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来世でも君を見つける。――山で朽ちた俺の執念と、女神との契約

「来世でも、必ず君を見つけるから」


それは、ただの愛の言葉ではなかった。

 山の中、薄れゆく意識の中で、俺が己の魂に刻みつけた「呪い」に近い誓いだ。


須藤涼翔としての人生は、そこで終わったはずだった。

 けれど、俺の執着は死を、そして世界のことわりさえも超えてしまったらしい。


目の前に現れた女神が告げたのは、残酷で、けれど唯一の希望。

 ――最愛の恋人、美月が異世界に召喚されたという事実。


「彼女を救いたい? その異常な愛に免じて異世界へ送ってあげる」


俺は迷わず、その手を取った。

 たとえこの先、どれほどの地獄が待っていようとも。

 たとえ、白銀の髪を持つ「別の女性」に、身も心も壊される運命が待っていようとも。


これは、愛のために死んだ俺が、異世界で「歪な愛」に飲み込まれていく物語のプロローグ。

 一週間。

 美月が消えてから、それだけの残酷な時間が過ぎ去った。

 学校の裏山は、あの日から一度も泣き止むことなく、冷たい雨が降り続いている。


「美月……どこだ、美月……っ! 返事をしてくれ!」


 剣道部で叩き上げたはずの足腰は、とっくに限界の悲鳴を上げていた。ジャージの膝は無惨に裂け、剥き出しの肌を泥が汚す。爪の間には黒い土が詰まり、リュックの中で虚しく揺れる空のゼリー飲料パウチが、カサリと乾いた音を立てた。

 警察も、救助隊も、絶望的な表情を浮かべた大人たちも山を下りていった。

 けれど、俺だけは確信している。美月は、俺の練習が終わるのをここで待っていた。いつも通り、少し照れくさそうに笑って、俺を迎えてくれるはずだったんだ。彼女が、自分から俺の前を去るはずがない。


「……あ」


 視界の端、雨に濡れた濃緑の茂みの奥で、美月の愛用していた髪飾りのような光が微かに揺れた。

 焦燥が、冷え切った理性を一瞬で焼き切る。俺はなりふり構わず、ぬかるんだ崖の縁へと一歩踏み出した。


 ぐにゃり、と世界が反転する。

 重力は無慈悲だった。受け身を取る余裕すら与えられず、俺の体は硬い岩肌に幾度も叩きつけられた。


 ゴツッ、と脳内で嫌な音が響き渡る。

 視界が急速に狭まり、温かい血が雨水に混じって、足元の土へ吸い込まれていくのが分かった。もはや指先一つ、自分の意思では動かせない。


(……美月、ごめん……っ。俺が不甲斐ないばかりに、見つけて、あげられなかった……)


 胸を締め付けるような絶望感と共に、俺の意識は深く暗い奈落へと沈んでいった。


 †


「――そこまでして、あの子を追いたいの?」


 凛とした、けれど氷のように温度のない声が、静寂を切り裂いた。

 重い瞼をこじ開けると、そこは果てのない純白の空間だった。目の前には、人の理解を絶する神々しさを纏った女性――女神が、悠然と佇んでいた。


「案じなさい。彼女……美月は死んでいないわ。……異世界に召喚されたのよ。あちらの世界を厄災から守るための、尊き『聖女』としてね」


 召喚。異世界。聖女。

 あまりに荒唐無稽な言葉。だが、俺の心は一瞬で、消えかけていた火を燃え上がらせた。

 生きている。美月は、俺の届かないどこかで、今も確かに呼吸をしている。


「チャンスをあげてもいいわ。でも、ただ会わせるわけにはいかない。その世界は、彼女を脅かす魔物と悪意に溢れているから。ひ弱な貴方が隣にいても、ただ足手まといになるだけよ」


 女神が、宝石のように冷ややかな瞳で俺を見下ろす。


「世界を守るための力をつけ、その命を正しく使い果たすと誓うなら、彼女に再会させてあげる。……どうする? 須藤 涼翔」


 考えるまでもなかった。

 俺は、動かないはずの魂を震わせ、女神の足元にすがり付くように叫んだ。


「お願いします……! 力を……美月に、もう一度会えるなら、俺は何だってします! どんな地獄のような研鑽でも耐えてみせる! だから、あいつのそばに……っ!」


 魂を削り出すような俺の咆哮に、女神は微かに目を細めた。その瞳には慈悲など微塵もなく、ただ興味深げな観察者の光だけが揺らめいている。


「いい目ね。その執念――あちらの世界で、どう転ぶかしら」


 女神は、弄ぶように薄い唇を吊り上げた。


「あなたを少し過去……美月が召喚されるよりも前の時代に飛ばしてあげる。そこで、彼女を護り抜き、世界を平らげるための力を蓄えなさい。私も、少しだけ『サポート』してあげるわ……。諦めずに研鑽を積み、相応の力を手にすれば、彼女には必ず会えるわ。……約束してあげる」


 俺は必死にその言葉を脳裏に刻み、光の中に溶けていく意識を繋ぎ止めた。


「ああ、誓う……。必ず、誰にも負けない力を手に入れて、美月を見つけ出す……!」


「ええ、期待しているわ。……須藤 涼翔。あなたのその『愛』が、どこまで保つかしらね」


 女神の、冷たく白い指先が俺の額に触れる。

 その瞬間、俺の意識は再び底知れぬ闇へと墜落し、同時に、全身の血管を焼くような激しい「熱」が駆け抜けた。


 女神の、含みのある愉悦に満ちた笑い声を最後に、俺の意識は爆発的な熱量と共に、遥か彼方の異世界へと射出された。


 俺はただ、もう一度、彼女の温かな手を握ることだけを願っていた。



初めまして、一斗です。

数ある作品の中から、本作を見つけていただきありがとうございます。


恋人を守るために異世界へ渡ることを決めた涼翔。

彼の執念が、異世界でどのような「歪な愛」を呼び寄せるのか――。

次回、異世界転生編が始まります。


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