マルチーズ家
「さあ、今日からここがお前の家だ」
馬車に乗って30分程で、マルチーズ男爵の邸宅に着いた。
男爵家は広大な土地を持ち、大きな演習場が完備されていた。
弓を練習する為の施設もあり、遠目からでも弓用のたくさんの的が見て取れる。
ここなら、思う存分、弓の練習ができそうね。
わたしは、設備の充実っぷりに満足する。
その他にも剣の練習をする道場などもあり、体を鍛えるための設備が充実していた。
さすが、騎士団長の家といったところか。
そして門を潜り演習場をぬけて、邸宅の入口に着いた。
するとそこには多くの使用人と共に、男爵夫人らしき女性と、ゲームで見た仲間キャラであるアーサーの姿がそこにあった。
男爵夫人は紅茶のような淡い茶色い髪をしていた。
着ている水色のドレスがよく似合っており、美人というよりも可愛らしい女性であった。
無骨な男爵と比べると、対称的に感じる。
わたしを歓迎するように、優しい笑顔を向けている。
続いて、アーサーはまだ幼いながらゲーム通りの容姿をしていた。
今はゲーム開始の4年前なので、わたしより1つ上の11歳だ。
髪と瞳は母親譲りの茶色で、体は父親譲りのガッシリとした筋肉質の体型だ。
夫人とは対称的に、わたしを警戒している印象を受けた。
じっとわたしを見つめている。
「お帰りなさい。この子が私達の新しい娘なのね。なんて可愛い子なのでしょう。わたしは今日から貴女のお母さんになるケイト=マルチーズよ。お母様と呼んでくれると嬉しいわ」
邸宅の前で夫人に会うと、ニッコリと笑い嬉しそうに声をかけた。
わたしはそっと隣に立つ男爵を見る。
男爵はわたしの顔を見て頷くと夫人であるお母様とアーサーそして使用人達の前で、わたしを紹介した。
「そうだ。彼女はミルロ。今日からわたし達の新しい娘になる。アーサーこの子もお前と同じく騎士を志している。共に研鑽し励むといい」
お父様がそう言うと、アーサーはすっとわたしの前に立った。
「ミルロ、俺はアーサー。今日から君の兄になる。共にマルチーズ家の一員として励んでいこう」
「はい、お兄様。これから宜しくお願いします」
そう言うと、わたしはお兄様であるアーサーと握手を交わした。
こうして、わたしはマルチーズ家の一員になった。
わたしは優しい家族に囲まれて幸せの時を過ごすのであった。
◇◇◇◇
あれから早いもので、マルチーズ家の一員になって、3か月の月日が流れた。
早朝から、マルチーズ家の演習場には剣を撃ち合う音が響き渡る。
「ミルロ腕をあげたな」
わたしの剣戟を受けてお兄様は感心した声を上げる。だがまだまだ余裕があるようで、涼しい顔でわたしの攻撃を剣で受けとめた。
連続で切りつけるものの、全て防がれる。
前世の麗華は弓道部であった。
しかし集中力を高める練習として、剣道の心得もあったのだ。
だが弓の腕と比べると、剣の腕はどうしても劣る。
この3ヶ月間、兄であるアーサーと剣の模擬戦をするものの、なかなか勝てずにいた。
魔法を使えば・・・。
苦戦する状況にわたしは魔法を使おうかと考える。
だが、その思考はすぐに振り払った。
これは剣術による真剣勝負だ。
何でもありの実践ならまだしも、剣の勝負で魔法を使うのは卑怯だ。
引き続き、魔法なしの素の剣戟で挑んだ。
一撃、二激、兄の隙をつくように踊るようにステップを踏みながら、ヒットアンドアウェイで攻撃を仕掛ける。
わたしの体は10歳の少女だ。
対して兄は1つ上の少年。
たった1年だけなのだが、その体力差は大きかった。
まともに打ち合えば力負けしてすぐやられてしまう。
そこで3か月間考えた結果、スピードで翻弄することに決めたのだ。
だが兄のほうが1枚も2枚も上手だ。
素早い攻撃も簡単に見切り防御する。
暫く打ち合うものの、わたしの剣は弾き飛ばされるのであった。
全戦全敗、わたしの完全敗北だ。
「お兄様お疲れ様です。やっぱりお兄様はお強いですね。わたしの力では全く歯がたちませんよ」
剣の模擬戦が終わり、休んでいるお兄様にわたしは魔法で氷のコップを作り冷たい水を入れて手渡した。
「あーミルロありがとう」
お兄様は表情を変えずにコップを受け取ると、口をつけて水を飲んだ。
そして、お兄様の横にわたしも腰掛ける。
アーサーのゲームでの性格は、クールで無口なキャラであった。
だが仕えるべき主であり、友人でもある主人公のゼノンに対しては彼の為に必死で尽くしていた。
クールでありながら、情に厚い人物だ。
だが実際にであったアーサーの性格は、少し違っていた。
たしかに口数は少ないのだが、ちゃんとお礼も言うし妹であるわたしも気遣ったりしてくれていた。
そんなお兄様がわたしは大好きであった。
前世では一人っ子で兄はいなかった。
人生初めての兄は非常に頼りになり、わたしの中でかけがえのない人となった。
そして、頼れるお兄様との一時は、わたしの癒しでもある。
すると隣に座るお兄様がわたしに話かけた。
「ミルロ、なかなか強くなったな。明日の騎士団試験もきっと大丈夫だ。ハッキリ言って同年代の相手でお前に勝てるやつなんていないよ。」
そう言うと、お兄様は優しくわたしの頭を撫でた。
お兄様の無骨で逞しい手のひらが触れる度に、わたしに安心感を与えてくれる。
そう、明日は騎士団試験の日だ。
このウィシュタリア王国では、10歳から騎士団試験を受験することができる。
試験内容は実技と筆記、そして模擬戦だ。
それに合格すれば、騎士団に所属することができる。
お兄様は去年騎士団試験に合格し、騎士となっている。
騎士団長のお父様の部隊である第1部隊に所属しており、若手のエースとして期待される存在であった。
第1部隊は王宮を守護するエリート部隊だ。
わたしはこの3ヶ月間、騎士団試験に照準を合わせて勉強と剣の練習に励んできたのだ。
「お兄様、ありがとうございます。わたしなんてまだまだですよ。それでもマルチーズ家の末端として家名に泥を塗らないように、精一杯がんばりますね」
「そういえば、ミルロ。やっぱり第4部隊を希望しているのかい?」
第4部隊は弓兵部隊だ。
遠距離からの弓による援護射撃、そして索敵が主な担当だ。
剣をやっているものの、やっぱりわたしは弓が大好きなのだ。
ちなみにわたしの弓の腕は前世のおかげで、かなり高い。
お兄様よりも上だったりする。
まさに100発100中なのだ。
「はい希望してます。やっぱりわたしは剣よりも弓のほうが大好きなので。」
「そうか・・・。俺としては一緒に第1部隊に所属してほしいんだがな。お前が心配なんだよ」
そう言うと、お兄様はしょんぼりとして顔をする。
それに対してわたしは笑顔で返した。
「お兄様心配しないでください。わたしは大丈夫ですよ!それにお父様とお兄様と一緒ならわたしは甘えてしまいそうです。」
「そうかい?俺としてはもっと俺に甘えて欲しいんだがな」
そう言うと、お兄様はわたしの顔をじっと見つめる。
さすがゲームの世界。
まだ11歳でわたしの身内というのに、お兄様はイケメンだった。
その言葉にドクンとわたしの胸が跳ねた。
お兄様は偶にこうやって、妹のわたしをからかってくるのだ。
わたしは恥ずかしさに顔が真っ赤に染まる。
「もう、お兄様、恥ずかしいですよ。でもそう言って頂いて嬉しいです。ありがとうございます」
すると、わたし達が話をしていると、侍女長が息を切らしながら現れた。
急いで来たのだろう。
はあはあと苦しそうに息を吐きながら、侍女長はわたしに話しかけた。
「お話中失礼します。ミルロお嬢様、お母様がお呼びです。至急、着替えて邸宅まで来ていただけませんか?」
お母様が?たぶんあれのお願いかな。
「わかりました、今すぐいきます」
わたしはそう言うと、ぺこりとお兄様にお辞儀をして邸宅の方へと向かうのであった。




