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死んでも君を愛し続け、異世界まで追いかけて来た俺は、君の結婚を祝福する。─この嘘は貫き通す。君の為に強くなった俺は別の女性にすべてを世話される─  作者: 一斗
残響。帝国の影と嘘の仮面の行く先は編

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「私が悪いの……!?」泣き崩れる聖女の裏で、帝国が選んだ次なる戦略。

「……忘れないで、涼翔。私にこの力を与えたのは、あなたなんだから」

 

 王城の自室で、ゼクスへの絶望を「絶対に認めない」という歪んだ執念へと変換し、静かに魔女へと堕ちていく美月。

 

 時を同じくして、敵対するガラルド帝国では、新たなる脅威が牙を剥いていた。

 異世界から召喚された青年──大久保拓真。欲望を隠そうともせず、圧倒的な暴力と驚異的な治癒能力を持つ彼は、敗走してきたラミルの腕を一瞬で再生させてみせる。

 

 王国に現れた謎の五属性使い「ゼクス」の存在を知り、最凶の勇者は邪悪な笑みを浮かべる。

 

 「そのゼクスって野郎……俺が直々にブッ殺して、女もろとも奪ってやるよ」

 

 最優先事項は、エドワード王子の暗殺。

 王城、美月の自室。

 豪華な装飾が施された部屋は、今の彼女には冷たい檻のようにしか感じられなかった。

 エドワードに見送られ、重厚な扉を閉めた瞬間、美月の膝から完全に力が抜けた。


 床に崩れ落ち、服の裾が惨めに広がる。

 あの日、私がこの世界に生け贄のように召喚されてから、一年ちょっと。地獄のような日々の中、ようやく『涼翔』として彼に再会できたというのに。

 途切れかけていた私たちの絆は、再会してたったの三日──あの女の傲慢な事後報告によって、あまりにも呆気なく幕を閉じた。


「……う、……ぅ……っ、ぁ……!」


 溢れ出した涙が、冷たい石床を濡らし、高級な絨毯へと吸い込まれていく。

 視界を激しく歪ませるのは、哀れみなどではない。胸の奥を焼き焦がす、悍ましいほどの悔しさと嫉妬だ。

 馬車の中で、林檎のように頬を染めて勝ち誇ったあの女の顔。

 それを否定せず、「場所を弁えろ」と言わんばかりに目を逸らした涼翔の、最悪な横顔。

 そして、先ほど演習場で見た、世界を蹂躙するような『銀の弾丸』の、残酷なまでの閃光。


(……涼翔。あなたはもう、私の知っている涼翔じゃないの?)


 私に勉強を教えてくれていた時と同じ、あの純粋で、私だけが知っていたはずの理知的な瞳。

 けれど、その同じ瞳で、夜にはあの女の身体を見つめ、その指先であの子の顎を固定して、唇を⋯⋯。

 私とあなたを繋ぐ唯一の特権だったはずの「前世の知識」が、あの女を守り抜くための『暴力』へと変換されていく。

 その歪んだ因果関係が、美月の内臓を雑巾のように雑に、激しく締め付けた。


「涼翔、あんまりだよ……。私が、私が悪かったの? 一人きりだった私が、エドワード様と婚約した私が、悪いっていうの……!? ねぇ教えてよ、涼翔……っ!!」


 私は、あなたがいれば、この世界の聖女の地位も、名誉も、何もかもいらなかった。あなたという存在だけが、私の世界のすべてだったのに。

 

 美月は震える手で、自分の細い肩を壊れるほどの力で抱きしめた。

 

(……でも、私は、絶対に認めたくない。認めたくないよ⋯⋯)


 涙に濡れた瞳の奥に、かつて進学校でトップ争いをしていた頃の、冷徹で狂気じみた理知が、ギラリと黒く燃え上がる。

 あの女に、涼翔のすべてを明け渡してなるものか。

 彼がくれたウォータージェットの理が、全身を内側から引き裂くような『フィジカルアップ』の激痛が、今や美月の肉体に、消えない涼翔の刻印として刻まれている。


「忘れないで、涼翔……。私にこの力を与えたのは、あなたなんだから……」


 愛する幼馴染の名を、呪詛のように枯れた声で呼び続けた。

 その言葉に応える者はなく、ただ窓の外で冷たく光る月だけが、彼女を静かに見下ろしていた。


 ────


 ガラルド帝国、皇帝の間。

 立ち並ぶ列強を前に、一人の青年が不敵な笑みを浮かべて玉座の傍らに座していた。


「……あーあ。この世界に急に呼び出されて国を守れ、だ!相応の対価が必要だなぁ。例えば……そう、女とか」


 黒髪の青年――大久保拓真は、手にした金杯を弄びながら、隠そうともしない欲望を剥き出しにする。

「よかろう。飛び切りの美女をあてがおう。ただし、我が国の役に立ってもらうぞ」

 皇帝は、この下卑た男の要求に苛立ちを覚えながらも、その圧倒的な「力」を利用すべく承認を下した。


「ああ、いいぜ。敵国の兵士も民間人も殺しまくっていいんだろ?女も、金も、この溢れる力……たまんねぇな、おい。楽しくなりそうだ」


 拓真が凶悪な笑みを深めたその時、満身創痍のラミルが間になだれ込んできた。


「皇帝陛下! 早急にお耳に入れたい話があり、恥知らずと存じながらも撤退してまいりました……!」


 ラミルは震える声で、王国に現れた謎の男「ゼクス」の脅威を報告した。

 シャドウ・ハウンドを一人で圧倒し、広範囲を殲滅する風の魔術――『グランテンペスト』を放つこと。そして、その傍らにいる異常な強さを持った治癒師の少女。


 報告が進むにつれ、皇帝たちの顔からは余裕が消え、驚愕の色が広がっていく。

「拓真殿、貴殿の力……治癒も可能と聞く。ラミルの腕を治してみせよ」


 指示を受け、拓真が気だるげに立ち上がる。彼が手をかざすと、ラミルの垂れたままになっている腕が、おぞましい速度で再生を始めた。

「……へぇ。五属性使いに、精緻な魔術、か」


 拓真は再生したラミルの腕を眺めながら、未知の強敵に思いを馳せる。


「面白そうじゃねぇか。そのゼクスって野郎……俺が直々にブッ殺して、女もろとも奪ってやるよ」

「自信があるのはけっこう。だが、報告通りだととんでもない化け物だ。今後は彼の者とは交戦せず、最優先はエドワード王子の暗殺とする。よいな?」

「けっ⋯⋯」

 部隊を失ったが五属性使いと対峙し、帝国の精鋭でもあるラミルを拓真の指導役に据え、帝国の戦略は少し舵を切る。

 治癒もできる最強の「勇者」を手に入れた今、最優先事項はライオネル王子との結託、そして――エドワード王子の暗殺。

 


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