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死んでも君を愛し続け、異世界まで追いかけて来た俺は、君の結婚を祝福する。─この嘘は貫き通す。君の為に強くなった俺は別の女性にすべてを世話される─  作者: 一斗
侵攻の足音。揺れる誓いの行方編

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逸らされた視線と心

 王城へと帰還したゼクスたちは、エドワードと共に息つく間もなく国王の前へと拝謁した。

 帝国側にも「異界の者」が召喚され、その強力な刺客を取り逃してしまったこと。

 そして、王都を蹂躙したもう一人の刺客もまた逃がしてしまい、その二人が現在、前線の帝国軍本隊へと合流すべく移動しているという事実を、詳細に報告する。


 王都にまで刻まれた爪痕の深さと、刺客たちの異常なまでの戦闘力。玉座の間を支配したのは、頭上から圧し潰されるような重苦しい沈黙だった。


 改めて突きつけられる、帝国の圧倒的な脅威。もはやこのエルメリア王国は、聖女である美月、そしてゼクスとセシルという、国家の枠に収まらない規格外の存在ありきでしか持ち堪えられないという残酷な現実を、誰もが痛感し、震えていた。


 そこへ、最悪のタイミングで最前線からの早馬が飛び込んでくる。

 息も絶え絶えな伝令がもたらしたのは、国境付近の戦闘はすでに混迷を極め、我が軍は壊滅寸前の苛烈な撤退戦を強いられているという絶望の凶報だった。


「もし……今、王都から逃れたその二人の刺客が帝国軍本隊に合流すれば、前線の我が軍は確実に瓦解する。ゼクス……すまぬが、ただちに救援へ出向いてはくれまいか?」


 一国の王としてのプライドを捨て去った、悲痛なまでの懇願。

 ゼクスがその言葉に応じようとした瞬間――隣にいたセシルが、そっと彼の袖を小さく、だが拒絶を許さない力で引いた。

 潤んだ瞳が「私を置いていかないで」と無言で訴えかけてくる。その視線の奥には、すでに狂おしいほどの依存の光がゆらりと灯っていた。


 ゼクスは視線だけでセシルを優しく宥めつつ、極めて冷徹に、合理的な思考の歯車を回していた。

(拓真と劣勢とはいえ渡り合えた美月なら、あの男以外の並の相手に遅れをとることはそうそうない。防衛戦力として美月をここに残すのは極めて合理的だ。ならば、俺たちが拓真の後を追いかけ、前線で確実に叩けば万事解決する)


 最前線にはあの、常軌を逸した自己治癒とフィジカルアップを併用する拓真がいるのだ。もし彼と再び全霊の接近戦になった場合、俺が勝つためには肉体を自壊させかねない『四倍フィジカルアップ』の強行が必要になるかもしれない。


 だが、すぐ隣にセシルがいてくれれば、その凄絶な反動による自傷を、彼女の魔術でリアルタイムに相殺し続けられる。さらに、前線の負傷兵たちをも迅速に治療し、戦線へ復帰させられるはずだ。

 それは、ゼクスがセシルの実力を認めた上での、極めて生真面目で完璧な「防衛戦術」だった。


「王よ、セシルを共に連れて向かっても構いませんか?」


 ゼクスはまっすぐに国王を見据えて尋ねた。


 しかし――その言葉が耳に届いた瞬間、美月の心は、あまりにも悲しい、絶望的な誤解によって完全に叩き割られていた。


(……やっぱり、何があっても、セシルさんを自分の近くにおいて、守るつもりなのね。私には、『俺だって、君を愛してる』って言っておきながら……)


 美月に、ゼクスのそんな冷徹な戦術的意図など分かるはずもなかった。

 戦地という、一秒先には命を落としていてもおかしくない最も危険な場所にまで、わざわざ彼女を同行させようとする。

 それは、ひとときも彼女を自分の視界から離したくないほどの、狂おしく深い愛情ゆえの特権なのだと――美月の目には、それ以外の何物にも映らなかった。


 耐えきれなくなった美月が、たまらずゼクスを強く睨みつける。

 その瞬間、二人の視線が真っ向から激しくぶつかり合った。

 美月の瞳には、裏切られたという深い絶望と、縋るような哀願が混ざり合って激しく揺れている。


――けれど、ゼクスはそれを受け止めることができず、ふっと静かに視線を逸らした。


(美月……俺は……君を不幸にしたくない。君に後ろ指を指される生活をさせるわけにはいかないんだ)


 そんな彼の無言の拒絶。

 喉の奥がツンと灼けるように痛み、胸が綺麗に二つに引き裂かれていく。

 自分が今でも魂の底から恋焦がれている男は、もう別の誰かのためだけに剣を振るい、別の誰かを守るために命を懸ける「騎士」になってしまったのだと。その残酷すぎる現実を、これ以上ないほど鮮明に突きつけられた気がした。


「おお、願ったり叶ったりだ! セシルが同行してくれるのであれば、戦地の負傷兵たちも迅速に治療してもらえる。頼んだぞ!」


 国王の救われたような安堵の声を受け、ゼクスは隣に立つセシルを振り返り、力強く頷いた。

「承知いたしました。では、すぐに立ちましょう」


「はい、スーちゃん!」


 それぞれの、あまりにもすれ違い、歪んでしまった想いと決意を胸に秘めたまま。

 二人は休む間もなく、血煙と硝煙が舞う激戦の地へと向かって、運命の歯車を容赦なく動かし始めるのだった。

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