風呂奉行 ソフィ・シュテイン
私の部屋にみんなが入ってくると、まだ入ったことの無いグラちゃんとウナちゃんがキョロキョロと部屋を見渡して観察していた。
「なんか、こう、ソフィの部屋はもっとゴチャッとしてるんじゃないかと思ってたわ、綺麗というか殺風景ね」
「うんうん、ソフィちゃんの部屋がらんとしてる、でも5人いると部屋いっぱいになっちゃったね·····」
「そりゃこの部屋は殆ど使ってないからね、今日集まるのもここじゃないし」
「「どういう事?」」
「こういう事」
私はベッドに寝転がり、そのままの勢いでベッドの上で後転して壁の向こうに消えていった。
そして向こう側に到着すると、私は壁から····· 正確にはディメンションルームのゲートから顔だけ出して寮の部屋に顔を覗かせる。
「どう?驚いた?」
「「(こくこくこくこく)」」
2人は驚いたのか、声も出さずに頷いていた。
「ソフィちゃん!おじゃましていい?」
「僕も入っていいかな?」
「はーい、2名様いらっしゃーい!そちらの2名様はどうしますかー?」
フィーロ君とアルムちゃんは、私のベッドに容赦なく乗って、そのまま壁の向こうに消えていった。
次はグラちゃんとウナちゃんの番だよ?
「ほ、本当に大丈夫なの?一体どういう仕組みなのかしら·····」
「わーい!わたしもいくー!!ぎゃんっ!?」
「·····やべっ、よし、こ、これで通れるはずっ!」
この部屋に初めて来たグラちゃんとウナちゃんにゲートの通行許可を与えるのを忘れていたので、突撃してきたウナちゃんが壁に激突してしまった。
その後、ウナちゃんは額を抑えながらフィーロ君たちと同じように壁の中に消えていった。
「グラちゃんは来ないの?ばいばーい」
「い、行かないなんて一言もいってないわよっ!!」
グラちゃんは躊躇っていたが、煽ってみたらスグにゲートを潜って『ディメンションルーム』へと飛び込んできた。
んじゃいつも通り魔法で鍵を閉めて、私も顔を引っ込めて完全に向こう側へ行くとしますか·····
◇
「ソフィ!なんなのよここは!?」
「すっごーい!!ひろーーい!!!」
「ふふふ、これが私の魔法『ディメンション・ルーム』の実力よっ!!」
「なんか秘密基地にクッションとか机ふえてるっ!」
「それに、左側に扉もふえてるよ?」
「あっ!アルムちゃんとフィーロ君の部屋作っておいたよ!私の部屋が真ん中で、フィーロ君の部屋は左、アルムちゃんが右だよ!表札があるからその部屋をつかってね!」
「「ほんとっ!!?」」
みんな思い思いに行動し始めちゃったから説明が追いつかない·····
とりあえず女子組は先にお風呂に入ろう。
「女の子は先にお風呂はいろっ!フィーロ君は一緒に入りたくないんだよね?じゃあ先に自分の部屋を見たり自分好みに改造しといていいよ!」
「やった!ありがとうソフィちゃんっ!!じゃあ僕の事は気にしないでみんなお風呂いってきてね!」
「じゃあみんないくよー!!目的地は右だー!!」
「「「わーーいっ!!」」」
私の掛け声と共に、女子組は右のお風呂場へ、男子組·····というかフィーロ君は左側にある新しく出来た自分の部屋へ突撃してきたしていった。
◇
「ここが脱衣場だよ!脱いだ服とかはそこのカゴの中に入れておいてね!」
「はーい!」
「凄いわね····· 王都でも見たこと無いわ」
「おじいちゃんの家のおふろの方が綺麗だけど、わたしこっちの方がすきー!」
「ふっふっふ、お風呂をみたらもっと驚くと思うよ?って事で!さっさと脱いでお風呂にはいろー!」
「「「おー!!」」」
私たちは脱衣場のカゴの前に行き、スポスポと服を脱いでカゴの中に入れていく。
もちろん私はまだまだガキンチョなので色気なんぞ無いっ!!
一瞬でスッポンポンになった私はいつも通り垢擦り用のゴワゴワ安タオルとフワフワの身体を拭く用の2つのタオルを持って、仁王立ちしてみんなの着替えを待つ。
「ちょ、ちょっとソフィ!はしたないわよ!あと湯浴み着は無いのかしら?」
「うんうん、おふろなのに湯浴み着無いの?」
「えっ、あっ、無いよ?」
「ソフィちゃん湯浴み着って何?フシ町の温泉には無かったよ?」
「湯浴み着はお風呂に着て入る専用の服だよ、貴族様とか他の街の人は着るみたいだけど、私たちの町は鉱山の町だから汚れを落とす邪魔になる湯浴み着を着ない文化なのかな?」
「·····無いものは仕方ないわね、ここはソフィの町の方式に従うわ」
「わたしも!」
グラちゃんは裸でお風呂に入るのに慣れていないのか、少し恥ずかしそうに服を脱ぎ始めた。
ウナちゃん?
ウナちゃんは気がついたら服が綺麗に畳まれてカゴの中に入ってるし、いつの間にか私の隣で仁王立ちしていた。
ほんとウナちゃんは一瞬でも意識を逸らすとどこにいるか分からなくなるんだよね·····
というか、湯浴み着を着るような環境で成長した2人の育ちの良さが感じられて何とも言えない感じが·····
いや、やっぱり私は今の私にしておいて良かった、もし俺が2人のどちらかになっていたら窮屈すぎて嫌になっていたかもしれない。
やっぱりお風呂は全裸で入るものだよね!!
なんて考えている内にグラちゃんも着替え終わったのか、恥ずかしそうにタオルで身体を隠しながらこちらへやってきた。
「とりあえず全部脱いだわ、やっぱり寒いし恥ずかしいわね·····」
「まぁそれはそのうち慣れるよ!とりあえずこれで全員かな?よし!それじゃ『湯ートピア』に3名様ごあんなーい!!」
「「「おおおお!!」」」
私は露天風呂に繋がる引き戸をガララッと開ける。
すると、わざと外の気温を下げていた事で沢山出ていた湯気が脱衣場にまで流れ込んできて、ドアの外は温泉から立ち上る湯気が魔法のライトで照らされて幻想的な雰囲気を醸し出していた。
「じゃあいk」
「みなのもの!突撃よー!!」
「「わあーいっ!!」」
「あっ!ちょっ!温泉に入る前のルールが!ああもう!みんなまってー!!滑るから走らないでー!!」
久しぶりに入るお風呂にみんな我慢出来なかったのか、珍しく私を置いて突撃してしまった。
◇
「いい?温泉には作法があるの!とりあえず温泉では絶対に走っちゃダメ!滑りやすいし転んだら大怪我に繋がるから!じゃあまずはそこの席にある桶を持って····· ウナちゃん1番手前のは私専用のところだから使わないでっ!」
「「「はーい」」」
まったく·····
みんなが走って体も洗わずに温泉に飛び込もうとしたので、無属性魔法の『サイコキネシス』で無理やり止めて、温泉の入り方を1から教える羽目になってしまった。
入り方を知っているアルムちゃんも道連れだ。
「桶を持った?OK?じゃあみんなシャワーのある洗い場の前にある木の椅子に座って、蛇口の下に桶を置いてレバーを下げてお湯を貯めて身体にゆっくり掛けてお湯の温度に身体を慣らして、いきなり熱いお湯が身体にかかるとヒートショックで死ぬ事もあるからゆっくり掛けてね、かけ終わったらまずは髪をそこにあるシャンプーの容器から3プッシュくらいやっ」
「そ、ソフィちゃん?ここからは大体わかるから、もう大丈夫だよ?」
「え、ええ、私も我を忘れて真っ先に温泉に入ろうとしたのは謝るわ、だから」
「問答無用、管理人の指示は絶対」
「「「はーい·····」」」
その後、日本式の温泉の入り方を徹底的に3人に教えこんたけど、あまりにも長くなっちゃったから全カットする事になりました·····
はい、反省してます·····
他人に自己流のマナーを押し付けるのはマナー違反ってわかってます、でも許せなかったんです許してください·····
◇
「よし!これでカンペキっ!それじゃ待ちに待った温泉に入ろー!!」
「「「やったーー!!!」」」
私と私にミッチリと温泉の作法を教えこまれお肌プルプル髪ツヤツヤなのにゲッソリした3人は洗い場から立ち上り、ようやく温泉に入る段階まで来た。
私は温泉に近づくと、まずは手を入れて湯加減を確認する。
うん、42度かな?私好みの温度だ。
香りは·····
硫黄のいい香りだ。
正確には硫黄ではなく火山ガスの硫化水素が水に溶け込んでいてその香りが硫黄の香りと呼ばれている。
この温泉の泉質はにごり湯の単純硫黄泉なので特に温泉の香りが強い。
「よし、湯加減バッチリ!でもちょっと熱めだから足からゆっくり入る方がいいよ、あと飛び込むのはどこの温泉でも絶対にダメだからね!」
「もちろんわかってるよ!」
「わかりましたわ、早く入りましょう?」
「さむーい!はやくはいりたーい!」
「それじゃ、どうぞ!」
「「「わーい!」」」
私は温泉の縁に腰掛け、片足ずつゆっくりと足を入れていく。
寒めに設定してあった気温のせいで冷えた足が、熱めの温泉に入ると温度差のせいで熱い痛いと悲鳴をあげるが、それがまた良い。
両足が温泉に浸かったら、湯船の中に立ってゆっくりと腰を下ろしていく。
すると私の冷えた体を熱々の温泉が包み込み、そのまま胸まで浸かると私の冷えた全身を強くも優しく温め始めた。
「はぁぁぁぁぁぁああああっ♡たまんないっ·····」
「んんんーーっ!!きもちいいっ!!」
「あ゛あ゛ぁぁ、疲れが取れるわぁ·····」
「うなぁ·····」
みんなが肩まで温泉に浸かると、それぞれ違った反応をしてとても面白い。
アルムちゃんは6才の女の子らしく元気いっぱいに身体を伸ばして、ちゃぷちゃぷと水遊びをし始めた。
ふふふ、後で手でやる水鉄砲を教えてあげよう。
グラちゃんはなんと言うか····· 凄いオッサン臭い声を上げて、温泉の縁に両手を置いて足を組んで天を仰ぎながらオッサンのようにリラックスし始めた。
まだ6才なのに、思わず日本酒をお酌してしまいそうになってしまうほど似合っているのが不思議だ。
·····えっと、本当に貴族の娘?
ウナちゃんは溶けていた。
いや、もう溶けていると表さざるを得ないほど見事に蕩けて、そしてそのまま湯船の中にズルズルと引きずり込まれ·····
「ウナちゃん!?」
「はっ!?と、とろけてた·····」
水と一体化しそうになっていたウナちゃんは私の声で何とか固体····· うーん、スライムみたいな事になっているが何とかその形状を保つ事に成功したウナちゃんは、露天風呂の縁に背中を預け温泉を楽しみ始めた。
·····あの子ホントに人間?スライムとか精霊とかの間違いじゃない?
「みんな、お楽しみはこれからだよ!」
「ん?ソフィちゃんなんかやるの!?」
「あ゛ぁぁぁあ····· はっ、やだ私ったらはしたない·····」
「たのしみぃ·····」
「ふっふっふ、これより第1回温泉女子会を開催する!みんな準備はいいかー!!」
『『『おーーーーーっ!!!』』』
さぁ!
お楽しみの時間はこれからだよっ!!
名前:ソフィ・シュテイン
年齢:6才
ひと言コメント
「温泉サイコー!毎日入りたい!入ってるけど!」
名前:アルム
年齢:6才
ひと言コメント
「温泉女子会たのしみっ!!」
名前:グラちゃん
年齢:6才
ひと言コメント
「やっぱりお風呂はいいわ······ というか名前!ちゃんとフルネームにしなさい!貴族の名前を省略するなんて無礼よ!私はグラちゃんじゃなくてグラシアr(略」
名前:ウナちゃん
年齢:6才
ひと言コメント
「ほんとうは溶けてないよ?とけてるっていうのは例えだからね?」
名前:フィーロ
年齢:6才
ひと言コメント
「·····なんか僕だけハブられてる気がする、でも自分の秘密基地があるってサイコー!だから気にしないっ!!」




