未知へ落ちる
翌日
ここか、、、
崖のふもと、岩肌にざっくりと切り分けたような隙間が空いている。
エバンが足を踏み入れると冷えてしっとりとした空気が体を包んだ。全力で走ってきた足を休め、今度はゆっくり進み一切の気配を逃さないように集中する。
鉱山に設置された探知結界は侵入者を一人と判断した。まあ確かに全く同じ潜伏スキル持ちが組んで盗賊をやるとはよほどの確率だろうとはエバンも思う。
だが疑念は残る。そもそもスキルとはいえ探知結界は反応するのだからそのまま突っ切るのは無策すぎる。それに攻撃中すら姿の見えない高度な潜伏ができるのならわざわざ騒ぎを起こさずとも簡単に採掘から密輸送までできそうなものだ、、、いや、一旦考えるのはやめだ。会敵すれば目的もわかるかもしれない。
モートの提案で炎魔法で鉱山を丸ごと爆破して賊をあぶり出すのもあったが、修復が困難な上に相手が対策しているだろうと他みんなの反対で収まった。全くである。大体カードも魔力もそんな量はない。
魔力探知が通じず、不可視特性の潜伏スキルを持つ相手をどう倒すか、どう殺すか。カウンターしかない。こちらが初撃での致命傷を避け、相手に渾身の一撃を叩き込む。そのためには相手の初撃が来る方向を制限するのが有効だ。
坑道の入口付近は人が中腰で歩くほどの高さしかなく幅も狭い。敵は坑道の奥か入口からかの二方向に制限される。だからこそ、ここまで走ってきたのだ。準備はできた。いつでも来い。
戦いが始まる緊張と共に、エバンは言いようもない不安を募らせていた。敵の姿、情報がほとんどない戦闘がこんなにも恐ろしいものだったとは。不意の会敵よりも気味が悪い。聞くところ敵は戦士よりの戦い方をするバトルメイジ。だが長距離の魔法も使えるとしたら?
いや、それよりも、、、
「竜は闘争を好むと言うが、本当に向かってくるとはねぇ」
真横に誰かいる。魔力探知は声がかけられるまで反応しなかった。想定の埒外。その虚は強襲者にとっては完全な隙だった。
エバンがカードを実体化するより早く、彼の肩に手がおかれる。
え、、、? エバンにさらなる混乱が襲いくる。彼は暗闇を落下していた。さっきまでいた地面はどこかへ消え、匂いも音も、風もない虚空へ投げ出されていた。その中でただ、落ちていく。
「A midsummer Night's dream. ようこそ、夢と現の狭間に」
長く伸びた髪、中性的な顔立ちに軽薄そうな瞳。彼?彼女?がこちらに笑いかけた。
「さあ落ち着いて、底につくまでお茶でもしようじゃないか」
突然体勢が安定したと思ったら、エバンは襲撃者と向かい合うように座っていた。それぞれの前には空中に浮いたティーカップ。2人を隔てるように真ん中に浮いているのは大皿いっぱいのマカロン。
「なっ、、、な、何なんだお前は」
やっとのことで絞り出した声は本質を得ない質問となり、動揺を隠せないことが如実に伝わってしまう。
「んー、この三文芝居の作家かな」
ふわふわした口調、要領を得ない状況と返答だが、エバンから見て敵意は感じられない。
「失礼。自己紹介がまだだったね。僕はウィリアム。何でもない、ただのウィリアムさ。こんな方法をとってすまないが、君と秘密裏にコンタクトを取りたくてね」
「、、、エバンと呼んでくれ」
「そうか。じゃあエバン、君は自分の力に疑問を持ったことは無いかい?」
「、、、ある」
間違いなくある。ここ数日ずっと感じている硬質化。スキルの副作用で片付けるにはあまりに異常すぎるそれ。
だがなぜウィリアムとかいう奴が知っているのか?
「なら話が早いね。エバン君、君に提案だ。いいかな?」
いいもなにも、相手が状況を掌握している中で、選択肢などあったものではない。徐々に冷めてきた頭で、エバンは答えを弾き出す。
「要求はなんだ?」
「君に力と向き合う場を与えよう。対価に僕は、君が持つ記憶の共有を所望しようか」
<後書き>
次の投稿がいつになるか分からない、という話をしてから丸々一年以上、一切の連絡なく休載してしまったこと、心よりお詫び申し上げます。作品を応援してくださっている皆様方にはご迷惑をおかけしました。




