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断罪の舞台は私が整えた  作者:


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終章 その国で、彼女の名を知る者はいなかった

 

 後になって、人から聞いた話をまとめると——こういうことらしい。


◆◆◆

 卒業記念パーティから三ヶ月後、

 エドワルド王太子とソフィア・ランブールの婚約が正式に発表された。

 

 宮廷は表向き祝福した。しかし祝賀の宴に集まった大貴族の顔ぶれは、例年より明らかに少なかった。席が空いていた理由を、誰も口にしなかった。

 

 半年後、国王の隠し子問題が表面化した。

 きっかけは小さな噂だった。しかし噂は瞬く間に広がり、宮廷は二派に割れた。

 国王を支持する者と、王太子を支持する者。議会は紛糾し、かつての静かな均衡は、跡形もなく崩れた。

 

 その均衡を、長年一人で支えてきた人物が——もういなかったからだ。



 王妃陛下はある朝、静かに王宮を去った。供を連れず、荷物もほとんど持たず。

 ただ一台の馬車が、夜明け前に王宮の裏門を出たという記録だけが残っている。どこへ向かったのか、今も誰も知らない。

 王妃陛下の私室を片付けた侍女が、後にこっそりと語ったところによれば——部屋にはほとんど何も残っていなかった。


 ただ窓辺に、一輪だけ、白い花が活けてあったという。



 エドワルド王太子は即位した。

 王太子妃となったソフィアは、善良な人だった。誰にでも優しく、誰からも好かれた。

 ただ——宮廷を知らなかった。政治を知らなかった。悪意を知らなかった。

 

 政務を知らない王と、宮廷を知らない王妃の組み合わせを、古参の貴族たちは静かに憂えた。

 そしてある夜の小さな宴で、杯を傾けながら、誰かが呟いた。


「……あの方がいれば」


 名前は、誰も口にしなかった。

 しかし全員が、同じ顔を思い浮かべていた。


◆◆◆


 港町の宿を営むマルクは、特別な観察眼を持っているわけではなかった。

 ただ長年、旅人を相手にしてきた経験から——人を見る目だけは、それなりに養われていると自負していた。


 金髪の女性が宿に現れたのは、秋の終わりのことだった。

 飾り気のない外套。上質だが目立たない荷物。そして——どこか遠くを見るような、静かな目。

 

 訳ありだな、とマルクは思った。しかし旅人の事情を詮索するのは、宿屋の流儀に反する。彼は何も聞かなかった。

 

 女性は結局、宿を引き払わなかった。

 街が気に入ったのか、港の見える小さな部屋を借り、そのまま住み着いた。

 市場に出れば顔見知りに声をかけ、子供に話しかけられれば膝を折って目線を合わせた。

 

 いつの間にか、街に馴染んでいた。

 その国で、彼女の名前を知る者はいなかった。

 ただ港町の人々は彼女のことを、賢くて、よく笑う女性だと言った。

 

 ある夜、宿の食堂で二人きりになったとき、マルクは思い切って聞いてみた。

「故郷が恋しいですか」

 女性は少し考えてから、微笑んだ。


「——いいえ」

 それだけ答えて、また笑った。


 その笑顔が、とても自由そうだったから——マルクはそれ以上、何も聞かなかった。

 ただ胸の中で、思った。

 この人はきっと、長い間——笑えない場所にいたのだろう、と。


後書きまで読んでくださり、ありがとうございます。

この作品、実は唐突に書きたくなってバーっと書きました。

プロットもふわっと、勢いのまま走り切った感じです。

読みづらいところもあったかもしれませんが、最後までお付き合いいただけたこと、本当に嬉しく思います。


機会があれば、また次の作品でお会いしましょう。

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