敗した時は、私が一緒に責任を取ります。」


その言葉を聞いて、ユナはようやく理解した。

目の前で「共同経営者ですから」と笑う青年。


自分は、この人に支えられていたのだ。

作者はすぐコメディに逃げる性質があるのですが、この二人は気づくと真面目に商売を始めてしまいます。


特にクラウスが大人すぎて、全然ふざけてくれませんでした......笑


次回、港を制します!

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