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最強魔導士の星婚《ステラリガーレ》~異世界から召喚された勇者に恋人を奪われた上にパーティーを追放されたけど、英雄エルフを嫁にしたら最強超えて究極になった~  作者: 源朝浪
第一部・第二章 精霊と魔族と星痕《ステラインデクス》

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第二十五話 緊急事態

 そうして家の中に駆け込んで来たのは、武装したエルフの男性が三人。ウィルテイシアの剣と同様の、淡い光を放つ金属の鎧と、手斧と双剣、そして片刃片手剣。魔法鋼で作られたそれらは、ウィルテイシアの剣にも負けず劣らずの意匠が施されており。芸術品としても通用しそうなほど、(きら)びやかな美しさを(まと)っている。


「ウィルテイシア! 里に人間――異種族を連れ込むとは、どういうつもりだ!」


 どうやら彼らは、俺がここにいることにご立腹の様子。


 精霊の泉の時と違い、今回は彼らの了承を得て入った訳ではないのだから。それ自体は致し方ない。


 しかし、不躾(ぶしつけ)な視線は。俺ではなく、むしろウィルテイシアの方に注がれていた。


 それを見れば、彼女の言葉の真実味が増すと言うもの。守護なしの忌子(いみご)と言われた彼女が異種族を連れて里に戻って来たのだから、彼らの心情としては、心穏やかという訳にも行かないだろう。


「……私は、彼――ライオット=ノールディと生涯をともにすると決めた。いずれは夫婦の(ちぎ)りを結ぶつもりでいる。今回の里帰りは、その報告のためだ」


 俺の胸の中からそっと離れ、涙を手で拭って、彼らと対峙するウィルテイシア。真っ直ぐに彼らを見据える彼女の瞳には、もう先ほどまで見せていた弱さなど、欠片(かけら)も浮かんでいない。


「何を――!? 忌子いみごのくせに、禁忌にも触れようと言うのか!?」


 エルフの間では、異種族婚は禁忌扱いのようだ。俺が生まれたアルガトラム王国で異種族カップルを見かけたことは一切なかったけど。禁忌とまで言われていた記憶はない。この辺りも種族間の価値観の違いなのだろう。


「あなたたちにどう思われようと、私にはもう関係ない。私は心から尊敬するに値する、心から愛する人とともに歩むだけだ」


 覚悟を決めた女性は強いと言うが、今のウィルテイシアもそういう状態なのだろうか。尊敬はともかく、愛するなどと言われると少し気恥しい。


 が、彼女が覚悟を決めたのだから、俺が後れを取る訳にはいかないだろう。俺も彼女の横に並び、彼女の手を取って、彼らの前に立った。


「俺も同じ気持ちだよ。今はまだ恋愛とまでは言えないけど。少なくとも、俺はこの手を放すつもりはないし。この命が続く限り、彼女の隣に立つに相応(ふさわ)しい人間であり続けるつもりだ」

「……ライオット。いきなり言われると恥ずかしい」

「ここで恥ずかしがらないでくれよ。せっかくばっちり決めたつもりなのに……」


 この状況でやるようなやり取りではないだろうが、いつものウィルテイシアに戻ってくれたようなので、俺としては一安心。


 あとはこの物騒な状況をどうするかだけど――。


「おい、そんなことをしている場合じゃない!」


 新たに一人の女性エルフが駆け込んで来たかと思えば、その様相(ようそう)(ひど)(おび)えている様子だった。何が起こったのかはわからないが、何かよくないことが起こっているのだろう。


「何だ! 今こっちは不埒者(ふらちもの)の排除で忙し――」

「魔族が攻めて来た! しかも相手は、あの魔四将(まししょう)の一人だ!」

「何だと!?」


 魔四将(まししょう)。デモストールも言っていた、魔王直属の配下にして、四大魔軍を従える軍団長。その強さは、たった一人で一種族を亡ぼすとされ、全ての種族にとっての脅威となり得る存在だ。


「何故、魔四将(まししょう)自らがいきなり侵攻してくるんだ!」

「私が知るか! とにかく、戦力を集中して、里への侵入を防がなければ! ここには戦力にならない子どもたちもいるのだから!」

「あ、ああ……。そうだな……」


 武装した三人の男性エルフも、ことの重大さを前に、俺たちへの対応を諦めたらしい。優先順位を考えれば、より危険度の高い相手に向かうしかないのだから。


「お前たち! 余計なことはするなよ! 今回は見逃してやるから、早々にこの里から立ち去れ! いいな!」


 そう言い残して、四人のエルフたちは慌ただしく家から飛び出して行く。


 残された取れとウィルテイシアは、お互いに顔を見やって。何も言わずに、お互いに首を縦に振った。


 この状況で何をすべきかは、お互いに理解している。となれば、あとがそれを行動に移すだけ。


 どちらからともなく駆け出し、ウィルテイシアの家をあとにして、周囲のエルフたちが向かう方向へと駆ける。


 辿り着いた先。完全武装したエルフの集団を横目にその場所を通り抜け、ウィルテイシアが結界の穴を開く。森の外れにある茂みに身を潜めて、森の外を確認すれば。その先には魔族の大部隊が、今にも攻め込んで来そうなほど、近くに配置されていた。


「おいおい! こんなに近くに来るまで気付かなかったのか!?」

「……結界の効果が裏目に出た形だな。この森の結界が、魔力の流れをも遮断してしまうのが仇になった」


 ウィルテイシアの両親が亡くなったと言う魔族の侵攻後、ソラレスタは結界を新しくし、里を包む結界ごと今の地域に引っ越して来たらしいけど。その際に魔力が漏れ出ないように改良を加えた結界は、結果として魔族の接近を察知する妨げになってしまったのである。


(結界の中にいたからこそ、この膨大な闇の魔力の存在に気づけなかった訳か。こうして考えると、結界にもまだまだ改良すべき点がありそうだ……)


 だけど、今それを考えている場合ではない。


 この大軍団の侵攻を許せば、このエルフの里――ソラレスタは滅びるしかないのだから。


「これだけの大軍勢となると、一々相手にしてたら数で押し切られるな……」

「ああ。戦略的には真っ先に敵将を討ち取って、隊の統率を乱すのが定石だが……」

「相手は魔四将(まししょう)の一人……か。そう簡単には行かないだろうな……」


 大軍勢のその向こう。なだらかな丘の上に立つ一つの影。


 まだ遠くにいるというのに、その存在感は凄まじかった。


 遠視(えんし)の魔法でその姿を確認した俺は、仰天する。


 以前戦った魔族と同様、エルフほどでないにせよ(とが)った耳。しかし、今回の相手は、その耳の先に獣人に見られるような体毛が見て取れる。所々に赤い房が混じっている黒の長髪は、さながら獅子のたてがみのよう。金の瞳の瞳孔は鋭く、猫科獣人のそれを思わせる。何より目を引くのは紫の肌と手足の末端に見られる体毛。そして長く鋭い爪。それらが一体となり、全体の造形として非常に美しいシルエットにまとまっているではないか。


 明らかに猫科系の獣人の特徴を持っているけど、獣人の肌は紫にはならない。人間と同じ色か、せいぜい茶褐色をしているかくらいだ。それなのに――。


(まさか異種族同士の交雑種か? 組み合わせは魔族と猫科獣人なんだろうけど……)


 嫌な予感がする。


 ただ相手の戦闘力を推し量って恐怖しているのではない。


 もっと根源的で、本能的な。


 生物としての恐怖。


 こいつを相手取るのはよくないと、全身の毛穴が粟立(あわだ)つのがわかる。


 それはウィルテイシアも同じようで、額に玉のような汗を、大量に浮かべていた。


「ウィルテイシアはどうしたい? 俺は正直、今回は逃げるってのも手だと思うけど……」


 以前戦った魔族とは、存在感も放出される魔力量も桁違いだ。これは、俺の判断だけでは決められない。


「逃げる……か。確かにそれもありだな――」


 先代魔王を暗殺という形で討伐したことのある彼女だ。こういう時の状況判断力は、彼女の方が上だろう。


 今は姿を隠して、力を付けたのちに、改めて勝負を挑む。それが最適解だと、俺は考えたからこそ。彼女にそう提案した訳で。


 それでも彼女は、迷いを振り切るように言った。


「それでも、ここで逃げたら以前の私と変わらない。そんなことでは、魔族の根絶など(うた)ったところで、夢のまた夢だろう?」


 彼女の覚悟は、握られた拳に現れている。


 強く握られ、わなわなと震える両拳は、今にも血を流しそうで。それでも彼女の両目は、しっかりと敵を見据えていた。これは、逃走を考えている者の眼ではない。


「……わかった。付き合うよ。その代わり、無理そうだと思ったら、その時点で転移魔法を使って二人で離脱するからな? 君の命が最優先。里は二の次だ」

「それでいい。ありがとうライオット。今回は貴方(あなた)の命を、今回は私が借り受ける」


 二人で頷き合って。それから一気に森の茂みから飛び出した。


 軍勢の最前列にいる者たちが、俺たちの姿を発見するなり。情報は指揮官に伝えられ、仲間にそれを知らせるための角笛の音が鳴る。


 開かれる、戦いの幕。


 あとはいかにしてこの状況を二人で生き残るか。俺が考えるべきは、そこしかないと。


 俺は、腹を(くく)って、思考を高速回転させた。

読んでいただきありがとうございます。


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