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もはや聖女の祈りではない。最愛の人を取り戻すため、美月は闇へと足を踏み入れる。

「……国王様! 発言を許していただけるでしょうか?」

 

 王都、謁見の間。

 エドワードが「セシルとのセット入団」を提案し、ゼクスの人生に巨大な檻を築こうとしたその時、聖女・美月が立ち上がる。

 

 己の無力さを嘆き、彼からの直接指導を請うその姿は、一見すれば向上心に溢れた聖女そのもの。

 しかし、その瞳の奥には、セシルという「毒」から涼翔を奪い返さんとする、底知れぬ独占欲が渦巻いていた。

 

 「指南」という大義名分を盾に、美月が仕掛ける逆転の一手。

 エドワードの打算を食い破り、彼女は運命を力ずくで手繰り寄せようとする──。

「――ヴォルフガングよ。今回の一件、軍を指揮する者としてどう見る」


 国王の問いに、副騎士団長ヴォルフガングは深く頭を下げ、重々しく口を開いた。


「……恐れながら。今回の襲撃は、帝国が聖女美月様を拉致しようと目論んだものと推測されます。投入されたのは、帝国の暗部『シャドウ・ハウンド』。ゼクス殿が撃破した七名の遺体から見て間違いありません。また、エドワード殿下の報告によればさらに五名を仕留めたとのことですが、術の威力が凄まじく、跡形も残っていなかったため遺体の確認はできておりません。これほどの精鋭を失った帝国の戦力は大きく削がれ、今後の隠密行動は相当に縮小せざるを得ないでしょう」


 そこまで言い、ヴォルフガングは一度言葉を切ると、戦慄を隠しきれない様子で続けた。


「……特筆すべきは、ゼクス殿の異常なまでの『速度』です。以前、彼と模擬戦を行いましたが……もしあの時、彼が今回のような速度を出していたならば、私は一秒と持たず命を落としていたでしょう。あれはもはや、人の域を超えております」


「なるほど……。副騎士団長であるそなたにそこまで言わせるか。ならば、その少年への評価はさらに引き上げねばなるまいな」


 国王が満足げに頷いた時、エドワードがさらなる情報を差し挟んだ。


「父上。その圧倒的な速度にも、からくりがございます。彼の傍らにいる治癒師の少女……セシルによれば、あの魔術は使うたびに骨が折れ、筋肉が断裂するほどの負荷がかかると。常に彼女の治癒魔術ヒールを受けていなければ、命を削る諸刃の剣なのです」


「ほう……。ならば、二人をセットで入団させるという方針は、もはや確定だな」


 国王の言葉に、美月は目の前が真っ暗になるのを感じた。

(このままじゃ……。涼翔が、あんな女と一緒に公式に認められてしまう……!)


 自分と涼翔の間に二度と入れないほどの、巨大で冷酷な壁が築かれようとしていた。このまま会えないまま放置すれば、きっと何もかもが手遅れになる。

 美月は膝の上の拳を白くなるほど握りしめ、意を決して顔を上げた。その震える肩は、恐怖によるものではない。目前の障壁を力ずくで食い破ろうとする、猛々しいまでの意志の表れだった。


「……国王様! 発言を許していただけるでしょうか?」


 場が静まり返る。美月は、これまで見せたことのないほど毅然とした、それでいて必死な眼差しで国王を見据えた。


「私はこれまで、エレノア様にも引けを取らないほど強くなったと自負しておりました。けれど、先日の襲撃では必死の抗戦も虚しく、あっという間に敗北し……己の無力さを痛感いたしました。……エドワード様たちの報告通り、ゼクスさんは私と同じ五属性の使い手。私は、彼から直接魔術の教授を受けたいと考えております。私が強くなり、自らを守る力を得ることも、この国にとっての急務ではないでしょうか」


 エドワードの目が見開かれた。

(……ゼクスと二人きりになるため、国王に直々にこのような願いを! 美月……やってくれたな……!)

 美月の狙いは明白だった。「教授」という大義名分があれば、たとえセシルが隣にいようとも、涼翔と二人きりで向き合う時間を、聖女の特権として勝ち取れる。


「で、ですが父上! その指南の件も以前、彼には断られております。近衛兼指南役という形ではありましたが……。それに彼が国家の盾となるのであれば、美月は今のままの速度で成長すれば十分かと」


 焦燥を滲ませるエドワードを、国王の冷徹な視線が射抜いた。


「何か、ゼクスが聖女美月を指南するとまずいことでもあるのか? 我が国にとって利益しかない話だと思うが。……異界の門が光り、聖女が召喚されたのだ。我が国の歴史に照らせば、近々不穏なことが起こる前兆に相違ない。聖女が力をつけるのは急務なはずだぞ」


「そ、そうですね。……私もどうかしておりました」


 父の正論に、エドワードは引き下がるしかなかった。国王は満足げに頷くと、美月へ微笑みかけた。


「よかろう。褒美の話と共に、我からも彼に頼んでやろう。我が国の聖女の師となり、この国を導いてくれ、とな」


「ありがとうございます」


 美月は深く頭を下げ、唇の端に微かな笑みを浮かべた。

(……絶対に、取り戻してみせる。涼翔をあんな毒から救い出すのは、私なんだから)


 その確信に満ちた美月の瞳は、底の知れない夜の闇よりも深く、暗く沈んでいた。その輝きは、もはや他者の幸福を祈る「聖女」の光ではない。奪われた宝物を取り返すために、世界さえも敵に回す「修羅」の眼差しだった。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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