第二十八話:決着と、見えてはいけないもの
衝突。
再び。
今度は――全員で。
レイグが前に出る。
「崩す!」
正面から斬り込む。
男は受ける。
だが、その瞬間――
「遅い」
しゃもじ持ちの勇者が横からしゃもじを差し込む。
さらに――
「今だ!!」
元王子の一撃。
三方向。
逃げ場を潰す。
男が舌打ちする。
「ちっ……連携してきやがる」
そこへ――
「終わりだ」
ゲイル。
背後。
完全な死角。
男の目が、初めて見開く。
「いつの間に――」
振り返る。
間に合わない。
――はずだった。
だが。
男が笑う。
「甘い」
その体が、歪む。
影のように。
消える。
次の瞬間。
ゲイルの横。
「こっちだ」
ドンッ!!
衝撃。
ゲイルが吹き飛ぶ。
しゃもじ持ちの勇者
「ゲイル!!」
地面に叩きつけられる。
土煙。
男は肩を回す。
「惜しかったな」
「でも、その速さ――人間じゃねぇ」
沈黙。
土煙の中。
動かない。
遊び人ユウマが小さく言う。
「……やばいな」
レイグ
「まだだ」
その時。
――ズズ……
空気が、軋む。
全員がそちらを見る。
土煙の中。
ゆっくりと、影が立ち上がる。
ゲイル。
だが――
何かが違う。
しゃもじ持ちの勇者
「……え?」
目。
光が薄い。
まるで――
「生き物じゃないみたいな」
遊び人ユウマが呟く。
ゲイルは、何も言わない。
ただ。
一歩、踏み出す。
その瞬間。
空気が、落ちる。
重さが変わる。
男の笑みが消える。
「……なんだそれ」
ゲイルが、初めてはっきりと言う。
「借りは返す」
それだけ。
次の瞬間――
消える。
見えない。
本当に。
「は?」
男の声。
遅い。
ドンッ!!!
衝撃。
男の体が吹き飛ぶ。
岩に叩きつけられる。
砕ける。
「がっ……!?」
誰も、見えていない。
レイグですら。
遊び人ユウマが低く言う。
「……なんだ今の」
元王子
「速度じゃない……」
しゃもじ持ちの勇者
「瞬間移動!?」
違う。
もっと別の何か。
ゲイルは、もう一度踏み出す。
ゆっくり。
確実に。
男が立ち上がる。
だが、余裕はない。
「……お前」
「何者だ」
ゲイルは答えない。
ただ――
剣を構える。
そして。
一閃。
音が、遅れて来る。
――斬。
静寂。
男の体が、止まる。
次の瞬間――
崩れた。
完全に。
沈黙。
風の音だけが戻る。
レイグ
「終わった」
しゃもじ持ちの勇者
「……勝った?マジで幹部倒しちゃったの?」
遊び人ユウマ
「……そうみたい。話し合う暇もなかった。」
元王子はゲイルを見る。
「お前……」
ゲイルは、何も言わない。
ただ剣を収める。
だが。
その瞬間。
ふらつく。
遊び人ユウマがすぐ支える。
「おっと」
ゲイルは小さく呟く。
「……少し、使いすぎた」
しゃもじ持ちの勇者
「今の何!?」
ゲイル
「秘密だ」
即答。
レイグ
「信用できんな」
沈黙。
少しだけ空気が重くなる。
元王子が、もう一歩踏み込もうとする。
「お前、その力――」
その時。
ゲイルが、初めてはっきり遮る。
「聞かないでくれ」
静かだが、強い声。
全員が止まる。
遊び人ユウマが目を細める。
「地雷……!?」
ゲイルは答えない。
ただ、それ以上は踏み込むなという空気だけが残る。
しゃもじ持ちの勇者も、珍しく何も言えない。
レイグは小さく息を吐く。
「……いいだろう」
「今はな」
元王子も視線を落とす。
「……わかった」
誰も、それ以上は聞かない。
聞けない。
“何か”が違いすぎる。
そして元王子が静かに言う。
「……借りは返したのか」
ゲイルは少しだけ空を見る。
「まだだ」
その言葉は、妙に重かった。
山の風が吹く。
戦いは終わった。
だが――
残ったのは違和感。
ゲイルという存在。
そして。
「人間じゃないかもしれない何か」
パーティはまた一つ、厄介なものを抱えた。




