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死んでも君を愛し続け、異世界まで追いかけて来た俺は、君の婚約を祝福する。─この嘘は貫き通す。君の為に強くなった俺は君の幸せをただ願う─  作者: 一斗
残響。帝国の影と嘘の仮面の行く先は編

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かつての献身が、今の自分を追い詰める。涼翔を巡る、王宮の愛憎包囲網。

「……そのゼクスという少年を、魔術師団へ招き入れよ」

 

 王都へ帰還したエドワードと美月。

 国王の御前で語られたのは、ゼクスという異能を「国家の盾」として囲い込む冷徹な計画だった。

 

 エドワードは美月を牽制すべく、ゼクスがセシルを深く愛しているという「ラベル」を国王に植え付ける。

 

 愛妻家? 違う、あれは優しい嘘だったはず──。

 

 打ち込まれた楔に心を切り裂かれながらも、美月の中で何かが壊れ、そして目覚める。

 かつての「護られるだけの少女」から、愛する人を「奪い返す者」へ。

 王都の華美な装飾の下で、聖女の祈りはどす黒い執着へと変貌していく。

 ゼクスたちと別れ、野営地での一夜を経て二日目の夕刻。

 王都、エルメリア城の謁見の間。

 遠征から戻ったばかりの土塵にまみれた装束のまま、第一王子エドワード、聖女・美月、そして副団長ヴォルフガングの三人は、国王の御前に深く膝を突いていた。


 重厚な静寂が満ちる中、エドワードによる戦況報告が終わりを告げる。


「――そうか。報告を受けていた少年が、まさかそこまでの力を持っていたとはな。不幸中の幸いと言えよう。我が息子エドワードも、聖女美月も無事で何よりだ」


 国王の低い、威厳に満ちた声が響く。

「そのゼクスという少年には、何らかの褒美を取らせねばなるまい」


 国王の関心は、もはや遠征そのものの成否よりも、突如として現れ、たった一人で戦局を塗り替えた異能の少年――ゼクスの存在へと移っていた。


「その少年……ゼクスだったか。今はどうしている」

「……はい。大規模魔術の反動による魔力欠乏により、未だ意識を失っております。現在は療養のため、出身であるベルンシュタイン村にて静養中です。数日のうちには王都へ戻るかと」


 エドワードが慎重に言葉を選びながら答える。その横で、美月は震える拳を膝の上で強く握りしめていた。

(……ごめんね、涼翔。何も言えないまま、置いてきちゃって……)


 ゼクスが「涼翔」であるという確信。それを伝えられると思ったのに、エドワードたち王都側の都合に流され、眠る彼のそばを離れてしまった。

 王宮の華美な装飾が、今の美月には冷たく、ひどく虚無的なものに感じられた。現代日本の、あの消毒液の匂いが漂う病室の記憶が、今の状況と少し重なり合って胸を締め付ける。あの時も自分は、本当は大会に出たいと思っているはずの彼に何もしてあげられなかった。


「エドワードよ。その少年とエレノアが帰り次第、我が魔術師団へ招き入れる準備を進めよ/。市井に埋もれていた天才か……。これほどの逸材、王都で囲い込めば我が国の最強の盾となろう」


「……父上。その件ですが、私は以前一度、彼に入団を打診しております」


 エドワードの言葉に、国王が眉を動かす。

 エドワードは脳裏に浮かぶ、ゼクスの傍らを片時も離れなかった少女――セシルの姿を思い出していた。美月がゼクスに向ける想い。それを遮断するためには、ゼクスとセシルの仲を公的なものとし、揺るぎない「檻」の中に彼を閉じ込めなければならない。


「しかし、ゼクスは大変な愛妻家でして。……まだ婚姻は結んでいないようですが、最愛の伴侶と共にいたいからと、固辞されてしまった過去がございます」

「ほう、女か」

「はい。ですが、ゼクスの恋人である少女もまた、優れた治癒術の使い手です。彼女も共に入団させるという条件であれば、彼も納得するかもしれません。二人をセットで魔術師団に招くのが最善かと」


 美月の表情が、目に見えて曇った。

 (愛妻家? ――違う。あれは私を不幸にしないように、そして私の幸せだけを願って彼がついた、優しい嘘なのに。)

 涼翔にとって、本当に大事なのは「私」のはずなのに。

 けれど、そんなことを公に認められてしまったら、自分の入り込む隙間はますますなくなってしまう。エドワードの言葉が、まるで冷たい楔のように、自分と涼翔の間に打ち込まれていく。


(……なんで、そんなこと言うの? エドワード様……! まるで、私から彼を遠ざけるみたいに)


 美月の胸の中に、冷たい焦りと、セシルという少女に対する得体の知れない嫌悪感が渦巻く。かつて涼翔の手を握っていた時の、あの「私だけの彼」という特権。それを、あの不気味なほど献身的な少女に奪い取られたような、剥き出しの嫉妬が心を黒く染めていく。凉翔を、あんな女の毒に浸けたままにしておけない。独占欲という名の濁った感情が、美月の瞳を暗く沈めていった。


 最愛の幼馴染との再会を目前にして、王都の論理とエドワードの打算が、無慈悲に美月の心を追い詰めていく。高く聳える城の壁は、彼女を護るための盾ではなく、凉翔へと続く道を阻む巨大な牢獄へと変わっていた。けれど美月は静かに決意する。王都の論理が彼を縛るというのなら、自分はその「上」を行く論理で、彼を奪い返してみせると。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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