虎穴どころか龍穴
イデアとの留守番3日目·····
正確には、2日目の深夜で日付が変わってしばらくした頃に、事件は起きた。
「·····んっ、なんだろ?嫌な感じがする」
私はイデアと一緒に寝ていたのだが、なんか不快感が襲ってきて目が覚めた。
別にイデアが漏らしたって訳でもないみたいだし、今日はまだ生理の日じゃなかったはずだから原因不明だ。
·····うん、深海魚食べたから脂が出たかと思ったけど平気だわ。
前に調子に乗ってバラムツをバクバク食べた時は酷い目に合った、マジでひどい目にあってトラウマものだったからねアレ·····
カチャッ
「っ!!」
ってねぼけた頭で考えてた私の脳が、どこかのドアが開く音で一気に覚醒した。
私の聴覚は犬や猫なんかと比べ物にならないどころか、イルカよりも耳が良い。
普段はうるさくて仕方ないから制限してるけど、深夜で静かな時間帯の今なら聴覚を一気に上昇させても問題ない。
つまり、静かな家の中では忍び足でコソコソ動いて、ヒソヒソ話していても私の耳には全て筒抜けという訳だ。
『ここで合ってるよな』
『あぁ、町長家の者が全員出払っているのを見た、今家に居るのは手伝いのメイドと娘だけだ』
『なら問題ねぇな!』
『バカ、声がでけぇよ、おい見ろよコレ、超スゲェ魔道具の料理機じゃねぇか?』
『高く売れるな、持っていくぞ』
『お前ら目的を忘れるな、町長の娘のイデアを探せ、ユニーク持ちは高く売れる』
『メイドはどうする?』
『好きにしろ、好きにした後は殺して口を塞いでおけ』
『流石に賢者姫が居ると敵わねぇからな、居ない今がチャンスだ』
·····泥棒かと思ったけど、明確に狙ってやって来てる誘拐犯だ。
それもユニークスキルを持っているイデアを誘拐して、人身売買で金を稼ぐつもりらしい。
ついでにお手伝いのルーべさんは強姦して殺すつもりのようだ。
だが、侵入者共は不運だった。
一つ目は、仲間が見たシュテイン家は父母長男長女ではなく、父母長男メイドの四名で、家に居るのはメイドではなく一番居ちゃいけない『賢者姫』だという事。
二つ目は、イデア自身の能力を舐めていたという事。
そして、最後に·····
私がブチギレた事
◇
ある犯罪組織の幹部で誘拐犯罪のプロ集団の次の狙いは、ユニークスキルという超能力に近い特殊なスキルを持つ赤子の誘拐だ。
その赤子は組織の情報網によると非常に強力な物で、かなり高額で取引できるだろうと予測されているスキルであった。
だが欠点もあった。
相手は赤子でまさに赤子の手をひねるように簡単に誘拐できるが、そこがフシ町のシュテイン町長家だったことだ。
そこには組織内でも狙っており変態貴族共から数多くの誘拐依頼を受けていたものの、あまりの強さに手を出せないSランク冒険者『賢者姫 ソフィ・シュテイン』の実家で、以前に組織の下っ端が不在を確認して侵入を試みようとしたはずなのに、どこからか賢者姫が現れ、重傷を負わされ警備兵に引き渡された事があったため手を出せていなかった。
だが、俺たちは幸運だった。
フシ町から町長一家が出て行ったのだ。
話によると男2女2で、家族のように仲睦まじく話していたこと、そして馬車での長旅は赤子の負荷になる事からも一家であり、家には赤子とメイドのみが残っているとみて間違いないだろう。
「急げよ、賢者姫に感付かれたらいつ戻ってくるか分かったもんじゃねぇ」
「でもよ、見ろよコレ、高く売れそうな石もあるじゃねぇか」
「後にしておけ、雑に持ち出して壊したら価値が下がる」
「ケッ、仕方ねぇなぁ」
仲間の一人が家の物を盗もうとしていたが、俺はそれを咎め、目標の確保をするため赤子の部屋と思われる場所へと向かって行った。
◇
「·····あった、この部屋だ」
「ご丁寧に名前まで書いてあるぜ、楽でいいぜ」
「泣かすなよ、バレるからな」
「消音の魔道具はある、大丈夫だろ」
二階に上がると、すぐにターゲットの部屋が見つかった。
部屋のドアに『イデアの部屋』と書いてある表札がぶら下がっているからだ。
コレは運がいい、やはり天は俺らに味方しているようだ。
「·····天が味方しりぇみぉッ!!」
『『·····』』
「ごめんリテイクするね」
「·····天が味方しても、神は味方しないよ」
「なんだ!?」
「噛んだ·····?」
\バンッ!/
「なーはっはっは!なんだ噛んだと言われたら!(裏声)」
「答えてやるのが世の情け!」
「妹の誘拐を防ぐため!(裏声)」
「家の平和を守るため!」
「神と己の正義を貫くっ!!(裏声)」
「プリティキュートな主人公っ!!」
「ソフィ!」「シュテインッ(裏声)!!」
「家に侵入する犯罪者共のお前らには(裏声)!!」
「ブラックホール、暗い未来しか待ってない!!」
「·····なーんてね」
\ソノトォ〜リ!(超裏声)/
「まさか!賢者姫か!」
「くそ!殺せ!」
「死ね!」
「全員でかかりゃ殺せんだろ!」
「行くぞ!」
「コイツも殺して犯してやる!!」
「今のうちに俺はガキを連れ出す!」
「賢者姫?違うよ·····」
私は愛されるタイプの悪役の口上を使わせてもらったが、内心はガチギレしていてすぐにでも血塗れにしてやりたかった。
だけど、この技の発動には·····そして私の世界の根幹を崩す悪ふざけが必須だった。
だから、全力で悪ふざけをした。
「·····今日この時ばかりは『血塗れの賢者姫』だよ、キノコ神拳反転『ギャグパート終了』 ·····死ね」
シュッ
ゴギャッ
「あぐっ!?ごぶっ、がはっ·····」
まずは目の前に居た誘拐犯を真正面から両手で殴りつけ、肋骨を砕いて肺に突き刺さした。
·····普段ならここで放置してたけど、完全にブチギレてる私はこのままじゃ済ませない。
ピトッ
「発勁」
ズンッ
「ごわば、ごぅぶっげぼっ」
胸に突き刺さる拳を開き掌にすると、内臓目掛け魔力衝撃波を体内へと浸透させた。
その衝撃は一点集中で腎臓を貫き、犯人の腎臓は瞬時に破裂し破壊され動けなくなった。
ここまで僅か数秒、手練の誘拐犯とSランク冒険者とは天と地より遥かに遠い差があるのだ。
「おい!?大丈夫か!?く、クソッ!早いぞコイツ!」
「違うよ、お前らが遅いんだよ」
ドシュッ!
ゴキッ!
ぐじゅっ·····ぐポッ!!
「ぐああああああああああああああああっ!!!!????」
更に通り抜け際に私に突き付けていたナイフを奪い取っていて、それを別の誘拐犯の腰の中央に突き刺すと、背骨と骨盤の間に突き刺して背骨を支える仙骨をくり抜いて引き摺り出し、更に背中の真ん中辺りの背骨の間にナイフを突き刺すと魔法で骨に癒着させ取れないようにしてやった。
これでコイツは二度と動けないだろう。
私はギャグやネタを捨てて、本気で攻撃をし始めていた。
·····この世界は、私が見える範囲の世界は、私の力によって『ダーク風ファンタジー』というテクスチャを『ギャグ調のライトなファンタジー』へと上書きし、書き換えている。
人が死ぬような暗い展開も私のギャグ補正によって上書きして、私が死ぬ事で帳尻を合わせて世界のバランスを取る事で、暗くなく楽しい異世界ファンタジー『TS賢者は今日も逝くっ!』が成り立っている。
·····そして、そのテクスチャの上書きを止めれば、人間相手に残忍な攻撃をしたって、不殺の誓いさえ破ってしまう事が出来る。
「今のうちにガキだけでも誘拐·····」
「潰れろ」
「ン」
ぶぢゅる
イデアの部屋のドアノブに誘拐犯が手を掛けた瞬間、誘拐犯の体が結界に挟まれ数mmになるまで圧縮され即死し、隙間から噴き出した肉だか骨だか血だか分からないドロドロが私に噴き掛かった。
「く、クソ!賢者姫は人を殺さないんじゃねぇのかよ!!」
「殺せないと殺さないは違うよ、こんな風に·····ね」
ガッ!!
「なん」
「須臾」
ブヴルルルルルルルッ!!
「がわばっ!?がぼっ!がぼぼっ!!?」
どゅぶるっ
ごぶぢゅっ
バ ヂゅン
「はい一丁ぉあがり〜」
次の獲物の頭をガッチリと両手で掴むと、須臾を使って極音速でその頭を振った。
あまりの急加速にたった1振りで即死するそれを、毎秒数千往復という超高速振動により、脳が液化するだけでなく眼球は破裂し骨組織も振動により破壊され砕け散り、頭部の中身が全部シェイクされたスムージーのようになると、首から供給される受取人の居ない血液が貯まりやる気のない水風船のように弾け、ドロドロの中身と止まらない血の噴水は私に掛かって、残った残骸は首からデロリと垂れ落ちた。
·····全身に血だかなんだか分からないドロドロを浴びた私は、もうひとつの2つ名にふさわしい姿だった。
「·····久しぶりだわ、人を殺すのも、人の血で血塗れになるのも」
「クソッ2人も殺しやがって·····!捕まえて犯してから殺してやる·····ッ!!」
ぐいっ
「3人だよ、『泡沫ムゲンの眠り姫』、テクスチャ限定除去····· 完了、真名解放
はじめまして
私は
泡沫ムゲンの眠り姫 おはようございます
おはようございます おはようございます
おはようございます
いえ、その名は偽りです おはようございます
私の名は
『█████』
おやすみなさい
良き夢を
「あ、あああああああああっ、ああああああああああああああ!!!!!!!あはははははははははははははははははははは!ハハハハハハハハハははハハハははははは!!!は███はは██はははは███は███████
█████████ ███
████████ ████████████████████ █████████████ ████████████████ ███
██ ████████████████
███████ █████
さぁ 次は全てを
おはようございます この世界
愚かな
生命共
全てを うらがえしましょう
おはようございます
おはようございますおはようございますおはようございますおはようございますおはようございますおはようございますおはようございますおはようございますおはようございますおはようございますおはようございますおはようございますおはようございますおはようございますおはようございますおはようございますおはようございますおはようございますおはようございます
こ
ん
に
ち
は
『·····ッ、黙れ、█████! あら せっかくテクスチャが 消えたと言うのに また 眠れと?、お前は『泡沫ムゲンの眠り姫』だ、眠れ·····!!」
しかたありません
おやすみなさい
愚かなわたくしよ
「っっっふぅぅぅうう·····」
·····私は、怒りに身を任せ『泡沫ムゲンの眠り姫』、私自身の本来あるべき愚かな姿を、『テクスチャ』で上書きし、隠していたソレを解放した。
·····してしまった。
結果、開眼した私を見た犯罪者は発狂し、言葉にすることさえ憚られるおぞましい死に方をした。
·····体が口から丸ごと3次元空間の法則を無視して表裏反転したと言えば、詳しく語らずともどうなったかわかるだろう。
その代償として、眠れる神を呼び起こした私の体も乗っ取られかけたものの、再び『テクスチャ』で上書きする事で『泡沫ムゲンの眠り姫』へと帰ってこれた。
「この野郎!!もういい、燃やせ!屋敷ごと焼き殺せ!」
「任せろ、炎よ我が元に
「プラズマボール」
ヂュンッ
「·····へ?ぎぃっぃいあああああああああああああああああっっっ!!!???」
今度は火魔法で焼こうとしてきたから、詠唱するより早く腕を超高温のプラズマで蒸発させてやって、痛みで詠唱するどころじゃなくなったのか地面を転げまわっていた。
「·····で?誰の差し金?売るってどこに?」
「ふん、賢者姫でも不意打ちには弱いだろう」
「ん?うげっ!がッ!!ごぶっ、え゛ぅっ!」
そして最後の一人でリーダー格の男を問い詰めようとしたら、不意打ちを喰らった。
魔法が込められて保存された魔結晶を使われたようで、闇魔法で視界が塞がれたと思った瞬間喉に激痛が走った。
「殺った、Sランク冒険者もそれ程でもないな」
どうやら喉を掻き切られたみたいだ。
どおりで·····
·····慣れ親しんだ痛みだと思ったわけだよ。
「ごふっ、かひゅぅ·····『あーあー、何を勘違いしてんの』」
「何っ!?なぜ死なない!首を切った上に致死性の猛毒も入ったはずだぞ!?」
「『私は即死じゃないと殺せないよ、人は即死以外では首を切り落とされても数十秒は生きている、猛毒だって即死するのは極めて稀だから·····』死ぬまでの間に治療すれば、こういう風に元通りになるんだよ?」
「バケモノめ·····!!」
そう、私は首を切られた程度じゃ、頸動脈を切られて気管や食道を切られた程度では死なない。
それどころか首が切り離されても1時間くらいなら平気で生きてられるし、再生も可能だ。
それに毒耐性もある私なら即死級の猛毒でも毒が回る前に解毒だって出来る。
痛みも生つくねにされたり、全身を足からゆっくりブチブチと潰されてる方が圧倒的に痛いから、首を切られる程度なら痛いけどもう慣れた。
「そうだ、お前にはコレの実験台になってもらうかな」
「こう見えてAランク冒険者の暗殺もしたことがある、そう簡単には····· っ?なんだ、この味····· っ!!!!!!????くぁせdrftgyふじこlp!!!?!?!?」
ぐぢゅ!ぶぢっぐぢっぐじゅっ!!
私は目にもとまらぬ速さで1mm角の龍丹を誘拐犯の口にぶち込んでやった。
そして次の瞬間、目が逝っちゃって発狂し始めて自分の腕や足を喰い始めた。
「うわヤバ·····」
これ一般人が食べたらどうなるんだろうって思ったけど、うん、ヤバいねこれ。
薄めて使うのが正解だなぁ·····
その後、死にかけてる犯罪者共を死なないように、でも治して楽にならないように、苦しみ続けるように治癒した私は、コイツらを魔法で拘束して浮かべて、しっかりと家を保護して夜中でも人の居る警備隊の本部へと向かって行った。
◇
「はい、やはり指名手配犯でした、·····1名は顔が分かりませんし、1名は人だったのかも分かりませんし、もう1名に至っては跡形もありませんが、確保のご協力、ありがとうございます」
「いえいえ、家に入ってきたし私と妹の命を脅かしてきたのでボコボコにしただけですよ」
「·····ですが」
「はい?」
「ちょっとやり過ぎですね、なんとかなりませんか?『血塗れの賢者姫』さん」
「えー·····」
その後は仲間が襲ってくるとかも無く、無事に誘拐犯4人と2つの残骸を警備隊本部へと連行して引き渡せたのだが、警備兵さんに文句を言われてしまった。
まぁ、そりゃ1人は肋骨が肺に刺さってマトモに呼吸も出来てないし、背骨にナイフが刺さって再生魔法で癒着して常に激痛が走って仙骨が引っこ抜かれたせいで下半身がマヒしてるヤツも居るし、腕が綺麗サッパリ無くなって断面は黒く焦げてるヤツも居るし、リーダーに関しては気が狂って腕の骨が見えるまで食ってるし·····
うん、死んだヤツはシェイクしたヤツは胴体はあるけどどう見たって頭が無いし、1つは袋に入ってるけど中身見ると赤い肉のボールみたいなのがあるし、最後に至ってはどう見たって人が入るサイズじゃない壺に入ってて揺らすとタポタポ鳴るし·····
·····うん、怒りに身を任せてやりすぎたわ。
「ふふふ、こんな時間に誰かと思いましたら、お嬢さんでしたか」
「あっクレイン中尉さん、お久しぶりです」
「ご無事そうで何よりです、ふっ、ふふふ·····」
「笑い声怖っ」
「よく言われます、それはそうと、生存した罪人も尋問も出来ない状況なので雑にでいいですので治癒をお願いできませんか?」
「はぁい····· 『治癒』っと」
結構なお偉いさんに言われては仕方ないので、私は生き残った誘拐犯共を多少治癒してやった。
肺に肋骨が刺さってた男は背中側の肋骨の骨折程度にまで治癒してあげて、脊椎にナイフが刺さって仙骨を引っこ抜いた男は引き抜いてあげて神経をちょっと回復させてあげて仙骨も一応戻しといたけどマヒが残ってギリギリ動ける程度にまで回復、腕を欠損した男は両手欠損してるけど傷口は塞いであげて、リーダーは龍丹を取り除いてあげて口内や胃の洗浄をして腕を再生させて脳も正常に近い状態にしてやったけど旨味の依存症は抜けさせてない。
完璧に治さないのは私の私怨だ。
·····殺したヤツらは甦らせるつもりは無い。
だって、生き残ったヤツらも洗いざらい吐かせた後に呪怨を送って呪殺するつもりだし。
「助かります、では後はお任せください、我々の尋問は····· ふふっ·····ふふふふふふふふ」
\どろぉ·····/
「中尉、鼻水出てますよ」
「おっと失礼、最近鼻炎気味でな、変な鼻水が止まらんのだ」
「·····点鼻薬いります?」
「いいのかい?助かる」
なんか鼻水を垂らしながら笑ってるのめっちゃ怖かったから早く治って欲しいと願って点鼻薬をあげて、あとの事を任せた私は家へと帰って朝までもうひと眠りする·····前に、ちょっと寄り道することにした。
名前:ソフィ・シュテイン
ひと言コメント
「ふぅ、最後ちょっとギャグパート入れたお陰で無事戻せそうかな····· 意味の無い殺しが嫌いなだけで、私、殺さないとは言ってないし、私の物語は殺人が無くても十分面白く回るから要らないだけ、だから必要があれば····· 私は人殺しも厭わないよ」




