第六話 ――ウィルテイシアの手記・XXXXXX枚目――
こうして手慰みに手記をしたため始めてから、どのくらい経っただろう。
荷物になるからと、ある程度溜まったら簡易的な書のように加工してそれぞれの地に残して来た。古い順に、そこかしこに置き去りにしてしまっているので。過去に書いた内容や量に関しては、確認のしようもない。
ここのところ、人間たちも騒ぎ始めている。
新たな魔王の台頭。それによる魔王軍の活性化と周辺への侵攻開始。千年前の大侵攻は私が魔王を討伐することで何とか食い止めたものの、やはり手下どもも葬っておくべきだった。今になってそう考えるようになったが、私個人の戦力だけでは、当時は魔王の暗殺しか方法がなかった。口惜しいことこの上ない。
生き残った魔王軍幹部たちは、魔王の器に足る魔族の誕生を待ち、生まれて来た魔族の長たる資質を持ったその者が成長し、魔王を名乗るに至った今。こうして侵攻を再開させたのだろう。やはり魔王の討伐だけでは足りない。魔族の根絶が必要だ。
だが、そのための戦力が不足している。
各国が異世界から勇者を召喚して魔王軍への対抗策としていることは聞いているが。それは決して世界のためではなく、名声と利権を求めているだけの愚かしいものでしかない。
各国、各種族の送り出した勇者が、既に魔王領を目指していると聞く。一番最初に魔王の下に辿り着き、討伐せしめた勇者を輩出した国が、魔王領の支配権を得ることになるのだから、どの国も躍起になっているらしい。悲しいが、これが現実だ。
千年前は、表舞台から早々に私が消えることで、それ以上の争いに発展することはなかったが。生き残った魔族の残党を撲滅できるだけの戦力を備えた種族はいなかった訳だし、各種族が直接衝突しないようにするには、私一人では手が足りないので、都合がよかったと言える。
しかし――。
いや、だからこそ。
今回も、私が。誰よりも早く、魔王を討伐し、魔族の根絶を達成しなければならない。一つの国、一つの種族が、この魔王討伐競争を制し、一人勝ちする未来。それだけは何としても阻止しなければ、各種族間のパワーバランスが崩れ、世界は異種族間の戦争が絶えない、不毛な未来へと進んでいくことになるだろう。
これは高望みだろうか。
生まれ持った容姿――特に両目の下の紋様から、エルフの始祖たる『女神エルフィオーラ』の生まれ変わりとして一族の皆から期待をされていたのに。いつまで経っても精霊を宿すことができなかった上に、周囲の奇異の目からずっと守ってくれていた最愛の両親すら守れなかった、そんな不甲斐ない私には……。
本当に信じられるものが、この世には少な過ぎる。嫌な世の中だ。そんな風に考えてしまう、私自身も含めて――。
このままだと嫌な気分になるので、話を変えよう。
今回も私が一番に魔王を討伐するには、頼れる仲間が必要不可欠。戦力として優れていて、かつ、その力に飲まれていない真の強者こそを私は求めている。
世界が平和であるようにと。世界が愛を中心に回って行くようにと。そんな私と、志を同じくしてくれるなら、尚よい。
こんなことを、今は亡き両親に話したら、高望みが過ぎると笑われそうだが……。それでも、私は肩を並べるのなら。この背中を預けるのなら。心の底から信頼できる、本当の強さを持った者がいい。
種族は問わない。
どこかに、私の求める真の強者はいないものか。
今日、ある噂を聞いた。
何でも、勇者パーティーを追放された黒魔導士がいるらしい。
噂では、その黒魔導士の性格については、「甲斐性なし」だの「独りよがり」だのと、散々な言われようだったが。少なくとも、相当腕の立つ黒魔導士であることが窺える。
仮にも、厳選に厳選を重ねて選ばれる、勇者パーティーの一員になった人物だ。もし、私の求める真の強者であるのなら、是非とも力を貸して欲しいところである。
彼は、どうやらベガリア大陸北東部に位置する港町――サンドルクにいるようだ。何でも、勇者パーティーを抜けてから、ずっとその街に滞在し続けているのだとか。
とにかく、彼に接触してみよう。
世界を創造せし我らが神よ――。
どうか、この出会いが――。
この世界の暗雲を晴らす希望の光とならんことを――。
いや――。
もう祈ることはやめよう――。
祈ることに意味なんてない――。
私は見てきた――。
願いとはどこまでも儚く。脆いものだと。
どの時代でも、どんな状況でも。神は救いの手を差し伸べてはくれなかった――。
もし、この世界に。今も神がいるのなら――。
彼(彼女)は、この世界のことなど、とうに見放しているのだろうから――。
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