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エピローグ

 嵐のような発表会が終わり、深夜のドレスルームには、かつての無菌室のような冷たさはなかった。

 そこにはもう、美しさを数値化するAI『鏡くん』はいない。代わりに、大きな窓からは遮るものなく、リアルで雑多な夜の街の明かりが飛び込んできている。


「ねえ、白雪。今から走りに行かない? 久しぶりに、風の味を確かめたくなったわ」


 白雪はにやりと笑う。


「……いいよ。でも、私のSRに勝てると思わないでね、ママ」


 武藤は、眼鏡を直し、二人にレザージャケットを差し出しながら。


「……やれやれ。明日のスケジュール調整、地獄ですよ。マスコミへの言い訳を考えるだけで、肌に悪影響が出そうです」


 深い溜息をついたが、その瞳には高揚した光が宿っていた。


「……ですが、たまには残業代なしで、私もお供しましょうか。私のマシンの整備は、すでにドクさんに頼んでありますからね。元特攻隊長を、甘く見ないでいただきたい」


「ええ!? 武藤、あんた特攻隊長だったの!?」


 3人で玄関に移動しながら、白雪が驚きに目を見開いた、その時だった。


「ま、待ってください! 白雪さん!」


 転がり込むようにやってきたのは、先ほどの政治家ジュニアの青年だった。息を切らし、ネクタイを曲げた彼は、白雪の前に立つと、顔を真っ赤にして叫んだ。


「白雪さん! あ、あなたに一目惚れしました! 僕と付き合ってください!」


 静寂。

 エリカと白雪は、同時に目を丸くして立ち尽くした。まさか、自分たちの「破壊的な美学」に、一番遠いはずの側の人間が釣れるとは。


「はっはっは!いい趣味をしてるじゃないか」


 青年の後ろから白雪の父がのんきな笑い声を響かせる中、白雪は漆黒のリップを吊り上げて、挑発的に笑った。


「……私に着いてこれたらね。でも、私の後ろは、あんたみたいな坊ちゃんにはちょっと刺激が強すぎるかもね」


 白雪はバイクのキーを指先で回し、王子の胸を軽く小突いた。


「振り落とされんなよ、王子様!!」


 夜の静寂を切り裂き、数台のバイクの咆哮が邸宅から解き放たれる。

 先頭を走るのは、黒と赤の反逆者たち。

 鏡を捨てた彼女たちの行く先には、もう「誰かが決めた正解」なんて存在しない。


 ただ、どこまでも自由で、どこまでも泥臭く、そして世界で一番美しい夜風が吹き抜けているだけだった。

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