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最強魔導士の星婚《ステラリガーレ》~異世界から召喚された勇者に恋人を奪われた上にパーティーを追放されたけど、英雄エルフを嫁にしたら最強超えて究極になった~  作者: 源朝浪
第一部・第一章 伝説の英雄エルフに求婚された

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第五話 求婚

 結婚。


 そう言った瞬間の、彼女の目の輝かせ方と言ったら。まるで初めての恋を知って、心を弾ませる少女のようだった。潤んだ空色の瞳が揺れ、思わず吸い込まれそうになる。


 顔の輪郭(りんかく)(かぶ)る横髪から(のぞ)いた、せわしなくぴょこぴょこと動く両耳を、真っ赤に染めて。全身を駆け巡るむず(がゆ)さと羞恥心(しゅうちしん)で落ち着かないのか。もじもじと体をくねらせながら。


 それでも真っ直ぐに。射貫(いぬ)くような視線を、俺に向けて来る。


 俺の反応が気になって。でも、拒絶されるのが怖くて。


 それは、すぐにでも俺の足元へと視線を逸らしたい衝動と。でも同時に、絶対に俺の顔から視線を逸らしたくないという決意の狭間(はざま)にいるかのような。俺にも同じような経験があるから、その揺れる気持ちはわからないでもない。


 俺が、幼馴染に自分の想いを伝えた時も、そうだったから。


 凛々(りり)しく()り上がっていた彼女の目は、今は力なく()せがちで。過剰に背筋をピンと伸ばし、落ち着かなそうに髪をいじる仕草は。『美しさ』よりも『(あい)らしさ』が際立って見える。


(女性が髪をせわしなく触っている時は、確か心を落ち着かせたい時だったか)


 これは書で読んだ内容を、フィオナに直接尋ねたことがあるから覚えていた。そういえば、勇者の味方ばかりするようになってから、俺の前ではいつも触っていたっけ……。


「……えっと、結婚? 好き合ってる男女が、生涯(しょうがい)をともにしようっていう、あの――」

「そ、そうだ! その結婚だ! 私は貴方(あなた)と結婚したい!」


 俺の言葉に被せるように。力強く声を張りながら。彼女は俺に、ぐいぐいと迫って来た。


 しかし。その言葉が、どうしても呑み込めない。


 だって俺は、勇者パーティの活躍に最後まで貢献することができず。愛した女性からも愛想を尽かされた。もう何者でもない、ただの黒魔導士でしかなく。今も胸の内ポケットに入っているお守りは、愛する人(フィオナ)を守り続けると誓った、あの日の残影(ざんえい)そのもの。


 だからこそ。俺は彼女が向けてくるその好意を、素直には受け取ることができなかった。


(ダメだ。そんな風に言われたら、どうしても思い出しちまう……)


 誰かに好意を持たれているという心地よさに、再び希望を見出してしまいそうになり。それでも、一度は将来を誓ったはずの幼馴染の、俺を手ひどくフッたあの瞬間の氷のような眼差しが脳裏に(よみがえ)って。俺の思考が、ゆっくりと、じっとりと。黒い泥で満たされて行く。


 その(かん)も。口の動きから、彼女が続けて何か言葉を発しているのがわかるけど。結婚という言葉があまりの衝撃的で。いまだ()えていない心の傷に、焼けた火箸(ひばし)を押し付けられようとしているかのような絶望感に包まれた。


 だから今。彼女が口にしているであろう言葉は、まったく耳に入っていないけど。


 彼女が何かを言っているなら、それに(こた)えなければならない。


「……ちょっと待って。何で、その結論になったの?」


 何とか言葉を絞り出す。


 これ以上彼女の感情を高ぶらせないよう。ゆっくりと。息を吐くように。


 俺の声の低さに驚いたのか。彼女の勢いは削がれ。一気にトーンダウンした。


「あ、あの……。 勘違いしないで欲しいんだ。本当は、こんなことを言うつもりじゃなかった。私は、本当に、ただ純粋に……。ともに魔族と戦ってくれる仲間を求めていて――」


 自分でもどうしようもないくらい、ふと湧き上がった衝動に振り回されて。いかにも、ついぽろっと口から出てしまったというような、その戸惑い。不可抗力から発された『結婚』という言葉。


 しかし、口にしてしまった以上、想いは膨れ上がって行くため、後には引けず。それ故に、あれこれと言葉を尽くすしかないのだと。


 それでも。彼女は一度目を閉じて。ゆっくりと大きく息を吐き。


 次に目を開けた時には、彼女の瞳から迷いや戸惑いは消えていた。


 たぶんそれは。彼女がエルフで。俺が思っているよりも、ずっと長い時を生きているからこそ辿り着いた。一種の達観による、自身の客観視の賜物(たまもの)だったのだろう。


 次に彼女が(つむ)いだ言葉が、それを俺に教えてくれた。


「私は美しいものが好きだ。流れる星のような()()()()()()()()ではなく。私と同じ、あなたのその生き様が。この剣のように研ぎ澄まされ、磨き上げられた刃にこそ宿る、()()()()()()()と同じに見えて……」


 歌うように(つづ)られる言葉が、俺の汚泥(おでい)に満ちた心に、一条(いちじょう)の光となって差し込む。


(おご)らず、堅実(けんじつ)で、でも(したた)かで。そんなところをこそ、私は認め。ずっと(そば)に置いておきたいと。そう切望(せつぼう)させるんだ」


 彼女が自らの剣に注ぐ、真っ直ぐな瞳が教えてくれる。


「私は欲しい。この剣に勝るとも劣らない。あなたが努力の果てに得たであろう、その魂の(きら)めきが」


 柔らかで、暖かくて、心地よい。まるで春の日の太陽のような。そんな優しく包み込むような笑顔で。心を()てつかせ、魂を(むしば)んでいた汚泥(おでい)を。その(ぬく)もりで溶かし、洗い流すように。俺を――。俺の心を解き放つ。


「だから私は、この生涯(しょうがい)貴方(あなた)に捧げる。私が、この剣に命を預けているのと同じように。おとぎ話の大英雄としてではなく、エルフという一種族としてでもなく。純粋に、私個人として。貴方(あなた)を――。この命尽きるまで、愛し続けると誓おう」


 彼女の色白の手が、俺に差し伸べられた。


 それはいつだったか、極東(きょくとう)に伝わる伝承について記された書で中で見た。まさしく天から降りて来た、一筋のクモの糸のようで。


「もちろん、いきなり結婚まで行かなくてもいいんだ。どうか私の隣で……。ともに笑っていてくれないか?」


 そう言って、俺に向けられた瞳もまた。剣に注がれていたのと同じくらい。いや、もしかしたらそれ以上に。清々しいくらい真っ直ぐで、煌めいて見えた。


「だから。そんな顔をしないで欲しい。(いま)だ名も知らぬ、黄昏色(たそがれいろ)(きみ)。きっと貴方(あなた)には、()を照らす太陽のような笑顔こそが相応(ふさわ)しいと。そう思うから」


 俺は……。


 俺は今、どんな顔をしている?


 たくさんの感情と、いくつもの思考を内包した俺は――。


 ふと感じた、頬を伝う熱さ。


 その正体を俺は知っている。


 そうだ、これは――。


 涙。


 そうか。俺は今、泣いているんだ。


 男の癖にみっともなく。人前で、それも女性の前で、ボロボロと涙をこぼして……。


 目の前にいるのが師匠だったら、『男の癖に女々しいところを見せるんじゃぁない!』とか言って、きっと。あの女の癖に恐ろしく硬い拳で、ボコボコに殴られていたことだろう。


 でも師匠は、俺をしこたま殴った後で。痣だらけの顔で半べそをかく俺に、いつもこんな風に言うんだ。


『男なら、人前で流す涙は、本当に必要な時まで取って置け。それを受け止めてくれる相手が現れたなら、きっと。そいつはお前を、絶対に裏切らない』


 なんて。


 久しぶりに泣いたことで。不意にそんな風に、師匠のことを思い出したり。


「……ダメか?」


 ふと意識が現実に戻れば、目の前にはウィルテイシアがいて。


 どこか寂し気で、悲し気で。ともすれば、目尻(めじり)に涙でも()めていそうなほど(はかな)く。でも、そんなものの一切を蹴っ飛ばしてしまうような満面の笑みを、俺に向けてくれていた。


 だからこそ。伸ばされたまま行き場のない、彼女の手が。とても寂しそうに見えて。


 俺の手が自然と上がり、彼女の小さな手に重なる。


「……いいのか? 俺で――」

「その言い方は違うぞ? 黄昏色(たそがれいろ)(きみ)。私は、貴方(あなた)がいいと。貴方(あなた)でなければならないと、そう言っているんだ」


 空色の瞳に映る俺。


 ツンツンとした黒のショートヘアの、ほっそりとした輪郭の顔が。彼女の瞳の中に。色鮮やかに映っていた。


 その宝石のような瞳に映る俺は、大して顔がいい訳でもなく。覚えやすい特徴がある訳でもない。どこにでもいるような、平凡で、無個性の、しょうもない男の顔をしている。


 しかも今は涙でぐしゃぐしゃで、身なりもボロボロで。とても見れたものではない。


 それでも、彼女は微笑(ほほえ)んでくれている。


 ならば、俺は……。


 勇者パーティーの一員でなくなったことで。将来を誓った恋人に手ひどく裏切られたことで。もう誰の役にも立てない。誰のためにも生きられないと。そう思っていた俺に。


 もう一度チャンスをくれるなら。彼女が希望の光をくれるなら。今一度立ち上がってみるのも、いいのではないかと。


「ところで、そろそろ名前を教えてくれないか? いつまでも黄昏色(たそがれいろ)(きみ)では、正直味気(あじけ)ないし。何より、貴方(あなた)()()()は似合わない。それでは隣に立つ私の想いも、空滑(からすべ)りするというものだろう?」


 空滑(からすべ)りなんて言葉は、俺の知る辞書には()っていないけれど。それでも言いたいことはわかる。


 名前の大切さは、俺が魔導士であればこそ、軽視してはいけない。


 名前があるということは、その存在を認めるということ。


 存在することを肯定する。存在することを許される。そんな大事な要素なのだから。


 だから俺は、彼女に名乗らなければならない。


 俺という存在を肯定したいと、そう申し出てくれている彼女に。


「……ライオット。俺の名前は、ライオット=ノールディだ」


 俺の名を聞いた彼女は、一層明るい笑みを浮かべ。そして、握った手に力を込めた。


「……そうか。それじゃあライオット=ノールディ。改めて名乗ろう。私はウィルテイシア。エルフの里――ソラレスタのウィルテイシアだ。人間と違って姓という文化がないから、ただウィルテイシアと。そう呼んで欲しい」


 この時の彼女の顔は、俺の生涯において、最も重要となる記憶になるが。それはまだ、少し先の話。


 とにかく。俺は握られた手を握り返し、そして改めて、彼女の名を呼ぶ。


「こんな情けない男だけど。まずは君の旅の道連(みちづ)れとして頼むよ、ウィルテイシア。結婚云々(うんぬん)に関しては……。その……。俺の心の整理がつくまで、待っていてくれるとありがたいかな」


 空いた手で涙をぬぐいながら。


 俺は、今できる精一杯の笑顔を、彼女に向けた。

読んでいただきありがとうございます。


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