潜入!ランチタイムの冒険者酒場っ!
「はい、これで全員の自己紹介が終わりましたね!みんな、友だちの顔と名前は覚えたかな?」
『はーい!』
野外で魔力トレーニングを終えたあと、私たちはクラスまで戻って自己紹介を行った。
·····人数が50人も居るから自己紹介は省略、クラスメイトの名前とかは登場したら説明するねっ☆
とりあえず今回は1人だけ紹介しよう。
◇
私たちは各自席に座ると先生が自己紹介を始めた。
先生の見た目は髪型がショートボブの深緑色で、ハキハキした体育系な感じのそこそこ若い女の先生だ。
「私はみなさんの担任になった『ビオラ』と言います、これから9年間あなたたちの担任として頑張って行きますのでよろしくお願いしますね!何か先生に質問とかあるかな?特別に何でも聞いていいですよ!」
Q.得意な魔法はなんですか!
「得意な魔法は植物魔法ですね」
Q.今何歳ですか!
「えっ年齢?今年で20「うそつけー!」ソフィちゃん後でコッチ来なさい」
Q.彼氏はいますか!
「彼氏!?くっ·····残念ながら居ないわ·····募集中よ」
Q.好き花は薔薇ですか?
「えっ?そ、そうだけどよく分かったわね?」
Q.好きな食べ物は?
「焼き鳥、唐揚げ、チーズ、生ハム、ソーセージ、あとビールね」
Q.お肌綺麗!5歳くらい若く見える!
「21歳に見えるなんて嬉しいわ〜ありが····· ソフィちゃんには私の年齢と同じ回数のゲンコツをプレゼントするわ、覚悟しなさい」
◇
「いてて·····」
「ソフィちゃん、なんで自分から追加のゲンコツを食らってたの?」
「ウナちゃん、ああいうのを自業自得って言うんだよ?絶対に真似しちゃダメだからね、先生のゲンコツを21発くらった後に『あれ?5発足りませんよ?』とか言って合計26発食らうようなヒトには絶対なっちゃダメだからね?」
「·····ソフィは天才なのかアホなのか、イマイチわからないわ」
「そんな事よりお昼は何食べる?」
あの後ビオラ先生にキッチリ26発ゲンコツを食らった私は、ヒリヒリする頭頂部を撫でながら皆で街へお昼ご飯を食べに向かっていた。
この前とは違い、ランチ時というだけあって魔法学校の学生たちの数が多く、それに合わせて味付けが濃くて大盛りで格安な、学生向けのランチ限定メニューが色々な店で出されているようだ。
「そういえばさ、前に夜に冒険者酒場に行った時に冒険者の人が『昼は格安でランチを食べられる』って言ってたからさ、行ってみない?」
「あっ!僕それがいい!」
「私は甘いものがいいなぁ·····」
「私たちが行って大丈夫なのかしら?いつの間にかアビューズも居なくなってるし·····」
「冒険者さんたち、怖くないといいなぁ·····」
「とりあえずお店の前まで行ってみよー!」
色々な露店が立ち並んでいて人でごった返した通りをみんなで進んでいくと、目的の冒険者酒場が見えてきた。
·····だが、なんか人の量が少ない。
いや、普通に人は結構入っているっぽいのだが、ほかの店に比べて明らかに人が少ない。
というか行列が出来てない。
「今なら並ばずに入れるんじゃない?」
「そうだね!混まない内にさっさと入っちゃおう!」
「それじゃ、とつげきー!」
「「「「おーー!!」」」」
私たち一行は、通行人の迷惑にならない程度の速さで走って昼の冒険者酒場へと突撃していった。
◇
「らっしゃい、好きな席に座ってくれ····· ってこの前来たガキンチョ共じゃねぇか!よく物怖じせず入ってこれたな!」
「はいっ!ランチをやってるって聞いたんで、来てみちゃいました!」
「そうか、だったら腕によりをかけて作ってやるから楽しみにしとけよ?」
『はいっ!』
私たちはお店の奥にある少し大きめのテーブルに座って、早速メニューを見てみる。
ふむふむ?
冒険者Aセットがステーキ定食で冒険者Bセットがハンバーグ定食、冒険者Cセットがオーク肉入りクロケット?定食で·····
あっ、駆け出し冒険者セットが凄くお得だ!
ミニハンバーグにミニステーキにクロケット1個と、日替わりの果物1つと、パンかパスタか選べて500円なんて、お得すぎるにも程がある。
「私は駆け出し冒険者セットにする!」
「僕も駆け出し冒険者セットかなぁ·····」
「ワタシも!」
「私もこれにしようかしら」
「わたしもこれにしてみるっ」
「えっと、店員さんってどこだろ?すいませーん!店員さーん!」
「ん?呼んだか?」
「えっ、冒険者じゃなかったんですか!?」
「そうだ、俺はここのマスターだぜ?」
この前来た時にランチタイムがある事を教えてくれた冒険者っぽいゴツいオッチャンはどうやらここの店員さん、それもマスターだったようだ。
「凄い冒険者っぽかったんで、てっきり常連さんかと思っちゃいました、というかマスターってことは冒険者ギルドのギルドマスターですか!?」
「いや、酒場のマスターの方だ、店長って言った方がわかりやすいか?あとギルドマスターは他にいるぞ」
「へぇ····· あっ、注文は駆け出し冒険者セットを5人分です!」
「へいよ、ちょっと待ってな」
私たちが注文を伝えると、マスターは厨房へ消えていった。
何はともあれ、冒険者酒場のランチがどんなものなのかとても楽しみだ。
◇
あの後マスターは厨房の料理人にオーダーを伝えたら私たちのところに戻ってきて、色々教えてくれた。
ここのマスターさんは引退した元冒険者で人望が厚かったので冒険者酒場のマスターを任されたそうだ。
あと、駆け出し冒険者セットがお得なのは名前の通り駆け出し冒険者····· ではなく学生限定の特別ランチメニューで、格安で色々な種類を食べられるようにしてあるらしい。
安い理由は赤字覚悟なのもあるが、ギルドから食材を直接卸しているかららしい。
あと、人が少ないのは夜の冒険者酒場のイメージが悪くて来ないのと、マスターや冒険者に恐れて学生が入ってこないかららしい。
つまり、冒険者酒場は昼間でもあまり酷く混雑はしない穴場スポットなのだ。
これはいい場所を見つけたかもしれない。
·····と考えていると、別の店員さんが駆け出し冒険者セットを持ってきたので、さっさと食べてしまおう。
「はい、駆け出し冒険者セットですー、沢山食べて元気に勉強するんだよー」
「はーい!それじゃ!いただきまーす!」
まずは何から食べるか·····
クロケットからだ!
·····そういえば、クロケットってなんだろ?
クロケットをフォークで刺すと衣がサクッと良い音を立てて突き刺さった。
そしてクロケットを口に運ぶと·····
「あっつ!!はふっはふっ!おいひー!!」
これクロケットって名前だけどコロッケだ!!
そうか、クロケットってコロッケの語源なんだ!
【豆知識】
実はクロケットは現世では日本のクリームコロッケに近い料理なのだが、どうやらこの世界では通常のコロッケに近い料理のようで、中身は芋と肉が混ざった物に衣をつけて揚げた料理となっている。
それにしてもジャガイモがアッツアツで、しかもオーク肉が結構沢山入っていてとても美味しい。
さてさて、次は何を食べよっかな〜
「これだっ!」
今度は小さめのハンバーグにフォークを突き刺すと、刺した所から肉汁が溢れ出したではないか。
あぁ、肉汁が勿体ない、後でパンに付けて1滴残らず食べてあげるからね!
だがハンバーグ本体が先だ。
「はふっ!?うっっま!!凄い美味しいっ!!」
なんと先程流れた肉汁は氷山の一角だったようだ、ハンバーグを口に入れて噛んだ瞬間、ひき肉がホロッと口の中で解け、それと同時に肉汁も口の中に溢れ出した。
それに、この肉も相当美味しい。
確かオークとミニタウロスの合い挽き肉って書いてあった気がする。
魔物と言うだけあって少しワイルドな味な気もするが、それを差し引いても充分美味しい。
これはハンバーグ定食にするべきだったかも····· いや、まだステーキを食べていないのに断言するのは早すぎる、だってステーキはAセットなのだから·····
◇
最後はステーキだ、これもミニタウロスという四足歩行の弱いミノタウロス型の魔物の肉だそうで、そこまで強くないのに肉が美味いという事でよく狩られる魔物の肉だそうだ。
·····四足歩行のミノタウロスってただの牛だよね?見た事ないから知らないけど。
まぁ美味しかったらなんでもいいんだけどさ。
その普通の牛疑惑のあるミニタウロスのミニステーキをお行儀よくナイフとフォークで切って·····
すとんっ
マジ?
ステーキナイフがスルっと入って、ステーキが簡単に切れてしまった。
どれだけ柔らかいんだ·····
じゅるり·····
ぱくっ
「っっ!!!?」
これは、マジで美味しい·····
前世で食べたかった、よくテレビで特集される高級ステーキの如き美味さだ。
脂は少ないみたいだけど、身の柔らかさが半端じゃない、歯が要らないってこういう事なのか·····
あぁ!なんでこの世界には米が無いんだ!
このステーキをご飯に乗せて一気に掻き込みたい!
あぁ、私の愛しのお米は一体何処へ·····
「「「「「美味しすぎる·····!!」」」」」
ヤバい、もうパンが無い·····!
くそぅ、この少し残ったおかずをパンに挟んで肉汁に浸して食べてやろうと思ったのに·····!
「腹ペコなガキンチョ共に朗報だ、学生はパンとパスタはお代わり無料だぞ」
「「「「「おかわりっ!!」」」」」
「おう、ちょっと待ってな」
ちなみに私は思いついた事があったのでパンではなくパスタをお代わりした。
◇
しばらくするとマスターがお代わりを持ってきた。
私は味付けがされていないパスタをおかずが乗っていた皿に移し替え、ハンバーグを崩しながら肉汁とパスタを絡めて·····
「そ、ソフィちゃん、それ、まさか·····」
「ふっふっふ····· 私特製、シメのパスタだよ!」
ほとんど無味だったパスタが、ハンバーグから溢れ出た肉汁とソースと崩したハンバーグと絡まり、ところどころに具材としてステーキがあって·····
私は禁断の料理を思いついてしまったのではないだろうか?
だが!私の手は止められないっ!
いただきますっ!!
「はむっ····· はひゅぅ·····」
私はパスタを口に入れた瞬間、思わず脱力してしまった。
ダメだこれ、確実に人をダメにする·····
めっっっっちゃくちゃ美味しい·····
うん、明日のお昼もこれにしよ。
名前:ソフィ・シュテイン
年齢:6才
ひと言コメント
「お米派からパスタ派になるかと思った、もしパスタじゃなくてお米だったら私美味しすぎて死んでたかも」




