第11話 噂②
四方先輩と前寮長がただならぬ関係だった。
そんなこと、全くもって初耳だった。
話題が話題だ。
兄のいない國弘は、上級生達の輪に入る機会がほとんどない。
一年生がただ普通に生活しているだけでは、耳に入ってこない噂――ということなのだろう。
夜、呆然としたまま食堂で一人夕食を終え、寮の事務所でスマホを持ち出す手続きをし、受け取った後で部屋に戻った。
伊波はまだ帰ってきていない。
ベッドに腰掛けて大きなため息を吐き、崩れるように寝転んだ。
ギシッという音とともに体が沈み込んで、温度のなかった布団に、体温が移っていく。
身体は固く緊張したままだった。
ショックを、受けていた。
何についてショックなのか、自分でもよくわからない。
四方本人が不在で、プライベートに関することを知った後ろめたさ。
美しくて知的な先輩のイメージを壊されてしまった喪失感。
何も知らずに四方と接していた、自分の無知。
前寮長、一条……。
――美徳
日曜日、映画の上映を待っている間に前寮長について触れた時に、映画館のロビーで言われた声が、強く記憶に残っている。
恋人の名前だ。
そこに、愛や、思い入れがあったのだろうか。
そしてその関係は、今も続いているのだろうか。
胸が軋む。
――四方寮長には、気をつけた方がいいと思う
――だから四方寮長って、完全にそっちの人って言われてて……
寮会で毎週雑談し、やがて映画に誘われて、二人で出かけて――。
そんな素振り、感じたことがなかった。
いやまてよ、と思い直す。
(もしかして日曜日のあれって、普通にデートだったんじゃないか?)
となると……。
(俺、狙われてた……?)
心臓がドッと跳ねる。
でも、頭に浮かべた美しい四方と、そんな俗っぽい印象は、どうやっても結びつかなかった。
「何考えてんだよ俺……」
枕に顔を押し付ける。
そもそも、あの人に対して、こんなことを考えてしまう自分が嫌だった。
すごく、失礼な気がした。
でも。
でも、磯崎達の忠告が事実だったとしたら。
(――俺でも、いいのかな)
思った瞬間、枕にぐりぐりと顔をこすりつけた。
おかしい。おかしいおかしい。
違うだろ、そうじゃないだろ。
顔がヒリヒリしてきて、枕から頭を浮かせた時、太ももに、適当に転がしていたスマホが当たった。
なんとか上体を起こして電源を入れると、ロック画面に通知がひとつ浮かび上がる。
『明日の放課後、図書館2階でどう?』




